既存事業と新ビジネスの成長を両立するための「5つの課題」

これまでの「常識」が通用しない消費財市場の現実

消費財業界は今、大きな時代の岐路に立たされています。ビジネスのグローバル化、販売・供給をはじめとするチャネルの多様化、消費者の価値観の変化、さらには既存のビジネスモデルを完膚なきまでに破壊するディスラプティブなユニコーン企業の台頭など―。急速なデジタル化がもたらすこうした劇的な変化の波に洗われて、伝統的な消費財メーカーのいくつかは存亡の危機にさえ瀕しています。
そこで本稿では、消費財メーカーがこの状況を乗り切り、新たなビジネスの可能性に向けたトランスフォーメーションを実現していくためには、何をしなければならないのかについて考えてみたいと思います。

消費財業界に押し寄せている変化の荒波の大きさは、以下のキーワードを少し掘り下げてみれば一目瞭然です。ここには消費財ビジネスにおけるかつての「常識」が、次々と塗り替えられている現実が明確に示されています。

コンシューマー(消費者)-消費財ブランドの価値を決める主導権を、ブランド側が握っていたのはすでに過去の話です。その評価の主導権は、すでに消費者の側にシフトしています。

オファー(ブランド訴求)-これまで信じられてきたブランドの普遍的な価値基準は、もはや通用しません。現在の「気まぐれ」な消費者が状況に応じて自由にブランドを取捨選択する状況を、ブランド側は受け入れなければならなくなっています。

チャネル(顧客との接点)-これまで消費者との接点=チャネルは個別に存在していましたが、現在は単にeコマースに出品すれば良いというわけではなく、そこで得たインサイトをもとに実店舗などのオフラインチャネルに誘導するなど、複数のチャネルを横断したビジネスモデルの創出が求められています。

テクノロジー(情報技術)-従来はERPなどを活用した情報の統合性、リアルタイム性が重視されてきましたが、ここでは複雑になりがちな運用上の課題がありました。これからは社内のサービスも含めたリソースとの疎結合による、よりシンプルなシステムが求められてきます。

コンペティター(競合との力関係)-これまでのビジネスの強みは主にスケール(規模)に依存してきましたが、現在では小規模なスタートアップ&ユニコーン企業が大手を凌ぐほどの競争力を発揮するようになっています。

エコシステム(事業連携)-従来のビジネスでは、個別の組織や部署ごとにそれぞれのパートナーや得意先との関係を構築してきました(サイロ化)。これからは社外のプレイヤーも含めたエコシステムの中で、新しいビジネスモデルを創造していく必要があります。

グローバル企業へのトランスフォーメーションにおける5つの課題

では、こうした変化に対応していく上で、日本の消費財業界にはどのような取り組みが必要なのでしょうか。アクセンチュアでは、以下の5つが消費財企業のトランスフォーメーションの重要な鍵を握ると考えています。

  1. ポートフォリオの再構築
    いかにして継続的かつ利益を伴った成長を実現していくか。
  2. 消費者とチャネルエクスペリエンスを再定義
    どのように顧客を理解し、顧客に寄り添ったブランド体験を提供できるか。
  3. オペレーション再定義と改革
    デジタルの価値を最大限に活用したビジネス基盤をいかにして再構築し、かつ業務側のニーズに応えていくか。
  4. インテリジェントエンタープライズの実現
    製造から流通までのエンドツーエンドのサプライチェーンをどのように構築し、最適化していくか。
  5. 次世代ITアーキテクチャの開発
    次世代の戦略を支えるテクノロジー基盤は、どのようなものであるべきか。

また、以上を踏まえた上で忘れてはならない視点が、グローバリゼーションとデジタライゼーションを両輪に、どのようにして時価総額10兆円 超の世界のトッププレイヤーたちと互角に渡り合っていくかです。

現状において、多くの日本企業は欧米のグローバル企業と比較して、トランスフォーメーションに向けた準備ができているとはまだまだ言えない状況です。下の図は、こうしたトランスフォーメーションを構成する6つの業務領域=パスウェイ(セールス&マーケティング、研究開発、サプライチェーン、ファイナンス、人事、IT)について、トッププレイヤーに追随するためのプロセスと成熟度を図式化したものです。

こうした企業の進化のプロセスは、それぞれのビジネスのあり方や特性によっても変わってきます。セールス&マーケティングを軸に成長していく企業、研究開発をコアに実績を積み重ねていく企業など、自社をもっとも成長させるパスウェイ(成長プロセス)をいかにして発見し、実現していくかが問われるところです。

