市場の「世界観」を一変させるプラットフォーマーの台頭

かつて「ものづくり大国」の名をほしいままにした日本の製造業に、大きな時代の変革の波が押し寄せています。具体的にどのような変化が起きているのでしょうか。これは個々の技術や流通といった部分的な問題ではありません。企業と消費者の関係性、また市場のあり方そのものを抜本的に転換する、巨大なパラダイムシフトがすでに起こりつつあるのです。

その背景にあるのが、プラットフォーマーの台頭です。かつて日本の製造業が元気だった時代と現在を、天文学の「天動説」と「地動説」にたとえて比較してみましょう。「天動説」の時代は、たとえば自動車産業であれば、自動車メーカーを頂点に巨大な業界が形成され、中古車販売、レンタル、メンテナンス、保険、金融などの関連業種がその下に連なっていました。自動車会社はそのヒエラルキーの内部で完結する「企業中心」、「自己完結型」のスキームを構成し、優れた製品を作り、消費者に提供してさえいれば、十分な利益を確保することができたのです。

一方、現在のプラットフォーマーの世界は「地動説」です。これはサプライ側の企業ではなく、サプライチェーンの外側にいる顧客や消費者といったステークホルダーが中心となって動かす世界です。まず消費者中心の社会・生活があって、その周囲をメディアや家電製品、あるいはレジャー、コミュニケーションといったさまざまな領域の製品やサービスが取り囲んでいます。ここでは消費者が主役であり、自動車でさえ「モビリティ」という1つの領域の構成要素に過ぎません。

変貌する世界:大企業中心の「天動説」から、消費者、プラットフォーマー中心の「地動説」に 新しいビジネスモデルが伝統的な業界、組織構造を脅かす。

この世界を支配しているのが、いま「プラットフォーマー」と呼ばれている新しい企業です。プラットフォーム企業は、従来の企業ヒエラルキーのさらに上位に君臨し、メーカーなどの企業群をその配下に従えてコントロールする、いわば超越的な存在です。この劇的な地位交代に戸惑う方も少なくないでしょう。しかし、これこそがまぎれもなく現在の市場の「世界」なのです。

GAFAをはじめとするプラットフォーム企業のビジネスが、加速度的に拡大していることは周知の事実です。こうした市場や企業の変貌の中で、日本の製造業も生き残りの道を探ろうと必死の努力をしています。しかし、そのためにはこれまで積み重ねてきた経験値や世界観そのものを一度捨て去って、ゼロベースで考える必要があります。この壁は、従来の方法論の「カイゼン」や修正・追加では到底乗り越えられません。製造業がプラットフォーマーに看板替えをするのではなく、最初からプラットフォーム企業として生まれ変わる必要があります。

重要(消費者)と供給(生産者)を結びつける巨大なエコシステム

ではなぜ、製造業が製造業のままでプラットフォーム企業に移行するのは困難なのでしょうか。その理由を考える前に、プラットフォーム企業の本質について改めて確認していきたいと思います。

プラットフォーム企業と既存の企業とのもっとも大きな違いは、「プラットフォーム企業とは、取引の最適化を行う企業」である点です。これまで長らく「企業」と呼ばれていたのは、「供給ドリブン」=企業の視線で良い製品やサービスを作り提供する仕組みのことでした。具体的に言うと、「企画・開発・生産・販売」といった一連のプロセスをサプライチェーンの中で最適化して提供し、その対価を消費者から受け取る事業形態です。この企業の資産は、「ヒト、モノ、金、技術」です。またこうしたビジネスモデルは「パイプライン型」と呼ばれ、価値の流れは、プロデューサーから消費者へのあくまで一方向でした。

一方、プラットフォーム企業は「需要ドリブン」=消費者のニーズを受け止め、そこに最適なモノやサービスをマッチングさせる仕組みを提供します。それらは、消費者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を最適化する取引とでも表現すればよいでしょうか。彼らの資産は「取引を円滑化する仕組みとネットワーク」であり、消費者とプロデューサー間で交換されるデータです。Amazon、UBER、AirBnBはその代表格であり、これまでにもっとも大きな成功を収めてきた企業例です。

つまり、プラットフォーム企業は、従来のメーカーのように社内やサプライチェーン内を最適化し、高品質な製品を作り、一方通行で市場に供給するモデルとは大きく異なります。プラットフォーム型ビジネスの要点は、需要側と供給側をマッチングする大きなエコシステムを構成し、それを継続的に進化させながら両者の円滑な取引を促進することにあり、エコシステム全体を最適化することが肝要なのです。旧来とはまったく異なるビジネスモデルである点をよく理解しておく必要があります。

供給主導から全体最適へ: プラットフォームとは従来の企業群を包含するエコシステムであり、新しいビジネスモデルである 重要なのは外部を含んで構成されるコニミュニティとそのインタラクションである

また、プラットフォーム企業のもう1つの特徴として挙げられるのが、「意思決定の速さと人材の持つスキルの多様性と高度さ」です。極めて複雑な現代のビジネスプラットフォームでは、他が追随できないようなビジネスモデルを生む高い発想力や、アジャイル&スクラムによる開発・運用のアプローチが欠かせません。

さらにはデザインシンキングを取り入れた運営能力をはじめ、IT、ハード/ソフト両面にわたるITの知識、そしてAI、データサイエンスなど最新かつ多様なスキルが要求されます。プラットフォーム型ビジネスは、さまざまな能力と技術を持ち、なおかつそれらを高速で運営する知能の集合体でもあるのです。

プラットフォーマーならではの「圧倒的な強さ」の秘密とは?

