Fjord Trends 2022:新たな日々を織り成すもの
Fjord Trends はアクセンチュア インタラクティブで活躍する世界中のデザイナーやクリエイターの知見を集結させ、人々と地球、テクノロジー、企業、そして人々同士の関係を物語るものです。今年は様々な関係性の変化に対応すること、すなわち「新たな日々を織り成す」ことが大きなテーマとなっています。

私たちが次にする選択が、私たちの想像以上に世界とその構造に影響を与えるかもしれません。それらの選択は、社会、場所、企業、同僚や大切な人たちとの関係の変化につながります。人々はまた、自分たちが地球に与えている影響に向き合いはじめ、自分たちの行為と自然を切り離して考えることなどできないということをようやく受け入れつつあります。
この2年の間に社会を支えるシステムは破壊され、今その大きなしわ寄せが来ています。困難な時代が待ち受けていますが、裏を返せば新しいシステムや新しいあり方をデザインする絶好の機会だと捉えることができます。

人々や企業、そして地球にとって望ましい生活の基盤を新たに作るために、あらゆる物事に対して良い関係を構築する必要があります。集団として個人として、どうすればそうした良い関係が築けるか、その方法を模索する時です。

2022年に大きな影響を与えるであろう5つのトレンドをご紹介します。

トレンド概要

1. あるがままに

副業経済の広がりに伴い、主体性(自分の人生に対して自ら選択し、自ら責任を取ろうとする態度)に対する人々の考え方が根本的に変化してきました。個人主義や自立心の高まりは、企業が従業員と消費者クリエイター(副業者または顧客から直接対価を受け取る人々)との関係をどのように築いていくかという点で大きな影響を及ぼします。適切な人材を惹きつけて確保するためには、企業はこの変化を念頭に置きながら従業員に提供できる独自の価値を見直すことが非常に重要です。続きを読む。
2. 飽くなき欲望に終止符

あらゆるものを便利に素早く手に入れられる状態を前提とした「ありきの思考」が揺るがされています。原材料や人手の不足、物流の停滞、新たな緊縮財政や持続可能性にまつわる様々な要素が、地球と社会のレジリエンス(回復力)を高める「ネイチャー・ポジティブ」の動きと消費行動の具体的な変化を加速しています。続きを読む。
3. 次なる開拓地

メタバースは今やその源流であるゲームの世界を超えて、人々やブランドが交流し、創造し、消費し、収入を得る新たな場を提供しながらさらなる発展の可能性を示しはじめています。そのポテンシャルは未だ未知数なものの、新たな文化的転換の兆しがすでに見られています。この新しい世界でブランドが成功するには、メタバースにおける顧客を理解することがとても重要となります。続きを読む。
4. 真実の拠り所

何かを質問すればすぐに答えを得られることがごく当たり前となりましたが、人々はその答えにより疑い深く接するようになっています。これは拡大の一途をたどる情報源とチャネルと共に、デザインとビジネスにとっての大きな課題です。こうした課題にうまく応えることができれば、ブランドは顧客からの信頼とブランドとしての競争力を得ることができるでしょう。続きを読む。
5. 「ケア」を大切に

ケアは常に人間の本質の重要な一部を占めてきましたが、さらに目に見えるものとなり、価値が置かれ、オープンに議論されています。ヘルスケア業界に留まらず、企業は従業員、顧客、社会のためにケアを日々の活動や製品・サービスにいかに組み込むかを定義する必要があります。続きを読む。
アクセンチュア インタラクティブのデザイナーが、社会、文化、ビジネスに影響を及ぼす人々の変化を5つのトレンドと日本市場に向けた提言とともにご紹介します。

1. あるがままに

いま起きていること

世界規模のパンデミックとの戦いは続いていますが、より深い人間関係の構築、新たな可能性への挑戦、自分自身の強みの自覚、より強いスピリチュアリティ(精神性)、そして生きていることへの深い感謝など、多くの人々がさまざまな形で成長を経験しており、「心的外傷後成長(PTG:トラウマを経た成長)」とも呼べる時代がはじまろうとしています。

人々は自分が何者であるか、自分にとって大切なものは何かを自問し、多くの場合、自分らしく人生を生きることに新たな自信を見出しています。また従業員をとっても、仕事とプライベートの境界が曖昧になる中「大丈夫ではない」と認めることは「弱さ」ではないという意識が広まり、職場がより人間味ある場所になりつつあります。

