概略

概略

  • 本稿では、ウクライナ侵攻が現在までにもたらした影響の一部を概観します。
  • また、この戦争が経済やビジネスに与える影響について、どのようなシナリオと不確実性があるかを整理します。
  • 最後に、どのようなシナリオが展開されるかにかかわらず、企業・組織が今後の見通しをより強化するために、検討すべきアクションを紹介します。


本ページは、2022年4月20日に、新たな情報に基づき更新されました。

アクセンチュア・ヨーロッパのGrowth & Strategy統括であるMichael Bruecknerが、ウクライナ戦争が現在までにもたらしたいくつかの影響について説明します(英語)。

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これまでの戦争の影響

ウクライナ侵攻は、人間性、経済、ビジネスのいずれにも、深い影響をもたらしています。

ウクライナ侵攻は「人災」
わずか数週間の間に、何千人もの命が失われました。これまでに420万人以上の難民がウクライナから脱出し、少なくとも650万人が国内で避難生活を送っています1。人道危機の深刻化により、官民の援助も非常に活発化しています。例えば、米国議会は3月10日、ウクライナに対する136億米ドルの緊急支出を承認し2EUはウクライナ難民に対して100億ユーロの支援を実施すると発表しました3

ウクライナ侵攻の人道的影響

戦争の影響で、ヨーロッパでは難民が激増しています。

予測不可能な経済的・サイバー的な衝突
侵攻から1週間以内に、世界の各国政府はさまざまな制裁措置を可決しました。モスクワの報復措置に対抗して、制裁は一部の商品とサービスの流通に影響を及ぼしています。また制裁は、サイバー攻撃による報復を誘発する可能性もあります。「アクセンチュア・サイバー・スレット・インテリジェンス」は、有志のハクティビストやサイバー犯罪者が、欧米の重要インフラを攻撃し、機密データや盗難データを漏洩させると脅していることを確認しています4。 各国政府は、世界中の企業や組織が、ロシアの新たな活動に警戒を怠らないよう、引き続きメッセージを強化しています5

組織的な重要課題
制裁は、政府の要求以上に多くの企業による行動を引き起こしました。600社以上の企業がロシアでの事業を停止、縮小、または閉鎖する計画を発表し、特にロシア全土の少なくとも3,500の小売店に影響を与えました6。サプライチェーンの混乱はさらに深刻になる可能性を孕みます。2,100社以上の米国企業、そして少なくとも1,200社以上のEU企業が、ロシアにTier1サプライヤーを有しています。また、下請け業者になると数はさらに増え、19万社以上の米国企業、そして少なくとも10万9000社のEU企業がロシアにTier2およびTier3のサプライヤーを抱えています7

経済・ビジネスへの影響

現在、主要な予測機関は、戦争が成長の大幅な減速につながり得るという見解を示しています8。オックスフォード・エコノミクスは、ベースラインシナリオの場合、世界は景気後退を回避するものの、2022年の世界のGDPは侵攻前の1月の予測と比べて1.1%ポイント低下すると予測しています9

紛争の規模や期間のほかに、少なくとも以下の4つの不確実性が、今後、まったく異なるシナリオを展開させるリスクを生み出しているのです。

侵攻前、ロシアは世界の原油の約10%、EUの天然ガスの約40%を供給していました。また、ニッケル(自動車用バッテリー)、パラジウム(自動車用排気ガス)の輸出国でもあります10

また、ウクライナとロシアは合わせて小麦の世界輸出の26%、トウモロコシの16%、大麦の30%を供給しています11。これらの主要商品の供給途絶は、価格の大きな変動につながっています。過去一ヶ月の間に、原油価格は130米ドル/バレルまで上昇し、欧州のガス価格は200ユーロ/MWh(220米ドル/MWh)を超えました。

