沿線開発による成長から、多彩な領域のグループ事業を連携させた新たな顧客価値の創造へ

少子高齢化の次の時代を見越した鉄道会社の新たな成長戦略

産業革命以降、鉄道は社会を支える最重要インフラの1つとして大きな役割を果たしてきました。とりわけ日本では明治以降、鉄道が人と物資の流動性を高め、国家の発展の大きな原動力となってきた経緯があります。また、主要な都市部の鉄道会社は交通輸送だけでなくデベロッパーとしても力をふるい、郊外の住宅地や市街の形成に貢献してきました。まさに鉄道産業は、日本の近代における発展を支えてきた主要なプレーヤーと言ってよいでしょう。

しかし今、その鉄道産業にも大きな変革の波が押し寄せています。その最も大きな要因として挙げられるのが、「人口減少と少子化」です。少子高齢化によって日本の人口はこの先も減少傾向をたどり、このことは鉄道を利用する人々の数に確実に影響を及ぼします。また、利用者だけではなく、鉄道業務に従事する人々も減っていきます。巨大な装置産業である鉄道は、一定規模の従事者がいなければ安心・安全なサービスを維持していくことも困難です。すでに人手不足は慢性化しており、どの鉄道会社も人員の確保に苦戦しています。

もう1つ、最新のテクノロジーがもたらす「移動」のあり方そのものの変化も見逃せません。一例として、自動車の自動運転技術はすでに実用化の一歩手前の域にまで成熟しつつあり、これが一般に普及するようになれば、近距離の移動は自動運転車に取って代わられる可能性が大きく存在しています。つまり、人口の多い都市部でも鉄道の利用客が失われてしまうのです。

こうして安定した収益源かつ事業の多角化の核であった鉄道事業本体が事業としての厳しさを増していく未来がリアルになりつつある現在、鉄道会社には「生き残り戦略」としての事業再構築が求められています。もともと多くの鉄道会社は、デベロッパーとして街づくりや観光地などの開発を手がけ、不動産会社や住宅サービスなどの関連会社を通じて、収益の成長と事業の多角化を追求してきました。これらの事業資産を活用した複合的な街づくり、次のレベルでのシナジー追求による新たな顧客価値提供・差別化の試みが、今後の「生き残り戦略」として不可欠となっているのです。

グループ共有の資産からシナジーを創出するデジタルの価値

未来に向けた大変革が求められているとは言っても、これまでの事業形態をいきなりすべて変えてしまうことは現実的には不可能です。まずは変革の難易度が比較的低く、成果を生み出しやすい領域に着目するのが、賢明かつ確実なスタートだと言えます。

その第一歩として挙げられるのは、「バックオフィス業務の効率化・標準化」です。「こうした取り組みは、すでにどの業界でも実践されている」と思われる方も多いかも知れませんが、実は定型化されたルーティンワークの効率化は、コスト削減と生産性向上の王道であり、このことは鉄道産業も例外ではないのです。

たとえば、バックオフィス系の基幹システムの機能と、そこに付随する人手の作業をシステムの老朽化刷新と合わせてクラウド型のサービスに移行する。多くの紙を媒体としながら、多重での入力とチェックを繰り返した業務を入り口から見直す。あるいは、これまで従業員が個々に行っていた事務処理を、RPAによって自動化する。ここで重要なのは「人手に依存した作業の削減」といった効果だけでなく、それによって「新たな余剰リソースが生まれ、価値の高い業務へのシフトが可能になる」ということです。

少子化で十分な従業員の確保が難しい状況でも、鉄道会社はこれまで以上に多角的な事業を創出し、顧客に向けて新たな価値を提供していかなくてはなりません。このジレンマを解決するためにも、限られた自社人員のより効率的な活用は最重要課題です。成長領域にフォーカスした資源投下の促進という観点でも、効率化・省力化による余剰リソースの創出は重要かつ効果の高い取り組みです。

バックオフィスの効率化の一方で、フロント系業務の強化も怠ってはなりません。こちらは既存の顧客の深掘りと、新たな顧客層の拡大です。鉄道会社にはさまざまな領域の関連事業があり、それぞれの事業で膨大なデータが蓄積されています。

