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知見

初期の成果から持続的な優位性へ

AIの価値を最大化するインテリジェント・スーパーハイウェイ

5分(読了目安時間)

2026/03/27

概略

  • 初期の成果を定着させながら段階的に展開することで、企業はAI投資からより大きな価値を創造することができます。

  • 整備・管理されたクリーンなデータと統一されたワークフローを基盤に、組織全体で必要な場面にインテリジェンスを活用できるようになることで、AIの価値はさらに拡大します。

  • AIガバナンスや役割分担、意思決定権限を含む運用モデルを確立することで、全社規模でAI活用の効果を持続的に高めることができます。

AI活用を全社へ拡大するための基盤を構築する

多くの企業でAIの実証実験や個別導入が進む一方、その成果をいかに全社的な価値創出へとつなげるかが大きな課題となっています。その解決策は、単に新たなAIモデルを導入することではありません。管理・統合されたデータ、明確な意思決定ロジック、体系化されたワークフロー、クラウドネイティブなモジュール型アーキテクチャ、そして将来を見据えた人材戦略を備えた「インテリジェント・スーパーハイウェイ」を構築することです。こうした基盤を整えることで、AIの活用を局所的な取り組みにとどめることなく、企業全体へと拡大し、その価値を最大化できるようになります。

課題はAIへの意欲ではなく、組織の受け入れ体制にある

アクセンチュアの「Pulse of Change」レポートによると、2026年にAI投資の拡大を計画している企業は9割近くに上り、その大半がAIを収益拡大の原動力と捉えています。一方で、AIを中核に据えて業務プロセス全体を抜本的に見直し、再設計している企業はわずか21%にとどまっています。

約6,000件に及ぶAI導入の経験から得られた知見を基に、AIの価値を継続的に拡大し、成果を積み上げていくために必要な要素をご紹介します。

AIの価値を企業価値へとつなげる5つの要素

01

AIが事業価値として成果を生み出すまでの道のり:価値創出が進まない理由とは

なぜ重要なのか

多くの企業は、AI導入の初期段階で成果を上げるものの、その後は取り組みが停滞し、価値創出が伸び悩む傾向があります。初期フェーズでは、データ整備や業務プロセスの見直しを適切な順序で進め、それぞれが相乗効果を生み出せるようにすることが重要です。

ある地方銀行では、1年以上にわたる限定的な成果のパイロット運用を経て、18〜36か月のロードマップを策定しました。このロードマップでは、統合インテリジェンス基盤を活用して11の重点業務プロセスを連携させることに注力しています。その結果、投資対効果は着実に向上し、価値創出の成果も拡大し始めています。

取るべきアクション

AI導入を短期的な実験プロジェクトとしてではなく、全社的な変革を支える中長期の基盤投資として位置付けましょう。

  • 取り組みを連携させ、共通の成果目標に向けて推進する
    個別の施策を分断して進めるのではなく、互いに補完し合う形で設計します。経営層の目標を全社共通の目標と整合させ、明確な成果指標と意思決定権限を設定します。

  • 長期的な視点で継続投資を行う
    初期に得られた成果や効果を、データ、テクノロジー、業務プロセスの基盤強化へ再投資できる仕組みを整えます。

  • 現実的な目標を設定し、成果を次の成長につなげる
    初期の成功は、組織の信頼と自信を高める重要な要素です。まずは達成可能な目標を設定し、その成果を基に取り組みを拡大していきます。

 

02

運用体制の整備状況:AI活用の拡大を阻む課題

なぜ重要なのか

多くの企業では、IT予算の約70%が依然としてレガシーシステムの維持・運用に費やされ、その結果データの流れが分断されてしまっています。意思決定もメールや個人の経験・判断に依存しがちです。こうした暗黙知化した情報ではAIが活用できず、全社的な価値創出を進めていくうえでの妨げとなります。

例えば、水処理および衛生ソリューション分野のグローバル企業であるEcolabは、営業、受注・納品、請求業務を横断的につなぐAIエージェント群を活用し、見込み顧客の発掘から売掛金回収までの業務プロセスを再設計しています。

取るべきアクション

AIの価値を全社へ拡大できるかどうかは、運用基盤が整っているかにかかっています。初期の成功事例を一時的な成果で終わらせず、継続的な価値創出につなげることが重要です。

