課題―求める変化

断続的に実施されてきた、三菱重工業のモダナイゼーション

日本最大級規模の重工業企業であり、日本の近代化とともに成長してきた三菱重工業(以下、三菱重工)。その相模原拠点のICTソリューション本部 BPI部は、30年以上にわたって社内システムのホストコンピュータの管理を担い、三菱重工の発展を支えるという責任ある職務を果たしてきた組織です。

2000年代の半ば以降、三菱重工ではWebシステムへの切り替えやダウンサインジングによる脱ホスト(脱メインフレーム)への着手を開始し、2010年頃からはシステムごとのリビルド(再構築)を進めていました。同部 ソフトウェア4グループ 2チーム 上席主任の菅 佳紀氏は三菱重工における脱ホストの経緯を次のように説明します。

ICTソリューション本部では、2000年代半ばから脱メインフレームによるIT保守コストの構造改革に取り組んできました。スクラッチでのリビルドにおいては、時代の変化に合わせた業務要件を取り入れ、付加価値あるシステムとして構築するアプローチが一般的です。しかし当社が持つITシステムは多種多様かつ複雑であるために、付加価値ニーズの低いシステムや、システム同士が密結合し過ぎてしまっているがゆえにリビルドが困難な複数のシステムが手をつけられないまま取り残されていたのです」(菅氏)

疎結合で切り出し易かった一部のシステムは先行してリビルドしていましたが、メインフレームの莫大な保守費はペインポイントであり続けました。最後まで残ってしまったシステムに対する決定的な解決策を探していた菅氏のチームではシステムを一括移行する方法を検討し社外での実例も収集していたが、具体的なアプローチを決めかねていた状態でした。

「強い危機感を抱いていた私たちは、幅広い専門家に意見を仰ぎました。何らかの付加価値をつけて新システムへと刷新すべきだというご提案、リビルドやリライト、リホストは手段としては私たちの環境には不向きというご指摘など様々でした。しかし、いずれのプランも実施するには決定打に欠け、ホストコンピュータを継続使用していました」(菅氏)

第三者評価を先行してからモダナイゼーションを実施

白羽の矢が立ったのはアクセンチュアでした。三菱重工とアクセンチュアは調達部門のシステム刷新プロジェクトで相模原拠点とすでにリレーションを築いていたこともあり、脱ホストのためのアドバイザーとして起用されました。

COBOL to Javaへの変換に関する技術力はもちろん、プロジェクトを包括した支援など、アクセンチュアのコンサルティングのケイパビリティにも期待しました」と菅氏は振り返り、アクセンチュアの持つリライトのノウハウをPoC実施で評価したと説明します。

「アクセンチュアのモダナイゼーションの実績や経験、提案内容を知るにつれ、アクセンチュアならば私たちの念願が叶うのではないかと期待しました」と菅氏は語ります。

実は、"現行ベンダーが現行システムに最も詳しいので、モダナイゼーションにおいてもベストなパートナーであろう"と考えるのは誤解です。新規のシステム構築と異なり、モダナイゼーションには時限性や独特の困難性があります。特に、メインフレームを解くような大変革プロジェクトはどのような企業でも十数年に1度程度の頻度でしか実施しません。しかしモダナイゼーションの専門家集団であるアクセンチュアならば、そうしたプロジェクトに常時携わっているため、経験量が根本から異なります。知見や実績で脱ホストプロジェクトのパートナーを選定することが重要なのだといえます。

"COBOL to Javaの技術力と包括的なプロジェクト支援など、アクセンチュアの知見に脱ホストの実現を期待しました。"

— 菅 佳紀 氏, 三菱重工業株式会社 ICTソリューション本部 BPI部 ソフトウェア4グループ 2チーム 上席主任

三菱重工業株式会社 ICTソリューション本部 BPI部 ソフトウェア4グループ 2チーム 上席主任 菅 佳紀 氏

取り組み―技術と人間の創意工夫

既得権益なきアクセンチュアに期待された「創造的破壊」

メインフレームを長年にわたって活用してきた日本企業には、ITシステムの作りにおいても独特な点が多く存在します。それゆえに、安易に海外製品を持ち込んでも期待通りの効果が得られないケースが多いことをアクセンチュアは経験則として熟知しています。

多くのグローバルプレイヤーは、海外のベストプラクティスを日本企業へ適用することにより短期間で狙った成果へ到達するアプローチを得意とします。しかしモダナイゼーションにおいては、個社ごとに大きく異なる日本企業のレガシーシステムを深く理解し、日本独自のシステムを解ける最適なツールを選定しなければなりません。三菱重工 相模原拠点ではアクセンチュアの豊富な実例と知見に着目したほか、リライト後も期待した挙動を得られるかどうかの検証と担保をアクセンチュアが提案したことを高く評価しました。

