調査レポート

概略

概略

  • 少子・高齢化による労働人口の減少、人件費の上昇、コロナ禍におけるECの爆発的拡大で、日本の物流業界の人材不足は深刻な問題の一つです。
  • 解決の糸口としてカギとなるのが、ダイバーシティ、デジタルテクノロジー、顧客エクスペリエンス起点のビジネス変革です。
  • これらの要素が密接に関係して初めて、業界全体の活性化と人材獲得の双方を実現することができるのです。


加速度的なスピードで少子・高齢化が進行する日本において、労働人口の減少による人手不足はあらゆる業界で深刻な問題となっています。このことは物流業界にとって、労働環境の悪さや業務効率の低さが故に従前の課題でしたが、人件費の上昇がさらにこの業界を苦しめています。

こうした中、新型コロナウィルス感染症の拡大によるパンデミックによって、モノやサービスの販売は急速にECへとシフトし、そこで生まれた物流需要の爆発的な拡大は、業界の人手不足に拍車をかけています。そこで本稿では、物流業界の課題解決と業界活性化の双方を叶える方策として、ダイバーシティ推進、デジタルテクノロジーの活用、顧客目線からのビジネス変革を掲げ、この3つについて考察します。

人材ダイバーシティ

物流業界は、わが国でもとりわけ人手不足が深刻化している業界の1つです。その背景には、少子・高齢化という社会構造の大きな変化があることは言うまでもありませんが、それ以外の要因としても業界特有の労働慣行や職場の文化、さらには物流という仕事を取り巻く社会的なイメージが大きく影響していると考えられます。

日本における物流業界の仕事といえば、「長時間労働で賃金が安い」「力仕事が多く、男性中心の仕事である」「昔ながらの属人的で非効率的なワークスタイル」といった印象が色濃く、このイメージの払拭は、長年にわたる業界全体の課題として指摘され続けてきました。

いまだに日本の物流業界の就業者における女性の比率は約2割にとどまっており1、調査対象となっている業界の中でも最も低い水準となっています。

*1 総務省労働力調査 第12・13回改定日本標準産業分類別就業者数

一方、欧米の物流企業に目を向けてみると、こうした業界のイメージについては少し事情が異なります。もともと欧米企業はブランディングに長けていることに加えて、働き方改革や業務のデジタル化にも早い段階から取り組んできた結果、日本のように業界そのものが3K(きつい、汚い、危険)のイメージで語られる状況はほぼ見られなくなっています。例えば、自社のロゴを配したオリジナルグッズを販売したり、アパレルブランドとタッグを組んでTシャツを作るといったブランドイメージの向上に向けた取り組みは当たり前のように行われており、またデジタルを活用した新たな業務領域、ワークスタイルの創出によって、男女を問わず多様な人材に門戸を開く努力が続いています。

欧米も日本も取り組みと成果に差こそあれ、ジェンダー平等の努力はまだ道半ばといえます。OECDのThe Gender Dimension of the Transport Workforce2によれば、持続可能でレジリエンスのある運輸業界の醸成には、ダイバーシティの推進が必須であるとしたうえで、教育、労働、メディアなどの他者が協力して、現在の格差を生んださまざまな要因すべてを考慮した、包括的な戦略を策定する必要があるとしています。男性の従業員が多い業界であるだけに、この差を埋めることは困難ではあるとしつつも、女性管理職を増やし、重要な意思決定にもっと参加することで多様な視点が生まれると主張しています。

*2 The Gender Dimension of the Transport Workforce

多様な働き方を可能にするデジタルテクノロジー

多様な人材の重要性を上述しましたが、彼らの多様な働き方を可能にするデジタルテクノロジーの活用も必要です。

各業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)や働き方改革が急速に進む中、物流業界は様々な業界をまたぐという業界の特性がゆえに、こうした流れに一歩遅れを取っています。デジタル化の恩恵によって業務品質もスピードも格段に向上している一方、バックヤードの業務では個々の従業員の経験値やスキルに依存したアナログな働き方が残ったままです。このように標準化や効率化が進んでいない職場の現状は、この業界において、未経験労働者含め多様な人材の登用を難しくしています。

この解決にはデータ活用が重要な役割を果たします。いわば物流業界はデータの宝庫です。このデータをAIで処理して、需要予測などのほか計画系の立案・作成に生かすことが期待されています。また、業務の自動化やAIの導入によって、サプライチェーン・マネジメントに人が介在する余地を減らすことで、ノウハウのブラックボックス化を防ぐことが出来ます。アクセンチュアが2020に発表したTechnology Vision3によれば、調査した物流業界の実に62%の企業が、AIをすでに活用しているか、試験的に活用していると答えています。今後さらなるAI活用が進むことが期待されています。

*3 Future of Freight & Logistics in a Post-digital World | Accenture

また、重い荷物の運搬など重労働の機械化や、発送手配など煩雑な業務の自動化など、デジタルテクノロジーの効果的な活用によって、「人手に依存することなく、誰もが高品質の業務を遂行できる」ようになります。こうした変革は、現場の負荷軽減や生産性の向上と同時に、長時間労働をはじめとする業界の負のイメージの払拭にもつながります。その結果多様な人材を呼び込むことが期待できます。

顧客視点からのビジネス変革

3つめに物流の提供価値とは何か、という視点から業界の活性化につながる糸口を考察したいと思います。物流が果たす役割とは、「顧客が欲しい時に、欲しい場所で、製品・サービスを簡単に入手できるようにすること」であり、そのためには安定した調達と配送はもちろんのこと、その進捗状況を顧客が確認できるようにし、顧客の期待を超えるラストマイル・エクスペリエンスを創出することが求められています。物流においての人材不足と高齢化により物流費が高騰する未来も指摘されている中、その顧客エクスペリエンスを満たすビジネス変革を実現する企業が今後をリードしていくでしょう。

製造業のビジネス変革を進め、かつ消費者ニーズが変化する中、サプライチェーンもこの変化に対応し最適化を図っていく必要があります。不確実性を取り除き、レジリエンスを持った顧客エクスペリエンスの提供のために、長期的目線でビジネスを根本から変革する必要性があるのです。

物流企業は、人間とテクノロジーの相互作用の力を活用して、顧客エンゲージメント、ビジネスのレジリエンス、柔軟性を向上させることができます。今アクションをとることで、物流業界のレジリエンスを担保するだけでなく、長期的な成長の基盤を築き、さらに魅力的な業界となることが期待できます。

日本の物流業界の活性化および有望な人材の獲得が急務

本稿では、日本の産業の中でも特に人手不足が深刻な物流業界に焦点をあて、その打開策となるダイバーシティ、デジタルテクノロジー、顧客エクスペリエンス起点のビジネス変革について論じました。世界規模で競争が激化する物流業界で日本が後れをとらないためにも、日本の物流業界の活性化および有望な人材の獲得がますます重要な経営課題となります。

この大きな課題に対し1社単独では解決が難しい点もあり、業界横断で取り組む必要性もあると考えています。アクセンチュアでは、これまでのコンサルティング実績から得た豊富な知見をもとに、物流業界全体を活性化するプラットフォーム構築支援含め、クライアント企業を全力で支援しています。

藤澤 純子

製造・流通本部 マネジング・ディレクター

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