クラウドを用いたデータ活用のあるべき姿
2020/05/14
2020/05/14
ビジネスコンサルティング本部アプライドインテリジェンスの秋元です。今回のブログでは「クラウドを用いたデータ活用」をテーマに取り上げます。
データの活用と聞いて、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。新技術の導入やデータ分析は「データ活用の一要素」ですが、今後のビジネス競争で優位に立つためには十分でない側面もあります。新技術を導入し最新の分析手法を取り入れても、社内のデータが網羅的に把握できておらず取り扱うべきデータの品質が担保できていない場合、分析がもたらす効果は半減してしまうからです。
さらに、不正確なデータを使用することは誤った結論を導く可能性があります。従来はデータを保管し記録することが重要でしたが、これからは記録に加えて意思決定を可能にするデータを整備することが重要であると考えられています。
一方、データ活用による業務効率化を実現した事例として「物流倉庫における在庫管理・発注業務の自動化」が存在します。
過去の販売実績等を考慮し発注を自動化することにより、余剰在庫の削減はもちろん、販売予測精度の向上による売り逃し防止、さらには店舗スタッフの工数削減も可能となりました。従来は人間の第六感に頼ってきた業務であっても、このような定量的な判断はデータとそれを利活用した技術が得意とする領域です。
(参考資料: Accenture 在庫・補充最適化サービス(AFS) )
このような「データ活用の光と影(効果と課題)」を前にして、真の価値を享受するためには 「1. クラウドによるデータの統合」 「2. クラウドによるデータの整流化」 「3. ユーザー向けアプリケーションの迅速な整備」 が主な論点であると考えており、以降に具体的な考え方・事例をご紹介します。
1. クラウドによるデータの統合
現場に意思決定のための適切なデータを届けるには、分断されたデータストアをクラウド上に統合・集約することによりデータが現場に届くまでのスピードを向上させることが求められます。複数のデータを素早く組み合わせ、多面的な角度から商品や顧客のプロフィールを作成することによって具体的で示唆深い意思決定が期待されています。
(参考資料: Accenture New Data Supply Chain)
金融機関の事例では、顧客問い合わせのチャネル別にデータストアが分かれていたため、社員が目的の顧客情報へアクセスすることが困難という課題がありました。金融商品の営業担当が、ある顧客から問合せを受けたとしても、顧客の利用チャネルにより参照先データベースが異なるため履歴照会に苦慮し、お客様を待たせてしまうことになります。
そこで総合的な顧客満足度向上のためにデータ基盤が持つべき構造を検討し、複数チャネルに乱立した顧客情報に関連するデータストアをクラウド上で統合することで、顧客へのスピーディで一貫性のある情報提供と、社内から顧客情報への容易なアクセスを実現しました。
2. クラウドによるデータの整流化
データを十分に活用するためにはデータの流れを整えることも大切です。海外ではデータリネージ(Data Lineage)とも呼ばれており、データのオリジン(発生)から最終的なレポートに至るまでの流れを網羅的に把握することを指します。
(参考資料: Accenture Intelligent Data Governance & Compliance )
ここではデータの整流化がもたらす3つのメリットを説明します。
1点目がデータの信頼性向上です。目の前のデータに異常値や欠損値が見つかった場合、同じデータが他業務で使用されている可能性がありますが、データの流れが明確になっていれば、その異常値が時系列で以前のどの業務の、どのプロセスで発生し、現在どの業務で使用されているか、そしてこれからどのレポートに使用される予定なのかを瞬時に把握することができます。
2点目は、昨今急速に高まりつつある個人情報保護規制への対応です。GDPRを始めとした国際的な法整備に対応する必要性は一例ですが、企業は取得した個人情報を適切に管理する責任があります。オンラインチャネルやコールセンターなど複数の顧客接点を持つ企業は、それぞれのチャネルから得られた情報を適切なレベルで分類・管理することや、当局からの要請に応じて個人情報が適切な管理下にあることを説明できることが求められます。
3点目は、新しいデータの迅速な使用が可能になる点です。データの整流化が済んでいれば、分析の用途に応じてどのデータを使用するべきなのかがすぐに分かります。企業によっては類似するデータが複数のデータベースで保管されていることもありますが、社内のあらゆるデータに対してメタデータを整備しておくことにより、分析者は自らの目的に最適なデータを容易に選択することが可能です。
3. ユーザー向けアプリケーションの迅速な整備
第3の取り組みとしてアプリケーションの整備が重要です。クラウドへデータを集約させることに成功した企業でも社内の人間が効率よく目的のデータにアクセスできなければ真価は発揮できず、メタデータの管理に加え、データの可視化や分析のための利用者側の窓口であるアプリケーションが重要です。
近年では業務を熟知した現場のメンバーが直接アプリの開発・改善に取り組みつつ現場課題を効率よく解決するため、技術的なプログラミングなしでモバイルアプリを構築できるツール等が脚光を浴びています。
近い将来、情報システム部門と現場の関係は変化し、ノーコードアプリが業務効率化を推進する可能性もあると考えられます。
(参考資料: マイクロソフト社Power Platform概要説明資料)
ノーコードアプリ活用の一例として、Microsoft社のPowerAppsによるヒースロー空港の取り組みを紹介します。
空港では多国籍の顧客に対応した多言語対応や、機内のセキュリティを担保するための厳しい手荷物検査など業界特有の制約があるが故に、現場を熟知する各部門のマネージャー(当然アプリ開発経験はありません)が情報システム部門のバックアップを得ながら現場のニーズを組み込んだアプリを次々と開発しました。
現場の声を反映したアプリは、現場での実際のフィードバックをもとに細部まで素早く調整され、アプリを使用する社員から支持されました。結果として、ユーザ起点の業務効率化によって高い投資対効果が得られています。
(出典: マイクロソフト社PowerPlatform事例紹介)
終わりに
以上お伝えしてきた通り、定量的な裏付けに基づく意思決定を促進させるためにはデータを適切に活用することが重要です。
顧客の多様化したニーズに応じて、カスタマイズされたサービスを現場の判断で素早く提供できることが求められており、その判断材料の一つとしてデータは客観的な示唆を提示します。その大量かつ多様なデータを統合・整流化し、アプリケーションによる容易なアクセスを実現するには、クラウドサービスが大きく寄与しています。
クラウドを用いたデータの活用は、これからの成長を描くすべての企業にとって検討すべき重要な経営アジェンダであると考えられます。