このように個人主義や自立心が高まり、人々は自分の時間や関心をどこにどのように向けるかについて、より強い主体性を持ちはじめました。2021年半ばまでに世界経済が開放されると、パンデミックによるロックダウン中に自らの優先事項を考え直した労働者が次々と仕事を辞めるという「The Great Resignation(大量離職時代)」が到来し、雇用市場は売り手市場へとシフトしました [1]
自分自身がビジネスオーナーになれるチャネルやツールを提供するテクノロジープラットフォームのおかげで、主収入を補ったり代替したりするための選択肢が広がりました。アメリカでは、人々は講師、ブログやニュースレターの執筆、自宅の貸し出し、フリーランスのプログラミングなど、さまざまな兼業・副業で年間平均10,972米ドルの収入を得ています [2]

このように仕事や収入に関する機会や考え方が変化したことは、従来型の雇用にも直接影響を及ぼしています。従業員が長期間にわたって物理的に離れた場所にいることで、チームだからこそ発揮できる力や協力し合う働き方、イノベーションが効果的に生まれる仕組みなどが影響を受けており、多くの企業が頭を悩ませています。自分の働き方は自分で決めたいという従業員の希望と、ビジネスに最適な選択についての雇用主の判断は必ずしも一致しないため、対立関係が芽生えています。

「me over we(組織・集団よりも自分が主体)」という考え方に基づいた個人主義の高まりは、職場における同僚への共感を促したり消費者としての願望を変えたりしながら、雇用者とブランドの両方に新たな課題と機会をもたらしています [3]
「me over we(組織・集団よりも自分が主体)」という考え方に基づいた個人主義の高まりは、雇用者とブランドの両方に新たな課題と機会をもたらしています。

次に起こること

企業は、人々の望みや主体性、ライフスタイルが変化していることを理解し、自らのビジネスにもたらす影響を見極めて対応する必要があります。ここでは、人々の「個人のニーズを満たしたいという欲求」と「自分が属し、頼りにしているコミュニティが健全であるために担うべき責任」を両立させることがとても重要になってきます。

今、企業は雇用主としてリーダーシップの課題に直面しています。創造性、多様性、信頼構築が活発な組織を築くには、個人に対する柔軟性とチームとしてのニーズのバランスを保つことが求められるからです。企業はまた、適切な人材を惹きつけて確保するためには、人々が企業に依存せずとも将来の変化に自ら対応できるよう備えようとしていることを受け入れる必要があります。そのためにも、今日の状況を念頭に置きながら従業員に提供できる独自の価値を見直すことが非常に重要です。

  • 福利厚生:デジタル社会にふさわしい特典を用意しつつ、従業員の柔軟なリモートワークを支援するのに十分であるかを再検討する必要があります。
  • チームの価値:企業文化に「個」ではなく「チーム」としての認識を促すことが必要です。個人が企業の価値を見出し、従業員が集団の一員であることの責任やメリットを理解する手助けをする努力しなければなりません。
  • 従業員体験の差別化:数々のテクノロジーツールにより、仕事はますます単なるタスク処理のようになりました。「タスクをいかに生産性高くこなすか」以上の魅力を業務に感じられるよう、従業員体験のバランスを調整しなければなりません。
兼業・副業経済が成長を続けるにつれて、デザインとモノづくりを支援したり、ユーザーへのリーチを可能にしたりするインフラへのニーズも高まります。企業は、クリエイターはただ顧客であるだけでなく、競争相手にも協働する相手にもなり得ることを認識し、適宜対応する必要があります。

このトレンドの中心には、個人主義の台頭と集団でいることの心地よさとの社会的な対立があります。この対立関係は世界中に不均一に広がっていますが、誰もが感じられる結果として経済や体験の変化に表れ、文化を特徴づける議論として今後も繰り広げられるでしょう。

Fjordからの提案

考えるべきこと

主体性や「me vs we(自分 対 組織)」の考え方の高まりが企業にどのように影響するか考えてみましょう。この新しい状況の中、どのように人材と顧客を惹きつけて維持しますか?
言うべきこと

グループ、コミュニティ、そしてチームの価値を言語化しましょう。そして主体性の高まりを認めつつ集団・チームで働くことをどのように共存させるのか表明しましょう。
するべきこと

