環境経営とDXで不動産業界をリード。東急不動産が物件のデジタルツイン化から目指す顧客との新しい関係とは

小春　アクセンチュアをパートナーとして選ばれた決め手を伺ってもよろしいですか？

石毛　まずは、CGIに関する世界トップレベルの技術。最大の決め手はそのクオリティです。加えて、グローバル規模のリソースネットワークも有しており、提供いただけるソリューションの幅や人材が豊富なところも魅力でした。専門性の高いクリエーターやエンジニア、コンサルタントがおり、お客様へより良い体験価値をご提供するためにデジタルツイン構築以降の展開を見据えた議論もできます。

戦略的かつ長期的なパートナーシップで伴走しながら支援いただくことで、さまざまな分野の高品質化や省力化、コスト低減、工期短縮が期待できます。不動産ビジネスの新しいモデルづくりをアクセンチュアと共に進めたいと考えています。

酒井　プロジェクト現場でも、アクセンチュアの皆さんは私たちの考えに真摯に向き合ってくれています。東急不動産として実現したいテーマがさまざまある中、それぞれバラバラに行うのではなく相互に関連づけ、効果を最大化するような提案をいただけます。

特にありがたいのは、私たちが持っていなかった視座からの提案です。私自身もアクセンチュアの皆さんとの対話で新鮮な気づき、たとえば取得したデータの活用方法に関するアイデアなどを得ています。

小春　この度の取り組みには、技術とビジネスの両面で新規性があります。まず技術面。バーチャル空間の視覚表現における最先端を行くゲーム業界の知見を最大限活用すべく、最新のゲームエンジンを採用しています。リアルタイムに表示を変えられる技術（リアルタイムレンダリング）により、先ほど石毛部長が挙げてくださったような、実物を撮影した映像では不可能な動きや変化を表現するシミュレーションが可能になります。

一方、ビジネス面では、デジタルの顧客接点を持つことで、お客様との長期的な関係構築を起点とした新規ビジネスの可能性が開けます。例えば不動産は賃貸として利用するケースもあります。まだ人が住んでいるなど現物を下見できない事情がある場合でも、デジタルツインがあれば限りなくリアルに近い物件を見せられるだけでなく家具の配置シミュレーションも可能です。不動産ビジネスに関するバリューチェーンを横断し、売り買いだけでなく、管理や運営を含む、生活クオリティを高めるさまざまな取り組みにつなげることができるでしょう。

石毛　お客様とより長く・より太くお付き合いしたいというのは、当社としても大きなテーマです。デジタルを使ってワクワクする体験を創造していきたいと考えています。

坪井　バーチャルモデルルームのご提供開始後、さまざまなデータが集まってきていますね。例えば、エアコンの取り付け位置を気にされるお客様が少なくありません。こうした具体的な情報によって、クオリティを磨き上げていくポイントがわかります。お客様は実際の生活をどうイメージされるのか。それを追求しながら新しい体験価値を生み出していきたいです。

小春　デジタルが最大の顧客接点になると、建物のメンテナンスはもちろん、家具や家電メーカーなど生活に関するサービスを提供するさまざまな企業のエコシステムが東急不動産さんのプラットフォーム上でつながり、コラボレーションするという展開も考えられます。つまり、建物を売るビジネスから「生活を一緒にデザインするビジネス」へと転換していくイメージです。デジタルの力は、お客様の暮らしにもっと寄り添うことに貢献できます。

石毛　まさに今、社内でもグループの連携強化へ総力を注いでいます。私たちも新しい価値をこれから生み出していける組織でありたいです。

酒井　一年前に「デジタルツイン？それは何ですか」という状態からスタートしましたが、いまは具体的なモノが続々とできあがったことで社内の理解度も加速度的に深まり、「次はどんな展開があり得るだろう？」という議論が活性化しています。お客様から「さすが東急不動産、東急不動産のマンションBRANZ（ブランズ）を選んでよかった」、と言っていただけるような価値を提供できるよう、この勢いを止めないようにしたいです。

小春　デジタルツインと一緒に語られることが多いテーマがメタバースです。さまざまな業界で実験的な取り組みが進行中ですが、確実にいえることはメタバースはDXの延長線上にあるということです。メタバースが一気に広がった時、ビジネスの好機を掴めるかどうかは事前に自社商品・サービスのデジタル化をどれだけ進めているか、持ち込めるデジタルアセットをどれだけ準備できているかにかかっています。

石毛　我々はそうしたデジタルアセットを蓄積している段階にあると考えています。メタバースへの展開の有無に関わらず、デジタルへの移行は今後のビジネスのために不可欠ですから。

酒井　今後を見据えた取り組みとしては、現在の若い世代＝これから家を買う世代、東急不動産の未来を担う世代の価値や感覚に合った形でビジネスを組み立てていく必要性を強く感じています。デジタルネイティブのお客様に受け入れられる販売手法はもちろんのこと、私たちの掲げる環境経営についてもその意義をきちんと発信していくことは人材確保の点でも大切です。採用面接でも面接官を務めることがありますが、若い世代が社会課題に対して感度が高いことを感じます。

小春　まさに、将来の価値も追求していくことの重要度は増しています。企業は長らく財務指標に基づいて現在のみに着目した価値で評価されてきましたが、将来の成長性まで含め多面的に評価されるようになりました。アクセンチュアではそれらを全方位的にご支援することを「360°バリュー」として掲げており、東急不動産さんのご支援でも360°バリューを目指しています。

例えば、高齢や障がいのため展示場に行けなかった方がデジタルツイン上で内覧しバリアフリーのシミュレーションができるようになることはインクルージョン＆ダイバーシティを促進します。モデルルームをデジタルツインに置き換えると建設・解体に伴う環境負荷が低減、つまりサステナビリティにも貢献できます。こうした革新的な取り組みを続ける中で、社内でDXリーダーが育つ仕組みにもつながればと思います。人材も会社の大切な価値ですから。酒井さんはそうした活動の先頭に立っている方かと思います。

石毛　アクセンチュアが提唱されている360°バリューの実現を通して、東急不動産のブランド力を高めることにつなげていければと思います。

「WE ARE GREEN」の宣言やアクセンチュアの皆さんとの協業によって、社内カルチャーの変化が進んでいることを感じています。「知らない間に取り残される」ことがないよう、管理職にできることは「環境づくり」です。意識的に変えるというよりも、社員にはグローバルの新しい知見を日常的に吸収してもらい、自然と変化が触発されることが大切でしょう。

モノづくりを行う私たちは、お客様にご満足いただける体験価値のために試行錯誤し続けることが仕事です。「環境配慮と言いますが、どの部分にどのような配慮をしているのですか？」と尋ねられたら、納得いただける答えを語れなければなりません。自らに問い続け、議論から逃げない企業文化が東急不動産の中に定着しつつあります。

当社にはシニアライフのサービス事業やリゾート開発、フィットネスなど、豊かな時間と体験のご提供を目指すウェルネス事業部門があります。デジタルツインはこれらの事業とも親和性が高いと感じており、近い将来にこれらの事業へ展開する可能性も考えられます。新しい価値の創出につながる具体的な取り組みの開始までに、私たちのセクションでしっかりとノウハウを蓄積・吸収したいと思います。

坪井　本日のお話を通して、あらためて将来の大きな可能性を感じました。私の立場では、酒井さんや皆さんと一緒に現場でしっかり取り組むことで基盤を固めていきたいです。

お客様と「一緒に生活をデザインし、創っていく」ような関係のあり方を目指す中で、ビジネスそのものがどのように変化していくのか。その模索をこれからもご一緒していきたいと考えています。