課題―求める変化

オンラインイベントを梃子にしたB2Bデジタルマーケ&セールスにおける新たな型

コロナ禍の影響によりコンシューマー向けやビジネス(法人)向けを問わず、セールスやマーケティング活動で非対面コミュニケーションが急増していることは言うまでもない事実です。一方で、伝統的に「リアルの展示会を開催する」という習慣が根強いBtoBイベントの分野はDXを手探りしているほか、イベントのオンライン開催やバーチャル化はさまざまな企業で試行錯誤されている状態です。

生活者や顧客に対して優れた体験を提供するには、これまでの「顧客体験(CX)」を軸とした考え方だけでは不十分です。あらゆるタッチポイントを含むビジネス全方位での体験設計こそが、顧客・従業員・パートナーに有意義なエクスペリエンスを提供します。そのような新しいアプローチで事業を再検討し、ピボット(方向転換)できる企業体になることを、アクセンチュアでは 「Business of Experience(BX)」 と呼んでいます。

CXとBXの違いの説明図が表示されています。は、 CXが製品、サービス周辺のタッチポイントの最適化にあるのに対し、BXはパーパス(存在意義)に沿ってひとのニーズを解決するものである点です。

あらゆる企業におけるマーケティング&セールスのDXは、このBXの考え方に基づいて進められるべき取り組みだといえるでしょう。変革へ向けた機運は高まっており、実践方法も確立されつつあります。なにより、事例数も増加しています。その中でも、ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)の「SoftBank World 2020」は、従来型のリアルイベントから「オンライン開催」へと全面移行した代表例にふさわしい事例です。累計登録者数4.4万人(昨対比118%)、のべ視聴者数11.9万人(昨対比682%)※を記録するなど、国内のバーチャル(オンライン)イベントとしては過去最大級(アクセンチュア調べ)のものとなりました。

※数字はいずれもソフトバンク株式会社「2021年3月期 第2四半期決算」プレゼンテーション資料、p32「SoftBank World 2020実績」より

デジタルシフトが進むBtoBマーケティング&セールス領域では、先駆者であるほど注目を集め、訴求力拡大のチャンスとなります。試行錯誤されているBtoBオンラインイベントの「1つのモデル」を確立した「SoftBank World 2020」は、イベント当日だけにとどまらない、その前後の一連のマーケティング活動を見据えたあらゆるタッチポイントへのデジタル技術の活用によって、マーケティング施策におけるイベントの「位置付け」さえも大きくトランスフォームしています。

BtoBマーケティング&セールスはその急速なデジタルシフトに伴い、セールスまでを連携させた一連の活動としての色合いが強くなり、「よりセールスへとシフトする」と見込まれます。これにより、マーケ・セールスにおけるあらゆる顧客接点を連携させた体験設計が肝要となってきます。

B2Bマーケティング機能はマーケティングから、よりセールスにシフトします。B2Bマーケティング&セールスの潮流についての説明図が表示されています。

B2Bマーケティング&セールスの潮流

また、物理的ファシリティに掛けていた時間や投資が、今後は「イベント企画・運営およびコンテンツ制作」「広告・集客および配信」へと構造が変化していくと見られます。つまり、イベントの全面デジタル化により、セールスシナリオの一貫としてイベントがより深く連携・浸透する潮流が加速するとアクセンチュアでは予測しています。

イベント市場の動向

コロナ禍における「ビジネス環境の変化に合わせたイベント」のあり方

ソフトバンクグループ全体として最大規模のBtoB(法人向け)イベントとして知られる「SoftBank World」は、孫正義代表を含む国内外の著名人による基調講演、協賛パートナー企業によるセッション、展示等で新たなビジネススタイルを紹介するものとして、過去9年間にわたって年次開催を続けてきました。

2020年春、コロナ禍でリアルイベントが軒並み開催中止となるなかで「SoftBank World 2020」も岐路に立たされます。「SoftBank World 2020」を企画運営するソフトバンク 法人マーケティング本部では、早期にオンライン開催という大方針へ舵を切ったものの、数万人の来場者があるイベントのオンライン化を実施した事例は国内には該当するものが見当たらず、手探りからのスタートとなりました。