この「供給ショック」の長期化は、産業界に波及し、インフレ圧力やサプライチェーンの混乱を引き起こす可能性があります。例えば、エネルギー価格の上昇は、直接的なエネルギーコストや投入コストの上昇を通じて、ほとんどの産業に影響を与えることが想定されます(エネルギー価格の上昇により鉄鋼価格が上がり、鉄鋼価格の上昇により自動車部品のコストが上がるなど)。インフレの圧力は、他の製品の貿易制限によって影響を受ける部門にも及ぶ可能性があります。例えば、小麦や穀物価格の高騰は、食料品の価格を上昇させる可能性があります。金属・鉱物価格の高騰は、電子機器や産業機器の価格を上昇させる可能性があるのです。

侵攻前から、欧米ではインフレが数十年に一度の高水準に達し、消費者にかかるコストが上昇していました。エネルギーやその他の商品価格の高騰によるインフレの加速は、消費者の信頼感や支出に影響を与える可能性があります。3月、ミシガン大学の消費者心理の指標は、2011年9月以来の低水準に落ち込みました。これと並行して、インフレ圧力は一部の国や産業で賃金上昇を加速させる可能性があります。賃金インフレの影響を最も受けやすいのは、コスト構造全体の中で、労働力が大きな比重を占める産業です。

多くのコメンテーターが、侵略と制裁は市場の分断と脱グローバリゼーションの拡大に貢献する可能性があると主張しています13 。国際貿易は2008年以降減少傾向にあり(GDP比)14 、関税やその他の貿易障壁は増加傾向にあります。過去 5 年間に政府が行った産業政策介入の数は 200%以上増加しました15

しかし、別の道を期待する声もあります。世界貿易機関の事務局長であるンゴジ・オコンジョ・イウェアラ氏は、「再グローバル化」の動きを促し、「より深く、より多様な国際市場は、供給の弾力性のための最良の策であり続ける」16と述べています。

この危機は、少なくとも短期的には、グリーンエネルギーへの移行をより困難なものにする可能性があると主張する声もあります17。危機によって、サステナビリティとともに、エネルギー安全保障が再注目されています。欧州の一部の国や米国のいくつかの州は、エネルギー税を削減し、ガス料金の上昇を家計に補償する措置を導入しました18。しかし、一部の国では、エネルギー転換をさらに進め、環境に優しいエネルギー生産を拡大するインセンティブを増幅させる兆候もあります19


侵略がもらたす経済・ビジネスへの影響に関して、起こり得るシナリオ

上記の4つ、そしてそれ以外の不確実性を踏まえ、この危機が短期的に世界経済およびビジネスに与える影響について、起こり得る様々なシナリオが存在します。今後1年間においては、影響の度合いが異なるシナリオが、少なくとも3つ考えられます。

シナリオ1:影響の抑制

  • 制裁はこれ以上拡大せず、交渉による停戦の一部として縮小され、供給の途絶が緩和される可能性がある。
  • 商品価格は戦前の水準に戻る。
  • 消費者と企業の信頼感が高まり、企業と人々は侵攻前の投資計画と支出に戻る。

シナリオ2:影響の継続

  • 2022年を通して、主要商品の供給が途絶え続け、石油とガスの禁輸措置は、一部の国に限定されたままである。
  • 商品の供給ショックにより、短期的に物価が持続的に上昇する。
  • 消費者は一部の不必需品の消費を削減し、企業は業務の効率化に注力する。

シナリオ3:影響の長期化

  • 石油とガスの禁輸措置が拡大し、構造的に大きな供給障害が発生する。
  • 商品価格は2023年まで高騰し、不安定な状態が続く。
  • 持続的な価格上昇は消費者の支出力を低下させ、消費者と企業の信頼関係が大きく損なわれ、成長が鈍化する。

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当然、これらのシナリオが経済に与える影響は、国や地域によって大きく異なる可能性があります。米国に比べ、欧州はロシアとの貿易の結びつきが強く、ロシアのエネルギー輸入への依存度が高いため、成長鈍化の影響をより受けやすくなっています。オックスフォード・エコノミクスは、戦前の予想と比較して、2022年のユーロ圏のGDPは0.9〜1.7%ポイント減少すると試算しています。ロシアの石油・ガスへの依存度が高い欧州諸国は、より大きな影響を受けるでしょう。影響が長期化するシナリオ3の場合、ユーロ圏のインフレ率は2022年に戦前の予測に比べて4.1%ポイント上昇する可能性があります20


