調査レポート

概略

概略

  • 「サステナビリティ」という言葉を聞くと、いわゆるSDGsやESGのような「地球環境や社会的責任に配慮した企業活動」を連想する方が多いのではないでしょうか。
  • しかし、今やサステナビリティは単なる社会貢献活動ではなく、企業の競争力や独自のバリュー創出に関わる重要なテーマとなっています。
  • とりわけ市場環境の変化が激しい小売業界では、すでにサステナビリティに対する取り組みは事業の成否を分ける最優先の経営課題と言っても過言ではありません。
  • 本論考では、これからの小売業界のビジネスにおいてサステナビリティがどのような意味を持つのかを整理しながら、日本企業がサステナビリティ戦略を実践する上でのポイントについて考えてみたいと思います。


サステナビリティを取り巻く3つの環境変化

現在の企業活動において、サステナビリティは従来とは異なる意味を持つようになっています。これまでサステナビリティは「持続的な社会の実現に向けて、自社は何をすべきか?」といった企業の理念やモラル的なアプローチで捉えられることが多く、ビジネスの本業とは切り離して考えるのが一般的でした。それが現在では、サステナビリティをコーポレートガバナンスや成長戦略を考える上で欠かせない重要な指針として位置付ける企業が世界的に増加しています。

この変化の背景には、大きく以下の3つの要因があると考えられます。

①  消費者の変化:共通の価値観を持つ企業の製品を購入
Z世代を中心とした消費者は、サステナビリティなどの社会課題に関して共通の価値観を持つ企業の製品を積極的に購入する傾向が強くなっている。

②  従業員の意識の変化:自社の利益を社会に還元する企業で働きたい
消費者としての立場だけでなく、人々は自らが従業員として働く企業に対しても持続的な社会の実現に対する貢献を求めるようになっている。

③  投資判断の重要な基準:資金調達において不可欠な戦略課題
機関投資家は、サステナビリティに取り組んでいない企業を投資の対象から外すネガティブ・スクリーニングからさらに進んで、サステナビリティを成長戦略に組み込んでいるかどうかを投資の判断基準にするようになっている。

このような変化が急速に進む中で、不特定多数の消費者を含む多様なステークホルダーのニーズに応えなければならない小売業界にとって、サステナビリティへの取り組みが喫緊の課題であることは明白だと言えます。

消費者との最終接点を担う小売業界に対する期待

サステナビリティへの対応に向けた経営改革や業務改革が世界規模で拡大する中、日本の小売業界を見てみると、残念ながら国内の他の産業と比較しても、その取り組みは遅れていると言わざるを得ません。

下の図は、AIを活用したスコアリングツールを使って、日本の各業界におけるサステナビリティに対する取り組みを評価したものです。スコアが高い図の右上には、消費財系やエレクトロニクスといったサプライチェーンの上流にあたる業界が集まっていて、現在の日本においてサステナビリティへのシフトが比較的進んでいることが分かります。

一方、小売業界(リテール)のポジションはまだまだ低く、取り組みが進んでいないことは明らかです。小売業界は、サプライチェーン全体の中で消費者との最終接点を担っており、なおかつ卸売も含めてもっとも多くの就業者を抱える労働市場でもあります。それだけに、小売業界がサステナビリティを実現できるか否かは、これからの日本の産業全体のサステナビリティの進捗に大きく影響を与えると言ってもよいでしょう。

さらに、小売業界におけるこの状況が長期化すれば、業界そのものの存亡に関わる懸念すら出てきます。先行して改革を進めてきた消費財やエレクトロニクスなどのメーカーは、ICTやネットコマースの広がりを背景に独自の消費者接点を創り出し、D2C(Direct to Consumer 製造者が直接消費者と取引をすること)を加速させています。この状況をただ傍観していれば、サステナビリティのニーズを的確に捉えた製品やサービスは消費者に直接提供されるようになり、小売業のプレゼンスが失われてしまう可能性も十分に考えられるほど事態は切迫しているのです。

図:日本国内の産業において、リテールのサステナビリティレベルは改善余地がある

消費者の共感を呼ぶ「ストーリーテラー思考」の実践

では、この先小売業界はどのようにしてサステナビリティと向き合い、自らの変革を進めていくべきなのでしょうか。そこで重要となる考え方の1つに、サステナビリティを指針とした社会変革を牽引する「ストーリーテラー」になることが挙げられます。

企業が市場にアプローチする際の考え方としては、大きく「マーケットイン思考」と「ストーリーテラー思考」の2つがあります。前者は自社が求める市場や顧客が潜在しているかどうかをリサーチして、明らかになったニーズを踏まえて製品やサービスを提供していくというものです。一方で後者は、今回のテーマに当てはめると、企業自らがサステナビリティの要請に応える製品を創り出し、なおかつ製品単体ではなく、顧客が求める一連のストーリーとして提供していくというアプローチになります。

「ストーリーテラー思考」の代表的な成功例としては、米国のスーパーマーケットチェーン大手であるウォルマートの取り組みが挙げられます。同社が導入した「The Sustainability Insight System (THESIS) Index」と呼ばれる指標は、取引先企業と連携したプラットフォーム上で製品ごとに重視すべき項目を設定し、製品を納入する取引先が登録したデータをもとに、その企業がウォルマートの定めたサステナビリティの要件を満たしているかを判断するものです。