ソフトバンクがオンライン開催を決定する中、パートナーとして指名されたのがアクセンチュアでした。

ソフトバンク 法人事業統括 法人マーケティング本部 本部長 上野邦彦氏は、アクセンチュアを選定した経緯について次のように話します。

「アクセンチュアにはこれまで、ソフトバンクのBtoBマーケティング&セールスのプラットフォーム構築・導入を何度もご支援いただいており、デジタルマーケティングに関する深い知見、およびソフトバンクの業務やバックエンドのシステムにおける深い理解を有していることなどを高く評価しました。それに加え、リアル開催から初のオンライン開催へと転換するにあたって、講演や展示等のコンテンツの組み合わせ方や全体のデザイン・導線設計など、オンラインイベントに関するノウハウを補うためにも、アクセンチュアのコンサルティングに期待しました」

こうして、ソフトバンクの法人マーケティングにおけるDX推進の1つのフラグシップ的取り組みとして、「SoftBank World 2020」のオンライン開催へ向けた準備が立ち上がりました。

アクセンチュアでは、コロナ禍によってビジネスパーソンの働き方が従来とは全く違ったものになっていることから、顧客の行動変容に基づいた「オンラインイベントの新しいモデル化」をソフトバンクと協議。たとえば、従来はプッシュ型で送られていたイベント開催情報の配信やユーザー獲得も、昨今ではプル型へとシフトしていることや、会場の物理的制約がないオンラインにおいては、かつてない規模でユーザー数を獲得可能なことを踏まえた取り組みが重要であることを協議しながら推進してきました。

「SoftBank World 2020」のロゴ

集客からアフターフォローまで、デジタルで統合的に運用

BtoBのマーケティング&セールスでは、従来ならば展示会を通じてマーケティング部門が獲得したリード情報(名刺やメールアドレスなど)などをセールス部門が引き継いで営業活動を展開する、ウォーターフォール型の取り組みが一般的でした。しかしオンラインで「顧客体験」を適切に設計することで、獲得したデータをマーケティング部門とセールス部門がリアルタイムに連携できます。将来的には、バーチャルな会場を使った商談への遷移や、次のアクションへつながるデータ分析など、デジタル技術を使った新しい展開が可能となります。

つまり、展示会のデジタル化においては、イベント以前・以後のセールス設計のジャーニーを描いて、いかにコンバージョンしていくかが要点です。コロナ禍によるパラダイムシフトは社会全体に起きた劇的な変化ではありましたが、DXの先進的企業でもあるソフトバンクがオンラインイベントのあり方の「新しいモデルの確立」を目指していたのは、いわば自然な流れであったともいえるでしょう。

ここでの特徴は、イベントそのものは「経過点」として捉え直し、参加者がイベントを通じてどのような態度変容に至ったかを分析し、受注や売上につなげるために参加者ごとのステータスに応じたアフターフォローがセールスを見据えて設計されている点です。コンバージョンにつながるデジタルデータの収集などへの注力もこの特徴に含まれます。

まったく新しいイベントのモデルと枠組みをゼロベースで検討

一方で、BtoBイベントに欠かせないのが協賛企業へ向けたメニュー設計です。大規模なBtoBオンラインイベントは前例が非常に少ないことから、広告枠や見込めるリード数、ブース展開方法といったサービス内容と協賛価格に関する「相場」がまだ固まっていません。

SoftBank World 2020」の協賛企業へのリターンの設計において、アクセンチュアは海外動向の知見を収集して参考情報としつつも、規模や内容等から、日本のBtoBオンラインイベントとして最適なモデルをゼロベースで検討しました。その過程において、新たな切り口での考え方や、その枠組みをソフトバンクへ提供しました。

  • 協賛価値に見合ったリード獲得単価(CPA)設計
  • 協賛企業へ提供できる「オンラインイベントならではといえる価値」の定義
  • リード獲得単価とオンラインイベントならではの価値を踏まえた協賛メニュー・協賛金額設計

