課題―求める変化

会社全体においてデジタル変革を目指す取り組みに着手した三井金属鉱業株式会社では、機能材料事業本部にてデジタルイノベーション活動を推進中。セラミックスの機能材料を製造しており主要事業の一つであるセラミックス事業部にて、モバイル端末を活用した操業領域のデジタル変革をするとともに新たなデータ基盤を構築、生産工場の課題解決に挑戦しています。

機能材料事業本部のデジタルイノベーション推進

2024年に創業150周年を迎える三井金属鉱業(以下、三井金属)。その中核となる機能材料事業本部では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を成長戦略と捉え、本部内にデジタルイノベーションを実現するための専門組織を設置して、様々なデジタル展開を進めています。

三井金属 機能材料事業本部 企画部 担当部長 デジタルイノベーション担当 の濵本 真氏は同社のデジタル変革に関する課題について、次のように説明します。

「これまで本部に所属する各事業部が自走する形でIT活用を進めていた状況ですが、その状況をDX視点で客観的に評価したところ世の中に比べて"周回遅れ"になりつつある結論に達しました。しかし裏を返せば最新のデジタルを受け入れやすい状況にあると考え、デジタルの取り組みが事業競争力そのものになるべく、本部と事業部が一丸となりデジタルイノベーション(DI)活動を実施しております。」(濵本氏)

三井金属の中核事業セグメントの一つである機能材料事業本部は、社内で「多様性の島」との表現がぴったりなほど様々な事業ユニットが集合している本部です。なかでもセラミックス事業部の大牟田工場(福岡県)はQC(品質管理)サークル活動が根付いているなど、作業の改善活動が活発で成果も出ている一方、業務管理面での効率化では非常に苦戦していたことを三井金属 機能材料事業本部 セラミックス事業部 大牟田工場 生産企画課 課長 兼 企画室 室長補佐の山下 圭介氏は振り返ります。

「セラミックス事業部は商品構成が少量多品種であり、製品ごとに原料、プロセス、管理項目、指図や注文量が大きく異なります。そのため、網羅的な管理が非常に難しく、帳票の多い作業現場となっていました。これまでも紙では記録・情報保存はなされていたものの、データとして活用するには程遠い状態にあったのです」(山下氏)

操業ノウハウの属人化解消へ、自ら"実験台"に名乗り出たセラミックス事業部

これまでは目的の情報やデータを求めて従業員が工場の中を頻繁に移動する必要があったほか、操業ノウハウが個々人の経験や知識に偏っているなどの属人化が長年の課題となっていました。しかし本部側で主導するDI活動が具体的に動き出したことを受け、セラミックス事業部でも操業領域のDI活動の機運が急速に高まりました。

「本部がDI活動の中で新たに策定したITグランドデザインに強く関心があったことから、ぜひ私たちを"実験台"として欲しいと意気込みを伝え、勉強会に積極的に参加しました」と山下氏はプロジェクト発足の経緯を説明しつつも、工場現場ではデジタル全般への期待感などに温度差があったと話します。

「従業員の多くにとって、いわゆる“デジタル”は縁遠い話題でした。そのため、仕事はどう変わるのか、本当にうまくいくのかといった懐疑的な声も多く寄せられました」(山下氏)

ITグランドデザインは、いわばデジタル変革の「道しるべ」です。そこから事業部にとっての方向性を絞り込むための、個別の改革ロードマップを作成し、まずは、紙情報をデータ化して形式知化・集合知化していく変革に乗り出しました。「デザインシンキングの手法を取り入れ、実際に現場を動かしている様々な人材を集めてワークショップを実施しました。構想をまとめていく過程で操業現場のデジタルイノベーションの一つの形を見出すことができました」と濵本氏は説明します。

三井金属鉱業:iPadモバイルアプリ「SWITCH」をセラミックス事業部にて導入

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三井金属 濵本 真氏

三井金属 山下 圭介氏

取り組み―技術と人間の創意工夫

ワークショップで現場を巻き込む

三井金属ではアクセンチュアのコンサルタントとともに、現場の根本的問題を要素別に整理・分解する作業から着手しました。ワークショップを開催すると操業の現場からは希望・要望が噴出。しかし、これこそ好機と捉えて対話を重ねたことで、工場の方々と共にデジタル化を推進する協力体制や信頼関係の構築、デジタルへの不安の解消が急速に進みました。

同事業部 大牟田工場 製造課 白物係 係長の上野 高文氏は、セラミックス事業部での具体的なDI活動の一つが「タブレット端末を用いた有用情報の管理と利活用」(モバイル活用)に決定した経緯について、次のように話します。

「白物係には数万品種の製品があり、製造にあたっての組み合わせも多岐にわたるため、データや情報が不可欠です。しかし紙では有用情報の存在と保管場所を知っている人しかアクセスできず、その情報を持っている人に電話する、自ら探すといった状態であり、リアルタイムな情報把握に現場では苦労していました。とはいえ、情報検索用のPCを設置しても工場は広大であるため、利用しづらいことに変わりありません。そこで必要なとき、必要な場所で、即座に情報にアクセスする手段としてモバイル活用に行きつきました」(上野氏)

