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ブログ

SDGs実現のためのクラウド活用

所要時間:約10分

2022/09/12

アクセンチュア ソング インテリジェンスの秋元です。

Google Cloud ユーザ会(Jagu'e'r) Sustainability 分科会の運営リードも務めています。

このブログでは昨今のトレンドとなっている SDGs をはじめとしたサステイナビリティの概要を踏まえて、クラウド領域におけるクラウド活用事例や役に立つサービスをご紹介します。

アジェンダ

  1. SDGs の概要
  2. サステイナビリティ領域におけるクラウド活用
  3. 攻めのクラウド活用 事例紹介 - Global Fishing Watch
  4. 守りのクラウド活用 サービス紹介 - Carbon Footprint
  5. まとめ

1.SDGs とは?

この章ではSDGs の概略について説明します。すでにご存じの方はスキップいただき、次の章へ進んでください。

SDGs とは、Sustainable Development Goals の頭文字を取っています。皆さんがよく目にする17のゴールと、各ゴールの下に各10個程度のターゲットが存在します。アクションが取りやすいように、17のゴールは領域別に整理されています。またゴールの下のターゲットでは、より具体的なレベルで注視すべき指標や目標とすべき数値等が記載されています。

Sustainable Development Goals: Japan. Committed to the SDGs
Sustainable Development Goals: Japan. Committed to the SDGs

出典:外務省HP

例えば、ゴール1「貧困をなくそう」では貧困に関連するあらゆる課題を包括しています。ここでは「2030年までに、それぞれの国の基準でいろいろな面で『貧しい』とされる男性、女性、子どもの割合を少なくとも半分減らす。」といった具合に、そのゴール1の下に設定されたターゲットでは具体化されています。貧困という顕在化している課題のうち、特に注視すべき指標を明記したうえで、「半分」などの定量的な表現が目指されていることがポイントです。

さて、このSDGsですが、歴史的には2015年9月の国連総会にて採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に端を発します。開発分野における国際社会共通の目標として2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットにて採択されたMDGs (ミレニアム開発目標)の反省を踏まえて、2030アジェンダでは開発途上国に限らず、すべての国共通の目標としてSDGs が策定されました。2030アジェンダの序文にて注力すべき5つの領域が紹介されています。その5つの領域は、”People(人間)”, ”Prosperity(豊かさ)”, ”Planet(地球)”, ”Peace(平和)”, ”Partnership(パートナーシップ)”ですが、この頭文字を取って「5つのP」と呼ばれます。

5つのP:国連2030アジェンダにおけるキーワード
5つのP:国連2030アジェンダにおけるキーワード

参考:

2030アジェンダ | 国連広報センター

また17のゴールは、多岐に渡る分野をカバーするため、その全体像を直観的に把握することが難しいという声も聞かれます。そのような自分事化が難しいという課題に対して、SDGs が持つ特徴を考慮することで、直観的な理解を深めることができます。

SDGsが具備する5つの特徴をご紹介します。

SDGs の特徴
SDGs の特徴

参考:SDGsとは? 話題になっている理由をわかりやすく解説 | MIRAI Times|SDGsを伝える記事が満載|千葉商科大学

2.サステイナビリティ領域におけるクラウド活用

サステイナビリティ領域におけるクラウドのテーマとしては、攻めと守りの二種類に分類できます。

サステイナビリティ領域におけるクラウド活用
サステイナビリティ領域におけるクラウド活用

守りのクラウド活用は、従来の情報システム部門の業務の延長として意識されやすい領域です。守りのクラウド活用は地球に優しい運用を目指しますが、地球の資源を効率よく使用するというテーマは、その性質から自然とコスト最適化へ繋がります。そのため、多くの情報システム部門では、サステイナビリティ・SDGsの一環として守りのクラウド活用が推進されやすい状況にあります。

一方で、攻めのクラウド活用は Issue First です。まず解決すべき課題が先にあるため、守りのクラウド活用とは異なり、ユーザサイド・ビジネスサイドの主体的な取り組みが不可欠となります。攻めのクラウド活用においては、行政やNPO/NGOに加えて、様々な企業で先進的な取り組みが行われています。

今回は攻めと守り、それぞれの事例をご紹介します。

3.攻めのクラウド活用

海の豊かさを守るためのクラウド活用事例をご紹介します。

海の豊かさを守るうえで、海洋生態系の保護が重要になります。つまり、生態系が崩れない程度に漁業を制限する必要があります。そのような意図で、国内では禁漁期が設定されています。このような仕組みが沿岸海域では成立しますが、国の排他的経済水域の外、外海を想像してみてください。

そのような「どの国にも属さない」海では、事実上、生態系の保全を念頭においた禁漁の設定は困難です。たとえ国際的な合意によって禁漁を設定したエリアであったとしても、監視が行き届かない領域での操業行為を取り締まることは不可能に近いものでした。そのような漁船の操業把握すら困難な状況のなかで、一部の海では海洋環境の悪化が問題となっていました。

そこで、Global Fishing Watch が誕生しました。世界中の海で、不正な漁業活動を取り締まり、防止するために重要なインサイトが詰まっています。

まずは、Global Fishing Watch のマップをご紹介しますので、ご自身で閲覧されてみてください。世界中のどこからでも、誰でもアクセスすることができます。

Global Fishing Watch Map

Global Fishing Watchによる海洋保全
Global Fishing Watchによる海洋保全

参考記事:Transparency unleashed: How Global Fishing Watch is transforming fishery management

参考動画:Introducing Global Fishing Watch's revolutionary technology

ウェブサイトをご覧になっていただいて分かる通り、世界の海上における漁船の操業状況が可視化されています。

このデータの裏側では、リアルタイムのデータ取得が行われています。衛星画像や船舶が衝突防止等のために義務付けられている電波が利用されています。そのようなデータソースを使用することにより、各船舶からの許諾なしに位置情報を取得しています。つまり、違法操業を狙った船であっても、自身の居場所を隠すことはできないのです。

