昨今、日本のエネルギー業界では産業を激変させる5つの「変革ドライバー」として、①人口減少(Depopulation) ②脱炭素化(De-carbonization) ③分散化(De-centralization) ④制度改革(Deregulation) ⑤デジタル化(Digitalization)の「5つのD」が注目されています。そうした新たな潮流に直面している電力・ガス(ユーティリティ)業界の最新動向と、イギリスで進行中の「洋上風力発電」の事例から得られる教訓についてご紹介します。
本稿は、「RE100時代到来における洋上風力発電の未来と課題」と題して行なった講演概要です。

ユーティリティ業界が直面している「潮流」

電力・ガス(ユーティリティ)業界はいま、「ビジネスのドメインのあり方そのもの」の再定義を必要とする大変革の時期を迎えています。すでに業界のさまざまな場面でディスラプション(創造的破壊)が起こっており、この傾向は今後、最も激しい局面へと突入することが予想されます。

直面している潮流として、第一に挙げられるものが「社会的マインドセットの影響」です。企業活動の脱炭素化を促す変化は、RE100※1 やESG投資※2 の拡大などで顕著であり、世界の機関投資家は、総資産額の25%超(約2,500兆円)を ESG投資で運用する状況に進展しています。また、ある金融機関が「二酸化炭素排出量の高い化石燃料への投資は控える」と明言したり、各業界のリーダー企業においてもサプライヤーに再生可能エネルギーの利用を推奨したりといったケースが目立つなど、2019年は時代の転換点と呼べる状況にあるといえるでしょう。

火力発電についても、「再生可能エネルギー発電が少ない状況下においてのみ、バックアップとして火力発電を使用する」といったような「調整役」としての機能は期待されつつも、設備利用率の低下によって経済性という点では、大幅にダウンしているのが現状です。

このような状況を踏まえ、アクセンチュアではエネルギー業界企業のみなさまへ「Wise Pivot(賢明な事業転換)」を提言しています。これは既存の中核事業を維持・強化しながらも、次世代のビジネス展開に備え、新規事業を発足させていく「転換」のモデルです。現代は、企業の現場とマネジメント層が一体となって全社的なビジネスのトランスフォームを推進していくことが求められる時代なのです。

※1 RE100 「事業運営に必要なエネルギーを再生可能エネルギーで100%賄う」を目標に掲げる国際イニシアチブ
※2 ESG投資 E:環境、S:社会、G:透明性の高い企業統治への投資

再生可能エネルギー事業推進における「5D」

再生可能エネルギー事業を推進していくうえでは、冒頭で紹介した業界全体の潮流といえる「5つのD」だけでなく、“もう1つの「5つのD(Dispatchable、Digital、Divided、Diverse、Demand)」”を意識することが不可欠です。この5Dに着目しながら、目配りを効かせるマネジメントスタイルが求められています。

  1. Dispatchable(新たな価値の創出)
    デジタル技術や蓄電池、再生可能エネルギーのハイブリッド発電や制御技術、分散化技術などの汎用化と段階的なコモディティー化に伴い、再生可能エネルギーはディスパッチが容易となります。これは送配電サービスにおいて新たな価値創出の源泉となります。
  2. Digital(デジタル技術の活用)
    デジタル技術は再生可能エネルギー市場における企業の競争力を強化します。特にO&Mコストの削減や、メガソーラーや洋上風力の開発/建設のインテリジェント化において、デジタル技術の活用は競争力の源泉そのものとなります。
  3. Divided(競争力の拡大)
    デジタル技術の積極的な導入と活用を進めている大手事業者と、デジタル化が遅れている中小事業者の間の経済性・業務効率性の格差は拡大し、結果的に競争力にさらなる差がついてしまうことが現実化しています。
    当社の調べでは、テクノロジー活用で先行する企業の収益成長率は、出遅れた企業の2倍にあがることが判明しております。
  4. Diverse(多様なプレイヤー群)
    昨今はエネルギー業界に異業種からの新規参入が相次いでいます。この大きな変化は競争を生み出しているだけでなく、より多くの「協業」も実現させています。テクノロジー企業やメーカー、金融や通信企業の参入によって新たなソリューションが生まれているほか、サプライチェーンの作り方も変化しています。
  5. Demand(需要のあり方の変化)
    再生可能エネルギーに対するニーズは個人消費のみならず、産業・商業分野におけるPPA増加やアグリゲーションといった面においても顕著に表れています。こうした需要のあり方の変化を理解することが、変化に適応していくことの第一歩でもあります。

たとえば、カリフォルニア州ではCCA制度※3 を利用して800万の顧客が再生可能エネルギーを選択しているほか、自治体PPSやスマートシティの高度化、シェアリングエコノミーの取り入れなど、実践的な取り組みが進んでいます。これも需要の形の変化の一種であるといえるでしょう。

日本の再生可能エネルギーの進展は、FIT制度と新規参入により太陽光発電などが拡大しています。その一方で、風力や地熱の2030年目標までの進捗はまだ30%台※4 にとどまっています。

※3 CCA(コミュニティ・チョイス・アグリゲーション)制度:地方自治体などが住民、ビジネス、さらに公共施設用の電力需要をまとめて購入可能とする制度
※4 出所:資源エネルギー庁「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」2018年10月

