調査レポート

概略

概略

  • 自動車産業は「CASE」と呼ばれる時代において、自動車開発にソフトウエアが極めて重要な意味を持つようになりました。
  • UX/UIといったHMI(ヒューマンマシンインタフェース)の設計によって、いかにして消費者に新たなユーザー体験を提供できるかが、ビジネスの成否を左右する時代に。
  • 次世代のアジャイルな自動車開発には、従来の開発プロセスを抜本的に見直し、バリューチェーン全体の組み替えと人材のリスキリングが急務です。
  • EV車などサステナビリティへの取り組みは業界のイノベーションをさらに加速しています。企業経営には全方位での価値創出が求められています。


世界の自動車産業は今、新たな変革に向けて大きく舵を切ろうとしています。Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとった「CASE」と呼ばれる次世代の自動車のコンセプトの中で、その開発においてはソフトウエアが極めて重要な意味を持つようになっています。このことはOEMやサプライヤーに単なるEV化にとどまらないインパクトをもたらし、ソフトウエア・デファインドの概念に基づくUX/UIといったHMI(ヒューマンマシンインタフェース)の設計によって、いかにして消費者に新たなユーザー体験を提供できるかが、ビジネスの成否を分けるコアバリューとなります。そこで本稿では、HMIで差別化を図りながら熾烈な競争を勝ち抜くために、これからのOEMやサプライヤーは何をしなければならないのかについて考えてみたいと思います。

CASE時代の車両に求められる新たなユーザー体験

デジタルが社会そのものや私たちの生活に与える影響がますます拡大する状況は、自動車産業も例外ではありません。走る、曲がる、止まるといった基本性能や安全性だけで、自動車ビジネスが成り立つ時代はすでに過去のものとなりました。従来のこうした機能はハードウェアの性能によって実現されていましたが、現在の消費者がCASE車両に期待しているのは、車が止まっているとき、車で移動しているとき、また車から降りた後も含めた一貫したユーザー体験の提供です。そこでは、人が直接触れることで新たな価値創出の源泉となるUX/UI といったHMIがコアバリューとなり、それらを制御する役割を担うのがソフトウエアです。

HMIによる差別化に注力する中国、欧州のOEM

こうした自動車産業の変化は、最近の上海モーターショーを見ても明らかです。これまでのモーターショーと言えば、新たな車種やEV時代のコンセプトカーが最大の目玉でしたが、2021年のモーターショーでは欧州や中国のOEMを中心に、そのフォーカス領域はHMIへとシフトしていました。

OEM各社は、車室内空間での体験を充実させることで差別化を図り、しかもこれまでは高級車だけのものだと思われていたHMIは、市販価格が200万円以下の小型車にまで搭載されるようになっています。これを見れば、中国や欧州のOEM各社がソフトウエア・デファインドのHMI開発に大きな力を注いでいることは明確です。

これまでの車両開発では、OEMはメーター、エアコン、スイッチパネルなどを個別のサプライヤーからソフトウエアが組み込まれた形で提供を受け、それらを連携させてHMIを実現していました。しかし、ハードウェアが変わるとソフトウエアも変えなければいけないこの方式は汎用性が低く、CASE車両の開発においては通用しにくくなっています。

タッチ操作、アイコン、画面デザインなどのデジタルインターフェースが車室内空間の差別化要因となるCASE車両の開発では、スマートフォンのアプリケーション開発と同様に、1つのチップの上にOSが搭載され、その上のアプリケーションレイヤーを含めた一貫した開発体制が不可欠です。これにより、ハードウェアの汎用性とソフトウエアの流用性を両立させながら、必要に応じてソフトウエアをアップデートしながら、新たなHMIが搭載された次世代モデルを迅速に開発することができるのです。

提供価値の変化

  • 社会との整合性・適合性
  • 多種多様な人々の嗜好に対する訴求
  • マスカスタマイゼーションの議論に通じる議論

全て見る

エコシステムの視点に立ったアジャイル開発の実践

ソフトウエアが重要な意味を持つ車両開発は、OEM、サプライヤー、ディーラーといった従来の自動車産業のプレイヤーだけでは成り立たなくなっています。すでに車種ごとの独自設計や、それを支えてきたピラミッド型の分業体制は適合しにくくなっており、技術や人的リソースについても、膨大なデータを扱うAIの実装やクラウドとの連携までを、すべて1社でカバーすることはもはや不可能です。

