化学業界にも押し寄せるデジタル化の波

化学業界は製造業の中でもっともデジタル化が遅れているとされてきました。
しかしアクセンチュアがグローバル25各国、6,300人のエグゼクティブにヒアリングしデジタル化動向を抽出した調査(「テクノロジービジョン2018」)によると、化学業界においてもデジタル活用の機運が高まっていることがわかります。

出典:「テクノロジービジョン2018」アクセンチュア

それぞれの数字は、各トレンドが重要だと考えたエグゼクティブの割合です。その中でも特に研究開発の分野で重要なトレンドとして、ここではトレンド1「AIの市民化」と5「データの信頼性」を取り上げたいと思います。

トレンド1では、今やAIはあらゆる業界でコモディティ化しつつあり、化学業界においてもサプライチェーン、生産、バックオフィス系などのさまざまな場面でAIを使いこなす企業が増えてきています。
そして今回のメイントピックともいえる重要なトレンドは、トレンド5「データの信頼性」です。データをもとに意思決定を行う「データドリブンコンサルティング」は多くの企業が力を入れており、例えばアクセンチュアが支援しているマレーシアのコングロマリットの石油会社では、トップマネジメントがグローバルの販売状況や今後の予測をダイレクトに確認できる体制が構築されています。こうした施策を推し進めていけば、やがて組織のあり方が根本的に変わっていくことでしょう。
本稿では、データを活用して研究開発部門をデジタル化していく必然性と現在の状況について解説します。

欧米の化学企業のデジタル活用と日本の現状

現在、欧米の化学企業はデータを活用した研究開発(デジタルR&D)によって大きく成長しています。
例えば大手欧州化学メーカーでは約100名、大手北米化学メーカーでは約50名ものデータサイエンティストが在籍しており、データを活用した研究開発に取り組んでいます。
大手欧州化学メーカーは150年以上前から研究開発が中心の組織であり、新入社員は必ず研究開発のポジションに配属されます。また、失敗を許し、既存製品の延長線上にはない革新的な研究開発を是とするカルチャーも大手欧州化学メーカーの強みです。研究開発の重要性を誰もが理解しているからこそ、同社はデジタルR&Dに対しても巨額の投資を行っています。

大手北米化学メーカーも同様にデジタルR&Dに力を注いでいます。1990年台からコンピュータを用いた予測モデリングを行い、自動車に搭載される代替フロンのR-134aを生み出した実績があります。
このように欧米の化学メーカーがデジタルR&Dに注力して新製品を生み出す一方、日本の化学メーカーはデジタルR&Dという面では出遅れてしまっている現状があります。

日本の化学企業は伝統的に個々人の技術者の経験と知見によって数々の新素材や化学品の研究開発を成功させてきたという背景があり、現在も研究開発は属人化している面が多々あります。また、既存製品の改善や調整はもとより得意であり、業務効率化という意味でのデジタル化は親和性も高いのですが、ディスラプティブな新しいテクノロジーを用いた研究開発は苦手としています。
デジタルR&Dについてはデータの活用がカギになりますが、属人化しているがゆえにデータの取り方が人によって違ったり、オペレーションが整理されていないなど、課題は山積みになっています。

デジタルR&Dにおける3つのポイント

化学業界の研究開発部門のデジタル化(デジタルR&D)には、シミュレーション、データドリブンR&D、実験室内作業の自動化という3つのポイントがあります。

  • シミュレーション

    1つ目のポイントであるシミュレーションにおいては、コンピュータを用いたシミュレーションを行うことで、新しい分子や特定物質との関係性の発見をより迅速に行えるようになります。これはコンピュータのチップ上で行う化学であることから「In-silico Chemistry」と呼ばれています。「In-silico Chemistry」の実例としては、ニューラルネットワークを使って新しい化合物の製法を予測するタイヤ会社や、コーンスターチからエタノールを生産する酵素の収率を高める技術を開発した事例があります。また、量子コンピュータを用いて分子の類似性を検索することで、副作用がなく量産しやすい医薬品を開発したり、隣接市場で新しい用途を探すことも可能になります。

  • データドリブンR&D

    2つ目のポイントであるデータドリブンR&Dにおいては、生産や試験、顧客の要望など、さまざまなデータを整理し、誰もがアクセスできるようにしなければなりません。企業間の連携やデータの信頼性・透明性が重要になります。

  • 実験室内作業の自動化

    そして3つ目のポイントである実験室内作業の自動化とは、ラボにロボットを持ち込み、合成や試験で行うプロービングやサンプリングなどを自動化することです。自動車業界では既に広く行われていることであり、化学業界においてもラボの自動化を勧めることで、新しい製品をより早く上市したり、柔軟な対応ができるようになります。実際に、ラボの自動化によってマーケットに出すまでのスピードが約40%削減できた例もあります。

業界への深い知見と最新デジタル技術で化学業界を支援

アクセンチュアでは、研究開発のデジタル化を含め、プロダクトライフサイクルのすべてのステップを包括し、AIと機械学習を活用して研究開発のバリューチェーンに大きなインパクトをもたらすご支援をしております。
通常、すべての化学メーカーは、原材料の選定、製品の調合、試験、内部基準の作成、カスタマートライアルという5つのステップを踏んで製品を市場に出していきます。従来の研究開発は多くの時間とお金がかかるものでしたが、今後、AIと機械学習を活用することですべてのステップにおいてビジネスバリューを高め、製品を市場に出すスピードを加速させることを可能にします。
化学業界はほかの業界に比べてデジタル化が進んでいないとお伝えしましたが、国内の化学企業も昨今デジタルの取組みに非常に力を入れ始めています。
素材・化学等の業界セグメントに特化した独立コンサル専門部隊を持つアクセンチュアには、化学業界に対する深い知見と、国内外の研究開発のデジタル化を推進した実績や事例が数多くあり、デジタルとの橋渡しを多々支援させていただいております。詳しくはご相談をお待ちしております。
デジタルによって化学業界の研究開発のあり方が変わる未来は、もうすぐそこに来ています。

竹井 理文

アクセンチュア株式会社 素材・エネルギー本部 マネジング・ディレクター


田中耕平

アクセンチュア株式会社 素材・エネルギー本部 マネジング・ディレクター

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