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生物多様性~いま、企業が取り組むべきこと
September 16, 2022
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September 16, 2022
アクセンチュアのインダストリーX本部に所属する杉本です。
工場やものづくりに関わる部署において、デジタルの力でサプライチェーンを次世代のあるべき姿に変革するコンサルティングを担当する傍ら、社内でコンサルティングとサステナビリティの課題と可能性についてディスカッションする自主運営の場である、サステナビリティ・スクワッド(Sustainability Squad)のメインメンバーとしても活動しています。
サステナビリティと聞くと、多くの方が環境問題や、今世界中で関心を集めている気候変動、脱炭素について思い浮かべるかと思います。その環境問題や、気候変動に密接に関連しているのが、今回ご紹介したい生物多様性です。
生物多様性とは、環境省の言葉を借りて簡単に言うと「生きものたちの豊かな個性とつながり」のことです。私たちが日常生活で特に意識することがなくても目にする小鳥や植物から、食べ物としていただく動物性・植物性の自然の生産物、すべて生物多様性の一部なのです。
特に街中で生活をしていると、大自然を直接目にする機会はあまりないかもしれませんが、すべての人の生活が、自然の恵みを何らかの形で受けて成立しています。食べ物や飲み物はもちろん、夏の日差しを受け止め木陰を作ってくれる街路樹も、特に気温上昇していくこれからの気候の中では、重要な役割を果たしてくれています。
私たちの生活する生物圏は、さまざまな要素の上に成り立っている
そのような人間生活の重要な基盤である生物多様性が今、大きく損なわれています。人間は”生活が便利になる”ことを理由に経済活動を通じて、自然に対していろいろな形で手を加えてきました。例えば、かつて生き物の住処であった場所を開発したり、資源を過剰に消費したり、汚したり、バランスを壊すような要素を加えたり、さまざまな負荷を生物多様性に対して与えてきました。普段の生活では、自分も含め、当たり前になりすぎて改めてこの「自然の状態」について目を向けることは少ないのではないでしょうか。
世界中で気候変動が話題になっており、これまでほとんど疑いなく信じてきた「普段」や「当たり前」が失われつつあると実感できる今だからこそ、生物多様性の分野においても、私たちの生活が生物多様性なしでは成り立たないことを理解し、その豊かさを損なわない「持続可能な」方法で向き合い、ひいてはかつての豊かさを取り戻すために回復させていくことが必要だと思います。
では、生物多様性の保全のために、できること・やるべきこととは、何なのでしょうか。
アクセンチュアでは、コーポレート・シチズンシップ活動(社会貢献活動)の取り組みの一環で交流のあった、生物多様性分野のエキスパートである世界自然保護基金(以下、WWFジャパン)とともに、このような生物多様性回復の必要性をより多くの人に知ってもらうため、企業からみた観点を主軸において共同で調査を行うことにしました。
この共同調査はプロボノプロジェクトとして実施し、私は初期の段階からメンバーとして参画する機会に恵まれました。そこで、アクセンチュアが得意とするビジネス面からの視点と、WWFジャパンが専門とする世界の状況やそこから見出す社会課題を見据える視点を合わせたコラボレーションから生まれる力を駆使し、調査を進めていきました。
調査を通じてわかってきたのは、まずそれぞれの企業にとっての生物多様性そのものの理解が十分ではないということでした。さらに、その理解ができたとしても、生物多様性の回復への取り組みを進めるにあたり、その基礎となる情報も不足していたのです。
このサンゴという限られた中にも、膨大な数の種が複雑に影響しあい、今わかっている情報だけですべてを正確に把握するのは難しい
例えば、鳥の一種、イヌワシを例にとってみましょう。イヌワシの生活が成り立つためには、まず捕食する餌(ネズミなど)が必要です。そして、そのネズミが生息するためには、餌となる果実が必要であり、その果実が毎年実をつけるには、果樹の花の受粉をしてくれるミツバチの働きや、栄養を十分にいきわたらせるための共生関係にあるタマゴタケのような存在も欠かせません。加えて、その果樹が総数を減らさず色々な地域に生息するためには、果実を食べながら遠くへも運んでくれるヒヨドリのような存在も必要です。
