2018年11月22日、アクセンチュアは大阪・梅田にて、インダストリーX.0をテーマとする、企業におけるデジタル変革についてのセミナーを開催しました。本レポートでは、前編・後編に分けて当日の様子をまとめています。

「インダストリーX.0フォーラム2018 in Osaka デジタル変革を”次のステージ”へ、新ビジネスモデルの構築に挑む」と題されたこのフォーラムは、講演やパネルディスカッションを通して日本のモノづくり企業がデジタル変革にいかに取り組むか、世界をリードする日本の製造業企業の未来を描きつつ、共通認識を深めていく内容となりました。

モノづくりの未来はどうあるべきか。
日本企業の戦い方とは

アクセンチュア デジタルコンサルティング本部
インダストリーX.0日本統括 マネジング・ディレクター
河野真一郎

基調講演は「インダストリーX.0が変える製造業の未来と日本の挑戦」と題し、アクセンチュア デジタルコンサルティング本部 インダストリーX.0日本統括 マネジング・ディレクター 河野真一郎が登壇しました。

河野はまず、「インダストリーX.0とは何か」を来場者へ語りました。

「インダストリーX.0とは、モノづくりのデジタル化の推進の道であり、我々はその実現をご支援しております。従来のモノづくりは、業務プロセスを上流工程(企画・設計)、製造工程、下流工程(販売・サービス)で分割した場合、製造工程における“匠の技”が消費者における価値を高める差別化要素でした。“ムサシカーブ”と呼ばれるこの付加価値の在り方は、デジタルによって変化しました。現在は上流と下流の重要性が高く、製造工程は付加価値の低い“スマイルカーブ”の時代へと突入しています」(河野)

その代表例として、河野は携帯電話業界の利益構造の変化を紹介します。

  • iPhone登場以前……ノキアやソニー・エリクソン、サムスンなどの「メーカー」の上位5社が業界の利益の90%を持っていた。
  • iPhone登場以後……アップルが業界の利益の92%を独占した。

しかしこの市場の見方は「旧時代的」だと河野は説明します。グーグルが提供するAndroid OSは“無料”で配布することで、端末の製造・販売とはまったく異なる収益構造で携帯電話(スマートフォン)市場における強大な影響力を確立しました。

「もし誰かが、その人のiPhoneと私のiPhoneを交換して欲しいと言ってきたら、私は絶対に断るでしょう。なぜなら私の端末には私のデータと、私の使うアプリケーションが蓄積されています。ハードウェア自体の価値は大きく下落しました。 iTunesやGoogle Playといったプラットフォームが主戦場であり、いまや製品の価値は、“名詞から動詞へ”、“モノからコトへ”といった表現の通りに変化しているからです」(河野)

そうしたデジタル社会の到来を象徴するのが、「創業から企業価値1000億円に到達するまでの時間の短縮」にあると河野は説明します。

  • フォーチュン500などの大企業が1000億円の価値を持つまでに要した時間……平均20年
  • グーグルやフェイスブックを筆頭とするデジタル系企業が1000億円を突破するまでに要する時間……年々短くなり、直近では9ヶ月を切っている

アメリカ・中国・ヨーロッパの投資市場では、そのようなスピードと規模の投資が加速している一方で、日本ではベンチャーキャピタルの投資件数も投資規模も非常に小さいのが現実です。事業のアイデアや、サービス・製品で戦う日本のベンチャーを取り巻く環境がそうである以上、日本では大手企業が先陣を切って戦いに参入していくほかないと河野は参加者を鼓舞しました。

デジタル・トランスフォーメーション
実現における要諦

インダストリーX.0の世界観は、「インダストリー4.0にとどまらない、第5、第6の産業革命が続いていくことを予想している」ことと、「産業のクロスがますます進んでいくこと」の2つを描いています。そうしたインダストリーX.0の時代をどう迎え、変化にどう適応していくかが重要です。

アクセンチュアでは「デジタル・トランスフォーメーション・フレームワーク」を用いてデジタル変革を考える企業がどのような針路を取るべきかを提示しています。

「一般的に、サービスや顧客体験の向上といった「社外向けの変革」か、業務効率化などの「社内の変革」のどちらかの文脈で、個別にデジタル化を推進することが多いのが実情です。しかし真に新しいビジネスを創出するには、両サイドから変革を推し進めることが必須です。収集したデータをどう活用するか、それにはデジタルオペレーションとデジタルカスタマーエクスペリエンスの2つの軸で推進する必要があります。そうして初めて大きな市場変化を現実のものとできるのです」(河野)

センシング技術が高度化し、さまざまな情報を取得できるようになりました。しかし解析・分析を経ずして価値を生むことはありません。データを価値へと転換するには、デジタル・トランスフォーメーションによって新しいバリューチェーンを構築することが重要です。

また、日本企業はビジネスインパクトを重視する一方で、「市場を大きく捉える」ことが欠けがちであると河野は強調します。

たとえば航空機の燃料消費を1%削減できるソリューションがあっても、羽田-伊丹空港間の往復を削減するだけは数万円の価値しかないでしょう。しかしその適用範囲を日本のすべての航空便に拡大する、あるいは全世界のエアラインがそのソリューションを採用したらどうなるでしょうか。実証実験(PoC)を実施する際も展開可能性の先にどのような規模のインパクトがあるかを考えるべきなのです。

そのうえで、顧客の視点に立ち、「お客様に向けて創出できるアウトカムは何か」とアウトカムベースで考えることと、デジタル技術を最大限に活用することが必要だと河野は提唱します。なぜならばデジタル技術は個人の生産性を何倍、何十倍にも跳ね上がらせることができるからです。

