調査レポート

概要

概要

  • 経営者は、これまで以上に、従業員の健康と幸福に関して責任を負い、その信頼を得るために積極的に行動しています。一方、従業員は経営者に対して更なる期待を寄せており、新型コロナウイルスの感染拡大によって先行きが見えない今、その傾向が顕著にみられます。
  • アクセンチュアが行った調査より、企業が従業員の潜在能力を100%引き出すためには、従業員が抱く6つの基本的なニーズを満たす必要があることが分かりました。
  • 「Net Better Off(正味幸福度の向上)」というフレームワークを利用し、従業員の感情/精神、人間関係、身体、金銭、目的意識、雇用の6つの指標について、企業が従業員のニーズを満たせているかどうかを評価します。
  • ビジネスの主体は人です。これら6つの指標についての満足度を改善することで、組織と従業員との有意義な信頼関係を築き、業績向上につなげていくことができます。
  • 「Modern HR Leaders(現代の先駆的な人事リーダー)」は、従業員の成長とビジネスの成長を達成する、触媒となる存在です。彼らは新たな理念を示し、新たなスキルを探求し、日々職場におけるコラボレーションを創造しています。


CHROは成長の起爆剤

近年、従業員の安全や雇用、支援体制構築、人事における公平性を担保するための企業努力などが重視される中、経営層の中でも特にCHRO(最高人事責任者)が、極めて重要な役割を担うようになっています。先進的なCHROは、“信頼”こそが、職場における新たな価値であることを知っています。“信頼”は、従業員を支える組織文化の醸成、事業成長、そして従業員のコミュニティを拡げることも可能にします。

COVID-19による目下の危機がいずれ過ぎ去れば、人々は、誰のためにどこで働くかを、自ら選択することになります。従業員へのより手厚いサポートが求められる中で、その声に真摯に応えようとする企業が、これからの労働市場において、勝者になっていくでしょう。

では、従業員は雇用主に具体的に何を求めているのでしょうか?従業員は、自分自身に関するニーズ(身体、金銭、雇用、感情/精神)、自分と他者との関係に関するニーズ(人間関係)、自分を含む組織全体に関するニーズ(目的意識)を満たすためのサポートを求めています。これらのニーズへの対応は、CHROにとって最も基本的なミッションの1つであり、「従業員をサポートしながら、彼らのレジリエンス(回復力)を高める」という使命に対して、改めて向き合うべき時であると言えます。今こそCHROは、「従業員にとって最も大切なことは何か?」という基本原理を踏まえて、組織と従業員との信頼関係の構築に向けた変革シナリオを書き直す必要があります。これはビジネス成長の観点から見ても重要な取り組みであることが、今回の調査で明らかになっています。

事実として、CHROのみならず、経営層全体が従業員に対する責任を再考していると言えます。パンデミックが発生する前は、従業員のニーズを受け入れサポートする必要があると回答したCXOは、全体のうちわずか35%でした。しかしわずか6か月後、その割合は全体の50%に急増しました。

従業員の可能性を引き出し、業績向上を実現する

アクセンチュアはこのたび、10カ国・15の業界において、3,200人のシニアエグゼクティブ(50%は人事関連の意思決定者、残りはその他CxO)と、1万5,600人以上の従業員を対象に、他に類を見ない包括的な調査を実施しました。その結果、いくつかの貴重な示唆が得られました。

従業員が職場で抱く基本的な6つのニーズを満たすことで、企業は彼らの潜在能力を100%引き出すことができます。このフレームワークを「Net Better Off」と名づけ、従業員のニーズを満たせているかどうかを、感情/精神面、人間関係、身体、金銭、目的意識、雇用の6つの指標に基づいて評価します。

調査では、個人の能力(持っているスキルや強みを職場で生かせること)の64%は、これら6つのニーズがどの程度満たされているかに影響されることが分かりました。一方、在職期間や地位、業界、地理的条件、企業規模といった要因に影響される能力は、わずか9%にも満たないことも明らかになりました。

加えて、引き出されるのは従業員の可能性だけではありません。ビジネスの可能性も同様です。雇用主が6つの指標のスコアを改善して、従業員との有意義な信頼関係を築いていくことで、業績向上も期待できることがわかりました。

この指標の改善に向けた具体的な5つのアクションを検討した結果、GDPが低迷し2020年の平均的な企業収益成長率が-4.7%であると予想されているこの状況下においても、企業は5%の収益成長を見込めることが分かりました。もし経済が好調だったパンデミック前であれば、従業員の幸福度を高める取り組みを推し進めることで、企業は2桁の収益成長率を実現することができていたでしょう。

