RE100時代到来における洋上風力発電の未来と課題
2020/02/05
2020/02/05
昨今、日本のエネルギー業界では産業を激変させる5つの「変革ドライバー」として、①人口減少(Depopulation) ②脱炭素化(De-carbonization) ③分散化(De-centralization) ④制度改革(Deregulation) ⑤デジタル化(Digitalization)の「5つのD」が注目されています。そうした新たな潮流に直面している電力・ガス(ユーティリティ)業界の最新動向と、イギリスで進行中の「洋上風力発電」の事例から得られる教訓についてご紹介します。
本稿は、「RE100時代到来における洋上風力発電の未来と課題」と題して行なった講演概要です。
電力・ガス(ユーティリティ)業界はいま、「ビジネスのドメインのあり方そのもの」の再定義を必要とする大変革の時期を迎えています。すでに業界のさまざまな場面でディスラプション(創造的破壊)が起こっており、この傾向は今後、最も激しい局面へと突入することが予想されます。
直面している潮流として、第一に挙げられるものが「社会的マインドセットの影響」です。企業活動の脱炭素化を促す変化は、RE100※1 やESG投資※2 の拡大などで顕著であり、世界の機関投資家は、総資産額の25%超(約2,500兆円)を ESG投資で運用する状況に進展しています。また、ある金融機関が「二酸化炭素排出量の高い化石燃料への投資は控える」と明言したり、各業界のリーダー企業においてもサプライヤーに再生可能エネルギーの利用を推奨したりといったケースが目立つなど、2019年は時代の転換点と呼べる状況にあるといえるでしょう。
火力発電についても、「再生可能エネルギー発電が少ない状況下においてのみ、バックアップとして火力発電を使用する」といったような「調整役」としての機能は期待されつつも、設備利用率の低下によって経済性という点では、大幅にダウンしているのが現状です。
このような状況を踏まえ、アクセンチュアではエネルギー業界企業のみなさまへ「Wise Pivot(賢明な事業転換)」を提言しています。これは既存の中核事業を維持・強化しながらも、次世代のビジネス展開に備え、新規事業を発足させていく「転換」のモデルです。現代は、企業の現場とマネジメント層が一体となって全社的なビジネスのトランスフォームを推進していくことが求められる時代なのです。
※1 RE100 「事業運営に必要なエネルギーを再生可能エネルギーで100%賄う」を目標に掲げる国際イニシアチブ
※2 ESG投資 E:環境、S:社会、G:透明性の高い企業統治への投資
再生可能エネルギー事業を推進していくうえでは、冒頭で紹介した業界全体の潮流といえる「5つのD」だけでなく、“もう1つの「5つのD(Dispatchable、Digital、Divided、Diverse、Demand)」”を意識することが不可欠です。この5Dに着目しながら、目配りを効かせるマネジメントスタイルが求められています。
たとえば、カリフォルニア州ではCCA制度※3 を利用して800万の顧客が再生可能エネルギーを選択しているほか、自治体PPSやスマートシティの高度化、シェアリングエコノミーの取り入れなど、実践的な取り組みが進んでいます。これも需要の形の変化の一種であるといえるでしょう。
日本の再生可能エネルギーの進展は、FIT制度と新規参入により太陽光発電などが拡大しています。その一方で、風力や地熱の2030年目標までの進捗はまだ30%台※4 にとどまっています。
※3 CCA(コミュニティ・チョイス・アグリゲーション)制度:地方自治体などが住民、ビジネス、さらに公共施設用の電力需要をまとめて購入可能とする制度
※4 出所:資源エネルギー庁「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」2018年10月
アクセンチュアはイギリスにおいて、洋上風力発電の開発・運用プロジェクトを支援しています。2020年以降はさらに経済性の高い巨大風力発電を稼働させる計画を推進中であり、現在の1MWhあたり100ポンドの価格も50ポンド台への引き下げ実現が視野に入っています。
予定されている設備は高さ300メートル(東京タワーが333メートル)という巨大なものであり、これが洋上に20基も並ぶ予定です。この洋上風力発電施設の事業経済性を高める「O&M(運用保守)のインテリジェント化」を源泉としています。
一般的に巨大設備の建設においてはハード面のコストに目が行きがちです。しかし、ビジネス的な総コストで俯瞰すると、機器のメンテナンスや部品のサプライチェーン構築、休止・停止期間の最小化といった運用保守(O&M)が4割を占めます。たとえば、洋上設備へのアクセスは容易ではありません。保守には船かヘリコプターを使用しますが、メンテナンス計画やサプライチェーンを緻密に具体化していき、予防保全はもちろん、発電量不足などをモニタリングしながら最適にコントロールすることが重要です。
洋上風力発電の先進国といえるイギリスでも、かつてはO&Mコストの肥大化によって計画が頓挫したり、安全面に改良の余地が残って事故が発生したりといった問題が生じていました。このプロジェクトにおいても当初は運用保守について十分に議論し尽くしたとはいえませんでした。しかし過去のケーススタディから得られた教訓を適切に取り入れたことや、O&Mをインハウスで構築したことによるコストの劇的な削減によって、競争力のある価格を実現できる見通しとなりました。
また、イギリスでは揚水発電による負荷平準化をはじめとする系統安定化機能にも注目しています。風力発電の大量導入によって、揚水発電の価値が一層高まるというシナジー効果が見込まれています。
サプライチェーンや需給予測においては、先端的なデジタル技術を用いたインテリジェント化がそのソリューションとなります。ヨーロッパではHSE(健康・安全・環境)基準のクリアが求められます。ビジネスとエンジニアリングを高度に融合させるには、データアナリティクスやIoTの活用が最重要事項なのです。
昨今のデジタル技術は遠隔監視や保全最適化を支援する機能を一層充実させており、一例として次のようなビジネスプラットフォームをアクセンチュアは提供しています。
アクセンチュアは洋上風力発電について大きく分けて3つのケースですでに実績があります。
洋上風力発電は新しい電源開発領域です。アクセンチュアではお客様企業と共に汗をかきながら、お客様のビジネスドライブを支援すべくデジタル関連人材やケイパビリティを駆使しています。
すぐに活用可能な多種多様なアセットを体系化している点もアクセンチュアの特徴です。今回はイギリスにおける事例をご紹介しましたが、日本とは環境や気候、規制など様々な点で異なります。知見やアセットを日本企業のお客様に最適な形へとカスタマイズして導入を推進しています。
今日において、業界のビジネスモデルだけでなく「エネルギーそのもの」を再定義するのは世界的な潮流です。お客様企業が「Wise Pivot」を実現するにあたっては、各フェーズでどのようなパートナーシップが必要かを含む、緻密なビジネスエンジニアリングとしての全体設計が重要です。
競争力の源泉であるインテリジェント化の最適な実践を通じ、アクセンチュアはエネルギー業界のお客様企業の次世代の飛躍的成長をこれまで以上にご支援してまいります。