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ブログ

クラウド活用におけるマイグレーション&モダナイゼーションのポイント

所要時間:約5分

2023/03/24

テクノロジーコンサルティング本部インテリジェント・クラウド・イネーブラー・グループに所属しているシニア・マネジャーの岡田です。アクセンチュアにはクラウドを専門とする部隊があり、そのサブチームとしてマイグレーション&モダナイゼーションという観点からお客様のクラウド移行を推進/実現していくプロジェクトに従事しています。このサブチームでは、7Rという用語で定義されるクラウド移行パターンのうち、リホスト(REHOST)/リプラットフォーム(REPLATFORM)/リファクタリング(REFACTORING)を主として推進しています。

現在、多くのお客様でJ2C(Journey to Cloud)の推進が、ITシステムのコスト削減、成長事業/新規事業へのスピーディなIT活用によるビジネス効果の実現やエンドユーザーへの優れたUX(ユーザー・エクスペリエンス)の提供のようなDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進、といった文脈で語られ実現されてきているのは周知のとおりです。

新しいビジネスモデルやDX体験を実現するためのクラウド技術は、サーバーレス、API、マネージドAI、データレイクの活用といった新しい技術を中心に、素早くアーキテクチャーの検討/実装に着手しやすいといった特性をもっているものの、お客様の基幹業務システム(いわゆるSoRとして分類されるシステム)をクラウド移行していくためには、さまざまな技術的な考慮点や制約などがあり、新規にクラウド上でのアーキテクチャーを設計し実装していくことと比較しても、難しい側面があります。また、プロジェクト運営といった観点でも、さまざまな検討事項があります。

この記事では、それらについて、解説を試みます。

クラウド移行のパターン

アクセンチュアが考えるクラウド移行の7R

アクセンチュアでは下図の7つの“R”をクラウド移行のパターンとして定義しており、それらすべてにおいてお客様をサポートしています。 その中でも、マイグレーション&モダナイゼーションを担当しているチームでは、クラウドへの単純移行 (REHOST)だけではなく、 アー キテクチャ変更、 アプリ・DB変更・改修を行うREPLATFORM/REFACTORINGにも注力しています。

アクセンチュアが考えるクラウド移行の7R
アクセンチュアが考えるクラウド移行の7R

これまでITコスト削減という文脈でクラウド移行を検討し実践してきたお客様では、上図のリホストというクラウド移行のパターンを実現することにより、OS/ミドルウェアの変更をあまり気にすることなく、クラウド移行の実現のしやすさを主眼におき、それによるクラウド移行投資の回収を早期に進めるという観点が主流でした。しかしながら、いざそれによるビジネスケースを計測しても、オンプレミスのデータセンターで仮想化技術(VMware等)を使用して稼働しているサーバーを、単純にクラウドベンダーの提供するIaaS(Infrastructure as a Service)に移行するだけでは、投資を回収するまでに相当の年数がかかったり、本当の意味でのクラウド移行による運用面の改善効果を得ることが難しいという現状に気づき始めてきているのが多くのお客様の現状ではないでしょうか。

それに対して、上図のリプラットフォームやリファクタリングというクラウド移行のパターンでは、OS/ミドルウェアの変更や相応のアーキテクチャー変更といった移行上の初期コストはリホストに比べて大きくなるものの、クラウドベンダーの提供するマネージド・サービスを利用することでのシステム運用コストの削減や、商用ミドルウェア/DBMSからの脱却によるライセンスコストの低減をはかることができ、クラウドのもつ大きな特性のDevOpsの改善といったメリットを受けやすくなると期待されています。

マイグレーション&モダナイゼーションの持つ意味

前述したように、私が担当しているマイグレーション&モダナイゼーションというクラウド移行はリプラットフォームやリファクタリングのパターンを対象としていますが、もう少しそれによる効果について説明を行います。

リプラットフォームにより得られる効果:

  1. 商用ミドルウェアのライセンスからOSS(オープン・ソース・ソフトウェア)中心のソフトウェアに移行することによるライセンスコストの削減効果が得ることができます。
  2. クラウドベンダーが提供するマネージド・サービスを活用することにより、OSやDBMSの保守作業(パッチの適用、DBのバックアップ、など)からシステム保守要員のワークロードを解放することができます。
  3. オンプレミス&商用ソフトウェアの古いサービス/製品では提供できなかった、クラウドベンダーのサービスや製品の新しい機能や性能をすばやく活用することにより、システム開発の工数低減や性能向上のメリットを迅速に享受できます。

リファクタリングにより得られる効果:

  1. コンテナ化、および業務機能単位群でのコンテナ分割を進めることにより、アプリケーションの保守性を高めることができます。(Dockerコンテナをデスクトップ上で利用することで開発/検証の効率を向上させたり、アプリ群の保守独立性を向上し保守時間帯のシステム停止時間の短縮が期待できます。)
  2. DBMS/MQといったアプリケーション共通で利用される機能については、共通実行基盤に対してAPIを発行するようにして、業務アプリからの独立性を高め、保守/機能向上の要求に対する工数を集約することができます。
  3. クラウドベンダーのマネージド・サービスで提供される機能を積極的にリファクタリングに取り入れることにより、クラウド移行のメリットであるスケーラビリティや開発のアジリティを高めることができます。