"画期的な新モデル: 従業員の基本的なニーズに応えるための「Net Better Off」フレームワーク"

COVID-19前に行った調査では、感情、人間関係、目的意識という3つの指標が、従業員の前向きな行動を最も大きく促すという結果が得られました。これに対し、パンデミック下では、身体の健康に関するニーズの重要性が高まり、人間関係や雇用、金銭に関するニーズも高い状態が続いています。

パンデミックが発生する前、ほとんどの企業のリーダーは、雇用と金銭に関する施策のみに投資していました。そのため、従業員の潜在能力を100%引き出すことができないという結果に陥っていました。


従業員の幸福度を向上するために、今問うべきこと

従業員をサポートすることでビジネスを成長させる:優れた結果を生み出す5つのアクション

Net Better Offのフレームワークを念頭に据え、アクセンチュアは統計的テストを用いて20社以上の企業の取り組みを分析し、どの取り組みが収益の成長を促しているか、従業員の潜在能力を最大限に引き出しているかについて調査しました。その結果、5つの取り組みを統合的に実践した場合に、高い投資価値が得られる「スイートスポット」が生まれ、従業員と組織の双方に利益がもたらされることが分かりました。

CHRO自身がこれらの取り組みを設計することはもちろん可能ですが、アクセンチュアの調べでは、個々の従業員からニーズを取得した上で取り組みを設計した方が、広く支持されることが分かっています。さらに、CHROのみならず、経営幹部全体が協力して、これらの取り組みを導入し、積極的に推進していくことも同時に大切です。

「スイートスポット」を実現する5つのアクションとそのインパクト

従業員の行動変容を促し、業績の向上も見込めるにもかかわらず、スイートスポット実現に向けた5つのアクションを実践している組織はごくわずかです。


01 従業員の継続的な学習を支援

この取り組みを積極的に推進している企業は、データ分析によって、将来的なスキルのニーズを予測しています。また、既存の職務・役割を分解・再構築し、どのタスクが機械化に適していて、どのタスクには人間特有のスキルが不可欠になるかを見極めています。さらに、テクノロジーと革新的な手法を取り入れることにより、従業員の学習体験をより効果的かつ利用しやすいものに改善しています。

この取り組みを積極的に展開している企業は、テクノロジーを活用して、データから従業員のニーズを予測し、迅速に対処しています。また、双方向型のアプリケーションを通じて、個々人の意見を吸い上げ、トレンドを把握しています。その結果、企業だけでなく、従業員もデータからの示唆を活かし、信頼関係を構築することができます。アクセンチュアの調査から、従業員の92%は、生産性や健康面などにおける利益を向上させるためであれば、組織への個人情報および業務に関する情報の共有に前向きであることが分かっています。

今や多くの企業が、インテリジェント・テクノロジーを活用して、タスクを自動化し、生産性を向上させています。この取り組みを積極的に推進している企業は、業務やプロセスの再構築に役立つテクノロジーも適切に選択・導入し、人と機械の協働を拡大しています。またテクノロジーを活用して柔軟な働き方を促進し、従業員が革新的な業務に注力できるようにし、満足度を高めています。

この取り組みでは、単に改善プログラムを用意するだけではなく、継続的に状況のチェックやモニタリングを実施していくことも重要です。この取り組みを積極的に展開している企業では、刻々と変化する従業員のニーズを反映すべく、福利厚生関連の取り組みを継続的に見直し、改善を行っています。たとえば、現在のパンデミック下では従業員の身体的・精神的な健康を守るためのイニチアチブを直ちに再設計/策定しなければなりません。また、多くの企業では、多様な従業員のニーズに対応する職場環境を構築し、帰属意識を高め、全ての従業員の平等を促進するような組織風土を育んでいます。

アクセンチュアの調査では、平等性・多様性を重視する文化を持つ企業は、そうでない企業と比べて、11倍のイノベーション思考を持つことが分かりました。この取り組みを積極的に実践している企業は、人事指標の活用に対するコミットメントを、実際の行動で示しています。たとえば、人事指標の設定により透明性を確保すると同時に、その目標と結果を社内に共有し、説明責任の強化を図っていくことが理想的な状態です。社会的な不公正に関する問題が活発に議論されており、個人のアイデンティティがいくつもの観点から語られるようになった今、企業はビジネス目標を掲げることのみに重点を置くのではなく、個々人が帰属意識を持て、組織の中でもプライベートにおいても人間らしく存在できる職場づくりに向け、適切なアクションを取る必要があります。