複数の収入源を持つ人々を受け入れるため、自社ならではの提供価値をどのように進化させられるかクリエイティブに考えてみましょう。組織に弱点が見つかったならば、従業員が去ってしまわないようしっかり対処しましょう。

2. 飽くなき欲望に終止符

いま起きていること

空になったスーパーマーケットの棚や光熱費の値上がりなど、2021年に多くの人々が日常のサービスが十分に提供されない事態を経験しました。これまで最小限の努力で欲しいものを手に入れられるという「ありき」の状態を味わってきた私たちにとって、それはとてもショッキングな出来事だったと言えるでしょう。

こうしたモノの供給に関する危機はロックダウンと共にはじまり、製造業の労働者にも影響を与えながら、スエズ運河の航路を塞いだコンテナ船Ever Given号の座礁(2021年3月)[4]、さらには輸入品を集荷するトラック運転手不足による世界各地の港へのコンテナ船の滞留を引き起こしました [5]。これにより、コーヒー豆から半導体チップまで、様々な商品の原材料、パーツ、部材製品が供給不足に陥りました。

多くの国で見られたこうした課題は、モノや仕組み「ありき」の考え方にブレーキをかけ、「何かがない、機能しない」ということはもはや人々にとって想定内のものとなりました。
季節外れの洪水から壊滅的な山火事まで、気候変動もまた人々が「ありき思考」による影響を考えるきっかけとなっています。人々はこうした思考回路によってこれまで地球に与えてきた打撃に気づきはじめています。

また、2021年の様々な出来事は私たちの商業インフラがいかに相互に接続し、共依存関係にあるかを明らかにしました。これは従来、消費者の意識にのぼらなかったことかもしれません。例えば世界的なガス価格の高騰によりイギリス最大の肥料メーカーが生産停止に追い込まれた際には、肥料生産の副産物の一つである工業用炭酸ガスの製造量が急減し、その供給に依存していたプラスチック包装や、それを必要とする生肉をはじめとした食品の供給が脅かされるという、多くの人々が予想していなかった事態に陥りました [6]

こうしたサプライチェーン上の不足や遮断は一時的な課題かもしれません。しかしその影響は残り、とりわけ自然環境への意識の高まりとも相まって、モノや仕組みが潤沢にあることを前提とした思考に変化がもたらされることが予想されます。そしてモノの供給不足は消費者のモラルに影響を与える可能性があり、かくしてブランドは利便性とサステナビリティ両者に対する顧客の期待に応えていくための準備が必要です。
手に取りやすい価格とサステナビリティのバランスを考慮したデザインが求められる時代において、企業はイノベーションを「新しい」という概念から切り離して志向していく必要があるのです。
次に起こること

2021年のトレンドのひとつ「流動的なサプライチェーン」で、私たちはサプライチェーンが価値を創出する新たなポイントになると予測しましたが  [7]、本年のトレンドでは主に次の2つの点でその考え方を進化させています。

  • 1点目は、ブランドの評判を守り支えるために、マーケティング、カスタマーサービス、サプライチェーンの統合が急務であるということ。
  • 2点目は、手に取りやすい価格とサステナビリティのバランスを考慮したデザインは、ブランドにとって新境地を切り開く次なる大きなチャンスになりうるということです。多くの顧客が、地球のためになることと家族にとっての必需品を入手することを天秤にかけて購買の最終的な意思決定をするようになるでしょう。両者の最適なバランスを理解することが、短期的にも長期的にもブランドによる「サステナブルなイノベーション」の中心にあるべきです。
この取り組みを前に進めるには、イノベーションを「新しい」という概念から切り離す発想の転換が必要になるでしょう。今の行動を変えなければいけないという主張はしばしばされますが、常に他の様々な影響を受けている状態でそれを実行することは困難です。サステナブルな行動を定着させるために、ブランドはこれまでとは違った考え方をしなければなりません。

例えばその一つの方法として、少々改善もしくはアップグレードされた新商品への買い替えを促し、まだ使えるはずの製品を捨てさせる代わりに、すでにある製品の寿命を延ばすようなサービスを通じて顧客に新しい価値を提供していくことなどが考えられます。