「システムのユーザー部門にとって重要なのは、業務の継続性です。メインフレームからの脱却によるコスト構造改革はIT部門にとってのテーマですが、現場の方々にとっては日常業務に支障のないことが大切であることは言うまでもありません。私たちはスピード感のあるプロジェクト推進と現場負荷の低減のために、テスト自動化ツールを活用するなどの知恵を絞りました」(菅氏)

たとえば、システムで行う受注登録や出荷指示オペレーションといった日常業務を再現してテストするには、現場ユーザーの多大なリソースが必要になります。モダナイゼーションのプロジェクトをいかに確実・迅速・低コストに実現するかにおいては、現場への負荷を抑えるテスト自動化は必須のアプローチといえるのです。

また、テストデータを取得するにも、メインフレームに多大な負荷がかかります。よって、メインフレーム撤廃が目的であるにも関わらず、メインフレーム増強に追加投資しなければならないという、お客様にとっては本末転倒ともいえる事象に直面せざるを得ません。

「アクセンチュアは現行環境をオープンベースの環境へ丸ごと移行するソリューションとテスト自動化を組み合わせ、全体負担を大きく抑制する提案をしてくれました。非常にアクセンチュアらしいプランだと感じましたし、メインフレームの製造販売や保守といった既得権益を持たないアクセンチュアだからこそ可能な“創造的破壊”のアプローチだと感心しました」(菅氏)

"既得権益を持たないアクセンチュアだからこそ創造的破壊は可能なのだと感心しました。"

— 菅 佳紀 氏, 三菱重工業株式会社 ICTソリューション本部 BPI部 ソフトウェア4グループ 2チーム 上席主任

アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェントソフトウェア エンジニアリングサービスグループ アソシエイト・ディレクター 中野 恭秀

1,500万

本プロジェクトで扱ったシステムのステップ数。国内最大級の圧倒的なステップ数

4.5万本

リライトを実行したプログラムの本数。Java変換として記録的な大規模プロジェクト

10分の1

モダナイゼーションによって圧縮されたITシステム保守費

1年分のあらゆる処理をテストするハードさ

モダナイゼーションにあたり、三菱重工 相模原拠点ではメインフレーム資産の見える化とミニマム化を目的とする棚卸を実行。その大半はCOBOL、一部はアセンブラやEASYで書かれており、データベースはIMSDBが利用されていました。使われなくなったプログラムも物理的に抹消されず、ソースを保存していた状態であったため、資産をミニマイズするには、棚卸が不可欠だったのです。

「事業変化や業務プロセスの改善等で活用していない不要資産を取り除いていきました。変換するプログラムをアクセンチュアへ受け渡していく業務と同時並行で、インフラとなるサーバー環境の準備、ミドルウェアを管理するチームとの連携、さらにアプリケーションのチームやテストチームのマネジメントを進行していきました」(菅氏)

大規模モダナイゼーションにおける最大の難所はテスト工程です。変換する資産の絶対量の多さもさることながら、日次処理、月次処理、決算のために年1回だけ実行する処理まで様々のプログラムをテストしなければなりません。データの因果関係や、命令・業務に則したパターンを網羅して再現するには多大な労力が掛かります。

また、1年間で動かす全ての処理を、限られたテスト期間内で実行することには根本から物理的な困難さが伴います。テスト結果がNGであれば再実行が必要であり、さらにレガシーでは仕様書やソースコード、テストケースが揃っていることも望めません。「正しさ」さえも手探りで確認が必要ですし、短期間に掛けるシステムへの負荷も非常に高くなるためモダナイゼーションの難度を高める原因となっています。

「自動化ツールである程度は負荷が軽減されるとはいえ、テストを楽観視してはいけないと骨身に沁みて実感しました。変換したプログラムは棚卸し結果を反映していませんので、単純な現新比較による確認ができません。そうした差分を追跡して確認し、整合管理する作業は機械化が難しいため、アクセンチュアの実践的アドバイスに助けられながらプロジェクトを進めていきました。テスト成果指標の一つである現新一致率がなかなか上がらずいかに脱レガシーが難易度の高い取り組みであるかを実感しました」と菅氏は語ります。