現代の人事リーダーが持つべきマインドセット

現代における先駆的な人事リーダーとは、経営層に求められる新たな役割を担っていると言えます。すなわち、単に効率性を重視した人事・組織プロセスを実行するのではなく、異なる視点から未来に必要なプロセスを設計することです。ビジネスのパフォーマンスを向上させながら、従業員への手厚いサポートとコミュニティへの配慮に基づき従業員体験を生み出す役割を担います。

さらに、彼らは従業員が新しいテクノロジーを活用してクリエイティブに仕事ができるように支援します。また、様々な職位・職能の従業員の成果を、組織の業績、チームに結びつけます。さらに、組織が複数の目標を同時に達成できるようにサポートすることや、信頼と説明責任に基づいて組織と従業員との関係を強化する、業績向上を図る、社会に望ましい変化をもたらす、といったことも現代の人事リーダーの役割です。

これらの目標が示唆するとおり、現代の人事リーダーは従来の人事リーダーと比較して、従業員のNet Better off(正味幸福度)の向上に対して、2.3倍もの責任を担っています。

現代の人事リーダーのマインドセット


Modern HR Graph

現代の人事リーダーの特徴

アクセンチュアの調査結果によると、現代の人事リーダーと従来の人事リーダーの間には、業務アプローチにおいて3つの違いがあることを明らかになりました。その3つの違いとは、現代の人事リーダーは新たな理念を示していること、新たなスキルを追求していること、そして新たなコラボレーションを創出しようと努めていることです。具体的には、現代の人事リーダーたちは従業員やビジネス、コミュニティ全体の利益に貢献すべく、新たなマインドセットや説明責任の強化に積極的に取り組んでいます。

また、HRに課せられた新しい役割を果たすために、新たなスキルセットを開発し、従業員のスキルアップにも重点を置いています。さらに、現代の人事リーダーたちは従業員のニーズに応えながら、組織共通の成功を達成するための全社横断的なチームの形成を促します。

調査によると、人事リーダーのうち“現代の先駆的な人事リーダー”に該当するのは、全体の20%未満でした。まだ小さな集団ではありますが、彼らはすべての業務の中心に「人」を据えており、これまでとは異なる道を歩んでいる、画期的かつ重要な存在です。

現代の人事リーダーが持つべきマインドセット

人を育て、ビジネスを育てる

企業にとって従業員のNet Better off(正味幸福度)を高めることは、これまで以上に重要です。従業員が最も必要としているときに手を差し伸べ、従業員と企業の信頼関係を強化することが将来の利益創出にもつながります。

Net Better Offモデルは、個々の従業員の持つ潜在能力を100%発揮できるよう支援するフレームワークです。また人々が人生に対して、より多くの意味を求める時代の中で、より大きな目的意識を感じながら働くことを可能にします。さらに、従業員のNet Better off(正味幸福度)を高めることで、多くの企業が困難に直面している状況であっても、ビジネス成長の実現に役立てることができます。

ただし、この方向転換を実現するには、テクノロジーを駆使した革新的なアプローチで問題を解決し、業務プロセスを再構築することのできる先駆的な人事リーダーの存在が不可欠です。また、データを活用して従業員のニーズに応えていくことも求められます。

現代の人事リーダーは、想像に基づく取り組みだけでは、従業員のNet Better off(正味幸福度)を高めることは不可能であることを知っています。必要なのは、他者への敬意と関心を職場の中心に据え、データを活用し、透明性ある人材マネジメントに基づく信頼関係を醸成することです。会社からの十分なサポートを提供すれば、従業員の潜在能力はさらに開花します。

究極的には、現代の人事リーダーには職能というよりも理念が重要であり、個人、チーム、組織、およびコミュニティの潜在能力を100%引き出せるような仕事と職場環境を設計/構築することがゴールと言えます。従業員とコミュニティは、CHROが他のCXOと協力し、この危機を乗り越えさらに進化することを期待しています。HRの未来は、今この瞬間をどのように捉えるかにかかっているのです。


ビジネススポンサー:エヴァ・セイジ=ギャヴィン、シニア・マネジング・ディレクター、グローバル・タレント&オーガニゼーション/ヒューマン・ポテンシャル・プラクティス・リード

Ellyn Shook

CHIEF LEADERSHIP AND HUMAN RESOURCES OFFICER, ACCENTURE


David Rodriguez, Ph.D.

Global Chief Human Resources Officer, Marriott International

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