では、ここからは先ほど挙げたトランスフォーメーションを支える5つの鍵について、もう少し掘り下げて解説していきたいと思います。

  1. ポートフォリオの再構築

    一口に「ポートフォリオの再構築」と言っても、単に既存のビジネスの棚卸しをすれば済むといった話ではありません。ここでもっとも難しいのは、既存のビジネスと新たなビジネスのいずれにも注力しながら、双方の成長を両立しなければならない点です。
    実際、新規ビジネスへのチャレンジにおいては、既存のビジネスが足かせになるケースが少なくありません。新たなビジネスの仕組みが確立されていない状態で試行錯誤が繰り返され、かといって既存の事業から人手を調達するわけにもいかない。お互いが足かせになって前に進めないという状況です。
    アクセンチュアでは、こうしたジレンマに悩む企業に対して、いわゆるコンサルティングを行うだけでなく、お客様との協働を通じてイノベーションを推進していくさまざまなサービスを提供しています。
    具体的には、新しいビジネスの成長に必要な技術提案や体制づくりを通じて、PDCA サイクルをアジャイルに回しながら、スピード感を持って成長をスケールさせていくための協業を実現していきます。

  2. 消費者とチャネルエクスペリエンスを再定義

    ここでキーワードとなるのが、「ヒューマンセントリック」と「データドリブン」です。すなわち消費者を理解することの重要性を再認識し、同時にさまざまなデータを駆使してリアルな消費者のニーズを把握していくという取り組みです。どちらか一方だけではなく、「気まぐれで変わりやすい消費者像」と「データドリブンな事実」の両方を把握し、インテグレーションしていかなくてはなりません。この点についても、アクセンチュアでは豊富な実績に裏付けられた知見を提供することができます。
  1. オペレーション再定義と改革

    ここでいうオペレーション再定義と改革は、ITソリューションの導入による業務の効率化を意味するものではありません。デジタルを基盤として、社内の情報の流れや協業を円滑に行うための仕組みを構築することが重要な課題になります。たとえば多くの日本企業では、物を買う部門と代金を支払う部門が別です。経理部門は購買部門が何のためにその資材を買っているのかを、実のところ把握していません。組織内の機能が部門の枠を超えて柔軟に連携し、シナジーを発揮するには、全員がエンドツーエンドで業務プロセスを理解し、その全体像の中で人やリソースの配置をどう最適化するかを考える必要があります。
    その取り組みと切っても切れない関係にあるのがデジタルです。これまでは個別に管理されていた販売データを、デジタルを活用して研究開発部門や製造部門と共有することで、調達・購買計画や製造・物流などのサプライチェーンを市場のニーズに最適な形に変えていけるようになります。

  2. インテリジェントエンタープライズの実現

    サプライチェーンのインテリジェント化における重要なポイントは、いかにコンシューマー起点の設計を徹底できるかです。これまでのサプライチェーンはあくまで物を製造して売るだけで、コンシューマー起点で考えられていませんでした。
    しかし、これからの10年で消費者の行動は大きく変わっていくはずです。先進国の消費者はすでに「無意識化」、つまりブランドにこだわらない段階に入っていると指摘されています。そこで何が起きるかというと、冷蔵庫や戸棚の中身をセンシングして、足りなくなれば自動的にインターネットで注文して、商品が自宅に届くといった状況です。そうなれば、従来の物流モデルはまったく変わってしまいます。
    従来の「調達→製造→物流→販売」のサイクルを短縮することは、物流の効率化とは異なる、さまざまな機能が有機的に連携したモデルへと変化していくことになるのです。

  3. 次世代ITアーキテクチャの開発

    ここまで紹介してきた課題の解決にあたっては、最先端の次世代テクノロジーが必要であることは言うまでもありません。既存の事業の強みを生かしながら、同時に新規事業へのシフトを加速するため、デジタライゼーションによる自動化やデータ連携をレバレッジとした仕組みが求められています。
    その仕組み作りに向けたポイントとして、「データを中心としたアーキテクチャ」の重要性を、いま一度強調しておきたいと思います。デジタル化というと、とかく日本企業ではERPや各業務システムのようなアプリケーションを思い浮かべがちですが、重要なのは企業としてどういうデータを管理して、そこからどのようなインサイトを引き出し、最終的に収益に結びつけていくかということです。
    また、従来の日本企業の「自前主義」からも大きな転換を図る必要があります。下図のように、これまですべてのデータは、「ERPコア」などと呼ばれる自前のシステムの中で管理・活用されてきました。それを今後は極限までシンプル化されたデジタルコアと、その周囲に配置された機能との疎結合な関係へと移行していく必要があります。
    というのも、これからの市場は世の中の動きに合わせて激しく変化していきます。そこでデジタル基盤も最小限のコアだけは変えず、周囲の個別機能を次々とアップデートしていけるような「プラグ&プレイ」を可能にする疎結合な構成が求められてくるのです。

今回は「消費財業界」という観点から、主に日本企業がトランスフォーメーションを実現するための5つの課題について俯瞰しました。消費財のさらに細かなセグメントについてさらに深掘りしながら、皆様とより深く課題認識を共有していきたいと考えています。

宮尾 大志

製造・流通本部 マネジング・ディレクター

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