このように、保険会社の存在意義が薄れてきている状況を打破するために、保険会社は自社の基本的な提供価値を見直す必要があります。
そのためには、単に既存のコアビジネスを最適化するだけでは不十分です。提供サービスを徹底的に見直して再創造し、顧客の損失を補償するだけでなく積極的にリスクを管理し顧客の利益を守り、顧客に寄り添う「パートナー」となることが求められます。
保険会社に必要なのは、回復ビジネスから信頼ビジネスへの転換です。
免責からリスクマネジメントへ
今日、顧客と保険会社の双方が、顧客が損害を被る可能性に事実上賭けています。これは、カジノでブラックジャックのテーブルに座っているプレイヤー(顧客)が、ハウス(保険会社)に勝とうとしているようなものです。他業界と比較して、顧客が実際に損失を被った場合にのみ価値(勝利)を認識するという点でユニークです。
しかし、この仕組みを逆にしてみたらどうでしょう。初心者(顧客)がカードシャーク(保険会社)と組んで、一緒にハウス(リスク)に対抗できるとしたらどうでしょうか。このようにとらえると、損失を被った際に回復を支援するだけでなく、顧客が積極的にリスクを認識し軽減することに重点を置いたサービスの提供をイメージできると思います。
契約から信頼へ
今日の保険契約は、特定の資産を対象として書かれており、無数の注意事項や除外事項が含まれているため、特定の状況下ではその有用性が制限されています。このように、顧客は損失から保護される一方で、資産が意図した価値を本当に提供しているかどうかを確認するために、保証や保守契約などの手配を別途行わなければなりません。
将来的には、保険と他の保護手段との間の境界線が曖昧になり、顧客の資産に関連する真の所有コストを守ることができるようになると考えています。契約書から多くの注意事項を排除することで、顧客は保険会社が自分のために「すべてをやってくれる」という信頼感を得ることができます。
利益を守るサービスへ
現在、契約されている保険の約半分は、損害保険料
3です。しかし、デジタル化の進展により、無形資産が急速に増加し、シェアリングエコノミーやストリーミングエコノミーの台頭により、所有権に対する考え方が変化しています。また、ロボティクスや人工知能(AI)などの技術進化により、賠償責任のあり方が変化していることから、損害保険の基本的な考え方が大きく変化しています。
今後期待される新たなサービスとして、資産を守るだけでなく、健康、富、移動、収入など、顧客の利益を守る保険サービスが考えられるでしょう。これら実現するためには、絡み合った複雑なリスクを管理し、保険会社の提供価値を真に顧客の利益に焦点を当てたものにするために、異なるタイプの従来商品を統合する必要があります。それにより、顧客を包み込む信頼の領域を形成し、複数の次元でのリスク管理を助けることになるでしょう。
仮定から確証へ
IoTの台頭は、他の分野でもハイパーパーソナライズされたサービスの実現に繋がっています。しかし、現在の保険商品の多くは、過去の傾向、データや顧客の分類に基づいて販売時に価格設定されています。この数理的なアプローチは、よく言えば多くの顧客にとって不可解であり、悪く言えば多くの顧客に不公平な扱いを受けているという認識を抱かせてしまっています。
将来的には、保険会社が実際の行動データを利用して、高度に個別化されたプライシングを行うようになり、そのプライシングがよりダイナミックになり、時間の経過とともにリスクプロファイルを増減させる顧客の行動に合わせて変化していくことを期待しています。