さらに、次世代の車両開発においては、これまで以上にスピーディな商品企画と意思決定が求められます。こうした環境の変化を受けて、OEMやサプライヤーはこれまでの開発プロセスを抜本的に見直し、バリューチェーン全体を組み替えることが喫緊の課題となっています。

そこでは、工数が爆発的に増えるソフトウエア開発を柔軟にコントロールするために、ハイテク業界で行われているようなレイヤー化された開発アーキテクチャが不可欠です。そして、これらをすべて内製化するのではなく、アーキテクチャのどのレイヤーを自ら管理し、どのレイヤーを外部やパートナーシップに委ねるかも吟味しながら戦略を立てていく必要があります。

規模が重要となるソフトウエア開発では、特定のサプライヤーとの関係で成り立っていた従来の考え方から脱却し、エコシステムの視点に立ってキャパシティーを柔軟にコントロールしながら、他の業界では当たり前のモデルベース開発やシステムエンジニアリング思考がより重要になるということです。

こうした動きは、やはり欧州や中国のOEM、サプライヤーが先行しています。新興OEMでは、アイディエーションから実走可能な状態へのプロトタイピングまで、1年半掛からないという短期間での開発が一般的になりつつあります。

短いサイクルでプロトタイピングを繰り返すアジャイル開発の手法によって、ピラミッド型の分業体制では2~3年もの時間を要する開発プロセスも、大幅に短縮することが可能になります。

新たな開発プロセスを支えるソフトウエア人材の育成

欧州や中国のOEM、サプライヤーがこうした領域で強みを発揮している背景のひとつとして、特にEV専業の新興企業はプロセスが固定化されたウォーターフォール型の開発とは無縁であり、最も効率的なソフトウエアの開発体制をゼロベースで構築できるアドバンテージがあります。逆にレガシーな手法から脱却できない企業は、次世代の手法への移行に苦戦しており、ソフトウエアの開発能力、インテグレーション能力、オーケストレーション能力を社内で構築することができていません。ソフトウエアエンジニアを社内で育成しようとしても、メカニカルなエンジニアをソフトウエアエンジニアに育成することは容易ではなく、スケールもできないからです。

こうした課題に対して、豊富なソフトウェアエンジニアを擁する外部パートナー企業を活用する手法があります。ミドルウェア、OS、アプリケーションのレイヤー、また膨大なデータを扱うコネクティビティの領域では、当然のようにクラウドインフラの構築や連携が必要になります。これらをエンドツーエンドで支援できる体制は、次世代の競争を勝ち抜くためのイノベーションを目指すOEM、サプライヤーにとって、新たな価値創出を支える貴重なリソースとなるはずです。アクセンチュアはインド、中国などの拠点に豊富なソフトウエアエンジニアを擁し、デリバリーセンターを通じた広範な支援体制を整えています。

EV化をトリガーとした新たなイノベーションの創出

現在の自動車産業は、サステナビリティの観点からもEV化が避けられない状況にあります。企業の社会的な責任を踏まえた経営とイノベーションの両立は、多くのステークホルダーからの評価を支える新たな価値指標として、これからますます重視されていくことになります。自動車産業においてもCO2の排出量削減に向けたEV化がトリガーとなって、今後も新たなプレイヤーが業界に参入し、さまざまなイノベーションが生まれるはずです。このことは、二輪自動車やその他の産業機械の世界においても同様に当てはまります。

まさに世界の産業界は業界を横断した新たな変革期を迎えており、今後企業経営は、財務面での価値創出にとどまらず、新たな体験の提供、サステナビリティ、人材のリスキリング、コミュニティ、インクルージョン&ダイバーシティといった全方位的な視点で企業経営をしていく必要に迫られています。アクセンチュアでは企業経営における全方位的な価値(360°バリュー)の創出を支援しています。

新たなコアバリューとしてHMIの開発に注目が集まる自動車産業の現状は、いわば広く製造業の未来に関わる多くの課題の先例といえます。アクセンチュアでは、今顕在化している課題のみならず、潜在的な課題やニーズを多くのお客様と共有しながら、今後もさまざまなイノベーションの支援と価値創出に取り組んでいきたいと考えています。

鵜塚 直人

製造・流通本部 マネジング・ディレクター

関連コンテンツはこちら

自動車体験の再創造
EV:新たなパワートレイン開発のさらにその先へ

ニュースレター
ニュースレターで最新情報を入手(英語) ニュースレターで最新情報を入手(英語)