ここで挙げた生き物のうち、どれかが欠ける、もしくは必要数が維持できなくなれば、そのエリアにいたイヌワシは生息できず、気が付かぬうちにいなくなってしまう可能性があります。
さらにここで挙げた生態系の中の相関関係は、ほんの一例にすぎません。実際のところ、イヌワシだけをとっても、関係するものはもっと広範囲であることに間違いありませんが、まだ、どこまでどのように調べればよいのか、それさえも未解明であり複雑に関係しあっている世界なのです。
企業が実際に取り組む際の難しさとして、気候変動対策のように、二酸化炭素の排出量という、ひとつの基準のみで考えることはできないことがあげられます。前述の通り、人も含んだ大きな自然単位で構成されている生態系や生物多様性というのは、その構成も、影響も把握し、理解するのがとても難しいのです。
それでも、生物多様性を把握するために、現在取られている測定方法はあります。例としてわかりやすいもので、生物の種類の数、種類ごとの個体数、生物が関係しあって生きる「生態系」の数、生物が暮らす森・海・川の面積などが挙げられますが、これはあくまでごく一部です。
生物多様性が全体として減っていることは、世界的な科学者の集団IPBESが明らかであると発表しましたが、具体的にどのような生き物がどれくらい減っているか、はまだまだ分かっていない部分も多くあります。
生物多様性が減っている、それは確実に今断言できるが、未知の部分も多い状況
生物多様性は、とても複雑に絡み合って成り立っています。そのため、ひとくちに保護や保全といっても、単に緑を増やせばよい、生き物の数を増やせばよいということではありません。ひとたび対応を誤ってしまうと、結果として生態系の破壊につながってしまう場合もあるのです。
例えば、私の家にあるプランターひとつをとってもそうです。コンポストを利用して生ごみを減らしたという経験から、自宅の生ごみをベランダにあったプランターに入れたところ、ごみに入っていた植物の種が芽を出してきました。「おお、緑も増えたし、自然のチカラだな」と感心していたところ、結果として、家族がもともとプランターで育てていた貴重な植物を、生ごみから出た強い種が駆逐してしまったのでした。生物を相手にするときは、慎重に後続の影響を考えて、アクションを起こさなければならないことを痛感しました。
生物多様性において、一度失われたものは、元通りにはならない
このように、生物多様性の難しさは、評価軸が複数あり、慎重に相互の影響を配慮して取り組まなければならず、また、私のプランターの経験ではありませんが、一回失敗すると後戻りできないこともあります。
とはいえ、生物多様性の謎が完全に解明されるまで、行動開始を待つ必要はありません。
まずは次の3つのステップで、企業として既に人間活動への影響がわかっている範囲から取り組み始め、徐々に取り組みの範囲を広げていくことが大切だと考えています。
企業が今できること、やるべきことを明確にしたレポート
今回まとめたレポートでは、そんな生物多様性回復への取り組みを進めることに役立つ、基本的な情報や考え方をとりまとめています。
そして、このレポートを通して、まずは、生物多様性というキーワードをより多くの人に知っていただければと思います。また、これから生物多様性という課題に取り組む、または推進したいという方に対しては、気候変動や脱炭素と似ているものの全く同じには進まない課題や難しさについて考えるきっかけになればと思っています。
このレポートがきっかけの一つになり、日本の企業全体、ひいては日本全体で生物多様性の議論が活発になること。さらに、今後国際的にいろいろな機会を通して生物多様性という社会課題に関わるルール作りが進む中で、日本の企業がその動きに積極的に参加すること。その上で、日本独自の取り組み(その商習慣や、ビジネスモデルに沿った取り組み)が注目され、世界標準で評価されること。
そんなポジティブな流れが、より大きなうねりとなって日本での生物多様性保全が大きく活性化すること。今はまだそれが夢物語に近い段階かもしれませんが、このレポートがそれを夢で終わらせない第一歩になれば、と期待しています。
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生物多様性とビジネス -危機的現状とビジネスの可能性- Executive Summary
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