こういった点をゼロベースで見直す上では、アクセンチュアの総合的な知見がプロジェクトに貢献しました。

「オンライン化はリアル会場などが不要になることから、ソフトバンクの社内においてもコストが下げられるのではないかとの先入観がありました。しかし、ビジネスイベントのオンライン化はコスト構造やリソース配分の構造の入れ替わりはありますが、コスト削減の施策ではありません。オンライン化を成功させ、期待した効果を得るにはセクショナリズムの打破による横断的プロジェクト体制の構築も必須であると実感しました」(上野氏)

また、ソフトバンク 法人マーケティング本部 副本部長 原田博行氏は、当時のソフトバンク社内の事情についてこのように振り返ります。

「『SoftBank World』はBtoBイベントでありながら、ファンとなっていただける方も増えているなど、幅広い皆様にご支援いただけるイベントへと成長して参りました。しかしこれからはバーチャルへのシフトを目指し、考え方もすべてデジタルを基軸として進める必要がありました。現場スタッフも同様に「リアルで続けてきたものをオンラインへ乗せ替えるだけでは成功しない」と考えていたものの、実際にはリアルイベント的な発想や行動様式が染み付いてしまっており、マインドチェンジには最初は非常に苦労しました。その点でアクセンチュアには組織カルチャーの変革からデジタルマーケティングの展開まで、エンドツーエンドでご支援いただけたことを感謝しています。ソフトバンクは『どこよりも速く変化する』という企業カルチャーを特徴としています。『SoftBank World 2020』の準備を進める過程でバーチャルシフトが達成できたと自負しています」

「リアルからオンラインへ、イベントを移行する過程では企画・運営に携わる関係者のマインドセットの切り替えが不可欠です。マーケティングとセールスの融合、ビジネスユーザーとコンシューマーの境界線の消失、そしてプロセスの改革。すべてが変化したことをイベント主催者として実感しました。「SoftBank World 2020」の開催を通じ、ビジネスイベントそのものを再定義したといえます。2020年はいわば『BtoBtoC元年』です」

— 上野 邦彦 氏, ソフトバンク株式会社 法人事業統括 法人マーケティング本部 本部長

取り組み―技術と人間の創意工夫

全員がリモートワーク前提のコミュニケーション基盤による迅速な意思決定

イベントをオンライン化し、「データドリブンなマーケティング&セールス」へのシームレスな展開を進めていくうえで、もう1つの大きなチャレンジが「最適なプラットフォームの構築」でした。アクセンチュアは、ソフトバンクの業務・システムに関する知見をもとにアドバイスを実施いたしました。

また、コミュニケーション手段における創意工夫がプロジェクト成功に貢献しています。企画運営の全メンバーがリモートワークを主体として業務していることから、効率的な意思疎通を実現できるチャットやオンライン会議ツールなど、先進的なツールを使用しました。

そうしたコミュニケーション基盤の運用においても、チームや個人ごとの閉鎖的運用は避け、オープンかつコラボレーティブな体制で実施。検討課題は常に多数あったものの、テクノロジーを最大限活用し、ゼロ会議・即時連携、デジタルコミュニケーションツールを活用したアジャイルなワークスタイルを体現しました。

BtoBマーケティングの新潮流

このプロジェクト推進で得られた、今後のBtoBマーケティングの新潮流は次の3点に集約できるでしょう。

1. リアルとオンラインのハイブリッド化
BtoBイベントは今後、あらゆる境界線が曖昧となるでしょう。リアルとオンライン、営業とマーケティング、BtoBBtoCなど、従来は明確に区別されていた領域が混ざり合うハイブリッド化が進むと予想されます。そのため、マーケターやセールス担当者は、あらゆるタッチポイントからデータを統合してビジネスを設計する必要性に迫られます。

ハイブリッド化された世界では、顧客接点の機能統合が進むとともに、あらゆるイベントに展開の可能性があります。

2. あらゆる顧客接点における機能の統合
ハイブリッド化したオンラインイベントの世界では、名刺交換やワークショップ、個別の商談からEC連携までの機能統合が加速度的に進みます。各種のイベントへの横展開も容易となり、決算発表や代理店向け説明会、採用イベント、展示会への招待などへの参加の敷居が下がることで、取引先とのリレーションの強化が加速します。