加えて、船舶の動きは機械学習によって、操業中なのか移動中なのかを判定することができます。これは、クラウドの持つ機械学習の恩恵です。Global Fishing Watch では Google Cloud を使用しており、Google Cloud の強みであるアナリティクス・ワークロードが活用されています。

以上のような位置情報及び船舶の操業情報を、Google Map 上に表示することにより、政府・国際団体が違法操業を取り締まることが可能となりました。世界に先駆けてGlobal Fishing Watch を導入したインドネシアをはじめ、直近ではEUで初めてノルウェーがデータ提供を表明し、今後一層の活用が期待されています。

参考資料:Norway makes fishing vessel data accessible to the world

4.守りのクラウド活用

ITサービスを利用するためには、サーバーを動かすことが不可欠です。コロナ渦で一層加速するリモートワークを推進するうえで、すべての社員の自宅にPCが支給され、日々の業務上のやり取りはすべて電子化された企業も多いでしょう。そのようなデジタル化のなかで、PCなどの個人端末に加えて、企業のデータセンターにおいて使用されるエネルギーはサステイナビリティ領域におけるテーマとなっています。

電気というエネルギーを生み出すためには、何らかの方法で発電しなければなりません。我々の使っている電気のもとを辿ると、どこの発電所から来たものでしょうか。環境負荷の高い火力発電でしょうか、それとも自然エネルギー由来の風力発電でしょうか。発電方法が異なれば、地球にとっての意味合いは変わってきます。

またグローバルにサービスを利用可能なクラウドならではの悩みもあります。皆さんの利用中のサービスはどのリージョンで稼働しているでしょうか。つまり、リージョン別に発電方法の割合が異なるため、自然とリージョン別のCO2排出量も異なるのです。もちろんコンプライアンスの観点から国内リージョン一択というケースも多いかと思われます。一方で、海外へのグローバル展開や、基幹システムから匿名化済みのデータ分析といったケースでは、サービスの利用料金やレイテンシーと合わせて、環境負荷がロケーション選択の検討材料に上がってくることになります。

そのような日々の仕事を進めるうえでの環境負荷を定量的に教えてくれるツールが誕生しています。日々の業務におけるCO2排出量を、サービス別にモニタリング・可視化することを通じて、継続的な改善を促す仕組みです。

ここでは、クラウド各社のなかでも先進的な取り組みをしてきた Google Cloud での事例を紹介します。Google は、業界で最もクリーンなクラウドを掲げています。実際に、2021年時点で「事業で消費する電力の 100% に相当する再生可能エネルギーを購入している唯一の大手クラウド プロバイダ」となっており、サステイナビリティに注力しています。

出典:100% 再生可能エネルギーの 5 年間の実績と 24 時間 365 日カーボンフリーな未来への展望 | Google Cloud Blog

Google Cloud では、2021年に Carbon Footprint というサービスを公開しました。企業が Google Cloud サービスを使用する際の二酸化炭素総排出量を測定、レポート、削減することを目的としています。Carbon Footprint では Dashboard 上でCO2 排出量が可視化されており、必要に応じてデータをBigQueryへエクスポートして詳細な分析が可能です。

上記のモニタリングの仕組みによって、CO2排出量の概況を把握したうえで、一歩進んだ手を打つことも可能です。Google Cloud では “Low-Carbon Mode”が用意されています。すべてのエンジニアがサステイナビリティに詳しいとは限りません。それでもロケーション選択で環境負荷の高い選択肢が選ばれないよう、Google の事前調査で Low CO2 と厳選されたロケーションのみから選択されます。

Low Carbon Mode
Low Carbon Mode

出典:Google Cloud Blog

ここまで守りのクラウド活用について説明しましたが、最後に守りのクラウド活用に関する注意点を3つ記載させてください。

一つ目は、環境負荷とはCO2 がすべてではありません。SDGsのゴール13「気候変動に具体的な対策を」の一つである地球温暖化対策として CO2 排出量が重要です。CO2排出量を削減してカーボンフリーを実現することによって、地球に優しいことビジネスを実現できることは事実です。一方で、SDGs のすべてがカーボンフリーではありません。CO2以外の観点からも、サステイナブルなあり方の検討を進める必要があります。

また二つ目に、ここではGoogle の事例を取り上げましたが、このようなサステイナビリティ領域への取り組みは Google Cloud に限った話ではありません。クラウド各社は、それぞれのクラウドでサステイナビリティを念頭にしたサービス強化を打ち出しています。ぜひお使いのクラウドにて、サステイナビリティ向けにリリースされたサービスをご確認ください。

最後に、このブログでは詳細に言及しませんでしたが、オンプレミス環境における運用は、クラウドと比較して、一般に環境への負荷が高いものとなっています。上記、CO2による気候変動対策等に加えて、ゴール8「働きがいも経済成長も」の観点からも、クラウド移行によるサステイナビリティの実現を検討ください。

5.まとめ

クラウドを活用した様々な取り組みを通して、SDGsの課題解決が推進されています。多様な事例を通して明確なことは、クラウドがサステイナビリティを実現するための武器であるということです。そして、”SDGs” として言語化された「世界の人々の困りごと」を解決するための手段として、私たちのクラウドの「使い方」が試されています。

Jagu’e’r Sustainability 分科会では、このようなサステイナビリティ領域に関わる活発な情報交換や交流を続けています。直近の活動は、以下のブログよりご確認ください。

サステナビリティ分科会 アーカイブ - Japan Google Cloud Usergroup for Enterprise

筆者

秋元 良太

Accenture Song コンサルタント