私たちは、従来の「調達―製造―廃棄」というモデルを循環型のアプローチに置き換えた「再生型ビジネス」が台頭すると予測しています。具体的には、需要に応じて価格を変動させるダイナミックプライシングや、省エネルギーを実現するマイクロファクトリー、輸送上のリスクや二酸化炭素排出量を軽減する製造プロセスのハイパーローカリゼーションなどの新たな取り組みが模索されるでしょう。また、地球と社会のレジリエンス(回復力)を高め、自然がこれ以上失われることを食い止めながら回復させることを促す「ネイチャー・ポジティブ」の動きも勢いを増すでしょう。

企業がこのようなチャンスを現実のものにするためには、負の影響を和らげる以上の取り組みが必要です。つまり企業には地球環境の回復力を後押しするような取り組みが求められており、その過程では人々が現在依存しているシステムの抜本的な見直しが伴う可能性があります。

ビジネスにおいて「ありき」の前提に立った思考を問い直す際、「減らす」ということは必ずしも「失う」ことと同義ではありません。また豊かさの基準を見直すことが最初の重要なステップとなるでしょう。そしてエコシステムを共有する他者と協力しながら、私たちの最も差し迫った課題である気候変動に取り組んでいく必要があるのです。

Fjordからの提案

考えるべきこと

このサプライチェーンの混乱は自社のビジネスや顧客にとって何を意味するでしょうか。既存の製品の寿命を延ばすことで、新しいビジネスモデルを生み出すことはできるでしょうか?
言うべきこと

イノベーションチームや製品開発チームに、イノベーションとは必ずしも「新しい」を意味するわけではないと伝えましょう。最も創造的なソリューションは、しばしば制約の中から生まれます。
するべきこと

ビジネスと顧客をカーボンニュートラルに、ひいては自然に良い影響をもたらすネイチャー・ポジティブに導くための「サステナビリティ・ロードマップ」を作りましょう。

3. 次なる開拓地

いま起きていること

世界では今、メタバースフィーバーとも呼べる状況が 広がっており、新たな可能性と興奮、そしてまだ答えのない問いに満ち溢れています。

メタバースとは物理世界とデジタル世界の新たな融合体です。3Dや拡張現実(AR)、バーチャル・リアリティ(VR)などの技術の進化に伴って、インターネットでの体験は、単純にウェブサイトを「訪問」する以上に、他者と「時間と場所を共有する」ものへと進化しています。メタバースは、人々が出会い交流する場所でもあれば、デジタルアセット(土地、建物、アイテム、アバターから名前まで)を創造し売買することができる場所です。この全く新しい場所の仕組みは、人々のデジタル上の行動や文化を変容させるでしょう。ブランドは、この新しい世界に自分たちの顧客が存在しているのか、もしそうだとしたら人々はその世界でどのように過ごしているのかを理解する必要があります。

メタバースは今やその源流となったゲームの世界を超えて、一部の人々にとっては収入を得る新たな場になりつつあります。クリエイターエコノミーが拡大する中、メタバースは将来的に様々な種類の雇用を生み出すでしょう。素材を提供するクリエイター、リアルタイムでコンテンツを作るパフォーマー、物理世界とデジタル世界をつなぐブリッジャー、体験を設計し構築するビルダー、そして探索する参加者や交流するコミュニティなど、様々なプレイヤーがメタバースには存在しています [8]。ゲームや学習コンテンツなどを通じてお金を得ている人々もいます。Play-to-earn(プレイしながら稼ぐ)、Create-to-earn(作りながら稼ぐ)、 Learn-to-earn(学びながら稼ぐ) などは自分の情熱をそのまま仕事にしているモデルです。

クリエイターやアーティストは、動画や音楽、イベントチケット、ジェネラティブアートなど価値のあるデジタルアイテムをNFT(非代替性トークン)上で作り出しています。デジタルアイテムの所有権を証明するNFTはコピーすることができません。デジタルアイテムに希少性を与え価値を高めるこのような仕組みは、今までになかった存在です。

2021年を通して、人々はゲーム以外のアクティビティでも複数人で楽しむことができる体験を求めていることが分かりました。例えば、Netflixは離れた場所にいても一緒に映画や番組を見られる新機能を提供しています [9]

メタバースはユニコーンやドラゴンが登場する空想世界に浸ることではなく、物理的な障壁から解き放たれた「実生活の延長」もしくは「もう一つの実生活」としてバーチャル空間で過ごすことを意味しています。

メタバースは今後さらなる展開が注目されます。メタバースが最終的にどのようなものになるのか現時点では答えよりも疑問の方が多くありますが、私たちが目にした初期の姿から日々進化していくことは確かです。

