概略

概略

  • 日本の組織およびその文化が根源的に持っている思考形態や慣習、行動様式が、DXの進展を阻んでいます。代表的なものに「インテリジェンスの欠如」が挙げられます。
  • 新しい技術が登場した時にまず必要なのは、その本質を見抜くことです。その技術がどのようなもので、どう使えば社会に価値や影響をもたらすのか。この「大局的なテクノロジー観」が極めて重要です。
  • DXは目標実現の手段であり、目的を生み出すのは人間の創造力です。企業は目的達成に向け企業文化、組織・風土、ガバナンス、運営を常時アップデートが必要です。Corporate Transformation(CX)及び人材の育成なくしてはDXは機能しません。
  • これからの日本の企業や組織がDXを始めとした課題に挑戦する際に、大局を読み、グランドデザインを描き、合理的な行動を可能にする取り組みが必要です。本稿ではそれを進めるにあたっての問題の本質を解き明かし対処する方法を紹介します。


日本の自動車メーカーのDXを阻む組織の課題と企業変革のヒント

我々を取り巻く世界の常識や社会、生活、産業、そしてビジネスは、この半世紀の間でめざましい変化を遂げました。その前半に起こった製造技術の進歩によって市場にはモノが溢れ、機能・品質も飛躍的に向上しました。さらに後半におけるデジタル社会の出現と拡がりによって、あらゆるヒト・モノから膨大な情報が生まれ、その処理のスピードも、べき乗の速度で進化した結果、私たちを取り巻く社会も、生活も、商品・サービスも、そして技術も大きく様変わりしています。

そうした中で起こったコロナ禍は、人々の働き方や生活スタイルを根本から変えました。「ニューノーマル」の言葉に象徴されるように、わが国でもアフターコロナに向けたデジタル技術による組織やビジネスモデルの変革=DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進の気運が急速に高まっています。しかし、欧米やアジアの先進的な国々と比べても、まだまだ日本の企業はDXへの取り組みと、その活用による成果を十分に出せているとは言えません。

その大きな理由としては、日本の組織およびその文化が根源的に持っている思考形態や慣習、習慣、行動様式が、DXのそれらと相いれないことがあります。代表的なものに、「インテリジェンスの欠如」が挙げられます。これは日本の第2次世界大戦での失敗、さらには平成の「失われた30年」の失敗とも本質的に共通する問題と思われます。本稿では、そうしたわが国特有の組織の問題点と解決のヒントをご紹介します。

大局的かつ戦略的な視点=インテリジェンスの欠如が最大の問題点

日本企業のDXが思うように進まない理由を知るには、まず日本の組織が抱えている特有の問題を理解する必要があります。「失敗の本質---日本軍の組織論的研究」(1984年・ダイヤモンド社刊)は、日本軍の戦史を社会学的な視点から分析し、わが国の組織が抱える問題点を明らかにした好著です。ちなみに、最近発刊された「コーポレート・トランスフォーメーション---日本の会社をつくり変える」(2020年・文芸春秋刊)」も、同様の問題点を明確に指摘しています。

「失敗の本質」に描かれた日本の組織像は、昭和の高度成長からバブル景気までの、世界に躍進し栄華を極めた日本の企業構造、文化と驚くほど重なって見えます。ここでの分析や指摘を踏まえ、現在、日本企業が抱えている問題点を以下の3つの軸から理解することが重要です。

  1. 組織的インテリジェンスの機能不全

第2次世界大戦に見られる日米の決定的な違いは、「戦争を巨大プロジェクトと捉え、その成功に向けた活動の資源として、情報とその解釈を重視できたか否か」という点にあります。米軍は情報収集と解釈を戦争遂行上の重要なミッションと捉え、本軍とは別の専従組織を設けていました。また、収集した情報を統合活用する機関としてCIA(中央情報局)を置き、一流大学卒の人材を多く投入しました。いうなれば、インテリジェンスを駆使して戦いに臨んだわけです。

日本軍は、ほぼこの正反対でした。そもそも「インテリジェンス」に該当する言葉が、日本語にはいまだに存在しません。このことからも、日本軍がインテリジェンスを重要な戦闘資源と捉えなかったのは、「その概念が日本になかった、もしくは稀薄であったから」というのが根本的な理由ではないでしょうか。

つい最近、日本のマスコミでは「忖度」という言葉がはやりました。類語も「憶測、気遣い、慮る、斟酌」等々、数多く存在します。この例からもわかるように、日本社会では「空気を読む」といった行動原理が重視され、それは一つの文化、行動様式にすらなっています。一方、インテリジェンスに関しては、その言葉が存在しないのと同様、明示的に言語化・標準化された「情報」や「知識」をもとに行動するカルチャーが伝統的になかったと考えられます。

