調査レポート
化学企業にとってサステナビリティのどこに価値があるのか?
サステナビリティ関連製品に対する需要の高まりは、化学企業にとって2000億米ドルのビジネスチャンスを生み出すでしょう。
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2023/10/09
化学企業は近年、サステナビリティ関連の取り組みへの投資を増やしています。しかし、温室効果ガス排出量やプラスチックのリサイクルに関する強制目標など、サステナビリティをめぐる規制の強化にも直面しています。このため、サステナビリティへのシフトが本当に業界に真の価値をもたらすかどうか、多くの企業が疑問を呈しています。
その疑問への答えは「イエス」です。今後5年間で、サステナビリティ関連製品は業界成長の3分の1近くを占め、2,000億米ドルの潜在的機会が生まれます。これらの商品の年間平均成長率は、2027年まで11%であるのに対し、"伝統的な "業界商品の成長率は2%です。このように、サステナビリティ関連商品は、特に魅力的な機会と言えます。
この成長の約3分の2は、ビル用断熱材、電気自動車用プラスチック、風車ブレードに使われるポリウレタンフォームなど、サステナビリティに関連する既存の製品や市場からもたらされるでしょう。こうした製品の多くは、既存の産業インフラを活用するため、投資やリスクは比較的少なくて済みます。この成長の残りの3分の1は、新しい電気電池材料、炭素捕捉材料、バイオベースのインクやコーティングなど、新しい市場や製品からもたらされます。このように伝統的な製品と新しい製品が幅広く混在していることは、サステナビリティが化学業界全体の企業に成長機会をもたらしていることを意味しています。
化学企業はこのチャンスに備え、事業を拡大してきました。各社の発表を分析すると、過去5年間で、化学業界はサステナビリティ関連製品を生産する新工場に600億~900億米ドルを投資したと推定されています。
これらの新工場への投資は、新製品やニッチ製品ではなく、業界の中核をなす製品に主眼が置かれています。これには、ケミカルリサイクル、バイオベース、マスバランス製品、機械的およびケミカルリサイクルされた標準ポリマー、バイオベースの中間体およびポリマーなど、ナフサ代替製品への投資が含まれます。
こうした大規模な投資にもかかわらず、業界は市場の需要増への対応が困難になると見ています。顧客はすでに、業界が供給できる以上のサステナビリティ関連製品を求めています。実際、まだ稼動していない新規の化学プラントの中には、そこで製造される製品について供給能力以上の受注が入っている例も報告されており、業界でも前例のない事象が起きています。また、あらゆる業界の化学メーカーがサステナビリティへのコミットメントの達成に苦慮しており、その需要はすぐには衰えそうにありません。
欧州でのエコデザイン規則、デジタルプロダクトパスポートなどグローバルレベルで、化学メーカーのサステナビリティに対する対応は、日毎に高まりを見せており、対応が遅れることは、中長期で企業のブランド力の低下につながるリスクにもなり得ます。日本の化学メーカーも、グローバルにバリューチェーンが広がる現在、この要求に的確に応えることが、化学業界における生き残りには必須条件です。
このチャンスを生かすには、事業規模を拡大するだけでは十分とは言えません。化学企業は、どのようにすれば将来のバリューチェーンにおける「スイートスポット」を占めることができるかを検討することで、その対策を講じることができます:
全体として、サステナビリティ製品の市場は非常に魅力的であり、今後数年間、業界にとって明確な成長機会となります。しかし、化学業界のバリューチェーンにおけるスイートスポットの獲得競争は加速することが予想され、上記のステップを進める必要性が急務となっています。
昨今の日系化学メーカーは、中長期の経営目標でサスティナビリティ事業の比率の向上を目標にするメーカーが多く見られます。ここからは、いかにスピード感を持って実行するかを問われる時代となり、サスティナビリティ事業の早期実現こそが、市場における差別化として肝要になります。
早急に行動を起こさない化学企業は、拡大するサステナビリティ関連の成長機会を逃してしまう可能性が高いと言えます。
謝辞:アクセンチュアのカリン・ワルチク博士、ガネッシュ・パトロ氏、佐久間麻子氏、ガウラブ・シャルマ氏、アシシュ・クマール・グルグリア氏、マレク・ジャギエラ氏、パヴェル・クビック氏。
日本語版作成への謝辞:石垣 圭一氏、髙村 比呂典氏。