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調査レポート

Work, workforce, workers

生成AIがもたらす企業全体の再創造

10分(読了目安時間)

2024/03/19

概略

  • 生成AI(ジェネレーティブAI)は、農業革命や産業革命以来最大の変化を仕事にもたらすでしょう。

  • リインベンターズ(再創造企業)はサイロな組織構造から脱却し、全社的な業務や役割の再構築に従業員を積極的に参加させることにより、従業員の間の信頼構築を促しています。

  • 従業員中心の変革アプローチをとる企業は、今後、10兆3,000億ドルの経済価値を生み出す可能性があると見込まれています。

 

仕事の再構築、人員配置の最適化、従業員の育成

生成AIは、バリューチェーン全体のプロセスを再設計する幅広い可能性を示しています。

生成AIが企業にもたらす変化は、これまでの技術とは一線を画します。生成AIは、基本的なタスクを自動化・補完するだけではなく、バリューチェーン全体のプロセスを根底から変革する可能性を秘めています。この画期的なテクノロジーをスケールさせ業務を改革するために、経営者は新たな方法でリーダーシップを学び、発揮していく必要があります。そして、従業員が生成AI時代に業務を再構築するための変革ビジョンを設定し、実際に業務の抜本的見直しをリードしていくのです。同時に、絶え間ない変化の波を乗り切るための強靭な企業文化を構築することも必要です。

生成AIは、農業革命や産業革命以来、最も大きな経済的価値の創出と仕事への変化をもたらします。組立作業員からカスタマーサービス担当者、研究員まで、すべての人に自らの業務を再構築する力を与え、ある意味、業務プロセスの再設計を民主化します。アクセンチュアの調査によると、生成AIは経済的価値の創出を加速させ、ビジネスの成長を促進するだけでなく、人々に創造的で意義のある仕事を与えることが分かっています。

生成AIが提供する3つの機会:生成AIは経済的価値の創出を加速させ、ビジネスの成長を促進するだけでなく、人々に創造的で意義のある仕事を与えるでしょう。

アクセンチュアの調査によると、従業員の95%は生成AIの活用に価値を見出す一方で、 約60%が失業への不安やストレス、疲弊を感じています。必ずしも組織が従業員にとって良い選択をするとは信じていません。さらに、経営幹部の3分の2は、自組織は、生成AIを活用した企業全体の再創造を導くのに十分な状態ではないと告白しています。これは、従業員と経営者の認識の違いを示しています。経営者と従業員の間で認識のずれが生じると、企業と従業員との信頼関係が損なわれます。この認識のずれを埋め、生成AIの活用を加速するためには、ビジネスと従業員に良い結果をもたらしている先進企業を見て学び、参考にする のがよいでしょう。

リインベンターズ(再創造企業)と呼ばれる先進企業のうち、4分の3は従業員を積極的に巻き込んで変革を起こし、業務と役割を再設計しています。実際、リインベンターズ(再創造企業)の4分の1は、今後3年間で従業員の生産性を20%以上向上できると見込んでいます。生成AIを、人に代わるテクノロジーではなく、仕事の質と従業員体験を向上させ、職場におけるNet Better Off(正味幸福度の向上)を実現するための手段と位置付けています。この考え方は、経営者と従業員の間にある認識のずれを埋め、人々が安心して生成AIと働けるような環境を整えるための明確な道筋を提供します。新たなリーダーシップで従業員を導き、学びながら進化するリーダーは、業務の再構築や人員配置の最適化、従業員のための環境づくりを行い、生成AIの潜在能力を最大限引き出し、業績、組織、従業員すべてにメリットをもたらすことができるでしょう。

”生成AIは、過去25年間で最も大きなディスラプションを組織に、そして広報室に告げるものです。生成AIの活用に責任を持って取り組めば、最も重要で尊敬されるメディア企業として今後さらに良いサービスと製品を提供するのに役立つでしょう。会社の目的や達成すべきゴールを理解しているのは、テクノロジーではなく人ですから。"

 —William Lewis, Chief Executive Officer and Publisher, The Washington Post

生成AIの現状

現在、私たちは“生成AI時代“に生きています。機械は高い精度で予測し、創造的なコンテンツを生成し、提案を行うことができます。

Generative AI foundation models: Diagnostic, Predictive, Generative
Generative AI foundation models: Diagnostic, Predictive, Generative

生成AIの登場からはまだ日が浅いため、ほとんどの企業がまだ企画や検証の段階にあります。しかし、アクセンチュアでは既にいくつかの分野で急速な変化を目の当たりにしています:

  • 再創造:81%の企業で、生成AIは企業の再創造に向けた主要手段の一つだと考えられています。

  • インパクト:アクセンチュアのモデリングによると、米国では労働時間の44%を自動化または増強できると考えられています。

  • 規制への対応:急速に進化するAI技術に対して、知的財産保護や利用協定を含む強固な規制の枠組みを早急に確立する必要性を認識する国や地域が増えています。
  • CxOの所感:世界のCxOの86%が、生成AIは自社や業界にとって変革要素になると考えており、100%のCxOが自社の労働力に変化をもたらすと予測しています。
  • 従業員の所感:従業員の95%は、生成AIを活用して働くことに価値を感じており、82%はすでに生成AIをある程度理解していると考えています。

これまでの進歩や今後のトレンドを考慮すると、生成AIを活用しスケールさせる際に生じるリスク、利益、そのトレードオフについては相反する意見が存在します。生成AIが持つポジティブな潜在能力を引き出すためには、この課題を理解する必要があります。


”みずほ銀行では将来に焦点を当て、生成AIが市場や職場に導入されることによって業界がどのように変革され得るかを幅広く考えています。変革を効果的に管理するためには、特に従業員とのコミュニケーションが非常に重要です。彼らは生成AIがもたらす影響に不安を抱いているため、経営者は個々に寄り添ったアプローチを取る必要があります。一人ひとりの経験、スキル、潜在的な活躍機会の拡大について話し合うべきでしょう。"

—株式会社みずほフィナンシャルグループ 取締役 兼 執行役副社長(代表執行役) グループCDO 梅宮 真氏

意見の対立が信頼を損なう

従業員が生成AIを効果的に採用し、受け入れるためには信頼が必要です。アクセンチュアの調査によると、信頼は単にツールに対するものだけではありません。組織が従業員の仕事を守る形で生成AIを業務に適用するという信頼が必要です。しかし、従業員と経営者の間にはこの認識にずれが存在します。

32%

の経営幹部が、生成AI活用の大きな障壁としてスキルの欠如や人材不足を挙げています。また、36%は、従業員がAIを受け入れることに消極的なのは、テクノロジーに対する理解不足が原因であるとしています。

82%

の従業員がテクノロジーを理解していると考えており、94%が必要なスキルを身につけられると確信しています。

CxO and worker perception gaps
CxO and worker perception gaps

このずれを理解し、解消に導くことは、生成AIの導入に取り組む企業や社会のリーダーにとって非常に重要です。これらの課題を積極的に解決することで、私たちは単に課題を認識するだけでなく、生成AI時代を切り開くチャンスに変えることができます。

生成AIが提供する3つの機会:経済、ビジネス、人

経済価値の創出を加速させ、ビジネスの成長を促進し、従業員に有意義な仕事を創出するためには、以下に述べる3つの機会を全て活かすべきです。従業員が生成AIの可能性を最大限に発揮するためのナビゲーターとなることで、変革のインセンティブが高まります。生成AIは、バリューチェーン全体にわたって業務に革命をもたらすでしょう。アクセンチュアの調査レポートでは、責任を持って生成AIを業務に統合することによる価値創出機会をより明確に示しています。

経済

アクセンチュアはモデリングによって、生成AIの採用とイノベーションのスピードを基にした3つの経済成長シナリオからの洞察を明らかにしました。その中で、従業員中心のアプローチを採用するシナリオは成長が際立っており、2038年までにさらに10兆3,000億ドルの経済価値を創出する可能性があることが分かっています。

Companies can unlock value by adopting responsible, people-centric approaches to Gen AI
Companies can unlock value by adopting responsible, people-centric approaches to Gen AI

ビジネス

ほとんどのCxOは、生成AIが最終的に自社の市場シェアを拡大すると考えており、そのうちの17%は、生成AIが自社の市場シェアを10%以上拡大すると予測しています。アクセンチュアの予測によると、全社横断的に、ビジネスプロセス全体に生成AIを統合する形で業務改革を計画している企業は、今後5年間で、現在のトップ層企業の収益成長率をも追い抜くことが予想されます。また、データやテクノロジーを重視するだけでなく、従業員を優先したアプローチを採ることで、最大11%の生産性向上が期待できる一方、人的要素を軽視するとわずか4%にとどまるとされています。