ウクライナ侵攻によって起こり得る経済への影響

ユーロ圏は貿易関係から景気減速の影響を受けやすく、米国は物価上昇の波及効果によって影響を受ける可能性があります。
ユーロ圏と米国でインフレ率が上昇すると予想されています。

ウクライナ侵攻による経済への影響のグラフを見る(英語)

欧米以外にも、日本やインドなどの石油・コモディティの輸入国は、石油・商品価格の高騰が続くと影響を受けるでしょう。アジアやアフリカの新興国は特に、価格上昇の影響が及びやすい国々です。これらの国々はまた、食料サプライチェーンのひずみの影響をより大きく受けるでしょう。少なくとも 50 カ国が、小麦供給の 30%以上をロシアとウクライナに依存しており、最も依存しているのは、アジアとアフリカ北部の新興経済国です22

また、産業によって戦争の影響を受ける度合いが異なる可能性があります。石油・ガス価格の高騰は、エネルギー集約型の製造業に最も大きな影響を与える可能性があるのです。例えば、米国の化学部門では、エネルギーコストが総コストの35%を占めていますが、欧州では21%です23。小麦やその他の商品の不足は、消費財・サービス産業に影響を与え、欧州では原材料コストが総コストの25%を占め、米国では26%を占めています24

また、サプライチェーン内の特定の部門が危機の影響をより大きく受ける可能性もあります。例えば、自動車メーカーの中には、ウクライナ製のワイヤーハーネスが不足しているため、組立ラインを閉鎖しているところもあります25

不確実な世界での事業展開

侵略の衝撃が世界経済に波及する中、経営者は、自社のビジネスをどのように位置づければ、影響を最小限に抑えることができるかの検討が求められています。すべての企業が同じような影響を受けるとは限りません。ウクライナとロシアで事業を展開している企業は、最も直接的な影響を受けており、従業員の福利厚生に注力しています。紛争地域外の組織では、制裁措置の遵守、サプライチェーンの混乱への対応、顧客への影響の評価などに焦点を当てています。

このような不測の事態に直面したとき、多くのリーダーは、適応性を優先して組織のレジリエンスを強化することを目指しています。したがって、企業機能を順次ではなく、スピード感を持って並行してデジタル化することは、多くの企業にとって不可欠であると思われます。アジリティを重視することで、変革の焦点はさらに絞り込まれるでしょう。状況がどのように変化しようとも、企業は、戦略、システム、サプライチェーン、人材、エコシステムに関する一連の行動を、同時に成立させることができるよう検討を進める必要があります。

「不確実性」という、ビジネスにおける新たな現実

リーダーやその組織にとって、ビジネス環境はかつてのような快適で安全な状態に戻ることはありません。ウクライナ侵攻によって、ビジネスが依存していた古く快適な確実性の多くが、もはや存在しないということが明らかになりました。

今後、成功するかどうかは、リーダーがこの新しい試練の環境にいかに適応していくかにかかっているでしょう。これまで以上に、リーダーの覚悟が問われることになるのです。

変化の時にあってどのように前進していくかについて、アクセンチュアは皆様と継続的に議論させていただきたいと考えております。

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1Ukraine Refugee Situation,” UNHCR (2022) as of April 18th 2022

2Ukraine Supplemental Appropriations Act, 2022,” US government website (2022.); “Visualizing the $13.6 billion in US Spending on Ukraine,” The New York Times (2022).

3War in Ukraine: MEPs Unlock Emergency Funds for Refugees,” European Parliament (2022).

4Russia Ukraine Crisis Overview,” Accenture (2022); “Global Incident Report: Russia-Ukraine Crisis March 25,” Accenture (2022); “Global Indirect Report: Threat Actors Divide Along Ideological Lines over the Russia-Ukraine Conflict on Underground Forums,” Accenture (2022).

5White House tells CEOs that Russian Cyber Attack on US is ‘coming’,” Financial Times (2022).

6Over 600 Companies Have withdrawn from Russia—but Some Remain,” Yale School of Management (2022); “Russia’s war is creating corporate winners and losers,” The Economist (2022).