これが現在に至るまで変わることのなかった理由としては、日本の経済成長のプロセスも見逃せません。欧米へのキャッチアップという明確な目的があり、モノ不足で人口が右肩上がりの高度成長期は、規格大量生産を改善・改良することが有効に機能する、シンプルで変化の少ない時代でした。

このような時代には、インテリジェンスの欠如はあまり問題にならず、日本企業は大きく躍進しました。しかしモノがすでに充足しており、情報が氾濫するインターネットやデジタル技術が、べき乗で進化する現代になって、状況は一変します。

ものごとが多様化し変化の大きい現代においては、インテリジェンスの欠如は致命的な問題を生み出します。刻々と変わる市場や顧客、競合等々の現状を膨大なデータから読み取り、その結果をデジタルテクノロジーを駆使しながら、即座に次の戦略に活かしていくには、みずから考え・判断し・行動する能力=「インテリジェンス」が不可欠だからです。

日本は戦略的意思決定の欠落による敗北を時代を超えて繰り返している
  1. 大局的なテクノロジー観の欠如

新しい技術が登場した時に、まず必要なのは、その本質を見抜くことです。その技術がどのようなもので、どう使えば社会に価値や影響をもたらすのか。さらにそれを用いて、どういう社会を作りたいのか。この「テクノロジー観」という能力は、変化への対処に極めて重要です。「産業革命」と呼ばれるような技術変革の節目には、必ずそのことを示す象徴的な出来事が起こってきました。

こうしたテクノロジー観の典型的な欠如の例は、第2次世界大戦における日米の索敵レーダーの活用戦略に見られます。レーダーという新技術が戦いの勝敗を左右するキーテクノロジーになると見抜いた米軍は、総力を挙げて研究開発を進め、戦争終盤にはすべての戦艦や戦闘機への搭載を完了していました。かたや日本軍はその本質を理解できず、個々の戦闘員の「達人技」に頼り続けていました。その結果は、歴史が示す通りです。

それから約半世紀を隔てた平成の30年間は、幅広い分野にわたって新しいデジタルテクノロジーが生み出されてきました。これらは半導体のべき乗的進化を追い風に、劇的なスピードで進化を続け、社会に広く深く浸透していきました。そして21世紀も五分の一が過ぎた現在、その動きはますます加速し、社会や人々の生活を大きく変えていきます。しかし残念ながら肝心の企業や組織には、依然として「テクノロジーが社会、産業、生活その他を抜本的に変える」という意識はあるものの、テクノロジーがそれらをどのように変える可能性があるか、社会その他を良くするために何をするべきかという読み解きと実行が、大きく欠如していると言わざるを得ません。

  1. 秀でた構想力と戦略的かつ迅速な実行力の欠落

都市は、その規模の大きさ、社会や産業や文化の発展基盤、そして人々の生活へのあらゆる影響という点で、人間が作る最大の構造物です。そこには、その国や社会の持つ構想力や、それを実現する戦略的実行力が如実に表れます。

今から約170年前の19世紀中ごろに構築されたパリは、壮大な構想とグランドデザインをもとに、長期的な視野と全体最適を考慮しながら造られました。変化を厭う人々からの反対には法整備で対応しつつ、計画は戦略的に遂行され、その結果生み出された新たな都市は、現在もその当時の形で機能しています。

一方、現在の東京の都市デザインに目を向けると、東京は関東大震災と第2次世界大戦で大きく破壊された後に造り直された新しい街並にもかかわらず、パリとは正反対にそのつど短期的視点で考えられ、追加された部分最適の集合体であるため、都市として統合された機能を持たないカオスの状態であることはご存知の通りです。

この「長期的視点に立った構想力と、それに基づくグランドデザインの構築力の差」も、第2次世界大戦の明暗を分けた大きな理由になっています。

米軍は開戦の時点で日本軍の特性を徹底的に研究して、外地での戦闘から本土へ戦線を追い込み降伏させるという明確な目的(ゴール)を描き、そこに向けて全体最適を意図しながら作戦行動を進めていきました。

ひるがえって日本軍は、日清、日露戦争といった過去の経験から、極めて短期的な志向で、そのうち米国の方が嫌になって講和に持ち込むだろうという程度の見通ししか持っていませんでした。しかも陸海軍がそれぞれ独自の視点や判断をもとに、縦割りの組織で戦略を立て、かつ属人的な作戦を展開したのです。

大局的かつ長期視点と論理的思考、さらに秀でた構想力に基づく戦略=グランドデザインを描いた米国に対し、不明確な目的と短期志向、加えて帰納的で狭い視野、そして陸軍、海軍の部分最適な戦略で戦った日本が敗北したのは、必然的な帰結と言わざるを得ません。