人材

我々人間は通常1つか2つの専門分野やその周辺スキルの獲得に集中します。一方で、生成AIによって、相互に関連する能力を複数、しかも一挙に習得する機会が得られます。このような変化は、それぞれの従業員のニーズと志向に合わせた学習を可能にし、より俊敏で変化適応力のある組織を作り出すことに寄与します。ただし、これは透明性と信頼をベースとした企業文化がある場合にのみ実現されます。アクセンチュアの調査では、Net Better Off(正味幸福度の向上)が従業員と組織の認識のずれを埋め、彼らが安心感をもって働くための明確な道筋であることが示されています。Net Better Off(正味幸福度の向上)を感じる従業員は、テクノロジーが自分の仕事に適用できるかという問いに対して、「強く同意する」と回答した割合が19ポイント高いことも分かっています。

Workers already experiencing a greater degree of support from their organizations are better prepared to envision and realize the value of Gen AI
Workers already experiencing a greater degree of support from their organizations are better prepared to envision and realize the value of Gen AI

生成AI GPS: 生成AIの可能性を最大限に引き出すアクセラレーター

生成AI時代における企業の成功は、リーダーに大きく依存します。特にテクノロジー活用に関して積極的に取り組むこと、従業員に思いやりと謙虚さをもってリードすること、そして従業員が仕事でNet Better Off(正味幸福度の向上)を感じるような環境を作り出すことが重要です。例えば、エンツォ・フェラーリが何故素晴らしい車を作れたかというと、設計やエンジニアリングのアプローチを再構築したことだけではなく、彼自身がドライバーであったことも成功要因の一つだと言えます。つまり、生成AI時代においては、リーダーが変革を自分事として捉え、テクノロジーを駆使し、人々の力を最大化する能力が極めて重要です。生成AI時代においては、リーダー自身も、「ドライバー」であり続ける必要があります。

Learn and lead in new ways
Learn and lead in new ways

アクセラレーター1:新しい方法でリードし、学ぶ

生成AIが可能にする未来において、信頼され変革成果をもたらすリーダーであり続けるために、リーダーは古い考え方に固執せず、新しいリーダーシップを学び、発揮する必要があります。調査した経営層の65%が、生成AI主導の変革に必要な技術的な専門知識を持っていないことを認めています。リーダーがテクノロジーに没頭し、その学びを仕事に組み込んでいくことが重要です。リーダーが学習することで、AIを効果的に活用できるようになり、従業員の環境やビジネスがより良くなる未来に備えることができ、その結果として従業員からの信頼を得ることができます。


「AIは単なるツールではなく、ゲストとアソシエイトの体験を向上させる強力な触媒だと考えています。マリオット・インターナショナルでは、意図的に部門横断的なアプローチをとってきました。チーフ・レベニュー・オフィサー、チーフ・カスタマー・オフィサー、そして私自身によるチーム活動であり、全従業員のエネルギーを結集したものなのです」

—Ty Breland, Chief Human Resources Officer, Marriott

生成AIが発達した世界におけるリーダーのための学習ロードマップ

  • デジタル・フルエンシー(デジタルを選択し、使いこなす力。クラウド、データ、セキュリティを含む)
  • 生成AIの基礎(LLM、アーキテクチャ、責任あるAIの原則を含む)
  • 正しい質問をする

理解する

  • デジタルコアの現状と生成AIの準備状況
  • 価値達成のためのモジュール化
  • スケールさせる方法
  • 自社及び隣接する業界の生成AIの状況
  • パートナーの状況

以下のことができます

  • 複数年計画の策定
  • 投資の優先順位付け
  • テクノロジーエコシステムの活用
  • 競合による影響の理解
  • 責任あるAIの導入による失策回避

理解する

  • ビジネスプロセス変革の機会
  • 業務フローにおける生成AIツールの活用法

以下のことができます

  • 人員の再編成と再配置
  • 機能横断的なコラボレーションを実現するための組織改革

理解する

  • 従業員の学習方法
  • 従業員ライフサイクルにおける中核スキル
  • 従業員への訴求価値(Employee Value Proposition)
  • チェンジマネジメントの最新状況

以下のことができます

  • 効果的なリスキルプログラムを管理し、仕事と学習を統合する
  • AIを活用した人材戦略の構築
  • 効果的なチェンジマネジメントに向けた能力とツールの開発
  • 変化の影響を評価し、従業員のNet Better Off(正味幸福度の向上)を確保
  • 企業AIガバナンス
  • 規制、倫理、社会的影響
  • リスクの軽減

アクセラレーター2:業務を再創造する

ワークフロー全体を見直すことで、ビジネス目標と整合させながらAIが最も効果を発揮できる場を明確にすることができます。また、企業全体の効率性を向上し、サイロ化から脱してイノベーションを起こすことにも寄与します。