同社は現在、世界で約10万社のサプライヤーを対象にこの指標を運用し、製品のライフサイクル全体を通じた社会や環境への影響を分析し、社会が求めるサステナビリティの実現を推進しています。こうした取り組みが、ウォルマートの描くサステナビリティのストーリーを雄弁に語り、消費者からの共感を得る原動力となっているのです。

図:マーケティング思考 v.s. ストーリーテラー思考

ストーリーテラー思考の実践における4つのレイヤー

日本の小売業界が「ストーリーテラー思考」に基づくサステナビリティ経営を実現するには、まず部門を横断した全社規模の議論が重要になります。アクセンチュアでは、この議論を進めていく上で有効な以下の4つのレイヤーを提唱しています。

①  パーパス・ビジョンへの組み込み
ストーリーテラー思考の実践の議論の出発点として、自社のパーパス(存在意義)やビジョンの再構築は、避けて通れません。ここでは、いかに本業と直結したパーパスやビジョンを組み立てられるかが重要なポイントとなります。業界におけるサステナビリティの課題を、どのようにして自社のビジネスと結びつけることができるか。このことを明らかにできなければ、先に進むことはできません。

ただし、日本の企業では理念からスタートするとなかなか議論が進展しないケースも少なくありません。パーパスに求められる3要素(共感、独自性、具体性)については、別の論考でもご紹介した通りですが、改めて理念に基づいた「あるべき」だけでなく、「どうありたいか」の議論が不可欠です。社内における合意形成のアプローチはいくつか考えられますが、まずは経営者としてのパーパス案をデザインすることが議論の第一歩となります。

②  成長戦略のコアに据える
議論から導き出されたパーパスやビジョンを、具体的な成長戦略に落とし込むレイヤーです。ここでも、サステナビリティに関する具体的な取り組みを自社の事業と直結させることが必須の条件となります。たとえば、ウォルマートの調達指標のような仕組みを既存のバリューチェーン上に構築する、あるいはサステナビリティの取り組み自体を新たなビジネス機会と捉えて、そこにフォーカスした新規事業を立ち上げるといったことが考えられます。

③  事業部業務への落とし込み
立案した戦略をいよいよ実行するための仕組みづくりを行うレイヤーです。ここは戦略の実行性を担保する部分なので、いかに戦略を社内のガバナンスモデルにうまく組み込めるかが課題となります。たとえば、インターナル・カーボンプライシング(CO2排出量を社内で価格換算する)のような環境関連の指標を採用し、社内の業績管理に組み込んでいくといったことが考えられます。

なお、②と③はセットで進めていくことが必要になるケースが多くあります。理念としてのサステナビリティを具体的な事業戦略に組み込んで実践していくプロセスでは、経営層と現場が緊密に連携しながら、戦略策定とその実践のPDCAサイクルをアジャイルに回していく必要があるからです。

④  積極的な情報発信
いわゆるコーポレートコミュニケーションのレイヤーです。サステナビリティへの取り組みを付加価値につなげていくためにも、消費者や投資家、社会全体に対して積極的かつ適切な情報開示を行なっていくことが非常に重要になります。

図:ストーリーテラー思考の実践における4つのレイヤー

この4つのレイヤーの実践を通じて成果を上げている国内事例として、カジュアル衣料品や雑貨を提供する株式会社アダストリアの取り組みが挙げられます。同社では「ファッションのワクワクを、未来まで。」をサステナビリティのポリシーに掲げ、さまざまな施策を打ち出しています。

そこでは「ファッションロスのない世界」を作るための衣料品回収・リサイクルや、子供服のおさがりシェアリングサービス、余ってしまった廃棄予定の衣服を黒染め技術を生かしたアップサイクルブランドとして展開するといったSDGs的なアプローチのほか、アパレルサーキュラーエコノミーの実現を目的に「お客さま参加型」の店舗を2022年2月にオープンするなど、店舗での顧客体験にサステナビリティを組み込んだモデル構築なども進めています。

サステナビリティを踏まえた新たな成長戦略

アクセンチュアでは、本稿でご紹介した「ストーリーテラー思考」に基づくサステナビリティ経営の実践に取り組む日本企業を、4つのレイヤーを踏まえたトータルな視点でサポートしています。

たとえば、パーパス・ビジョン戦略の立ち上げでは、当社のストラテジーチームによる議論のコンサルティング。また、実際の業務プロセスへの落とし込みに際しては、テクノロジーチームや経営管理の専門チームと連携しながら、実効性のあるシステム構築を支援しています。もちろん情報発信のレイヤーでも、ブランディングやECサイト運用も含めたクリエイティブ支援などを提供していきます。

また、お客様企業の状況によっては①~④のレイヤーの順序を入れ替えたり、並行で進めるといった判断・調整も必要になります。アクセンチュアでは、こうしたプロジェクトのスタートからゴールまでを、エンドツーエンドでサポートできる体制を整えています。アクセンチュアではサステナビリティを踏まえた新たな成長戦略を模索されている小売企業の皆様のご支援を提供してまいります。

江川 恭太

ビジネス コンサルティング本部
ストラテジーグループ
流通・小売 プラクティス日本統括
マネジング・ディレクター


内田 悠介

ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ 流通・小売プラクティス シニアマネジャー

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