都市デザインにおいても、日本と欧米の戦略性の相違が顕著に見える

「当たり前」を否定する勇気と「見えない先を見通す」情報の解釈力

では、これからの日本の企業や組織がDXを始めとした課題に挑戦する際に、大局を読み、グランドデザインを描き、合理的な行動を可能にする「インテリジェンス」を強化していくためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。以下でその3つのポイントをご紹介します。

  1. 不透明な時代を「先読み」するための「情報解釈の高度化」

DX推進への取り組みは、「予見不可能な変化を読む」チャレンジの連続です。インテリジェンスとは、まさにそうした「未来の先読み」の能力でもあります。

別の言い方をすれば、単なる"Data"を意味付けしたものが"Information"であり、その分析の目的を明確化したものが"Knowledge"となり、それを意思決定できる能力にまで磨き上げたものが"Intelligence"なのです。日本の企業も、未来を読み解き、みずから意思決定できるまで、この知的能力=インテリジェンスを強化していかなくてはなりません。

最新のデジタル技術は、ばらばらの意味しか持たない膨大なビッグデータを解析してさまざまな気づきを得たり、さらに深層学習によって、その結果を意思決定に使えるまでに磨き上げることを可能にしました。これなどは、テクノロジーによって得られる「インテリジェンス」の一つと言えるかもしれません。

予見不可能な時代には「先読み」のインテリジェンスが不可欠であり、そのためには情報解釈の高度化が必要
  1. 情報の真価を引き出すための重要なアプローチは「現状の否定」

インテリジェンスを養う=情報解釈の能力を磨く上でいちばん大切なのは、「現状を否定してみる」ことです。人には過去の成功体験や自分に都合の良い情報だけを選んで、不都合なものには目をつぶってしまう「確証バイアス」と呼ばれる心理的傾向があります。

イスラエルの諜報機関として知られるモサドには、「10人目の男」という慣習があります。これは危機管理のため、ある課題に対して9人が同じ解釈をした場合、あえて10人目は異なる解釈を述べるというものです。また米国のCIAも同様で、組織で生まれた解釈・流れには必ず誰かが反論し、客観性を担保させることになっています。こうしたノウハウは、民間企業であるマイクロソフトやIBM等の企業でも導入され、判断や決定の精度向上に貢献しています。

米国の教育で日常行われるディベートも、自己否定の場を作り、あえて違う立場から論理構築をして、正解のない課題を議論させます。このように、ふだんから意図的に自己否定を要求する訓練を重ねて育った人間と、画一的で知識偏重の学習や、与えられた問題に模範解答を返すことが求められる教育で育った人間の「現状を否定する力」の差は歴然です。

ここにも日本企業は着目し、自己変革に乗り出さなくてはなりません。過去の栄光や、メーカー視点の製品企画といった「当たり前」をいったんすべて意図的に否定する。その上で対案を十分に突き詰めた上で、本当に今必要な情報や考え方、施策とは何かを知る必要があります。企業に異能を持つ人材を集め、多様性を持たせることが必須だと言われる理由もここにあります。

  1. バズワードに惑わされず、本当に必要なものを「先読み・深読み」する

2000年頃に、あれほどもてはやされた"BRICS"という言葉を使う人は、もうどこにもいません。現在も毎日のように新しい、期待を持たせるようなキーワードが登場してきます。それらの真贋を見抜き、本当に必要なものだけを見分けるインテリジェンスが必要です。それができないと、あらぬ方向に全力で進んでいったり、次々に期待はずれの結果を手にするばかりで疲弊してしまいます。

たとえば、自動車業界が期待を寄せる「CASE」にしても同じではないでしょうか。自動運転もいずれ実用化される技術であることは間違いないと思います。しかしながら、これ一つとっても、実用化が進むにつれて技術以外の運用や法制面での課題が山積みなのが見えてきました。自動運転の実用化には自動車本体の制御技術だけでなく、3次元地図、道路、標識、通信網&通信機器、センサー、保険等々の周辺のインフラ整備・構築が不可欠です。

しかし、いまだにこれらの社会的費用の経済的な合理性、あるいは本当に費用対効果として見合うのかを証明する数字を見たことはありません。未来を読むには、このような不都合な真実から目を背けるわけにはいきません。「可能性への挑戦」と「冷徹な現実の直視」の双方が必要です。

現代の複雑かつ急速に変化する市場や技術トレンドを正確に先読み・深読みするには、大きな構想力と長期視点、広い視野、さまざまな戦略オプションの考察と繰り返しが必要であり、自動車業界を超えたスケールでの検証が欠かせません。

ダイバーして化には、まず自身の人、文化、組織・風土等の変化が必要
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