その上で、顧客サービスの質向上や従業員サポート、ビジネス成果の達成といった観点で、再び業務そのものに注目し、生成AIでどのように変革するかを検討します。プロセスが変わる中で、従業員が自ら仕事や周囲との連携方法を最適化する文化を育むことが必要となるため、新しい人材モデルも求められます。プロセスが変われば仕事も変わるため、人間も機械もバリューチェーン全体の変化に対応できる適応力とスキルを確保することが重要です。

下図:生成AIを活用して刷新された消費財におけるワークフローの例

How gen AI can optimize particular business activities
How gen AI can optimize particular business activities

「“生成AI”は、機能を横断的に統合したオペレーションのレビュアーと言えるでしょう。数年後を見据えて、テクノロジー適用や業務・役割の改革プランを立てる際に、より広範な視点で組織を見る機会となります。これによって、変革の次の段階に向けて、従業員が備えられるようサポートすることができます。」

—Francine Katsoudas, EVP and Chief People, Policy & Purpose Officer, Cisco

アクセラレーター3:ワークフォースの再構築

生成AIをマスターするためには、継続して学習を行う必要があります。生成AIの利用が拡大するにつれ、組織はスキルマッピングやスキルオントロジーのようなツールやテクノロジーをさらに活用し、衰退しつつある役割から新たな役割への従業員のスムーズな移行を促進する必要があります。業務と役割がシフトすることで、組織全体で見るとキャパシティの拡大が図られ、将来に向けた成長戦略や求めるビジネス成果に合致した、新しい役割創出とその役割への移行のための人材が確保されます。このキャパシティの拡大こそが、CxOが予測する生成AIによる生産性向上と市場シェア拡大の鍵です。

下図: AIの未来において、業務と役割がどのように再配置されるか、どんな役割がフリーアップされていくかを示す例

How gen AI can increase capacity
How gen AI can increase capacity

「従業員は、新しい働き方を形作る手助けをしてくれています。私たちは、彼らの体験と仕事の品質を真に向上させるべく、従業員とのパートナーシップを強める必要があると思っています。」

—Leanne Wood, Chief Human Resources Officer, Vodafone

アクセラレーター4:従業員の準備

生成AIを組織に深く統合するためには、従業員個人、組織、そして機械という3者の関係性を踏まえて学ぶ環境をデザインし、包括的な学習イニシアチブとすることが必要です。なかでも、強力な「teach-to-learn(学ぶために教える)」文化は重要です。結局のところ、人が機械に教える必要があり(それ自体が新しいスキルです)、人と機械の両方が協働しながら、時間をかけて仕事を上達させ、生成AIのメリットを最大化する必要があるからです。このような学習アプローチにおいては、従業員を効果的に巻き込み、変革を自分事化することが不可欠です。そして組織がその透明性や信頼を育もうとする努力を伝えていくこと。その結果、従業員は組織を信頼し、Net Better Off(正味幸福度の向上)を実感でき、より一層の生産性の向上に意欲を持ち取り組むでしょう。

「生成AIの学習と開発に関しては、従業員に馴染みのある用語を使って語るようにしています。私たちは、人々が興味を持ち、わくわくしてくれることを望んでいます。そして、AI世代が自分のペースで学習できることを伝えたいのです。もし彼ら自身が意欲を持ってくれるなら、学ぶ姿勢が前向きなものになるだろうことは確信できます」

—Rose Marie E. Glazer, Executive Vice President, General Counsel and Interim Chief Human Resources & Diversity Officer, American International Group

今後の展望:最良の結果を生み出すのは我々自身

生成AIは、今までにない速さで世界を変えようとしています。ChatGPTはわずか数時間で世界の注目を集め、すぐに企業や一般の人々に受け入れられました。このテクノロジーの新たな活用例は、毎日数え切れないほど生まれています。最近の技術革新の中で、これほど早く、これほど多くのものを変革したものはありません。

だからこそ、時間は非常に重要です。変革への道のりを歩むにあたり、経済、ビジネス、そして従業員ひとりひとりに生成AIのもたらす変化の可能性を十分に実感しながら、組織における信頼と透明性を築き上げることが重要です。最終的に、最良の結果を生み出すのは我々自身なのです。

新たな方法で学び、変革をけん引することによって、私たちは組織や人々、そして社会を活性化させる力を持ち、同時に、次の地平線に進むために必要な組織のレジリエンスを構築することができます。

筆者

保科 学世

執行役員 ビジネス コンサルティング本部 データ & AIグループ日本統括 AIセンター長 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括 博士(理学)

植野 蘭子

ビジネス コンサルティング本部 人材・組織 プラクティス 日本統括 マネジング・ディレクター

Ellyn Shook

Chief Leadership & Human Resources Officer

Paul Daugherty

Chief Technology & Innovation Officer