「非財務指標」であるパーパスを利益に転換する成長戦略
今こそ小売企業は、自社のパーパスを再検討・再設定し、消費者や人材、そして取引先企業までを惹きつけることで、新規事業の開拓や新たな成長戦略の実践に踏み出していかなくてはなりません。その取り組みを進めるにあたって重要となるポイントについてご紹介します。
ポイント1:多くの共感を呼び、明確、新鮮なメッセージが伝わるパーパス
まず、すでに挙げた3つの要素とも関連しますが、パーパスは多くの人々の共感を呼び、明確かつ新鮮なメッセージが伝わることが何よりも重要です。「人々のため」「社会のため」「より良い世界を創造する」「地域に貢献する」といったスローガンが掲げる小売企業は多く存在します。しかし、これらは普遍的なパーパスである反面、どうしても独自性に欠けています。
かつての高度成長期であれば、創業者のカリスマ性や過去の実績に裏付けられたブランド力でパーパスを補完することもできましたが、絶え間ない変化にさらされている現在の市場において、消費者はデジタルプラットフォーム上で提供される多くの選択肢の中から自由な意思決定を下せることから、過去のブランド力に依存した戦略はもはや通用しなくなっています。
こうした状況を踏まえても、小売業界のすべての企業は、今まさに自社のビジネスの社会的意義や目標の再設定を迫られる大きな転換期を迎えています。実際、アクセンチュアのビジネスにおいても、近年は小売企業をはじめとする多くの国内企業からパーパス経営に関するご相談が寄せられるようになっています。
ポイント2:パーパスは非財務指標
パーパスは基本的に非財務指標であり、その成果は利益率や成長率といった従来の財務指標とは異なる手法で評価されなくてはなりません。明確なパーパスを設定した後は、次の段階として売上げや利益に転換するための新たな投資を行うといった計画を立てる必要もあります。
たとえば、初期の段階は海外における新規拠点の展開に投資を集中して、それが完了したら事業をドライブするためのデジタル基盤の強化に投資をシフトするなど、一貫したパーパスに基づく大胆な意思決定が求められます。
多様な価値観に応える全方位型「360°バリュー」経営の重要性
アクセンチュアでは現在、小売業をはじめとする日本企業のパーパス経営の実践に向けて、新たな価値指標のモデル「360°Value Meters」を通じて、FV向上に向けた取り組みを積極的に支援しています。
「360°Value Meters」は、アクセンチュアが独自に開発した全方位型経営を実践するためのフレームワークです。ここでは、これからの企業経営に欠かすことのできない6つの価値基準として、①財務、②提供価値、③サスティナビリティ、④人財、⑤インクルージョン&ダイバーシティ、⑥イノベーション が掲げられています。
このフレームワークの大きな特長は、従来の企業経営で重視されてきた「財務指標」、すなわち売上げや利益、資本、キャッシュフローにとどまらず、それ以外のいわゆる「非財務指標」を幅広く取り入れている点にあります。こうした指標は、利益の獲得を最優先するこれまでの企業経営においては、あまり重視されてきませんでした。
しかし、これからの企業経営においては、多くの消費者のニーズに応えるための多様な価値の提供が求められます。しかも、その要求は製品やサービス単体の価値にとどまらず、より豊かな地球環境の実現や地域社会への貢献、さらには性別、国籍、人種などの多様性の尊重といった広範な領域に及びます。
アクセンチュアでは、日本の小売企業が再び成長軌道を歩むためにパーパスの再検討・再設定に取り組むにあたって、すでに多くの企業に向けて「360°Value Meters」をはじめとする科学的なアプローチを提案しています。消費者が本当に求めているものは何か、それに対する貢献の可能性、さらには従業員のエンゲージメント分析などを通じて、日本の小売業は新たな成長の道を模索することができます。自社のパーパスを今一度見つめ直し、再設定に取り組む上で、こうしたアプローチは具体的かつ有効な指標となるはずです。