B2Bイベントはあらゆる境界線が曖昧となりハイブリッド化が進むと想定されます。

3. 360°の価値提供とBusiness of Experience(BX)の追求

今後、優れた顧客体験を継続的に提供していくために、「ビジネス全体の体験の再設計」がマーケティング&セールスの必須テーマとなります。CX改革ではなくBXの追求を志向することで、参加者のUI/UXだけでなく、協賛企業の関係するマネタイズやCRM改革、主催者としてリソースのPivotと従業員体験の向上を同時並行で推進しなければなりません。

以上のことからも、「SoftBank World 2020」はCX改革からBX実現へとつながった好事例だったといえるでしょう。アクセンチュアはスピードとスケーラビリティを強みとして、「SoftBank World 2020」の開催をご支援しました。

優れた顧客体験を継続的に提供していくためにはビジネス全体の体験を再設計していくことが求められます。

「私が担当しているマーケティング領域だけでなく、アクセンチュアには他の部門も伴走いただいています。ソフトバンクではアクセンチュアを『幅広い業務領域で高いケイパビリティをお持ちのグローバルコンサルティング企業』だと捉えており、日本国内はもちろん、世界中の知見をフル活用した支援をいただいています」

— 原田 博行 氏, ソフトバンク株式会社 法人事業統括 法人マーケティング本部 副本部長

成果―創出された価値

アジャイル的協働でビジネス全方位の体験設計を目指す

この変革を支えたのは、ソフトバンク 法人マーケティング本部とアクセンチュアが進めてきた「走りながらの意思決定」です。これはいわば、ウォーターフォール型の企画運営ではなく、アジャイル的アプローチであったともいえます。

「関係者がオンラインのコミュニケーションツール上で協働しながら決定事項や作業を遂行していく今回の取り組み方法は非常に画期的でした。懸念事項が次々と解決されながら形になっていく様子には一種の感動さえ覚えました」と原田氏は振り返ります。

オンラインイベントは、リアルイベントを単にオンラインへ乗せ替えるだけのものではありません。もしリアル講演をWebセミナーのように配信するだけと考える程度では、新しい顧客体験の創造にはならないからです。オンライン独自の顧客行動特性を掴み、セールスへつながるシームレスな取り組みとして位置づける必要があります。

「ビジネスイベントは、大規模であるほどある種の『お祭り』の様相を呈してきますが、オンライン化へ舵を切ったことで、改めてマーケティングイベントとして軸足を置き直し、役割や位置付けを再定義しました。特に主催者という主語で話すのではなく、『協賛社のニーズと視点』『来場者の期待と持ち帰りたい学び』の視点で徹底して議論し直すことができました」(上野氏)

ソフトバンクとアクセンチュアを主体とするプロジェクトチームが個々のハードルに対して「どのように対応するか」についてBXの視点を持ち、体験をゼロベースで考え直して乗り越えてきたことが、このプロジェクトの特徴です。大型イベントになるほどチームが細分化されますが、有機的な連携と機動的な行動を両立する組織体制でこのプロジェクトは推進されました。

「『SoftBank World 2020』の企画運営で『バーチャルに正解の形はない』ということがよく分かりました。私たちも試行錯誤しながら、これからもソフトバンクらしいオンラインイベントを作り、さらに磨き上げていきたいと考えています」(上野氏)

デジタルによってマーケティングとセールスの境界線は消滅しつつあり、今後は大規模オンラインイベントの間に、テーマ特化型の小規模オンラインイベントを高サイクルで回していくなど、複合的な施策を組み合わせる手法がより一般化するでしょう。

SoftBank Worldを型として年間を通し、オンラインイベントを核にミニワールドを推進

SoftBank World 2020」は、今後のBtoB大規模イベントにおける1つの完成モデルになると予想されます。同時に、ソフトバンクの法人営業部門のDXの推進剤としても機能するなど、ビジネス全方位の体験設計と事業の転換を行うBXが進むとみられます。

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