会津若松市ではオプトインによる市民主導型のスマートシティを推進しています。その地域に住む市民のWell-beingを向上させ持続可能なまちづくりを実現するには、地道な対話により市民の理解を得て、市民・自治体・民間企業が一体となって取り組みを進めることが重要です。

海外に目を向けると、国民の高い信頼を得て、国全体で高度なデジタル化を推進し、成功を収めている事例も見られます。その一つが、北欧・デンマークです。デンマークはどのようにデジタル化に取り組んでいるのでしょうか。日本との違いはどこにあるのでしょうか。

今回はデンマーク・ロスキレ大学准教授、北欧研究所代表で、会津若松市スーパーシティ構想のアドバイザーも務める安岡美佳氏と、アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括 マネジング・ディレクター 中村彰二朗による対談をお届けします。(文中敬称略)

オプトインとパーソナライズを重視する会津若松の取り組み

―― デンマーク・ロスキレ大学で教鞭をとる傍ら、北欧研究所代表として活躍する安岡さんですが、具体的にどのような研究に取り組んでいるのでしょうか。会津若松市スーパーシティ構想のアドバイザーに就任した経緯も含めてご紹介ください。

安岡 私は2005年、大学院博士課程の途中でデンマークへ行き、それから現在までデンマークで生活しています。もともとは都市のデジタル化やICTに関する研究を行っていましたが、ここ5~6年はスマートシティやICTの社会活用の研究活動に取り組んでいます。同時に日本と北欧を結ぶ窓口組織として「北欧研究所」を立ち上げ、北欧に特化したビジネスコンサルティングサービスを提供しています。

中村 安岡さんも私もスマートシティ推進団体である一般社団法人スマートシティ・インスティテュートのエグゼクティブ・アドバイザーを務めている関係で、知り合いました。会津若松ではこれまで、スマートシティを支える都市OSプラットフォームや市民主導のオプトインを中心にスマートシティを推進しています。そうしたなか、デジタル化や市民との信頼構築が先行していて、国民の幸福度も高い(ギャラップ社World Happiness Report 2021の幸福度ランキングで第2位)デンマークの事例を参考にしたいと考え、安岡さんに会津若松市スーパーシティ構想のアドバイザー就任をお願いしました。

―― 会津若松スマートシティではオプトインやパーソナライズを重視していますが、それらの重要性について改めて説明してください。

中村 日本政府が「新しい資本主義」実現に向けた成長戦略の重要な柱として掲げるデジタル田園都市国家構想は「デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されずすべての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現する」そして「地域の個性を活かした地方活性化をはかり、地方から国全体へのボトムアップの成長を実現し、持続可能な経済社会を目指す」構想です。これを実現するには当然ながら地域主導/市民主導で進めない限り、価値あるデータは集まらず施策も打てません。

日本のように地域特性が異なる国では、各地域のDXプラットフォームを活用して市民参加型で物事を決めるオプトインとパーソナライズの実現が最重要テーマになります。

安岡 地域主導/市民主導で進めるというのは、まさにその通りだと思います。人口580万人のデンマークでは国が把握することも可能ですが、人口1億2000万人の日本では地域によってニーズもやり方も全く違うわけですから。

中村 とはいえ、約1750市町村の基礎自治体すべてに細分化する必要はなく、日本全国を300程度のデジタル生活圏に分けて進めることが適当だと考えています。例えば福島県には59の基礎自治体がありますが、会津若松市だけでなく周辺自治体を含む会津生活圏として進めていくことが望ましいと考えており、国に対してもデジタル生活圏をベースにすべきという提案活動を行っています。

安岡 デジタル生活圏というのは、データ活用を基盤とした新しい行政の在り方だと思います。これが実現できれば、いまのコロナ禍のような困難な状況に陥った際にも、影響の小さい地域が経済を回しながら影響の大きい地域をサポートするといったことも可能になります。会津若松スマートシティではそうした取り組みを一歩ずつ着実に進め、市民がオプトインやパーソナライズのメリットを感じられるようにうまく設計されているという印象を持ちました。

デジタル先進国・デンマークから学べること

―― デンマークでは2000年から時間をかけて市民の理解を得ながらデジタル化を進めてきたとのことですが、デンマークの成功要因について教えてください。

安岡 デンマークのデジタル化が進んでいるのは「小さい国だから」と言われることが多いのですが、それだけではありません。もちろん小さい国なので、データベースやシステムをスケールしやすく、横並びで進めやすい部分はあります。

しかし、最も大きな成功要因の1つとして「失敗できる文化」があると考えています。例えば重要なシステムにセキュリティ上の問題が発覚した際、どこに問題があるかを詳しく公表・説明し、このように直すといったリカバリーを行います。この部分が、デンマークの得意とするところです。

