課題―求める変化

日東電工株式会社(以下Nitto)では、45年以上にわたり運用してきたホストコンピューターを撤廃し、「SAP S/4HANA®」および複数のクラウドソリューションを連携させたマルチプラットフォームに刷新するプロジェクトを実行。事業変革を支える経営インフラ基盤を軸に「驚きと感動を次々と生み出し、社会に貢献できる価値を継続的に創出していく」という企業体質の構築へ。

1975年に導入したホストコンピューターをベースに拡張を続け、45年以上にわたって運用してきた基幹システムでは、事業を取り巻く急速な変化にはもはや対応することができません。そこでNittoは2022年にホストコンピューターがEOL(保守終了)を迎えるのを前に、基幹システムを全面的に刷新することを決断。今後のグローバル展開も見据えた「Rebornプロジェクト」をスタートさせました。


ビジネスの"足かせ"となっていたホストコンピューター

Nittoは、1918年、第一次世界大戦下で国外からの材料調達も困難となるなか、電気機器に欠かせない絶縁材料の国産化を実現するという志のもと創業しました。

長年にわたり培ってきた基幹技術である粘着技術や塗工技術をベースに、現在ではエレクトロニクス業界や自動車、住宅、インフラ、環境および医療関連などの幅広い領域において、より付加価値の高い製品の"多核化"を進めつつ、海外売上比率が80%に迫るほどグローバルに事業を展開しています。

しかし、このビジネスの足かせとなっていたのが、1975年に導入したホストコンピューターをベースに拡張を続け、45年以上にわたって運用してきた基幹システムです。専務執行役員CIOの大脇泰人氏は、抱えていた課題を次のように話します。

Nittoとしても、世の中で広く叫ばれているDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推進していこうとしていますが、ホストコンピューターを中心とするレガシーな基幹システムのままでは対応は困難です。例えば経営指標をリアルタイムに把握するために、周辺のさまざまなシステムとつなごうとしても多大な工数と時間がかかってしまいます。高精度の回路基板など新事業をさらに伸ばしていこうとしても、その業務形態に基幹システムが追随できないという問題も起こっていました」

そこで2022年にホストコンピューターがEOL(保守終了)を迎えるのを機に、Nittoは基幹システムを全面的に刷新することを決断しました。


Rebornプロジェクト」が掲げた基本方針

こうして2018年に始動したのが「Rebornプロジェクト」です。ホストコンピューターを完全撤廃し、Nittoグループの国内における全事業に対して「SAP S/4HANA®」を中核としたマルチプラットフォームのソリューションで基幹システムを刷新するというものです。

もっとも前述した通り、現行システムは45年以上も前にそのベースが作られたものであり、当時のことを知る者は誰も残っておらず、ブラックボックス化している部分も少なくありません。しかし、そんな困難とリスクを承知のうえで、「Rebornプロジェクト」は進められたのです。

「今このタイミングで複雑化・肥大化してしまった基幹システムを紐解き、抜本的な業務改革をやり遂げなければ、いつまで経ってもDXを推進していくための基盤となる標準インフラを実現できないという強い信念に基づき、必ず期限内にやり遂げると目標を掲げました。『Rebornプロジェクト』では、『事業、業務、IT部門がと一体となった体制でシステム構築に臨む』、『業務改革を前提として、標準パッケージ機能を最大限に活用する』ことを活動の基本方針に定めました」(大脇氏)

日東電工株式会社 専務執行役員 CIO 大脇泰人氏
※写真撮影時のみ、衛生面に配慮した上でマスクを外しております

取組み―技術と人間の創意工夫

グローバル標準のパッケージをマルチプラットフォームで連携

Nittoの「Rebornプロジェクト」はCEOのトップダウンにより、全社一丸となった体制で進められました。CFOをはじめ、各機能軸の役員や事業部門長もステアリングメンバーとして参画する組織横断の指揮系統がつくられ、大脇氏がプロジェクトオーナーに任命されました。さらにITや調達、ロジスティクス、会計などの機能別の組織からもメンバーを集めました。そこにシステム構築を主導する技術系のメンバーとして加わったのが、アクセンチュアのコンサルタントやエンジニアです。

とくに今回はホストコンピューターのEOLを控えて待ったなしの状況にあり、後戻りは決して許されず、是が非でもプロジェクトをやり遂げなくてはなりません。これを支える強い権限を持った実行力が、上述の推進体制から生み出されたのです。

こうして始動したプロジェクト体制のもとで策定された基幹システム刷新の基本構想について、プロジェクトリーダーを務めるIT本部長 中村圭氏は次のように説明します。

Nittoが手がけているさまざまな製品に関しては、事業部門ごとに適したものづくりの方法があります。そのため、独自で設計している各事業部の生産管理システムは、基本的にはそのまま残置しました。要するに、それ以外の業務を司る基幹システムを全面的に再構築し、すべての部門にビッグバン導入するというのが『Rebornプロジェクト』の概要です」

また、今回刷新するシステムは、海外拠点にも展開することを前提としているため、グローバル標準のERPとして「SAP S/4HANA®」を選定。加えて、倉庫・輸送管理を最適化する専用パッケージシステム、複雑な業務プロセスを清流化して業務改革を支援するワークフロー、システム間のデータ統合を実現するインターフェース基盤を構築し、各事業部門の生産管理システムなどを連携させるという方針を打ち出しました。

