気候変動や感染症への対応など、環境が大きく変化する時代。食と農の分野においても大きな変革の潮流が起きています。

昨今話題のSDGsに関する課題解決策が模索されているなかで、食と農についても世界的な食需要の増加や環境負荷などの課題解決を迫られています。加速度的に進行する環境問題に対応するためには、テクノロジーの活用に加え、業種・業界の垣根を超えた産業全体としての取り組みが必要不可欠です。

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変化する食需要と消費者のニーズ

世界人口は増加の一途をたどっており、2019年に77億人だった人口は2050年には26%に増加し、97億人に到達する見込みです。そこで問題になるのが食糧需要です。1960年第以品種改良や肥料の開発により、農地面積の拡大のみに頼ることなく食糧増産を実現してきましたが、人口の増加ペースを考えるとそれだけでは間に合いません。日本政府も輸入に頼る日本から海外供給する日本へと変化させる動きが見られます。

食と取り巻く消費者の変化にも注目すると、日々の栄養補給として摂取する食糧の確保を前提としたうえで、その消費活動に以下3つの大きな変化が起きています。

  1. 「消費者が企業に対して公明正大さを求めるようになり、それが選択の軸になってきている」という点です。具体的には、環境への配慮、食の安全性・透明性があるかといった"レスポンシビリティ"を問います。
  2. 「価値観・こだわりが食スタイルに直結する」という点です。個人の価値観が多様化する一方で、テクノロジーの発展も手伝い様々な食選択が可能となっています。
  3. 「食を味覚や資格などの感覚だけでなくデータレベルでとらえる」機運の高まりです。味や栄養素をデータ上で理解して知的に楽しむ、または効率的な栄養摂取を行うというニーズが向上しています。

こうした3つの変化は総じて食の付加価値を高める契機といえます。

農業として取り組むべき課題

先述してきた飢餓の問題や水、生産者責任、気候変動への対処、海及び陸の豊かさを守るといった項目はまさにSDGsで掲げる目標であり、食と農は綿密な関係を有します。

とくにCO2排出量削減は重要な課題であり、食品の生産から流通、消費までの一連の流れの中で排出されるCO2について、それぞれのフェーズで課題を解決するための動きが出てきています。

業界独自のルールメイキングも行われており、食品業界では、約20の業界団体において、温室効果ガスの削減に向けた業界ルールの策定が行われました。レスポンシブルな生産に関しては、いち企業や業界単位での取り組みではなく業種・業界の垣根を超えた取り組みが求められています。

諸外国に比べて生産性が低いことや、商品流通ルートの数の多さ、バリューチェーンにおけるオペレーションの煩雑さも課題が残っており、将来を見据えて様々な制約を取り払うようなテクノロジーの開発が求められています。

技術革新がもたらす消費・生産・流通の変化

こうした産業としての課題やニーズの多様化に関して、冒頭述べた通りテクノロジーの活用や業界の垣根を超えた連携によって対応を進める必要があります。

増え続けている食に係るデータを効率的に活用するために行われているのが、プラットフォーム化(Food Management Platform)です。エコシステムのパートナとなるヘルスデバイスメーカーや研究機関と連携して、食材の栄養・味・触感などを数値化したFood/Ingredient Dataと消費者の体質・思考を数値化したConsumer Dateを収集します。そのうえで「健康×栄養アルゴリズム」や「調味料+食材+デリバリー」といったアルゴリズムを生みだすことで、健康管理のための摂取制限や食事メニューの献立開発など、様々な場面で活かすことができます。このような新たなシステムの開発により、食による健康実現や食生活への満足度の向上という新しい付加価値を創出するでしょう。

食需要や生産性といった点では、デジタル技術とバイオ技術によって作物の生産が効率化されたことに加え、作物自体の強化や代替作物の登場により、単位質量当たりの栄養価とコストに劇的な改善が見られるようになりました。代替食物のプロダクトでは人工培養肉や昆虫食の研究開発が今後ますます進んでいくと考えられます。

新たな生産消費モデルと付加価値向上

これまでは、バリューチェーン型生産消費モデルが中心で生産・流通・消費という流れのなかで、機能ごとに付加価値や効率性を追求し、高品質のものをいかにリーズナブルに提供するか、ということが求められてきました。今後は、価値観やパーパスといったこだわりに基づいて生産者と消費者のコミュニティが形成され、その中で生産・流通・消費のプロセスが行われるという「コミュニティ型生産消費モデル」がより加速していくのではないかと考えます。

食と農において重要な役割を担うのは、農家と地方の中小企業ですが、そうした生産サイドと消費者サイドでコミュニティの形成が活発になることが産業の活発化にもつながります。重要なのは、ニッチで独自色を持った多様なコミュニティがますます増えていくことなのではないかと考えています。その一つ一つのコミュニティを盛り上げていくために、独自の価値を追求していくのも地域の役割であり、その意味においても、"食と農"×地方創生の取り組みはきわめて重要なのです。

これまで述べてきたように食と農において新たな生産消費モデルの確立に向けた取り組みが求められています。まず、新しい消費者の価値観にこたえる新たな商品やサービスを生みだし続けること、すなわちテクノロジーを活用した食と農の先進的なビジネスモデルを追求することが求められています。そして、日本国内のみならずグローバルレベルでの「日本の食と農の展開や投資の呼び込み」も期待されます。このサイクルを回し続けるためには、農家・中小企業・大企業、政府や自治体・関係団体、大学・研究機関等、多様なステークホルダーといった、いわば産官学が一体となったコラボレーションを実現させることが必要なのです。このサイクルを回し続けることが結果として、食と農という産業の付加価値を持続的に向上させることにつながります。

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宮尾 大志

製造・流通本部 消費財・サービスグループ日本統括 マネジング・ディレクター

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