【事例】ビッグデータが幼い命を救う
オハイオ州では、ビッグデータを活用し、乳児死亡率に影響する要因の理解と対応の向上を行っています。
オハイオ州では、ビッグデータを活用し、乳児死亡率に影響する要因の理解と対応の向上を行っています。
生後1年もしないうちに子どもを失うということは、家族に計り知れない悲しみをもたらします。乳児死亡率の改善は公衆衛生における喫緊の課題です。
米国で乳児死亡率が最も高い州のひとつであるオハイオ州は特に深刻な状況にあり、2017年の統計では1,000人中7人の乳児が1歳になる前に死亡しています。
そしてその背景には、統計情報だけでは見えてこない人種間における深刻な格差が存在しています。統計の要素をさらに詳しく分析した結果、オハイオ州では黒人の乳児が1歳の誕生日を迎える前に死亡する確率は、白人の乳児に比べて3倍以上も高いことが分かりました。
思い切った対策を打つ必要があると判断したオハイオ州のリーダーたちは、深刻化する課題の複雑さを深く理解し、危険な状態にある母子に対する医療支援サービスを変革するために、ビッグデータ分析に基づく取り組みを開始しました。
米国の各州では通常、乳児死亡率などの公衆衛生課題に取り組む場合、危険な状態に置かれている母親の行動変容をトップダウン型に促すプログラムを設計、適用します。
しかし、オハイオ州では、憶測による前提条件を排除し、各関係機関を横断した情報共有と組織間コラボレーションのためのインフラを整備した上で、高度なアナリティクスを用いて、乳幼児の出生率と死亡率の改善に的を絞った施策を特定するという、新しいアプローチを採用することにしました。
同州は州保健省および行政府の主導のもとで、史上初となる31の州関連機関のデータセットと連邦機関、公的機関、第三者機関などの無数の情報ソースを含む、200を超えるデータセットを集めて分析を行っています。前例のないこの膨大なデータセットの分析作業に革新的かつ協調的な方法で取り組むために、様々な専門分野のメンバーが参加し、素早く行動できるチームを組成しました。また、適切な倫理的監視とガバナンスに則した人間中心のサービス設計(Human-Centered Service Design)アプローチを採用しています。
最終的な目標は、普遍的な根本要因を特定して有効なプログラムを推進することと、的確な予防的介入を実現し、乳児死亡率を改善することにあります。オハイオ州では、ビッグデータからのインサイトを生かして、関係機関および医療サービス提供機関のサービス品質と一貫性を向上するための行動変革に注力し、同州の子どもの命に危険がある家族に対する支援を改善しています。
アクセンチュアはオハイオ州と協力して、従来の学術調査の範囲を超えたデータの統合と分析を行っています。データには、子どもの死亡事例検証(Child Fatality Review)、保険請求履歴などのオハイオ州の乳児と母親の健康に関する情報や、教育、地域、環境、交通、経済的安定など健康を決定付ける社会的要因についてのデータ、さらにはメンタルヘルスや公的給付に関する情報などが含まれています。分析チームはこれらのデータと医学的要素、人口統計および人口調査のデータを組み合わせることで、これまで解明が困難であった3つの疑問へ同州における答えを明らかにしました。
See how Ohio uses big data to save little lives.
オハイオ州の取り組みは、人間中心のアプローチに支えられた高度な分析ツールと、機関の壁を越えたコラボレーションがいかに効果的かを示しています。
オハイオ州ではアクセンチュアの支援のもと、リスクの高い母親に関する360度ビューをわずか3カ月で構築しました。
膨大なプロジェクトデータセットによる機械学習のためにデータサイエンティストを集めて、同州のすべての関係機関における約25万人の母親についての優先付けリストを作成し、ケースごとにリスクのポイントを付与することで階層化し、対象を絞って医療介入を実施しました。
分析チームは、母子に影響を及ぼす健康リスクの要因をコミュニティレベルに至るまで特定し、健康面、社会面、行動面から必要な情報を参照できるパフォーマンスビューを開発しました。医療サービス現場のスタッフは、ポータルサイトを通じて、次のような実用的な情報が提供されます。
現在、オハイオ州では乳児死亡率の改善に最前線で取り組む現場スタッフが、こうしたインサイトを利用できます。データを活用することで、学習用コミュニティの構築や、ベストプラクティスの開発および改良、プログラム全体にわたる具体的な改善を促進し、市民に優れたサービスを提供できるという好循環を実現しています。
同州は分析結果に基づく医療行為プロトコルを作成しており、データにより特定されたプロセスの障壁を取り除いて、エビデンスに基づいたプログラムの策定を積極的に採用しています。このプロトコルでは、オハイオ州の乳児にとって三大リスク要因である、「未熟児の保護」「安全な睡眠環境の確保」「薬物およびニコチンの曝露の緩和」に重点を置いています。このプロトコルの策定には、地域レベルで課題を理解し効果的な医療サービスを提供できるように同州が支援を行っている、ヘルスケア提供者、家庭訪問スタッフ、コミュニティ組織、州機関スタッフなど多くの関係者が参画し、人間中心設計(利用者の立場や感情を理解し、価値共創によるデザインを通じて課題を解決するためのメソッド)のアプローチが採用されています。
オハイオ州では、高度な分析ツールと人間中心のアプローチに支えられた、様々な分野を横断したコラボレーションの威力と効果を重視しています。ビッグデータと大胆な取り組みを組み合わせたことで、同州は乳児と家族の健康の向上を実現し、非常に優れた成果をあげています。