日本初デジタルバンク「みんなの銀行」誕生秘話


「みんなに価値あるつながりを。」、未来の銀行をいま創る

横田 浩二 氏
みんなの銀行 取締役会長
永吉 健一 氏
みんなの銀行 取締役頭取
柳 太漢
Fjord Tokyo ビジュアルデザインディレクター 兼 デザインディレクター

概略

  • 変化への挑戦:10年後、デジタルネイティブ世代は銀行に何を求めるかを考え抜き、未来の銀行をいま創造するプロジェクトに着手した。
  • パーパス:"みんな"に新しい価値を届けるため、これからの時代にふさわしい"つながり"を考え、価値を仲介するプラットフォームになることを強く決意した。
  • 顧客体験起点のビジネス変革:サービス、組織構造、人事制度まで、企業活動のすべての中心に体験を置いてビジネスを設計した。
  • 多様なリーダーシップの形:管理職だけがリーダーシップを発揮するのではなく、現場のメンバーも様々な形で主導するのが強い組織の条件。
※本記事は2021年9月に実施したインタビューの様子をまとめたものです
みんなの銀行リーダーへのインタビュー
徹底した顧客視点で、デジタルネイティブ世代に寄り添う新しい銀行体験を創出。変革までの道のりと想いをインタビュー。

変化への挑戦-未来の銀行をいま創る

 日本初のデジタルバンク、みんなの銀行が2021年5月28日にサービス提供を開始して以来、まさに私たち生活者の"みんな"が新しい金融サービスの幕開けを体験しています。本日はあらためて、みんなの銀行のはじまりの物語を振り返りたいと思います。

横田 みんなの銀行の設立背景からお話しします。2015年の海外赴任中、まだリーマンショックの傷が癒えきっていないにもかかわらず、欧米の銀行ではすでにデジタル分野への積極的な投資がなされていることを目の当たりにし、驚きました。同時に、異業種企業や新興のフィンテック企業の参入によるビジネスモデルの変革も急速に進んでいました。いわば、銀行のライバルが銀行業界の外に存在する状況です。この流れは日本にもやってくる。そうであれば先手を打ちたい、と考えました。

一方、日本国内ではこれらがまだ「手触り感のある脅威」とは受け取られておらず、近隣の地銀や全国規模のメガバンクがライバルであるという認識が主流です。それに加えて、銀行内部でデジタルはITシステムの同義語として捉えられがちでした。なぜなら銀行そのものがシステム・オブ・レコード(SoR)の巨大な勘定系システムで成り立っているからです。銀行にとってデジタルは勘定や記帳といったトランザクションを自動化する業務効率化のための存在でした。つまり、顧客にとっての体験や価値を生み出すものとは認識されていませんでした。

みんなの銀行の親会社、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の経営陣は変革に躊躇しません。不易流行、変えてはならない価値はしっかりと守りつつ、変えるべきことは大胆に変える。新しい変化を捉えて価値を提供していく。経営陣が変化を積極的に後押ししてくれたからこそ、みんなの銀行は誕生できたともいえます。

永吉 私がFFGの企画部門の戦略チームに在籍していた時、経営陣から1つのテーマが与えられました。「10年後、銀行はどうなっているか。金融業界はどのように変化しているか。その将来を見据えて、我々はいま何に取り組むべきか。具体的アクションプランを含めて報告してほしい」。みんなの銀行プロジェクトの源流を辿ると、この問いかけが出発点でした。

3年程度であれば、比較的高い精度で予測できます。しかし10年となると、様々なテクノロジーの影響がある中で予想は非常に困難になります。しかし、生まれた時からテクノロジーが身近で日常的に使いこなしている「デジタルネイティブ世代」と呼ばれる人々が社会の中核を担っていることは確か。この世代の価値観や思考は、長年にわたって銀行がお取引してきたシニア層のお客様とは大きく異なると考えられます。

現在のこの世代はシニア層と比べて預金規模がまだ小さく、ローンや融資といった金融商品を必要とする機会も少ないといえます。そのため、規模の経済でビジネスモデルが回っている銀行にとっては新サービス開発等の投資をしても収益化には長い時間が必要です。しかし世代交代は待ったなしで起こります。10年後の銀行は、デジタルネイティブ世代の方々から選ばれ続ける存在となっているだろうか。湧き上がってきた強烈な危機感が、私たちの間で共有されはじめました。

すでにデジタルネイティブ世代は、あらゆる業界のサービスを通じて最新のデジタル体験を得ています。そうした方々に使っていただけるサービス・商品を、いつ作りはじめるべきなのか。未来はいつはじまるのか。今しかない、それが私たちの結論でした。

 未来の銀行を直ちに創りはじめるべきという必然性を強く感じるエピソードです。

永吉 2015年、ニューヨークで開催された世界最大級のフィンテックのイベントを視察した際に受けた衝撃も大きかった。UI/UXや体験設計が考え抜かれているので、言語による説明が最小限でも直感的に理解できました。日本の銀行サービスは世界的に極めてクオリティが高いと自負できます。しかしUI/UXや顧客体験の観点では話が異なります。日本の銀行に足りないものは体験そのものの再創造だろうと思ったのです。

