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脱炭素社会実現に向けたビジネスモデルの変革とエコシステムの構築
日本では2050年までに「カーボンニュートラル」の実現が目標として掲げられており、気候変動への対応は“人類共通の課題”です。世界中の企業が取り組みを加速させていますが、取り組みを更に加速させない限り、目標が達成できないことも明らかになっています。目標達成に必要な要諦を、世界的な脱炭素に関わる潮流を踏まえ、事例を交えながら解説します。
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2023/12/01
2015年COP21で採択されたパリ協定を皮切りに、脱炭素の取り組みが本格化しました。パリ協定では地球の温度上昇を2.0℃より低く保ち、1.5℃以内に抑える努力をする目標が合意され、気候変動リスクに対して金融界の要請が高まりました。同時に、目標設定や情報開示に係る国際イニシアティブ(SBTi、TCFD等)の発足なども進みました。
その後、大きな進展があったのは2021年のCOP26。温度上昇を1.5℃を目標とすることが事実上合意されました。2015年以降の研究により、温度上昇を1.5℃に抑えることが重要だという認識に移行しつつあったことに加え、現状の目標を達成した場合、温度上昇を1.8℃にしか抑制できないことが会期中に発表されたことで、議論が活発化したことが要因です。この合意を受け、2022年末までに削減目標を見直すことが各国に要請されましたが、見直しを実施したのは約30か国ほどでした。
2022年のCOP27では途上国が初の議長を務め、損失と損害に関する基金の設定が決定されました。これは、後発開発途上国が先進国と比べてGHG排出量が少ないにも関わらず、気候変動の悪影響を受けていること、自力での対策が難しい状況であることを受けた結果です。ただし、資金の拠出などの具体的な内容は持ち越しとなりました。また、1.5℃目標に向けた各国の対策の強化も争点でしたが、1.5℃の重要性が再確認されるのみでGHG削減の強化には至っていません。
このような状況の中、これまで脱炭素に関するルール作りをリードしてきた欧州では数々の法規制が施行予定で、各国企業に影響がある見込みです。例えば、欧州輸入時に炭素排出量に応じた費用の支払いをもとめる炭素国境調整メカニズム(CBAM)は2026年以降に課金が始まります。ただし、世界初の国境を越えた調整であり、各国に与える影響が大きいため慎重に設計されています。第一弾で調整の対象となっているのはGHG排出量が多いセメント、電気、肥料、鉄鋼、アルミ、水素ですが、日本企業の輸出量は多くなく、直接的な影響は少ない(関税相当で約1割増)とみられています。一方で、輸出先の変更などによる競争環境の乱れなどが考えられます。その他、エコデザイン規制、バッテリー規制、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)など、情報開示や排出量目標への合致などの規制が強まることが予想されます。
日本でも2023年10月には、企業・自治体などのCO2排出削減量を取引する「カーボン・クレジット取引市場」を新設、売買をスタートさせました。再生可能エネルギーの導入や森林整備による排出削減分の売買の透明性を高め、企業の脱炭素を後押しする狙いがありますが、2005年に取引市場を開設した欧州から20年近く遅れての開設となり、売買をどのように盛り上げるかが課題であると言われています。
企業は各国政府や国際的なイニシアティブの動きに基づき、環境に配慮したサステナブルな経営にシフトしています。同時に企業に求められる水準も数年で一気に加速しています。GlobeScan社が各国の専門家を対象に行った調査によると、2019年時点ではサステナビリティのパーパスや野心的な目標設定によっても一定の評価をしていたのが、2021年時点ではビジネスモデルや戦略のコアにサステナビリティを据えた企業を評価している*ことが明らかになりました。単なる目標設定や取り組みの実行だけでなく、ビジネスモデルや戦略のコアそのものにサステナビリティを据えることが求められます。
実践にあたってのポイントは前述の通り、ビジネスモデルや戦略の根本的な変革、それから外部のステークホルダーを巻き込んだ取り組みにあります。
脱炭素の取り組みは多岐にわたりますが、大きく3つの変革パターンに分類されます。前者2つは既存ビジネスモデル内の変革で、電力の再エネ化などのモジュールの変革、回収・リサイクルなどのプロセスの変革です。最後がサーキュラー・エコノミーのようなビジネスモデルの変革です。現状はモジュール・プロセスの変革に留まる企業が少なくありませんが、これでは消費者価値が全く変わらず、コストの上昇を転嫁することが難しいと考えられます。
事例:オランダの大手電機メーカーフィリップス社
多くの企業にとって、自社でコントロールできる範囲が占める割合は限定的であるため、自社だけでなくバリューチェーンの上流から下流までのサプライヤと協力した取り組みが必須です。
事例:Walmart
米国小売大手Walmartはサプライヤへの再エネを購入する仕組みと新たなファイナンススキームの提供によりエコシステムと連携しながらGHG排出の削減を進めています。同社は2040年までにScope1,2でカーボンニュートラル実現することを目標に掲げ、2030年には2017年以降のScope3累積削減量を1ギガトンにするとしています。この値は日本の年間GHG排出量に匹敵します。Walmartが進める取り組みをいくつかご紹介します。
① サプライヤにScope3低減を促すプログラムの設定
エネルギー、農業、廃棄物、包装、森林伐採、製品使用・設計の6分野から、サプライヤに一つ以上選ばせ、目標と実績を報告するよう促します。その際、WWFやEDF(Environmental Defense Fund)などと協力して作成した目標達成のツールキットを提供しています。参加は任意ですが、サプライヤの約7割にあたる5000社超が参加する大規模プロジェクトです。
② サプライヤ向け再エネPPAへのアクセスを提供(ギガトンPPA)
サプライヤは中小企業が多く、契約規模や知識不足により再エネへのアクセスが限られているため、エネルギーコンサルティング企業のシュナイダーと協力し、小口でのPPA契約を仲介します。また、PPA利用に関する教育プログラムも提供し、4,500社がPPAを契約しています。
③ サプライヤ向けにファイナンス面もサポート
中小企業は脱炭素の取り組みを推進するための資金調達が不足しているため、Walmartは英金融HSBCと協力し、融資プログラムSSCF(サステナブル・サプライチェーン・ファイナンスプログラム)を提供します。SSCFは上記の6分野のいずれかでGHG排出量を削減した場合、その規模に応じて融資条件を改善する仕組みです。この取り組みは2019年から続いていますが、2021年からは1.5℃水準に対応した目標を設定したPBのサプライヤに向け、請求書発行による先払いの提供のほか、エネルギー効率向上などの取り組みに対し融資が利用可能になりました。融資ではHSBCとCDPが協働し、サプライヤのCDPのスコアリングやサステナビリティ目標の達成度などを評価します。
これらの取り組みにより、同社は2022年までに累積削減量0.574ギガトンを到達しました。
脱炭素の取り組みは息が長く、カーボンニュートラルを達成に向けた2050年までには国の方針変更や技術革新などにより環境が大きく変わる可能性は否定できません。先進的な取り組みを進め、政府への働きかけにより、より有利な方向へ動かすことなども重要です。
アクセンチュアでも、業界を超えた広いエコシステムを形成し、単なる見える化にとどまらない脱炭素そのものの実現の支援を行っています。
クボタ:食料・水・環境分野における地球規模の社会課題の解決をデジタルの面から支援する合弁会社「クボタデータグラウンド」を設立
東芝:カーボンニュートラルの実現に向けた戦略策定から実行段階に対するGXコンサルティングサービスを連携して開始