アジャイルの手法でモバイル用ソリューションを開発

モバイル活用を操業領域での取り組みテーマとして決定後、デモ機やモックアップの画面を使った検討を経て、PoC(概念実証)が実施されました。

「その際も、アクセンチュアは単に開発を行うのではなく、業務現場を念入りに視察し、私たちの仕事のプロセスを理解したうえでモバイル活用の詳細を詰めていきました。現場メンバーの生の声を吸い上げることにも長けており、現場へ深く入り込んでくれています。かつて、ここまでしてくれる外部パートナー企業は見たことがありません。現場の安心感も高まりました」と同社 機能材料事業本部 企画部 デジタルイノベーション担当の菱沼 正司氏は述べています。

また、濵本氏はアクセンチュアが自社でシステムを開発するケイパビリティを有しており、構想からシステム実装まで一気通貫で担えることが本プロジェクトにおいて、質が高まったキー要素であると強調します。

「単なるシステム開発の委託先ではなく、デジタルによって業務側がどのような価値を得られるのかといった深い議論がきちんとできており、我々のデジタルイノベーション実現のために、同じベクトルで協働体制ができています」(濵本氏)

初めに要件を定義して画面構成や処理プロセスを決めても、実機や実際の画面を目の当たりにすると、現場からは新しいアイデアやリクエストが登場します。本プロジェクトではアジャイルな開発体制を採用しており、そうした追加の要望を柔軟に取り入れられたことが大きなポイントとなりました。

現場で使用するタブレットは使い勝手の良さやセキュリティ性能からApple iPadを導入し、モバイル用データ基盤にはSalesforceを採用しました。製造担当者はiPadからモバイルアプリを操作しながらSalesforceのデータを参照や登録、製造管理者はPCを使用してSalesforceのマスタデータ等をメンテナンスします。既にCRMとして導入しているSalesforceをデータ基盤とすることで、製造と営業のデータがSalesforceで一元管理されるようになります。製造現場と営業担当者の情報連携が効率化される仕組みを組み込むことで、顧客の応対品質向上につなげていきます。

三井金属 上野 高文氏

セラミックス工場にて、ワークショップの様子(2020年1月)

三井金属 菱沼 正司 氏

セラミックス工場の目指す将来像

図:セラミックス工場の目指す将来像

セラミックス工場のなりたい姿を具体的に、段階的にまとめイメージ

図:セラミックス工場のなりたい姿を具体的に、段階的にまとめイメージ

モバイル活用におけるシステム基盤全体像

図:モバイル活用におけるシステム基盤全体像

期待できる効果

50%

紙帳票の管理に使われていた業務時間の50%を削減できる見込み

560時間

月の工場内で発生していたデータ入力工数の削減実績。ツールの使用に習熟することでより大きな削減効果が見込める

成果―創出された価値

データを資産として、分析による示唆で新しい価値を創出

工場のDI活動において、モバイル活用は単なる入力の電子化ではなく、そこから情報を得ることで業務効率向上にダイレクトに貢献します。「データを資産としてより大きな価値を創出することが目的です」と山下氏が語る通り、品質向上、不具合の未然防止、歩留まり改善に効果が見込まれています。

また、現場で既に使っていた操業のマニュアルを刷新する必要もなく、必要部分を追加連携することで、現場作業者が手順を確認できる仕組みも構築されました。

タブレットのカメラ機能を使って現場の状況をリアルタイム、かつ他のデータと紐づけた情報として保存できます。具体的には、写真をいつ、どこで撮ったものであるかといった補助データと製造情報を組み合わせることで、構内地図と重ね合わせて仕掛かり部材の位置情報をすばやく確認できるといった使い方が実現しています。

業務運営が特定の経験者に集中・依存しやすい製造現場において、デジタルツールは人材育成やスキル・情報の継承や発展にも大きな効果を及ぼします。

「こうしたアイデア自体は、比較的誰にでも思いつくものですが、それをどのように実装していくか、三井金属 機能材料事業本部の現場に即した最適な使い方はどうあるべきかをさらに具体化するには多くの創意工夫が必要となる難易度の高いものでした。しかし期待に応えたソリューションが形になっていくことで、これからの業務の高度化の加速への期待が高まっています。将来的な労働人口減少への備えとしても成果が見込めます」(濵本氏)

このように三井金属 機能材料本部ではデータ活用の基盤が一つ具体化したことで、デジタルイノベーション実現への大きな一歩となりました。

「今回のDI活動を通じて、連携することで大きな価値を生み出せるシステムは社内にたくさんあることにも気がつきました。データから新しい示唆を得る分析や機能拡充はもちろん進めていきますが、既存のシステムと組み合わせることで潜在的価値をより増大できます。たとえば、生産管理システムと今回のデータをつなぐことで、モバイルを起点とする新しい働き方が可能になります」(菱沼氏)

他の拠点への展開で全社規模のデジタル化の促進へ

セラミックス事業部は、自ら名乗りをあげた実験場としての目的を達成し、三井金属 機能材料本部のデジタルイノベーション推進の先導者としてさらなる前進を続けていきます。

また、機能材料事業本部としては、セラミックス事業部で構築した仕組みを他拠点展開することで構築期間の短縮、開発コストの抑制を狙うとともに、部門横断で活用することで仕組みの標準化を行い全体最適につなげていきます。

「当社の事業で最も複雑なセラミックス事業部でDI活動を成功させることは、三井金属のデジタルイノベーションへの大きな弾みとなります。具体的成果を生み出せることが前提になりますが、継続的に本取り組みを展開していく考えです」。濵本氏はこのように今後の展開として抱負を語りました。

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