メタバースに投資しようとするならば、「そこにいる人々はどんな人なのか」「人々はメタバースの世界で何をしようとしているのか」から深掘り、そこで大事にされるべき倫理観についてオープンな議論をすると良いでしょう。
次に起こること

ルネサンス期のフィレンツェ、1900年代のウィーン、活気あふれる1960年代のロンドンなど、歴史上の大きな文化的転換はひとつの「場所」から起こりました。次に新たな文化が生まれる拠点はメタバースになるでしょう。人々がアート、音楽、映画をどのように体験するか、そしてその中でブランドとどのように関わるか(ブランドがどのように人々の目に映るか)について、メタバースは大きな影響を及ぼします。

しばらくの間は、そこで何が実現できるかを問い、学び、実験する期間が続くでしょう。メタバース上で事業展開を行いたいブランドやクリエイターは、エンドユーザーの体験に焦点を合わせながら試行錯誤を繰り返す覚悟が必要です。

ゲーム・コミュニティの外にいる人々を新たにメタバースに惹きつけるには、ユニークな体験が鍵となります。ブランドにとっては、メタバース上で自社ブランドの場所を新たに構築する方法と、ビッグ・テックが提供するサービス・プラットフォームに参加することでメタバースに参入する方法があります。現在はウェブサイトが一般的にブランドを代表する「場」となっていますが、メタバースはそれ以上の特性を持つ場として、細かなニュアンスまで高度に表現できる自由度の高い交流の場になっていくでしょう。

バーチャル世界の構築およびコンテンツの制作においては、デザイナー、デジタルプロダクトデベロッパー、クリエイター、テクノロジストが中心的な役割を果たすでしょう。より多くの3D体験がオンラインに登場するにつれて、ゲームの開発手法がその他のサービス開発においても主流となっていくでしょう。例えば、品質や体験についてフィードバックを得るため一般発売前にゲーマーにテストプレイしてもらうことも、ゲームの開発手法の一つです。

新たなサービスや体験を設計する際、倫理観を最初から組み込んでデザインすることも忘れてはなりません。現在インターネット空間で人々にもたらされている弊害は看過できないものです。企業は今度こそ、倫理にかなう世界を作ることが求められており、その際に透明性を保つことは不可欠です。メタバースに投資しようとするならば、特に行動のコントロール、サステナビリティ、そしてアクセシビリティに関して倫理観をもって取り組むことが重要です。

人々の生活が急激にデジタル化したパンデミックの最中に、メタバースは勢いを増して普及しました。メタバースがここからどのように発展していくか、その可能性は未知数です。この勢いのまま成長を続けるかもしれませんし、別のものに形を変えるかもしれません。人々がメタバースに価値や自身との関連性を見出さなければ、泡のように消えゆくことも考えられます。

私たちは今、新しい文化が生まれる時代の入口に立っているのかもしれません。もしそうだとしたら、次なる文化的転換はメタバースによってもたらされるでしょう。何が起ころうとも、メタバースは企業が探索し、テストし、イノベーションを起こせる新世界として無限の可能性を秘めています。そして、それはとてもエキサイティングなことです。

Fjordからの提案

考えるべきこと

メタバース上に存在する自社製品の姿を想像してみてください。顧客の目にどう映り、どのように購入され、どこでどう使用されるでしょうか。メタバースは単なる1つのチャネルではなく「場所」です。そう捉えると、製品やブランド、体験のライフサイクルについての考え方を完全に転換させる必要があります。
言うべきこと

人々(特に若い層)に、プレイしているゲームや自らのアバターのために購入している服について聞いてみてください。彼らがオンライン上の友達と体験していることについて耳を傾けることが、メタバースの可能性を把握する第一歩となるでしょう。
するべきこと

好奇心と遊び心を持ってメタバースに触れてみてください。もちろん、誠実さと倫理観、気配り、そしてその場への敬意は常に持ち合わせて付き合いましょう。

4. 真実の拠り所

いま起きていること

Googleの創業から24年が経ちました [10]。同社がもたらした大きな影響のひとつは、「人々と質問との関係」を進化させたことでしょう。ボタンひと押し(あるいは音声アシスタントとの短い会話)で質問ができ、その答えを即座に得られることが日常の一部となり、もはや人々はこのことを特段意識することはありません。このように簡単に質問ができ、その答えを迅速に得られるようになったという事実は、人々がより多くの質問をする事態になったことを意味します。

