① 消費者の変化:共通の価値観を持つ企業の製品を購入
Z世代を中心とした消費者は、サステナビリティなどの社会課題に関して共通の価値観を持つ企業の製品を積極的に購入する傾向が強くなっている。
② 従業員の意識の変化:自社の利益を社会に還元する企業で働きたい
消費者としての立場だけでなく、人々は自らが従業員として働く企業に対しても持続的な社会の実現に対する貢献を求めるようになっている。
③ 投資判断の重要な基準:資金調達において不可欠な戦略課題
機関投資家は、サステナビリティに取り組んでいない企業を投資の対象から外すネガティブ・スクリーニングからさらに進んで、サステナビリティを成長戦略に組み込んでいるかどうかを投資の判断基準にするようになっている。
このような変化が急速に進む中で、不特定多数の消費者を含む多様なステークホルダーのニーズに応えなければならない小売業界にとって、サステナビリティへの取り組みが喫緊の課題であることは明白だと言えます。
消費者との最終接点を担う小売業界に対する期待
サステナビリティへの対応に向けた経営改革や業務改革が世界規模で拡大する中、日本の小売業界を見てみると、残念ながら国内の他の産業と比較しても、その取り組みは遅れていると言わざるを得ません。
下の図は、AIを活用したスコアリングツールを使って、日本の各業界におけるサステナビリティに対する取り組みを評価したものです。スコアが高い図の右上には、消費財系やエレクトロニクスといったサプライチェーンの上流にあたる業界が集まっていて、現在の日本においてサステナビリティへのシフトが比較的進んでいることが分かります。
一方、小売業界(リテール)のポジションはまだまだ低く、取り組みが進んでいないことは明らかです。小売業界は、サプライチェーン全体の中で消費者との最終接点を担っており、なおかつ卸売も含めてもっとも多くの就業者を抱える労働市場でもあります。それだけに、小売業界がサステナビリティを実現できるか否かは、これからの日本の産業全体のサステナビリティの進捗に大きく影響を与えると言ってもよいでしょう。
さらに、小売業界におけるこの状況が長期化すれば、業界そのものの存亡に関わる懸念すら出てきます。先行して改革を進めてきた消費財やエレクトロニクスなどのメーカーは、ICTやネットコマースの広がりを背景に独自の消費者接点を創り出し、D2C(Direct to Consumer 製造者が直接消費者と取引をすること)を加速させています。この状況をただ傍観していれば、サステナビリティのニーズを的確に捉えた製品やサービスは消費者に直接提供されるようになり、小売業のプレゼンスが失われてしまう可能性も十分に考えられるほど事態は切迫しているのです。