これらをグループ共有の資産として活用し、新たな知見を獲得するためにはデジタルソリューションが不可欠です。たとえば、各社の顧客データベースの統合と外部連携、あるいはグループデジタルCRMによる顧客のID統合とカスタマージャーニー分析などが、新たな顧客提供価値の創造や既存事業におけるアップセル/クロスセルの機会創出につながっていくのです。また、デジタルソリューションはタイムリーかつ共通ルールに基づいた経営判断や、現場オペレーションの最適化といった経営・運用面での効果も備えています。

こうしたデジタルの力を活用しながら、多彩な資産とデータを持つ鉄道会社ならではのグループ連携を推進し、新たなシナジーを生み出すことによりさらなる顧客価値を提供することが、変化の時代を乗り切る鍵になるといえます。

デジタルを活用した鉄道会社の「Wise Pivot(賢明な転換)」

ここからはさらに踏み込んで、具体的にどのようにして「鉄道会社ならではのシナジー」を実現するかについて考えてみます。ここで重要なフックとなるのが、「Wise Pivot(賢明な転換)」というアクセンチュアが提唱しているキーワードです。巨大な変化の波が押し寄せてくる時代、企業の重要な課題はいかにして既存のコアビジネスを維持しながら、新しい事業に方向転換(ピボット)できるかです。この方向性を正確に見通し、明確な確信を持って取り組みを推進していけるかどうかが、事業の未来を分けるといっても過言ではありません。

鉄道会社にとって「Wise Pivot」を実現するための鍵は、グループ内に蓄積された顧客データと事業資産を連携させ、シナジーによる顧客価値を生み出すための取り組みです。すでに実現されつつある最先端のデジタルテクノロジーを活用した「街づくり」は、その好例と言えるでしょう。この新しい「街づくり」は、過去から行われてきた鉄道路線の敷設や不動産開発、住宅販売といった狭い領域にとどまりません。デジタルを利用して既存・新規の顧客データを分析して顧客をより深く理解し、可視化されたニーズをもとに、より多面的な顧客価値をデジタルとリアルの両方の世界で提供していくことが、これからの新しい「街づくり」では要求されます。

アクセンチュアでは、こうしたデジタルと融合した新しい「街づくり」を支援し新しい顧客価値の創造について、グローバルでも数多くの実績を築いてきました。具体的なソリューション例としては、「街づくりを支える都市OS」、あるいは「社内外のエコシステムとしてのポイントプログラム」、「多角化事業シナジーのためのグループ経営管理基盤」など、枚挙にいとまがありません。

独自の知見を活かした「スマートシティ・プロジェクト」の支援

さまざまな実績の中でアクセンチュアが蓄積してきた知見やノウハウは、日本国内における先進的な「街づくり」事例にも活かされています。福島県会津若松市では、東日本大震災の発生した5カ月後の2011年8月から、産官学民連携による震災復興・地方創生に取り組んできました。その取り組みの1つである「スマートシティ・プロジェクト」において、アクセンチュアは全体戦略の立案・インキュベーションの段階から一貫して支援を行ってきました。

プロジェクトでは、ヘルスケアや省エネ対策、観光促進からキャッシュレス化、データ活用のための人材育成まで、幅広い分野の事業創出が進められています。デジタルやモビリティに近い領域では、行政や地域の情報やサービスがワンストップで利用できる地域情報ポータルサイト「会津若松+(プラス)」の運用。また、地域住民の交通利用を支援するスマートモビリティ実証(現在計画中)などが挙げられます。プロジェクトは現在も進行中ですが、2018年には総務大臣表彰を受けるなど、国や関係各方面からもその成果が高く評価されています。

アクセンチュアでは、こうした実績を踏まえて、鉄道会社グループ全体での「既存事業の連携・再構築」と「新たな顧客価値の創出」を両輪に、未来に向けた継続性のある事業の創出を今後も支援していきます。コンサルティングやプランニングからソリューション開発・運用まで、アクセンチュアはデジタルを活かした独自の知見をもとに、今後の生き残り戦略を模索する鉄道会社のご要望にお応えしていきます。

高橋 克嘉

アクセンチュア株式会社 製造・流通本部 マネジング・ディレクター​


遠藤 陽亮

製造・流通本部 シニア・マネジャー

関連コンテンツはこちら

日本型スマートシティに求められる「アーキテクチャの標準化」
テクノロジービジョン 2020

ニュースレター
最新コラム・調査をニュースレターで 最新コラム・調査をニュースレターで