一方ソーシャルメディアをはじめ、答えを得られる情報源が増えるに従って [11]フェイクまたは誤解を招く情報が氾濫し、人々は自らがたどり着いた答えに対して疑いを深めています。とりわけパンデミック以降では、雇用の確保や個人の安全、自律性、また社会問題をめぐる不安が増す中、情報の信頼性は一層見極められることとなりました。その結果、あらゆる情報に対する信頼が極めて低くなる「情報破綻」の状態が発生しており、多くの人々は答えの情報源にさえも質問や疑問を投げかけるようになっています[12]

扇動的な言葉、誠実さの欠如、フェイクまたは誤解を招く情報やあらゆる物事が政治的に扱われることにより、専門家や政府に対する信頼はさらに低下しています。しかし信頼は非常に重要であり、求める答えの情報源が信頼できるものであってほしい、そうあるべきだと誰もが考えています。

また近年ではエシカルやサステナビリティの価値観にも重きが置かれるようになっており [13] 、人々が持つ感情的、倫理的な関心が購買プロセスをより一層複雑なものにしています。このような価値観主導の消費は存在感を増し続けており、人々は「良い買い物をした」と思えるよう、購入する前に「労働者や動物に対して十分に配慮されているか」「フェアトレードが行われているか」といった質問への答えを必要としています。

人々は商品やサービスの購入を検討している瞬間、そしてそれを購入する瞬間に、自らの質問に対する答えが得られることを期待しています。ブランドはこのやり取りをどのように設計するか考える必要があります。

ブランドとは企業が顧客や社会に対して提供する価値の「約束(プロミス)」を束ねた集合体です。そして顧客は今、これまで以上にそのプロミスの詳細を知りたがっており、さらにブランドによるプロミスへのコミットメントが実現されることを期待しています。ブランドは、開示する情報の範囲や階層の深さをもって顧客に自社のパフォーマンスを明確かつオープンに示すことができるでしょう。

ブランドは今後、開示する「多層的な情報」を通じて競合していくことが想定されます。つまり、あるブランドが開示しないと決めた情報があれば、ライバルブランドがその開示を決めるといった競争が生まれていくということです。
次に起こること

信頼を構築するため、ブランドには情報をいかにデザインし、タッチポイント全体の中へ落とし込んでいくかという戦略的な思考が求められます。ブランドが示す情報は、アクセスしやすく、最も適切な形で透明性とともに届けられる正しいものでなければなりません。

そのためにもブランドは、場所やインターフェース、そして変わり続ける人々のニーズの変化に合わせて、適切な情報を必要な分だけ示せるような設計に取り組む必要があります。例えば私たちは、ときにはインテリアデザイナーとして、ときには子を持つ親として、あるいはアマチュアのアスリートとして、同じ1人の人間でもその場面に応じて違う立場で買い物することがあるでしょう。同じ顧客でも、できる限り安価なものを求めている時もあれば、贅沢したい気分の時もあるため、顧客の状況も併せて考慮に入れることが大切なのです。

情報のデザインにおいては、人間の自然な行為である「会話」を型取ることができるでしょう。人は会話を通して情報を得たり共有したりすることで、自己を形成し、成長し、そして学びを得ていきます。ブランドと顧客のコミュニケーションもまたそうした「会話」として捉えて進化させることで、適切な答えを適切なタイミングと方法で提供するというチャレンジを構造的に乗り越えることができるでしょう。すでに対話型AIがチャットボットとして基本的な質問に幅広く対応していますが、こうしたアプローチを洗練させる余地はまだまだ大いにあると言えるでしょう。

また、環境に配慮した買い物をする顧客に対してリワードを与えることで、彼らのロイヤリティを引き上げることが可能になるでしょう。サステナビリティを意識した購買行動をとる顧客に対しポイントを付与するなどのロイヤリティプログラムや、さらにはそこにコミュニティとしての要素を組み込み人々が自身の取り組みが自分以上の何かに貢献している実感を与えるように設計することもできます。