「こうしたマルチプラットフォームのシステム間連携に対して、アクセンチュアの方々は高度な知見を提供し、われわれの取組みをサポートしてくれました」(中村氏)


プロジェクトの終盤で発生したコロナ禍にも対応

Rebornプロジェクト」は、先行して2018年に標準モデルを構築。マレーシア拠点にパイロット導入して検証を行ったのち、2019年から2021年までの3年間で国内ビッグバン導入を完了するというスケジュールで進められ、予定どおり2021年5月の大型連休明けに本番稼働を実現しました。

もちろん、この過程で多くの苦労もありました。なかでも想定外だったのが2020年の春ごろから国内でも深刻な問題となった新型コロナウイルスの感染拡大です。

「プロジェクト当初はすべてのメンバーが一堂に会して喧々諤々の議論を行っていたのですが、最終段階に向けた約1年間は対面ができなくなり、ほぼすべてのミーティングをオンラインで活動せざるを得ませんでした。とはいえホストコンピューターを撤廃する期限は決まっているため、絶対にスケジュールを遅らせることはできません。そうした中でアクセンチュアの方々は議論を的確に誘導し、業務側とシステム側の課題のすり合わせをスピーディーに進めてくれました。(大脇氏)ただし、すべての議論が順調に進んだわけではなく、例えば業務部門間の認識違いやそれに伴う課題なども多々発生しました。途中、一部の領域では、『標準パッケージ機能を最大限活用する』という基本方針から外れ、アドオンが山積みになった際は、3か月システム開発を遅らせ、根本的な業務改革に立ち戻るという判断もしています。

2021年5月には、予定通り本番稼働を実現することができましたが、立上げ当初は数々のトラブルにも見舞われました。プロジェクトメンバーだけでなく、Nitto全社一丸となりトラブル終息に努め、何とか業務の安定化にこぎつけました。

「アクセンチュアの方々にも大きな負担をかけてしまいましたが、これはRebornプロジェクトの発足以前から、一部業務のアウトソーシングやシステム運用保守などの付き合いを通じて、Nittoの業務を深いレベルで熟知していたパートナーだからこそ、可能だったと感謝しています」(中村氏)

期待できる効果

日東電工株式会社 IT 本部長 中村圭氏
※写真撮影時のみ、衛生面に配慮した上でマスクを外しております

約90%減

従来の基幹システムに内在していた約3,000本におよぶ接続インターフェースを洗い出し業務変更ポイントとして整理、200種類の標準インターフェースに集約。今後、さらにDXを推進するにあたり、柔軟に拡張できるシステム構成を実現。

2~3か月

事業、生産拠点の拡大に対して、従来は立上げから安定化まで6か月以上かかるような大規模な変更においても2~3か月で対応できる見込み。

成果―創出された価値

DX推進のための足掛かりができた

そもそも45年以上も前に導入されたホストコンピューターについて、その細部の構造まで把握している人は社内にも残っていません。そうしたブラックボックス化したホストコンピューターを紐解くことから始まった「Rebornプロジェクト」でしたが、Nittoとアクセンチュアの緊密な連携のもとで約3,000本に及ぶ接続インターフェースを洗い出し、業務変更ポイントとして整理し、標準モデルの策定へとつなげることができました。

こうして刷新された基幹システムにより、Nittoはビジネスのアジリティを大幅に向上しています。

「エレクトロニクス業界を取り巻く市場環境が急速に変化していくなかで、Nittoでも柔軟な生産体制を構築することが必要です。マルチ拠点化を行う際、仮に従来の基幹システムでこうした変更に対応しようとした場合、大規模な変更作業と多大な時間が必要でした。これに対してすべての事業部門で共通化され、標準化された現在の基幹システムは、短期間で対応することが可能です」(中村氏)

「われわれのような製造業にとって、ハードウェアである生産設備の更新や増強については長年にわたる経験の積み重ねがあり、計画的かつスムーズに対応できるのですが、ボトルネックとなっていたのが業務システムとの連携です。今回の「Rebornプロジェクト」によって、そこに1本の軸を通し、営業や経理・財務、購買・調達、人財といったあらゆる領域の業務システムとのシームレスな連携が可能になったことで、経営の意思決定に必要なあらゆるデータを統合し、事業ポートフォリオの変更にも圧倒的なスピード感で対応できるようになりました。これでNittoDXに向けて進んでいくための足掛かりができました」(大脇氏)

次のステップはアジアの各拠点への展開

Nittoではアクセンチュアによる継続的な運用保守のサポートを受けながら、刷新された基幹システムのさらなる安定化と改善を進めつつ、次のステップとして、システムのグローバル展開にも着手します。

2022年度は、アジアの各拠点への展開をさらに進めていく計画です。事業、エリア経営を意識しながら、グローバル全体での生産状況や各種経営指標の見える化を実現します。また、国や地域ごとのニーズをキャッチアップしながら社会課題の解決と経済価値の創造を両立させ、人々のより快適な暮らしを実現していくことにも挑戦します。これからも「驚きと感動を次々と生み出し、社会に貢献できる価値を継続的に創出していく」という企業体質の構築を目指し続けます。

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