今回のシステムは本番リリース月にも現行資産の変更(追いつき資産)が発生するシステムであることから、アクセンチュアではテスト自動化ツールを作り込、追いつき資産を全自動でテストする仕組みを構築しました。以下がそのツールの一例です。

  • 自動資産変換
  • 自動ビルド
  • 自動リリース
  • 自動現新比較

これらのツールを組み合わせた仕組み化により、品質を担保しながら短期間での本番を成し遂げました。

移行概要

移行ソリューション

成果―創出された価値

脱ホストを完了で、レガシーの次世代への先送りを阻止

20年来の悲願であった三菱重工 相模原拠点の脱ホストはかくして成し遂げられました。自社のプライベートクラウドにリライト後のシステムを構築した事もあり、ITシステムの保守費用は10分の1となりました。

現在はCOBOLJava、両方のエンジニアを抱えている組織・人事関連の課題もゆくゆくはJava人材へ統一されることで人件費等の低減になると期待されています。

今回のプロジェクトにおいても、変換ツールを活用したことで「COBOLライクなJava」が生成されていることは事実です。しかしJava変換とオープン化によってテストケースが用意されるだけでもレガシー化は排除できます。考え方1つでモノの見方が変わるように、たとえCOBOLライクなJavaであっても、Javaのエンジニアが扱えるようになるだけで組織運営上は極めて健全な環境が実現できます。

三菱重工のCOBOLは、標準規格に則ってエンジニアが手で書いたプログラムでありましたが、以下のようなケースではさらに難易度が高まっていた可能性があります。

  1. ケースツールが多用されていた場合
  2. 対応可能なプログラマーがすでに存在しないマイナー言語が使われていた場合
  3. 大量のアセンブラ(1,000本以上など)を抱えている場合
  4. 階層型データベースが使用されており、変換できてもパフォーマンス劣化が問題となる場合

「三菱重工の歴代のエンジニアがコツコツと性能改善を続けてきたメインフレームであり、私たちの歴史そのものでもあります。最後に残った移行困難性の極めて高いレガシーを、私たちの代で解消して次世代へ先送りしないことは使命であると考えて取り組みました。IT視点の課題をいかに経営課題へと押し上げ関係部門の協力を得る事が脱ホストを実現するためのポイントであったと学びました」(菅氏)

明日の経営判断に資するシステムの実現

日本のメインフレームは、構築を手がけたエンジニアから若手への技術継承の機会を失ったために手のつけられないレガシーと化しているケースが多数派です。この呪縛から解放された三菱重工 相模原拠点では、新システムが稼働したことによってBIツールの活用も容易となり、社内状況のリアルタイムな可視化など経営判断に貢献できるメリットを享受できるステージへと入りました。

菅氏は、「週末にしか集計できなかったような分析処理が、オープン化によってリアルタイム化できました。こうした時間軸の圧縮などが、デジタル化の真の恩恵です。これから新しい価値を出していきたいと考えています」と述べ、アクセンチュアのエンド・ツー・エンドでの支援が脱ホストという難関の突破に貢献したことを評価しました。

本プロジェクトを牽引したテクノロジー コンサルティング本部 シニア・マネジャー 岡本篤は「システムの中身について熟知している菅様がプロジェクトマネジャーとしてリーダーシップを発揮してくださったことが最大の成功要因であったと感じています。またアクセンチュアが三菱重工様の課題解決にコミットし、コンサルタントとテクノロジーの人材が一体となったコラボレーションを実現できたこともプロジェクト成功に大きく寄与したのではないかと自負しています」と語ります。

このように、菅氏がプロジェクトのあらゆる場面でハブとなり、経営層や現場、ITとユーザー部門を結びつけて有機的なプロジェクト運営を実行されたことは、まさに本プロジェクトの成功要因であったといえます。

アクセンチュアは、三菱重工 ICTソリューション本部へのご支援を継続すると共に、蓄積したモダナイゼーションの知見を全国の企業へ展開予定です。日本の脱ホストや脱レガシーの実践的先駆者として、日々蓄積している経験を強みとしてお客様のご期待にお応えしてまいります。

左:三菱重工業株式会社 ICTソリューション本部 BPI部 ソフトウェア4グループ 2チーム 上席主任 菅 佳紀 氏 右:アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェントソフトウェア エンジニアリングサービスグループ アソシエイト・ディレクター 中野 恭秀 ※新型コロナウイルスの感染予防のため、インタビューはマスク着用およびソーシャルディスタンスを確保して安全に行いました。マスクの取り外しは写真撮影時に限った一時的なものであり、飛沫等に配慮して撮影しております。

外部メディア掲載・出演

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