7 Accenture Research analysis of Interos and FactSet. 2,100+ US companies and 1,200+ EU companies have Tier 1 suppliers in Russia. Those numbers expand sharply when considering sub-contractors: 190,000+ US companies and 109,000+ EU companies have Tier 2 and 3 suppliers in Russia.

8 Estimates from Morgan Stanley, Barclays, Goldman Sachs, BNP Paribas, Credit Suisse and J.P. Morgan 2022 GDP & Inflation Outlooks, as well as the OECD, IMF, and European Commission. Data as of 21st March 2022.

9 Oxford Economics’ Global Economics Database. Pre-conflict refers to forecast as of December 2022.

10A 10-Point Plan to Reduce the European Union’s Reliance on Russian Natural Gas,” International Energy Agency (2022); “Russian supplies to global energy markets”, International Energy Agency (2022). “Russia’s war is creating corporate winners and losers,” The Economist (2022).

112021/22 Grain Trade in Flux Amid Russia-Ukraine Conflict,” US Department of Agriculture Foreign Agricultural Service (2022).

12 Accenture Research analysis of University of Michigan Consumer Survey for US; and Consumer Sentiment Survey for EU.

13 See, for example: Adam S. Posen, “The end of globalization?,” Foreign Affairs (2022); Martin Wolf, “Russia’s war will remake the world,” Financial Times (2022); Josh Zumbrun, “Economic blacklist of Russia marks new blow for globalization,” The Wall Street Journal (2022).

14 The World Bank database

15 Accenture Research analysis of Global Trade Alert database, accessible at: https://www.globaltradealert.org/. Data is adjusted for reporting lags, with industrial policy interventions including: export supports, import curbs, licensing, quotas, subsidies and tariffs.

16DG Okonjo-Iweala tells sustainability conference “trade is part of the solution to challenges we face,” World Trade Organization (2022).

17 See, for example: Vigya Sharma, “This is how the conflict between Ukraine and Russia could impact climate change,” The World Economic Forum (2022); Leslie Hook and Neil Hume, “Will the Ukraine war derail the green energy transition?,” Financial Times (2022); Patricia Cohen and Stanley Reed, “Will war make Europe’s switch to clean energy even harder?,” The New York Times (2022).

18 See, for example: Arne Delfs and Carolynn Look, “Germany slashes fuel tax in $16.5 billion energy package,” Bloomberg (2022). “Maryland, Georgia pause gas taxes with prices near record highs,” The Wall Street Journal (2022). Chiara Albanese and Alberto Brambilla, “Italy could revive coal plants to break Russia energy dependence,” Bloomberg (2022).

19 See, for example: “Netherlands ramps up plan for doubling offshore wind capacity by 2020,” Reuters (2022); “The Med gets first offshore wind farm as Italy vows energy revolution,” France 24 (2022); “Germany to speed renewables push due to Ukraine crisis,” Reuters (2022).

20 Based on mapping Oxford Economics’ World Economic Prospects estimates to our scenarios. Data as of 8th April 2022. Pre-conflict refers to forecast as of Jan 2022.

21 Based on mapping Oxford Economics’ World Economic Prospects estimates to our scenarios. Data as of 8th April 2022. Pre-conflict refers to forecast as of Jan 2022.

22Ukraine Invasion May Lead to Worldwide Food Crisis, Warns UN,” The Guardian (2022).

23 Accenture Research analysis of OECD World Input Output tables.

24 Accenture Research analysis of OECD World Input Output tables.

25Europe’s Automakers Scramble to Replace Ukrainian Auto Parts,” Automotive News (2022).

26Business Futures: Signals of Change,” Accenture (2021).

27State of Cybersecurity Resilience 2021: How aligning security and the business creates cyber resilience,” Accenture (2021).

28Accenture and MIT Team to Create a Supply Chain Resilience Stress Test,” Accenture (2020).

29Business Futures: Signals of Change,” Accenture (2021).


Michael Brueckner

Senior Managing Director, Growth & Strategy Lead, Europe


Kathleen O’Reilly

Lead – Strategy


Svenja Falk

Managing Director, Accenture Research


Michael Moore

Principal Director – Thought Leadership, Accenture Research

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