属人化が深刻な問題となっていた、陸上輸送の現場
石油製品を主力事業とする出光興産は業界シェア約30%、国内6400箇所のサービスステーション(SS)を運営する、日本の社会インフラを担う企業の1社です。
中東地域からタンカーで海上輸送された原油は日本に到着すると製油所と呼ばれる製造基地で精製され、ガス、ガソリン、灯油、軽油、重油、潤滑油などあらゆる石油製品が作られます。出光興産では、精製された燃料油を内航船で国内各地の油槽所(中継拠点)へ輸送。油槽所からはタンクローリー車(以下、ローリー)で配送され、SSや取引先へ届けられます。このように石油製品は、他の社会インフラと同じく「安全かつ安定的な供給」が使命として求められています。
出光興産が運用しているローリーは約1900台。1日あたりの総走行距離を合計すると「地球10周分(約40万km)に達するほどです。各ローリーが毎日200kmを走行し、平均で3箇所の取引先で「荷卸」(燃油等のSSへの納入)を行っています。
長きにわたって石油関連事業で日本経済を支え続けてきた出光興産では、「物流」に関する経営課題としてローリー乗務員や配車手配を担うスタッフの高齢化や人員確保の困難化を認識していました。労働法制の厳格化にも対応していく必要がある中、専門性の高い業務の現場ではスタッフの「職人化・属人化」が深刻になっていたのです。
さらに化石燃料を扱う企業として、地球温暖化対策や環境への取り組みも最優先すべき喫緊の課題です。石油需要が右肩下がりの傾向が進んでいる今、これまで通りに安全かつ安定的な供給を継続するには、コスト削減だけでなく、CO2排出削減にもつながるローリーの走行距離の最適化など、社会的使命にも応えなければなりません。
データに立脚した業務設計で理想のサプライチェーンへ
「企業として競争力強化が重要となる今、ローリーによる配送を委託している協力会社との関係性も変化しています。つまり「我々は元売りとしての仕事だけをし、あとは運送会社にお任せ」というような旧態依然の仕事の切り分け方はもはやできません。出光興産と協力会社は運命共同体として、相互を高め合いながら、重要な社会インフラとしての石油製品輸送を引き続き担っていく必要があります。また、どのように担っていくかについて、相互の実情を理解し共に知恵を出し合いながら協働体制で実現していかなければなりません。」と出光興産株式会社 流通業務部長 寺﨑与志樹氏は述べます。
出光興産では経験と勘に頼った従来の属人的な仕事の進め方では、デジタル化するこれからの社会には対応できないと考えています。「判断は常に客観的なデータをもとに決定するべきです。したがって、判断の拠り所となるデータの蓄積は、経営的にも強いニーズとなっていました」と寺﨑氏は強調します。
出光興産の燃料油の物流を管理する流通業務部では、業務で必要となるデータを「いつ、どこで、どのように、何を運んでいるのかを客観的な情報として把握できるもの」と定義しています。これらを活用できる仕組みを構築し、陸上輸送に関わる関係者の連携基盤として機能させることを我々は考えました。例えば、ローリー乗務員は通常、道路の混雑状況に応じて最適ルートを選択します。
ローリーがどこを走行しているのか、リアルな位置情報を得ることで、運送会社運行管理者と乗務員との連携が容易になる他、万が一のトラブル発生時に状況把握や判断が迅速になり、安全に寄与します。また、納入先である取引先においても、法令で決められている確認業務がありますので、どのようなタイミングでローリーが到着するのかを把握できれば、それに合わせて業務を組み立てることが可能となります。
データを活用し、我々だけでなく、関係者が有効に利用することで、昨今の「働き方改革」の点でも、サプライチェーンに関わる関係者すべての業務効率化に貢献することが可能となります。そして、こうしたアプローチは、荷主である我々出光興産が担うべき使命でもあると考えています。
陸上輸送のみならず、安全かつ安定的な供給のためには油槽所の在庫や海上輸送の状況などを含むサプライチェーン全体を再設計すべき時期です。あらゆるパートナー企業と連携して安全で効率的な物流を担う「エコシステム」を形成し、データや情報システム、走行するローリー、商品である石油製品まで、全体を俯瞰できるマネジメントのあり方を出光興産では模索していたといえます。