調査レポート
顧客起点で実現する化学業界の成長:シンプルかつ確実に
化学企業が複雑さを手放し、「基本の徹底」の価値を再発見すべき理由
5分(読了目安時間)
2025/08/17
調査レポート
化学企業が複雑さを手放し、「基本の徹底」の価値を再発見すべき理由
5分(読了目安時間)
2025/08/17
用途に応じた製品設計やイノベーションが重視されてきた化学業界において、今、基本に立ち返る静かな変革が進んでいます。業務をシンプルにし、標準化を進め、製品やサービスを高い水準で安定して提供することが、化学企業にとってこれまで以上に重要です。
アクセンチュアの「2025年グローバル化学業界バイヤー価値調査」によると、顧客は、こうした基本が徹底された価値提供に対して、対価を支払う意向を持っています。サプライチェーンの混乱や経済的不確実性が続く中、本質的でない付加的な要素は、もはや顧客を引きつける力を持ちません。本調査では、12カ国・化学業界のバリューチェーン全体にわたる2,500人を対象に調査を実施しました。その結果、2020年以降、顧客の優先事項が大きく変化していることが明らかになりました。
調査結果から、製品性能の重要性は変わらない一方で、納期遵守を含む信頼性の高い納品や質の高いテクニカルサポートといったビジネスの基盤となるサービスが、これまで以上に重視されていることが分かりました。言い換えれば、顧客が求めているのは製品そのものだけでなく、納品やサポートを含めた一貫した優れた体験です。こうしたニーズを満たす企業においては、実際に顧客の支出は増加しています。
43%
の顧客が、少なくとも10%多く購入する意向を示しています。
36%
の顧客が、5%以上割高であっても購入する意向を示しています。
基本を正しく徹底することの重要性を、これらの結果は明確に示しています。
多くの化学企業は、変化する顧客の優先事項との乖離を抱えたままであり、潜在的な収益機会を逃しかねない状況にあります。化学企業とその顧客を対象に68の主要項目について調査を行った結果、顧客ニーズは変化している一方で、企業側の注力分野が十分に見直されていないことが明らかになりました。
2020年以降、化学企業が過小評価している顧客ニーズの数は、7から16へと2倍以上増加しています。安定した納品や24時間365日のサポート・情報へのアクセスといったサービス関連の項目は、顧客にとって重要性が高まっています。しかし、多くの企業はいまだにこれらへの注力度が低く、その結果、顧客の期待と企業の優先事項との間のギャップが拡大しています。
一方で、再生可能原料製品やマーケットインテリジェンスなどの分野については、依然として重要性を過大評価する傾向が見られます。過大評価されている項目数は17から10へと減少しており一定の軌道修正は進んでいますが、それでもなお、顧客の期待と企業の注力分野とのギャップを埋めるには十分とは言えず、リソースの誤配分や成長機会の逸失が生じています。
顧客の価値観の変化を的確に捉え、最も重要な領域への価値提供を強化することが、顧客の支出拡大につながります。
調査結果をさらに分析すると、業界を問わず、顧客ニーズの上位項目には共通した傾向が存在することが分かりました。自動車、農業、エレクトロニクスを含む13の業界すべてにおいて、顧客が最も重視しているのは高い製品性能に加え、納期遵守を含む信頼性の高い納品です。また、50%以上の業界で、質の高いテクニカルサポートも重要なニーズとして位置づけられています。
これは、業界ごとに顧客の優先事項が大きく異なっていた2020年からの大きな変化です。当時は共通するニーズはごくわずかでしたが、現在では、業界を問わず共通のニーズが浮き彫りになっています。
業界を超えて顧客ニーズが共通しつつあることは、業界横断で共通の取り組みを横展開するうえで、大きな機会となります。業界ごとに個別最適なソリューションを提供するのではなく、顧客共通のニーズに応える視点で、全社横断のケイパビリティへの投資を進めることが重要です。例えば、業界を超えて納品の信頼性を高めるために、ATP(Available to Promise:顧客に対して確約可能な供給量・納期を可視化する仕組み)の導入や、生産計画と輸送管理・トラッキングの統合といった取り組みが考えられます。
標準化されたアプローチとテクノロジーを活用することで、規模の拡大とシンプル化を同時に実現できます。
化学企業はこれまで、製品品質やイノベーションを競争優位の源泉として戦ってきました。しかし現在では、サービスが顧客の意思決定において、ますます重要になっています。本調査によると、サービス関連の上位10項目のうち90%が「非常に重要」と認識されているのに対し、製品関連の上位10項目は50%にとどまっています。この結果は、サービス提供の強化が、化学企業にとって新たな差別化の軸となり得ることを示しています。
顧客の主要なサービスニーズを見ると、安定した納品、スムーズな取引、苦情対応など、特定の製品に紐づかないものが多く含まれています。そのため、輸送管理やカスタマーサービスといった、製品ポートフォリオ全体にわたる全社的なケイパビリティを構築することが可能です。ECプラットフォームやWebポータル、大規模言語モデルを活用したプラットフォームなど、拡張性の高いサービス基盤への投資は、顧客ニーズへの対応力と業務効率を同時に高め、化学業界において持続的な差別化を実現します。
他業界で優れたサービスを体験した化学業界の顧客は、より高い水準の体験や対応力を期待するようになっています。こうした期待に、化学企業はデジタル技術を活用することで応えることができます。
例えば、AIを活用した計画策定やシナリオモデリングによって納品の信頼性を高めると同時に、データ統合により、工場から顧客までの供給状況を可視化できます。また、生成AIは一次対応のテクニカルサポートとして、顧客からの一般的な問い合わせに自動で対応することが可能です。さらに、AIを活用したWebポータルにより、インサイトやトラブルシューティング情報への24時間365日のアクセスを実現します。これらのデジタル活用は、顧客体験そのものを強化し、化学企業が卓越した顧客体験を実現するための中核となります。
厳しい環境下で成長を目指す化学企業にとって重要なのは、取り組みの量を増やすことではありません。真に重要な領域を見極め、顧客が求める基本的な価値を卓越した水準で実行することです。顧客の優先事項を起点にリソースを再配分し、事業拡大の可能性を最大限に活用することで、不要な複雑さを排除することができます。さらに、デジタル技術を先行的に活用することが、パフォーマンスのさらなる向上を通じて、実質的な成長をもたらします。
「シンプルかつ確実に」は、単なるキャッチフレーズではありません。顧客が重視しているのは、製品品質、確実な納品、質の高いテクニカルサポートといった、基本的なサービスの卓越した実行です。こうしたニーズを確実に押さえた企業は、顧客ロイヤルティを高めると同時に、持続的な成長を実現できます。価値を生む領域を明確に見極め、テクノロジーの力を活用し高い水準のサービスを提供し続ける企業こそが、未来に報われるでしょう。
本調査の詳細をご覧になりたい方、または顧客ニーズへの対応についてご相談をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。