こうした時代において最も重要な要素がスピードです。近年注目されている「シャークフィン(サメの背びれ)理論」は、“一気に取り組むべき状況下”においては製品をスピーディに市場へ投入し、改良していく時代であることを示しています。従来のような万全を期して“間違いない製品”をリリースすることで成功できる時代ではないからです。

ライバルは異業種から突然現れる━━
モノづくりから、“いい空気”サービス
プロバイダーへの変革を進めるダイキン工業

続いて登壇したダイキン工業株式会社 執行役員 空調商品開発担当 テクノロジー・イノベーションセンター長 米田 裕二氏は、「ダイキン工業のデジタル変革とイノベーション 〜“これまでの延長にない新たな価値”の創出に向けた覚悟と挑戦」と題して講演を行いました。

ダイキン工業株式会社
執行役員 空調商品開発担当 テクノロジー・イノベーションセンター長 
米田 裕二氏

米田氏はダイキン工業が150カ国以上で展開していることや、売上比率に占める海外市場の割合が高まっていることなどを明かしつつ、「常に日本初、世界初を追いかける総合空調メーカーへと発展してきた」と語りました。

一方で、家庭用など住宅向け市場では中国企業、アプライド機器では米国企業と激しく競合しており、ダイキン工業が真に強みを持っているのは中小ビル向けの空調ソリューションであること、そして今後は集中管理やメンテナンスサービスに注力していく見通しであることを説明しました。

「日本市場は10年前から横ばいですが、ダイキン工業はグローバルのどの地域でも強く、3000億円以上の売上高を維持しています」と状況を述べつつも、Nest(グーグル子会社)のホームコントローラーのような製品が登場するなど、ビジネスモデルの変化が急激に起こっていることを説明しました。「ライバルは同業他社でなく、思わぬところから突然に現れるのです」(米田氏)。

ダイキン工業は大阪府内に約380億円の総工費を投じて大規模なR&Dセンターを設立。構想10年となるオープンイノベーションを促進する組織を作りました。「これは従来の先端技術研究所や中央研究所とは異なり、事業部門と研究部門の中間に位置する組織です。空調に関するコア技術を研究しつつ、ハードウェアを中心とする価値創出に取り組んでいます」と米田氏は話します。

ダイキン工業も、日本の大手メーカーの例に漏れず、ハードウェア開発ありきの企業でした。米田氏は「恐れていること」として、「産業構造や社会構造が変化し、モノづくりにおける専門領域で強みが発揮できず、水平分業が加速すること」という予測を話します。

「ディスラプター(創造的破壊者)によるゲームチェンジを覚悟しなければいけません。多産多死の商品開発で、997の失敗を3つの成功で取り返す”千三つ”の時代です。変われなければ生き残れません。私もモノづくりが大好きな、”モノづくり熱中型”ですが、モノづくりの価値観と経営の価値観を分けて考える必要性を感じます」(米田氏)

ダイキン工業でも、今後は“質の良いデータの収集×魅力のある提案”で勝負していくと米田氏は説明します。「顧客が求めているのは「いい空気」であって、機器ではありません。元シンガポール首相のリー・クアンユーが『第三世界の労働環境を劇的に改善させ、奇跡的な経済成長を成し遂げたのはエアコンのおかげであり、20世紀最大の発明はエアコンである』と言っている通り、空調機は社会インフラです。我々は製造販売だけでなく、アフターサービスにも広げていき、空調機器の長いバリューチェーンのデジタル化を目指しています。すなわち、“いい空気のサービスプロバイダー”が目標です」(米田氏)

ダイキン工業のデジタル化の施策と
“Air as a Service”

ダイキン工業では25年前から遠隔検知と修理対応を実施していました。従来は遠隔監視が高コストでしたが、近年は低コスト化が実現しています。これが24時間365日のサービス対応を実現する基盤となっています。

ダイキン工業はNTT西日本と「空気の見える化」により、ウイルス繁殖やカビ増殖を予防し、その空間で生活する人の健康と快適性の向上に対し、エアコンで答えをだす“Air as a Service”に取り組んでいます。

「ダイキン工業が収集している空調に関するデータをクラウドに集約し、部屋ごとに最適な空調を提供するビジネスモデルの設計に取り組んでいます」(米田氏)

一方で、ダイキン工業では生産現場での見える化にも取り組み、デジタルを活用した技能伝承にも取り組んでいるほか、データを活用した故障診断も研究しています。

「空調機器は部品が5000点ほどあります。お客様からの最初のコールで故障箇所を特定することは困難ですが、修理を一度で完了するために職人的な経験で、推定故障箇所の部品群を持っていきます。しかし今後は”壊れてから修理に行くサービスではなく、壊れる前に修理にいくサービス”へと転換します」(米田氏)これにより、負荷の平準化や人員配置の計画性が向上します。

ダイキン工業でも課題は人材です。優れた情報系人材は集まりにくいため、同社では工業系人材にAIやデータ解析などのトレーニングを行い、AIやIoTの知見・スキルの蓄積・活用に取り組んで行く予定です。

米田氏は、現代に求められるスピード感について次のように語り、講演を締めくくりました。「チャレンジ1000回に成功3回が現実だとはいっても、モチベーションの維持が難しくなります。スモールスタートをどんどんビジネスにしていくうえで、キーは次の4つに集約されると思います」

  1. どこまでもオープンにする
  2. パートナーと一緒に行う
  3. スピード勝負で取り組む
  4. トライアル&エラーの回数を増やす

後編に続きます 。後編では、ランドログ明石氏、FOMM鶴巻氏のご講演およびパネルディスカッションの様子をお伝えします。

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