どんな情報をどのような形で階層として組み込むかという選択を通じて、ブランド間の競争は激しさを増すことになるでしょう。開示する情報の取捨選択を含めたデザインとしての細やかな意思決定は今後戦略としてより直接的な影響力を持つものになり、デザイナーの役割はこれまで以上に複雑なものになると言えます。階層的な情報のあり方に関する検討およびその設計についてはデザイナーが役割を担う一方、このタスクの影響は組織全体、特にブランド、マーケティング、カスタマーサービス、オペレーションにまで及ぶことになります。

人々は何らかの裏付けをもって、ある情報が「真実」であると判断します。しかしすべての顧客が自ら示された情報の信頼性や信憑性を吟味することには、いささか無理があるでしょう。ブランドは顧客に調べる負担をかけるのではなく、むしろ情報を適切に設計することで多層的に伝えていくべきです。人々の質問に答えるべきという企業のプレッシャーは重みを増す一方、新たな情報の見せ方や届け方を模索することは、顧客との信頼をより強く築くための絶好の機会とも言えます。

Fjordからの提案

考えるべきこと

自社業界の内外で顧客がどんな質問をしているかリサーチをしましょう。自社や自社製品に関する情報をどこで得ているか、そして人々がそこへ行かずに済むにはどのように多層的な情報を設計すればいいか考えてみましょう。
言うべきこと

自社の製品を買う際、顧客には自分の意思決定に自信を持って購入してもらいたいのだと明言しましょう。そしてそのために、より多くの情報を提供し透明性を高めましょう。
するべきこと

顧客やコミュニティとの信頼関係を築くために情報の内容とその見せ方を見直しましょう。そして販売チャネル内外で顧客が製品やサービスについて知りたいと思っている答えを簡単に見つけられる形で提供するというコミットメントを果たしましょう。また顧客が求める多層的な情報のあり方について、データを活用しながら可能な限り深く理解しましょう。

5. 「ケア」を大切に

いま起きていること

ケアや思いやりは人間の本質に根付いており、「人間らしさ」を決める特性と言っても過言ではないでしょう[14]。思いやるということは、他者を気遣うという心配りとその行為を指し、それは共感を超え信頼を育むものです。例えばセルフケア、他者に向けたケア、ケアサービス、ケアを届けるための(デジタルと物理的な)チャネルなど、「ケア」はそのすべての形態で2021年に殊更に際立つ存在となりました。

  • セルフケア:セルフケアの重要性が高まっています。パンデミックが引き起こしたメンタルヘルスへの甚大な影響は、私たちがFjord Trendsを編集する過程で見えた世界的に最も顕著なシグナルのひとつでもありました。
  • 家族へのケア:パンデミックにより家族のケアを支援するサービスへのアクセスが減少あるいは遮断されました。ケアを行う立場にある人はパンデミック以前からもすでに十分多忙な生活を送っていたにも関わらず、子供たちの教育や病院予約のサポート、両親の代わりに買い物に行くなど、さらに多くの責任を負うようになりました。
  • ケアの広がり:例えば同僚のウエルビーイングについても、多くの人が今まで以上に時間と関心を向けるようになっています。メンタルヘルスであれ、嘆きや悲しみであれ、病気によって中断されてしまったことであれ、個人が感じている困難に対する同僚同士の思いやりや受容が、職場において当たり前のものとなっています。

パンデミックによって、ヘルスケアやウエルビーイング向けテクノロジーの大規模な導入と受容が進み、テクノロジーはケアのための新しいチャネルかつソリューションとなりました。

多くの国において新型コロナウイルス感染症のワクチン接種証明書の使用が不可避となったことにより、ケアのためにテクノロジーを積極的に利用する態度が急速に広まりました。特に社会的な弱者に対する集団的な責任として、人々はレストラン、劇場、空港など公共の場所を利用する際にスマートフォンを使って自らのワクチン接種状況に関する健康情報を交換しはじめています。これは、これまでは「プライベートなもの」と見做されていた健康情報を公に共有するという、もうひとつの重要な行動変容も示唆しています。このような情報を共有することをどれだけ許容するかの程度は人により異なりますが、大多数が行えばコミュニティにおけるリスクが最小化されることを意味し、その安心感から次第に周りの人も自信を持って情報を公開できるようになるでしょう。

ケアへの注目はヘルスケア業界を超えて拡大しており、異業界のビジネスやサービスも、顧客へのケアをどのように示すか新たな方法を模索しはじめています。自身や他者をケアすること、そしてケアラーをケアすることが重要な焦点となっているのです。