イギリスにおける洋上風力の当社支援事例から得られる教訓

アクセンチュアはイギリスにおいて、洋上風力発電の開発・運用プロジェクトを支援しています。2020年以降はさらに経済性の高い巨大風力発電を稼働させる計画を推進中であり、現在の1MWhあたり100ポンドの価格も50ポンド台への引き下げ実現が視野に入っています。

予定されている設備は高さ300メートル(東京タワーが333メートル)という巨大なものであり、これが洋上に20基も並ぶ予定です。この洋上風力発電施設の事業経済性を高める「O&M(運用保守)のインテリジェント化」を源泉としています。

一般的に巨大設備の建設においてはハード面のコストに目が行きがちです。しかし、ビジネス的な総コストで俯瞰すると、機器のメンテナンスや部品のサプライチェーン構築、休止・停止期間の最小化といった運用保守(O&M)が4割を占めます。たとえば、洋上設備へのアクセスは容易ではありません。保守には船かヘリコプターを使用しますが、メンテナンス計画やサプライチェーンを緻密に具体化していき、予防保全はもちろん、発電量不足などをモニタリングしながら最適にコントロールすることが重要です。

市場競争力の源泉はデジタルを活用したO&Mのインテリジェント化

インテリジェント化を支えるエコシステム

洋上風力発電の先進国といえるイギリスでも、かつてはO&Mコストの肥大化によって計画が頓挫したり、安全面に改良の余地が残って事故が発生したりといった問題が生じていました。このプロジェクトにおいても当初は運用保守について十分に議論し尽くしたとはいえませんでした。しかし過去のケーススタディから得られた教訓を適切に取り入れたことや、O&Mをインハウスで構築したことによるコストの劇的な削減によって、競争力のある価格を実現できる見通しとなりました。

また、イギリスでは揚水発電による負荷平準化をはじめとする系統安定化機能にも注目しています。風力発電の大量導入によって、揚水発電の価値が一層高まるというシナジー効果が見込まれています。

サプライチェーンや需給予測においては、先端的なデジタル技術を用いたインテリジェント化がそのソリューションとなります。ヨーロッパではHSE(健康・安全・環境)基準のクリアが求められます。ビジネスとエンジニアリングを高度に融合させるには、データアナリティクスやIoTの活用が最重要事項なのです。
昨今のデジタル技術は遠隔監視や保全最適化を支援する機能を一層充実させており、一例として次のようなビジネスプラットフォームをアクセンチュアは提供しています。

  • 発電所の運転状況を地図上にマッピングして表示
  • アベイラビリティの分析、発電量の分析
  • 作業計画管理、作業員管理
  • 予想と実績の管理(収支、発電量)
  • パーツ調達状況管理
アクセンチュア再生可能エネルギーチームについて

アクセンチュアの洋上風力発電における主な実績

アクセンチュアは洋上風力発電について大きく分けて3つのケースですでに実績があります。

  1. 新規参入向(2010年〜現在)
    洋上風力グリーンフィールド案件のプロジェクトオーナーとして参画しています。業務プロセスを保有していない新規参入企業にサプライチェーン戦略からオペレーション構築までを幅広く支援。
  2. 既存洋上風力事業者向(2013年〜現在)
    洋上風力発電への参入を検討していた大手ユーティリティ企業を支援。サプライチェーン構築とデジタル技術の利用によるサポートを実施。
  3. オイルメジャーの洋上風力事業参入向(2018年〜現在)
    洋上/陸上に大規模な風力発電ポートフォリオを有する再生可能エネルギーのリーディングカンパニーの事業拡大とインテリジェント化を支援。

アクセンチュアの洋上風力発電におけるアセットの活用

洋上風力発電は新しい電源開発領域です。アクセンチュアではお客様企業と共に汗をかきながら、お客様のビジネスドライブを支援すべくデジタル関連人材やケイパビリティを駆使しています。

すぐに活用可能な多種多様なアセットを体系化している点もアクセンチュアの特徴です。今回はイギリスにおける事例をご紹介しましたが、日本とは環境や気候、規制など様々な点で異なります。知見やアセットを日本企業のお客様に最適な形へとカスタマイズして導入を推進しています。

今日において、業界のビジネスモデルだけでなく「エネルギーそのもの」を再定義するのは世界的な潮流です。お客様企業が「Wise Pivot」を実現するにあたっては、各フェーズでどのようなパートナーシップが必要かを含む、緻密なビジネスエンジニアリングとしての全体設計が重要です。

競争力の源泉であるインテリジェント化の最適な実践を通じ、アクセンチュアはエネルギー業界のお客様企業の次世代の飛躍的成長をこれまで以上にご支援してまいります。

小野田 敬

アクセンチュア株式会社 素材・エネルギー本部 マネジング・ディレクター 洋上風力発電&VPP担当​

関連コンテンツはこちら

海外事例から洋上風力発電の普及を考える
台頭する再生可能エネルギーが支配する時代への備え
風力発電のO&M - データとデジタル活用による変革

ニュースレター
最新コラム・調査をニュースレターで 最新コラム・調査をニュースレターで