また、「多様性を大切にする」という点も成功要因と言えるでしょう。デンマークには外国人が1割ほど居住していますが、そうした人たちも巻き込みながら物事を進めます。あらゆる市民が意見を言える環境や教育の体制も整っています。

さらにもう一つ、「メディア活用」も大きいと考えています。デンマークのメディア界で活躍する人たちは学問として理論・メディア倫理を学び、本質を伝えることに長けています。また、市民を巻き込んだ建設的な議論の舞台づくりが上手です。 政府も積極的にメッセージを伝える努力を惜しみません。政府からのコミュニケーションにおいても北欧が得意とする洗練されたデザインを活用している点も含め、日本が大いに学べるのではないでしょうか。

中村 まったくその通りですね。とくに安岡さんが挙げてくださったメディアについては、日本の大きな課題でもあります。日本では行政と市民が二極化しており、市民は行政に対して不満の声を挙げるものの、自分たちでは何もしないのが実情です。ところがデンマークでは、行政と市民が一体化し、一極のトラストな関係を築き上げているのでしょうね。

安岡 そうですね。米国でも行政と市民が対立するコミュニティが多いのに対し、欧州では「やりたいことは同じ」という思いを共有し、行政と市民が一緒に知恵を出し合って考えるコミュニティが主流です。行政と市民が協力して地域を良くしていくという考え方が日本でも浸透していくべきだと考えています。

―― 会津若松市スマートシティでは、目指すべきものとして市民のWell-being向上を掲げています。市民のWell-being向上に向けて、デンマークから学べることはありますか。

安岡 デンマークでは個人が尊重されているのに加え、ミクロ視点で物事を判断しています。例えばコロナ禍において、政府は国全体で一斉にロックダウンするのではなく、「この道路沿いは感染者が増えているので、周辺住民は検査を受けてください」という通知を送付します。これにより、それぞれの地域の状況に沿った判断が下せます。このようにスマートシティのデータを市民のWell-being向上に役立てているところは、デンマークに学べるところでしょう。

中村 安岡さんの話を伺って、私たちが会津若松スマートシティで取り組んできたことが間違っていなかったと確信できました。日本はトップダウンで物事を決めることが多いのですが、実際には地域によって事情が違うので、トップダウンとボトムアップをうまく併用していかなければなりません。

安岡 デンマークの取り組みは世界中から注目されていますが、それを単純に日本に当てはめることはできません。日本は国の規模やスキルセットも違うので、日本ならではの得意分野、上手なやり方もあるはずです。例えば会津には長い歴史や教育に熱心な風土があります。これらをうまく掘り起こしていくことで、その土地だからこその幸せなまちづくり、すなわち市民のWell-being向上につながると考えています。

デンマーク・ロスキレ大学 情報学サステナブル・デジタリゼーション 准教授 安岡 美佳氏

会津若松市スマートシティの展望と実現する世界

―― 会津若松市スマートシティでは今後、どのような世界が実現されていくのでしょうか。

中村 スーパーシティの指定に関する公募申請書には、2030年にどのような世界を実現していくかという内容が盛り込まれています。そこにはオプトイン社会の実現を前提にしたさまざまな取り組みが語られていますが、とくに重視しているのは医療、産業、教育といった領域です。

例えば医療領域ではこれまで日本があまり取り組んでこなかった予防医療型にシフトさせていくことを進め、産業領域では中小企業の生産性向上を推進するとともに、働く者がわくわくするような魅力ある職場への取り組みも進めていきます。

安岡 会津若松市は市民中心のスマートシティを推進することにより、海外からもより注目されるような都市になるのではないでしょうか。欧州では都市単位での競争が激化しており、新しい産業を創出するために必要なナレッジを持つ人材の奪い合いが始まっています。優秀なグローバルシティズンが、子育てのしやすさ、都市の安全性、ITの進展度合いなどで北欧の都市を選ぶ傾向が見られますが、会津若松市の場合はこれらに加え、生活のインフラである医療、産業、教育といった領域で強みがありますし、土地の持つ伝統や文化という魅力があります。会津若松市の素地は豊かなので、これからデジタル技術の力で、さらにアップグレードしていくことを期待しています。

中村 先述のデジタル田園都市国家構想についても、「①地方課題解決のためのデジタル実装②デジタル人材育成・確保③地方を支えるデジタル基盤整備④誰一人取り残さない社会」を主要論点として挙げており、これはまさに会津若松市が10年以上推進してきた取り組みそのものと考えています。これからは、地域の自立を目指したうえで「三方良し」の社会を実現すべきだと考えています。地域DXプロジェクトである「市民中心のスマートシティ」を会津若松市のみならず全国に展開し、デジタル田園都市国家構想の実現に寄与していきたいと考えています。

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