きちんと目に見える形で顧客をケアすることが、ブランドへの信頼構築につながります。これはつまり、顧客にとって重要な瞬間に寄り添うこと、そういったサービスを創造すること、そしてその目的のためにテクノロジーを適切に活用することを意味します。

次に起こること

自身や他者をケアすることにどんな責任が伴うかという観点は、今後も高く優先されるでしょう。きちんと目に見える形で顧客をケアすることが、ブランドへの信頼構築につながります。これはつまり、顧客にとって重要な瞬間に寄り添うこと、そういったサービスを創造すること、そしてその目的のためにテクノロジーを適切に活用することを意味します。

思いやりや労りを示すことがビジネスチャンスとなる今後に目を向けつつ、デザインの役割について考えてみましょう。デザインを通してケアにおける新しい価値を創造する方法は数多くあります。

  1. よりアクセスしやすくする
    ブランドは自らが定義する「アクセシビリティ(アクセスのしやすさ)」が本当に十分かどうか考え直す必要があります。特に、よりケアを必要とする人々にとって数々の障壁があるからです。ケアが行われる場所がデジタルに大きく移行する中、ブランドは自社チャネル、製品・サービスをアクセシビリティの視点から見直すべきです。
  2. メンタルヘルスと安全を優先させる
    デザインにおいて人々のメンタルヘルスと安全を重視することは新しい話ではありませんが、デジタル上の行動に影響を及ぼそうとするダークパターン(ユーザーが必ずしも意図しない行動に誘導するUX/UI)がしばしば無責任に利用されることから人々の目が厳しくなっています。ユーザーにとっての便益やリスクとそれぞれの関係を測定するKPIをデザインすることは、配慮深い企業であることを示す差別化要因になるでしょう [15]
  3. インクルージョンを実現する多感覚デザインを模索する
    多感覚デザインは、わかりやすいものから繊細なものまで、意識的あるいは無意識的に人々が製品・サービス、環境を体験し反応する方法は多様であることを理解する、共感性の高いアプローチです [16]。これまで優位を占めてきたビジュアルデザインを超えて、嗅覚や触覚など他の感覚にも訴えかけます。ケアに関してはとりわけ音声に大きな可能性があるでしょう。
  4. 新たな視点で従業員体験を細部まで見直す
    従業員の精神的負荷を減らすよう社内プロセスやルールをデザインすることは、地味なようでもケアを示す重要な方法です。雇用主は仕事のあらゆる側面で無駄をなくし、煩わしい体験をなくすか容易なものに変えることで、従業員が本当にすべきことに集中する余地を与えることができます。
ケアは常に人間の本質の重要な一部を占めてきましたが、今まで以上に目に見えるものとなり、より重い価値が置かれオープンに議論されるようになりました。これはポジティブな変化です。ケアについて語るだけではなく、デザイナーと企業は共にケアを体現できる余地を作る必要があります。意図を持ってケアをデザインし、システムに組み込むことを目指すべきです。

Fjordからの提案

考えるべきこと

フォーマルとインフォーマルの両側面からケアを考えましょう。ケアは重要かつ感情面で負担の大きい仕事だと認識することが大切です。その上で、毎日の仕事としてケアを行う人々のニーズに沿った製品・サービス、そして関連するKPIをどのように開発するか考えてみましょう。
言うべきこと

ケアはビジネスの取引とは違うことを明確にしましょう。自社にとってケアが何を意味するのか定義し、それをデザインワークとコミュニケーションにおける指針にしましょう。
するべきこと

従業員や顧客にフラストレーションを与える要因を組織から取り除いてください。コミュニケーション、社内プロセス、製品・サービスなどでノイズを最小限に抑える方法を探し、人々が本当に重要なことに割ける時間と余地を確保できるようにしましょう。

アクセンチュア インタラクティブでは、お客様企業のビジネス変革を支援するさまざまなサービスを用意しています。

Fjord Tokyo

エドアルド・クランツ

インタラクティブ本部 マネジング・ディレクター 兼 Fjord Tokyo共同統括 グループ・デザイン・ディレクター

番所 浩平

インタラクティブ本部 マネジング・ディレクター 兼 Fjord Tokyo共同統括 グループ・ビジネス・ディレクター

小町 洋子

インタラクティブ本部 シニア・マネジャー
全て見る

アクセンチュアとつながる