パーパス-「みんなに価値あるつながりを。」はいかに定義されたか

ミッションとパーパス

 みんなの銀行のパーパスをあらためて教えてください。
横田 私たちは「みんなに価値あるつながりを。」をミッションに掲げています。キーワードは、人、モノ、お金、情報の「コネクティビティ」と「データ」。これらがつながることで、価値が生まれます。私たちはデジタルの力を活かし、人々のためにこれからの時代にふさわしい新しいつながりを創造したいと考えています。我々は何者なのか?という自己の再定義にも立ち返り議論を重ねた結果、このミッションに辿り着きました。これを私たち全員の指針、つまり"北極星"として明確にしたからこそ、一丸となって走り続けられたと思います。
永吉 FFGの経営理念のひとつでもある「人々の最良の選択を後押しする」も取り入れました。人々の最良の選択を後押しするために未来の銀行ができることは、必ずしもお金という形の価値の仲介に留まる必要はありません。私たちは金融仲介業から「価値仲介プラットフォーマー」になろう。これを煎じ詰めたのが「みんなに価値あるつながりを。」です。我々の仕組みを使っていただく中で、お金だけではなく、人、モノ、情報などいろいろな価値あるものがつながっていく。つながっていくことで、もっと新しい世界が見える。そう考えました。


バリュー

横田 現代社会の特徴は、変化の速さです。人々の価値観は絶えず変化し、資本主義さえも見直される局面を迎えています。銀行が持つ金融機能にも再デザインが必要です。

永吉 再デザインと共に、私たちが目指したのは銀行の価値の再定義です。新しい顧客体験を創るための最初のステップとして、みんなの銀行で共有する価値を次の3つに定めました。

  1. 「銀行らしさ」からの脱却。銀行が持つ安心感や信頼感は大切にしつつ、堅苦しさや手続きの面倒臭さといった「ネガティブな銀行らしさ」を打破していきます。
  2. 「ユニーク」へのこだわり。デジタルバンクにとって最大のライバルは、ユーザーの変化に寄り添う新サービスを素早く投入してくる非金融業界の先進企業です。私たちのお客様に同様に、しかし自分達ならではの形で寄り添うには何をすべきか、徹底的に考え抜きました。
  3. 「信じて、頼られる」。みんなの銀行は、まるで多民族国家のような会社です。デザイナーやエンジニアといった従来の銀行にはなかったスキルを持った専門家だけでなく、国籍や文化も多様です。このような環境で大切なのは相互の信頼です。蓄積された個々人の過去の実績に基づき、「今ここにいるあなたを信じています。あなたも私を頼ってほしい」という視点での対話が重要です。そうしてはじめて、従来の銀行ビジネスの常識では「できない」と即答してしまいそうな場面でも、「今のままではできないかもしれないので、どうやったら実現できるかを一緒に考えよう」という姿勢で『「銀行らしさ」からの脱却』と『「ユニーク」へのこだわり』を追求することができます。
 組織体系を含め、従来の銀行とは異なる姿勢で臨まれたことがうかがえます。


取り組み

永吉 銀行の再定義にあたって、銀行の三大機能である金融仲介、信用創造、決済をデジタルネイティブの文脈で読み替えています。そうすることで、体験の軸とすべきものが見えてきます。

例えば「フリクションレス」。これは先程の銀行らしさからの脱却とも重なりますが、スマホで手続きや支払いを完結できるなど、操作性や提供サービスとデジタルネイティブ世代のユーザーの間の摩擦を徹底的に無くすことを目指しています。または「ハイパーパーソナライゼーション」。データを活用して個人個人の最良の選択を後押しする選択肢を届けていく。または「成果主義」。家で過ごす時間が増えたパンデミックの影響で、サブスクリプションサービスの利用が拡大しました。「価値あるものには正当な対価を支払って利用を継続する」という行動変容が、デジタルネイティブ世代の方々ほど広がってます。そんなユーザーの皆さんには、価値を感じていただけるサービスを作り、それを的確に伝え続けることが重要です。そして「コミュニティの重視」。銀行口座は個人に紐づきますが、実際には家族で利用しているケースが多くみられます。複数の利用者で共有する、コミュニティ的金融サービスの仕組みが本来的に必要なのではないか。こういった問い掛けを繰り返し、銀行の再定義を実現していきます。

