課題

近年、海運業界ではデータ活用による事業の合理化や効率化が積極的に推進されています。3社の海運大手の統合によって誕生したオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)では、かねてより「コンテナ在庫をいかに効率的に管理するか」が重要な経営課題となっていました。全世界で数百万本にのぼるコンテナは、その運用コストだけでも莫大です。ONEではコンテナの運用管理において、具体的には次のような課題を意識していました。

  • 在庫適正化のために精確な需要予測を行いたい
  • 在庫は最小限にしたいが不足も避けたい
  • 拠点数が膨大であることに加え、拠点ごとに特性や傾向が異なるため、適切な在庫管理が難しい

「どの拠点にどの程度の在庫を持つか」というロジックを明確化することが困難であったため、これまで現場担当者の経験と肌感覚といった経験則に頼った管理に頼るしかなく、旧来から経営層や現場管理者を悩ませるテーマでした。

2017年に3社の海運会社の統合によって誕生したONEでは、スケールメリットによって一定の合理化を達成していました。さらなる効率化・合理化のための革新的な手法を模索していたONEのたどりついたアプローチが、ビッグデータとアナリティクスの活用です。同社では、いわば「ITと数式の力」の活用によって、この課題の解決に乗り出しました。

アクセンチュアの役割

コンテナの管理において、「今週および翌週に世界中の各拠点で空コンテナ在庫をどの程度持てばよいのか」を予測するには、関係する変数が膨大であるため定量的な指標のみで意思決定するのは、困難とされてきました。しかし、その様々な変数の関係性を紐解き、数理的に組み上げることで、適正在庫を科学的に算出することを目的とするプロジェクトを開始しました。これを実現することで、コンテナの総在庫本数を削減による、大幅なコスト削減が可能になることが見込まれました。プロジェクト初期段階において、ONEではその計算のための戦略的なキーファクターを次の4点へと絞り込みました。

  • 全世界における精確な需要、輸入業者からの返却数を予測
  • 需要と表裏一体である、最適な空コンテナ在庫量の算出
  • コンテナ回送ルートの最適化
  • 空コンテナ回送費用の運賃プライシングへの反映も含めた、運賃の妥当性評価

ONEではこのプロジェクトを「OASIS(ONE Agile Supply chain Integrated System)」と命名し、ソリューションの検討に入りました。同社が注目したのは、アクセンチュアが主に小売業界向けに提供している在庫・補充最適化サービスの「AFS (Accenture Fulfilment Service)*」です。プロジェクトチームでは、フィージビリティを2018年10月から開始し、コンテナ船業務独自の要素(空コンテナの返却など)を盛り込んだうえでロジックとアルゴリズムを構築していきました。ONEにおけるAFSの活用方法をまとめると、次のように集約できます。

  • 全世界のコンテナの在庫管理拠点(約650カ所)のそれぞれについて、コンテナタイプ、サイズごとの適正在庫量や過不足をはじめとする「需要予測」をAFSが算出
  • 不足時は他拠点から補充すべき数量を、余剰時は他拠点へ送り出すべき数量をAFSが自動で算出し、複数の拠点での在庫最適化を図る
  • AFSが算出した最適在庫数量をもとに、「OPT(Optimization System)**」が「どの拠点からどの拠点へ」「どのように運送するか」といったルート最適化を計算

*AFSはアクセンチュアが提供するAI Powered SCMを構成するサービスの1つです

**OPT:ONEが他社と共同開発した「空コンテナ回送ルート最適化の算出システム」

ONEではコンテナ運用の「フロー」領域で以前からOPTが稼働していたため、本プロジェクトではAFSが「ストック」領域の最適化に貢献した形といえます。

今回のプロジェクトはグローバル規模のシステム導入であったにも関わらず、検証開始から組織・プロセスの改革をはかりながら、アルゴリズムの構築、システムの実装までをわずか6ヶ月程度で完了しました。アクセンチュアのチームがアジャイル開発を採用し、無駄なステップをそぎ落とすなど、「プロジェクトが目指す本質」にフォーカスしたことが、迅速導入を実現できた理由の一つと言えます。

トランスフォーメーション

2019年上半期から段階的に導入がスタートしており、すでに日本、北米、中国を含む25カ国の拠点 に導入済みです。この25カ国だけで、全世界の陸上コンテナ在庫の約75%をカバーしています(2020年4月時点)。

OASISプロジェクトの推進により、下記のような成果を達成しました。

  • 需要予測の精度が人力での予測と比べて10〜15%改善
  • 顧客からのコンテナ返却の予測精度が向上
  • 余剰在庫を削減

本プロジェクトでは、AFSをONE仕様へと大幅にカスタマイズして適用した点も特徴です。たとえば、「コンテナ返却」「トランシップ」といった要素がコンテナ船事業における独特の要素です。また、安全在庫量に関する考え方も一般的な流通企業とは大きく異なっています。650カ所の拠点も画一的ではなく、それぞれがコンテナのトレードインバランスにおいて「輸出型」「輸入型」「均衡型」などタイプが異なっています。適正在庫は季節・時期によっても変動するため、需要予測アルゴリズムはONE内部のビッグデータを活用して構築しています。AFS導入による需要予測のシステム化は、ONEにさらに2つの大きなメリットをもたらしました。

  • システム化によって業務ロジックの明確化を実現
    全世界の拠点を同一基準、同一システムで継続的に管理できるため、コンテナ在庫管理業務の全体にわたってロジックの明確化を実現できました。
  • 情報集約から分析までの迅速化
    コンテナ在庫管理の業務プロセスを全社レベルで標準化したため、グローバルHQと各国の現場が定量的情報を用いてコミュニケーションできるようになりました。これにより、議論がより具体化したほか、現場で発生している事象や状況をグローバルHQが即座にデータで把握可能になったなど、情報伝達から結果の振返り分析までが迅速化しました。

なお、余裕が生まれたことで「人手をかけるべき業務」の適切な判断と人的リソースの最適化が可能になったこともまた、大きなメリットです。

創出された価値

今後、プロジェクトチームでは一層の精度向上を目指して、予測モデルや予測アルゴリズムの恒常的な改善・更新に取り組んでいます。一般的に需要予測モデルでは、モデルの陳腐化や前提条件の変化による精度低下が発生しがちですが、ONEとアクセンチュアは継続的な協業体制を維持しており、精度の継続的な向上を進めています。また、現在導入プロジェクトが進行中の他の拠点への順次展開地域を拡大し、ますますの効率化の実現を目指しています。

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