マイグレーション&モダナイゼーションで考慮するべき点

技術的な観点:

新規でビジネスプロセス/業務アプリをクラウド上で設計する場合と比較して、基幹業務システムをマイグレーション&モダナイゼーションでクラウド移行していく場合には、さまざまな制約があると考えられます。

1) コンテナ化やアプリミドルウェア/DBMSのOSS化による仕様の違いの吸収

  • アプリケーションのコンテナ分割を設計する際には、コンテナ間でのデータ連携が発生しないかを現行の設計書やソースコードで確認し、必要な場合は外部データソース(DBMSやキャッシュなどの利用)にデータを配置するなどの改修が必要になります。
  • アプリミドルウェア/DBMSのOSS化では、いままで利用していた各商用サービスでの機能を注意深く、設計書や構成ファイルのパラメーターだけではなく、アプリのソースコードでの実装や製品仕様レベルでの調査を念入りに行う必要があります。(ex. アプリケーションサーバー製品のEnterprise Java実装機能や、DBMS間でのオブジェクト名称のcase sensitive問題、など)

2) マネージド・サービスで提供される機能を使用する際の他システムとの連携の実現性評価

  • 基幹業務システムでは、通常そのシステムだけで必要な業務プロセスが完結することはまれであり、他システムとの連携においてさまざまな製品を使用していることが多いです。(ex. ジョブストリーム連携でのJP1/TWS、ファイル連携でのHULFT、メッセージ連携でのMQ、など) クラウド移行対象システムが複数あり、かつその移行時期がバラバラであるような場合は、ひとつのシステムがクラウド移行が完了していても、そのシステムと連携する他システムのクラウド移行はまだ完了していない場合が少なくありません。そのような場合は、他システム連携部分は、いきなりすべてをマネージド・サービスのみの実装に持っていくことは困難であり、下図のようなハイブリッド型での設計を採用することが必要になります。
バッチジョブのハイブリッド・アーキテクチャー
バッチジョブのハイブリッド・アーキテクチャー

プロジェクト運営上の観点:

プロジェクトの計画段階および実行段階で、マイグレーション&モダナイゼーションとして考慮するべき点として以下のような項目があげられます。

1) プロジェクト計画段階でのスケジュール/工数見積もりに関する考慮点

  • プロジェクトが長期にわたる可能性が高いマイグレーション&モダナイゼーションのクラウド移行プロジェクトでは、プロジェクトの開始~完了までの間に、オンプレミス側のシステム(アプリ、基盤)に保守や新機能開発が入ることが複数あります。リプラットフォームやリファクタリングでは、アプリケーションフレームワークの変更やアプリケーション自身の改修をともなうことが多いですが、その場合には、初期断面での移行の工数/スケジュールだけでなく、オンプレミス側に取り込まれた保守内容や新機能を、クラウド移行プロジェクトの期間中「いつ、どれぐらいの頻度で、クラウド側に取り込むのか」および「それにかかる工数の見積もりはどれぐらいと想定するか」を前もって予測しておく必要があります。
  • クラウド移行プロジェクトの中では、オンプレミスでの実行結果とクラウドでの実行結果を比較する、いわゆる「現新比較」を行うことが多いですが、現行オンプレミス側で、現新比較を行うためのテストツール/シナリオやテストデータの準備手法が確立できていない場合は、オンプレ側のテストシナリオ/データの準備や打鍵工数も、クラウド移行工数として十分余裕を持った見積もりが必要です。

2) プロジェクト実行段階での分析/実装に関する考慮点

  • 現在オンプレミスで使用されているOS/ミドルウェア/DBMS/アプリフレームワーク、およびアプリについての有識者の、早い段階でのプロジェクトへの積極的な参加が求められます。そのためには、リプラットフォームやリファクタリングが開始される前に、レビュープロセスとレビュー手順、レビューチェックリスト、レビュー完了のクライテリアなどについてプロジェクト関係者間で合意をしておくことが肝要です。
  • プロジェクト実行段階でやむをえない事情で、アーキテクチャーの変更や見直しを余儀なくされるケースがあります。その場合には、その変更や見直しの理由、スケジュールや工数への影響範囲を変更管理として、ステークホルダー間で合意することはクラウド移行プロジェクトにおいても重要です。

まとめ

マイグレーション&モダナイゼーションという文脈でのクラウド移行プロジェクトは、前述のような特性により、DXに対応する新規システムをクラウドで構築することとは異なる観点が複数あります。

いままでの主流であったリホストでは、アプリケーションフレームワークやアプリの実装については、ほとんど変更が発生しないケースが多かったですが、リプラットフォーム/リファクタリングのパターンでは、その経験や知識なしでのプロジェクト成功は実現しません。

アクセンチュアは、さまざまなオンプレミスシステムの移行経験やアプリケーション開発に専門知識を有しているメンバーと、クラウド技術に経験のあるメンバーが、グローバルレベルでひとつのプロジェクトメンバーとしてお客様のマイグレーション&モダナイゼーションのクラウド移行プロジェクトに貢献できると考えています。

筆者

岡田 経明

テクノロジー コンサルティング本部 インテリジェント クラウド イネーブラー グループ シニア・マネジャー