 目的ごとに貯蓄預金を簡単に管理できる「ボックス」やお財布感覚で使える預金口座「ウォレット」などの機能・サービスの背景にある思想ですね。

横田 顧客を囲い込んでクロスセルを仕掛けるような旧来の銀行ビジネスではなく、お客様一人ひとりのカスタマージャーニーを起点にして金融体験を再考し続けています。

永吉 そのために、お客様の声を聴き続けるコミュニケーションチャネルを大切にしています。SNS等を通じてお寄せいただく使い方や使い勝手に関するご指摘は我々の財産です。これらを新サービス開発や改良につなげる取り組みは、「みんなの声委員会」として仕組み化しています。「みんな」とはお客様と我々の総体です。みんなの銀行はお客様と共に育てていく銀行でもあります。

顧客体験起点のビジネス変革-体験に基づいてすべてを設計する

 顧客接点だけでなく、事業開発や人事制度を含め組織全体を優れた顧客体験の提供を起点に再構築することをアクセンチュアでは提唱しています。

永吉 同感です。表面的な顧客体験では足りません。デジタルを前提に、業務もオペレーションも、組織、制度、経営管理の仕組みも、すべて体験に繋げる形で再デザインする必要があります。

横田 顧客体験をいかに提供するかという点でみんなの銀行とアクセンチュアの考え方が一致していました。この考え方をさらにパートナー企業とも共有し、新しい価値を創っていきたいです。


デザイン

 顧客を中心としたデザインにおける工夫は何でしょうか。

永吉 サービスの使い勝手にかなりこだわりました。今まで銀行員はサービス開発についてほとんど意識してきませんでした。しかし私たちはお客様のためにすべてを自分たちで作る。みんなの銀行では、目指すべき体験の姿をデザイナーやマーケターだけでなくエンジニアも含め全員で共有できるよう明文化しています。結果として、片手で作業が完了するアクションの設計やボタン配置など高い操作性を実現できました。

また、ユーザーの最初の判断に大きく影響するビジュアルも重視しました。徹底的に議論し、ミニマルでシンプルなサービスを体現するモノクロのイラストに黄色のアイキャッチを添える形にたどり着きました。


パートナー

横田 デザイン、エンジニアリング、システム、データ…そして現在これらのすべての領域の基礎となるデジタルについて、自分達はスキルが足りていないと感じていました。このギャップを埋める知見とスキルを備えたパートナーを探し求めた結果、アクセンチュアと出会いました。

永吉 ビジネスとシステム、デザインとマーケティングなどを一体として新しい銀行をゼロから作る時、それらすべてに精通するアクセンチュアの皆さんと推進できてよかったです。私たちのニーズや課題をとらえた、様々な提案もいただきました。一方で私たちも、自分たちの力をつけるべく、提案内容を理解・解釈しどのように具現化するかを常に考えていました。立場が違う専門家同士の意見の衝突もありましたが、それもより良い解決策のきっかけとなりました。

我々とアクセンチュアの関係はクライアントとベンダーというより、同志・パートナーという感覚です。

横田 アクセンチュアは、戦略策定はもちろん実装する力においても抜群です。

 主役であるクライアント企業の皆さんと一緒に走るパートナーであることを心掛けているので、同志とご評価いただけるのはとても嬉しいです。

多様なリーダーシップの形-強い組織の条件

 多様性がますます重視されるビジネス環境において、あるべきリーダーの姿についてどのようにお考えでしょうか。

横田 リーダーシップのスタイルは、個人の人柄や時代・環境に基づきます。現代のリーダーはサーヴァント型(支援型)に徹するべきと私は考えています。

メンバーが困難な状況に直面したらその解消のために尽力できるよう、サーヴァント型リーダーはビジネスやテクノロジーについて常に学び続ける必要があります。近年の私自身を振り返っても、このスタイルを貫いてきたように思います。
永吉 新規事業を続けてきたこの十数年間、自分は起業家のように率先垂範で道を拓きながらみんなに自分の背中を見てもらうリーダーであろうとしてきました。率先して実行することで信用してもらえます。また、失敗を恐れずに挑戦していくことも大切です。そんなリーダーの姿を見れば、メンバーは安心して全力を出せます。これが横田の背中を見て育ってきた私の今の立場のリーダーシップだと考えています。
 単一のスタイルのリーダーだけで成り立っているわけではない、ということがお二人のお話からうかがえます。

永吉 そこで気をつけるべきことがあります。リーダーシップは管理職だけが発揮するものではありません。現場のメンバーも、それぞれの仕事を完遂するために発揮できる色々な形のリーダーシップがあると思います。

横田 一つの部署の担当レベルであっても、その人がその場でのリーダーです。一人ひとりのリーダーシップが強い組織の活力源です。アイデアを出し、周囲を巻き込み、全体を束ねていく。変化を生むのは、信頼に基づくこのような多層的なリーダーシップです。

永吉 皆でそうしたリーダーシップを持ち、「銀行らしくない」ユニークな銀行の形を常に問いながら、これからも未来の銀行を追求していきたいと思います。

 みんなの銀行の誕生はその大きな第一歩ですね。引き続き、私たちも一緒に未来を創造できればと願っています。
アクセンチュアは顧客体験を起点としたビジネス変革をご支援します。

お問い合わせ

アクセンチュアとつながる