国内の数多くの工場・プラントは、継続的な操業が求められていながら、操業開始から数十年を経て老朽化が進行しています。

また、老朽化によりメンテナンスのニーズがますます増大する一方で、深刻な問題となっているのが、これまで安全安定操業を支えていた、豊富な経験を持ったベテラン運転員の引退、それに伴うノウハウの喪失です。

そのような状況を受けて、アクセンチュアはデジタルを活用したプラントメンテナンスのソリューションを開発しました。ドローンとディープラーニングを組み合わせた独自の技術により、プラントが直面している課題の解決を図ります。

部門を横断したチームでプロジェクトを推進

今回のソリューションにおける第一の特徴は、プロジェクトの体制です。今回のソリューションでは、アクセンチュア・コンサルティングの素材・エネルギー本部に加え、アクセンチュア・デジタルとアクセンチュア・テクノロジーも参加。

デジタルからはAIやデータサイエンスの専門組織アクセンチュア アプライド・インテリジェンスのデータサイエンティストのチームが、テクノロジーからはデジタルアプリの構築やプラットフォーム構築を行うグループが加わり、それぞれの専門性を備えたプロフェッショナル集団によってプロジェクトが組成されました。

さらに今回は、アクセンチュア外部からも事業パートナーが参画。ドローン活用において有数の実績を誇るスタートアップ企業の自律制御システム研究所(通称ACSL)とパートナーシップを組むことで、前例の少ないドローンの本番利用に取り組みました。

従来のプラント維持・管理に伴う莫大なコストとリスク

ソリューションを紹介するにあたり、まず前提としてプラントの維持・管理にかかる工程を取り上げます。プラントの配管やタンクを点検するためには、最初に広大なプラントの配管に沿って足場を設置する必要がありますが、実はそれだけで莫大なコストがかかってしまいます。また、高所での作業になるため、人間の手で作業を行う場合は落下リスクも生じます。

その上、腐食の状態を目視で確認するのは属人性が高く、評価者のスキルや経験値に依存してしまうため、個人によるばらつきが少なからず生じています。

また、人口動態を見るに今後も人手不足の状況が続くことはほぼ確実です。そのため、従来は習熟した作業者が中心だったプラント操業においても、業務に関する習熟度の異なる様々な人材を活用しつつ現場の保安を維持向上させる工夫が必要です。経験値の少ない作業者でも問題なくメンテナンスを行えるような環境整備が急務とされており、デジタルの活用ニーズが高まっていました。

ドローン&AIでプラントの配管の腐食を自動評価

ここからは実際のプロジェクト事例を紹介します。ひとつめのプロジェクトは、化学A社における実際の事例です。

このプロジェクトはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の公募である「AIシステム共同開発支援事業」で、アクセンチュアはドローンとAIを組み合わせたプラント設備の画像解析と点検判定の無人化に取り組みました。

本プロジェクトにおいて、アクセンチュアは高所にある配管を対象に、配管画像から腐食の進行度合いを自動判別する解析モデルと自律飛行型ドローンを組み合わせたソリューションを開発。配管の撮影はACSL社の自律飛行型ドローンが行い、画像または動画を自動でアップロードします。ACSLのドローンは独自開発のVisual SLAM(自己位置推定)により、非GPS環境下でも自律飛行が可能となっています。

そしてドローンが撮影した画像は、腐食度合いを評価する解析モデルにて、ピクセル単位で重度・軽度の2段階で腐食箇所を識別するモデルを構築しました。また、本解析モデルでは、配管と配管を支える架台部分に腐食防止として補強されているSAS板を検知・色付けすることで腐食が発生しやすい箇所の識別も可能です。評価精度については、約90%という精度を実現しました。

また、ソリューションの導入によって、先述した足場設置コストや落下リスクの削減、点検頻度と保安力の向上といった想定通りの効果も実現できました。

ドローン&AIで画像の差分から漏油の有無を自動判別

もうひとつのプロジェクト事例は、石油B社におけるタンクの腐食・漏油の自動点検です。こちらも先述のプロジェクトと同様にACSL社の自律飛行型ドローンが撮影を行い、高所タンクの画像から腐食状態、漏油の有無をAIが自動識別するソリューションを開発しました。

漏油の解析モデル構築においては、撮影した画像を正常な画像セットと比較し、その差分を取得するという方法を採用しました。ドローンは原油タンクの真上を飛行することができないため、撮影画像はそれぞれ画角が異なってしまいます。そこで、画像の特徴点を比較して画角を補正するモデルも導入しました。

しかし、実際の装置では漏油が発生した状況を作ることが出来ないため、モデル構築の際には漏油した画像がない、という障壁に行き当たりました。そこでアクセンチュアのプロジェクトメンバー達は、原油と似たスライムを自ら合成して原油タンクに登り、漏油状態の画像を用意するという手段を取りました。スライムの色合いについては現場有識者にも確認してもらい、“お墨付き”をもらえるレベルのものを用意しました。

ソリューションの精度や利便性の更なる向上を目指して

本ソリューションは、プラント現場の有識者から「怪しい箇所をドローンで網羅的にピックアップできれば効果は非常に大きい」「外面腐食点検の一次スクリーニングとして価値がある」「目視点検が難しい箇所への活用を期待している」といったポジティブな評価を多数いただいており、今後は実業務への適用をめざした取り組みを推進していきます。主に解析モデルのさらなる精度向上と他構造物への検知対象拡大、モバイル端末やネットワークの改善等のシステム利便性向上、ドローンや自律走行車等のロボティクス活用などに取り組んでいく予定です。

現在、工場やプラントにおけるドローン活用例やAIによる異常検知の取り組みは増えていますが、今回のようにプラントでの日常点検における本番運用を見据えたソリューションは、高い信頼性と利便性が求められるため、海外においても実用化に至った事例がありません。

設備の老朽化が進む中、デジタルを活用して課題を解決する本ソリューションは、日本の化学およびエネルギー産業の足元を支えることになるでしょう。

著者について

秦 央彦

アクセンチュア株式会社 素材・エネルギー本部 マネジング・ディレクター


佐伯 隆

アクセンチュア株式会社 デジタル コンサルティング本部 アクセンチュア アプライド・インテリジェンス マネジング・ディレクター


金子 尚由

アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループ シニア・マネジャー


今村 彰太郎

アクセンチュア株式会社 素材・エネルギー本部


大田 崇史

アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 素材・エネルギーグループ


米澤 拓孝

アクセンチュア株式会社 デジタルコンサルティング本部 アクセンチュア アプライド・インテリジェンス

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