さらに踏み込んで、プラットフォーム企業の特性、すなわち「強さ」の秘密について検証していきましょう。まず、「経営」の側面から見たアドバンテージには、大きく以下の3つが挙げられます。

①旧来型の経営資源の保有が不要

製品・サービスを作るヒト、モノ、金が不要。研究・開発拠点や工場、販売機能を持たないので固定費がかからない。さらに技術やイノベーションも外から部調達してくる。 (GAFA等の強くなりすぎたプラットフォーマーに対し、規制の検討が進んでおり、将来的には規制対応等の費用が発生するケースが出てくると思われる。)

②圧倒的に少ない障壁

ネットワーク上のデータとユーザーのフィードバックが製品を選定し、評価システムや口コミが品質と信頼を担保する。(例:Amazonの無料セルフ出版サービス「Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)」を利用すれば、従来のような出版社や編集者、販売店、そして宣伝活動も不要になる)

③ガバナンスは内部から外部へ

従来のような会社の内部・サプライチェーンの最適化ではなく、外部のエコシステムの最適化がガバナンスの要点。圧倒的に少ない障壁では会社機能やオペレーション、戦略立案まで外部から取り入れる。またM&Aなども活発に行い、有効なネットワークとそのエコシステムをマージする。

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プラットフォーム企業の経営の特性: プラットフォーム企業は経営資源、成果物、イノベーションも外部を活用する 外部活用とそのコントロールが、エコシステムの全体最適化をもたらす

また、「ネットワーク効果による圧倒的な成長スピード」も、プラットフォーム企業ならではの強さだと言えます。ネットワークには、そこに参加するユーザーの数の二乗に比例して価値が増大していくという特徴(メトカーフの法則)があります。大きな成功を収めているプラットフォーム企業は、いずれもその特性を効果的に利用して以前には考えられないスピードで巨大化します。

さらに、プラットフォーム企業の強みとして挙げられるのは「ビッグデータ」の独占です。彼らは顧客とのタッチポイントから収集される膨大な個人情報データや取引記録、企業情報、マーケティング情報などを独占できる立場にあります。このビッグデータを解析し、AIなどと組み合わせることで、最適な意思決定や新たなイノベーションを迅速に実現できる。これも、プラットフォーム企業ならではの強力なアドバンテージです。

タッチポイントデータとビッグデータ解析×AI: プラットフォーム企業が膨大な情報、タッチポイントデータを独占する。 獲得したビッグデータが更なる価値やイノベーションを生み出す。

「プラットフォーム企業」に転換するための3つのポイント

ここまでの論旨を踏まえて、これからの日本企業、とりわけ製造業はどのように施策に取り組んでいけばよいのかについて、いくつか提言したいと思います。

    新たな組織を設立し、強力なガバナンスを発揮
    プラットフォーム企業のビジネスモデルは、旧来型の日本の製造業をTier1(部品供給などを行う一次請けメーカー)化して、その上位に位置します。また、時には商品やサービスが、自社の従来製品・サービスと競合してしまう可能性もあります。このため、社内に新しい「プラットフォーム事業部」のような部署を作って取り組むといった「業務改善」の延長では、うまくいかないことがままあります。 本気でプラットフォーム企業を目指すならば、まず別会社として組織を分離し、新しい発想で強力なガバナンスを実践できる人材を経営トップに据えること。さらに、その経営者がトップダウンで力強く会社を運営していけるよう、大胆な権限委譲も含めた環境づくりが不可欠です。

    社外からの優れた人材の獲得と社内人材のリスキル
    複雑なビジネスプラットフォームをコントロールするためには、そのためのスキルを備えた人材が不可欠です。そのため、社内外に常に目を光らせながら、優秀な人材を確保し、さらに社内でもリスキルしていく姿勢が重要です。必要であればM&Aも含めた外部からの調達も視野に入れ、高い能力を持った人材の確保・育成と、その能力を十分に発揮できるだけの権限委譲を進めていくことが必須要件となります。

    不確実性や多様性に対応できるアジャイルな企業文化
    テクノロジーの劇的な進化によって、業界間の垣根は急速に取り払われつつあります。その環境変化への対応をじっくり協議している時間はありません。瞬時に状況を把握し、的確な判断を下し、新たな目標に向けて大きく舵を切ることが求められています。そのためには意思決定の仕組みも人材も、さまざまな側面からアジャイルなアプローチができる組織づくりが必要です。

本稿では、プラットフォーマーとそのビジネスモデルの特徴、製造業にとってのパラダイム転換のヒントなどをご紹介してきました。すでに大手製造業でもプラットフォーム企業への転換(トランスフォーメーション)に向けたチャレンジが始まっています。アクセンチュアでは、そうした全社トランスフォーメーションに取り組む製造業の皆様を数多く支援してきました。その豊富な経験に基づいて、製造業の皆様を、これからも積極的にご支援していきます。

川原崎 由博

アクセンチュア株式会社
製造・流通本部
特別顧問​

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