  • 業務プロセスを体系化し、AIを安定して展開できる基盤を整備する 
    システム外で運用されている判断ルールや例外対応、部門間の業務引き継ぎなどを整理し、デジタル化する必要があります。AIは理解できない業務を自動化することはできません。

  • 業務に応じて最適なAIを活用する
    すべての業務にエージェント型AIが必要なわけではありません。定型業務には自動化ツールを活用し、高度な判断や推論が必要な場面にのみAIエージェントを適用することが重要です。

  • 企業の枠を越えて業務プロセスをつなぐ 
    重要な業務プロセスの多くは、サプライヤーやパートナー企業との連携によって成り立っています。こうした一連のプロセスがデジタル化・構造化されて初めて、AIは組織の枠を越えて業務全体を把握し、最適化できるようになります。
03

基盤づくり:AI活用の成果を加速する鍵

なぜ重要なのか

先進的な企業は、次々と新しいAIモデルを導入することよりも、あらゆるAI活用の土台となる基盤への投資を重視しています。具体的には、統合・管理された高品質なデータ、共通の業務文脈を理解できるデータ基盤、最新のAI対応クラウド環境、責任あるAI活用のためのガードレール、そして見直された業務プロセスへの投資です。

NatWest Groupは、銀行全体で統一されたデータプラットフォームを構築することで、分散していたシステムやデータを統合しました。さらに、2,000万人を超える顧客に対して、よりパーソナライズされたサービスを提供するため、リアルタイムデータを組織全体で活用できる信頼性の高いデータマーケットプレイスを整備しています。

取るべきアクション

AIの成果は、活用するモデルそのものだけでなく、その判断を支えるデータや業務文脈の質によって大きく左右されます。AIエージェントと人が同じ情報を基に判断できるよう、データの整合性と一貫性を確保することが重要です。

  • AI活用を前提としたクラウド基盤を整備する
    機械学習、生成AI、AIエージェントを同じ基盤上で活用できる、クラウドネイティブかつモジュール型のアーキテクチャへの移行を進めます。

  • 高品質なデータ基盤を構築する
    AIを安定的かつ大規模に活用するには、正確で一貫性のあるデータが不可欠です。AIから高い成果を上げている企業ほど、明確なデータ戦略を持ち、高品質な独自データへの投資を継続しています。

  • ガバナンスとセキュリティを設計段階から組み込む
    信頼性の高いAIシステムを実現するには、自動化されたガバナンス、ユースケースごとの検証プロセス、継続的なモニタリング、実際の攻撃状況を想定したセキュリティテストを設計段階から組み込むことが重要です。
04

人材の重要性:人とテクノロジーの協働による再創造

なぜ重要なのか

企業変革を成功に導く鍵は、テクノロジーそのものではなく、それを活用する人材にあります。しかし、人材戦略をAI戦略と十分に連携させていると回答した経営層は、全体の3分の1にとどまっています。また、4割以上の企業が人材のスキル向上に取り組んでいる一方で、AI時代に合わせて役割や業務のあり方を見直している企業は1割未満にすぎません。

ある大手金融サービス企業では、業務をタスク単位で分析し、反復的なデータ処理をAIエージェントへ移管することで、従業員がより創造的な業務や高度な判断に集中できるようになり、生産性や意思決定の質が最大30%向上する可能性があると報告しています。

取るべきアクション

重要なのは、次の3つを柱とした人材戦略を推進することです。スキル向上を支援し、役割を見直し、人が補助的な役割から意思決定を主導する役割へと移行できるようにします。

  • スキル向上と継続的な学習への投資
    先進的な企業では、一時的な研修プログラムに頼るのではなく、学習を日常業務の一部として組み込み、継続的なスキル向上を実現しています。

  • 役割と業務の再設計
    新たなビジネス目標やAI活用の進展に合わせて、人材戦略とテクノロジー戦略を一体的に見直す必要があります。新しい役割を定義し、重要性の高い領域へ人材を配置することで、組織全体の変革を加速できます。

  • 人が意思決定を主導する体制の構築
    AIは人を置き換えるものではなく、人の能力を拡張するためのものです。テクノロジーを活用するスキルと自信を持つ人材は、AIを活用して新たな価値創出の機会を見出し、より高い成果を生み出せるようになります。

先進的な企業では、一時的な研修プログラムに頼るのではなく、学習を日常業務の一部として組み込み、継続的なスキル向上を実現しています。

05

AI運用モデル:持続的なAI活用を支えるアーキテクチャの重要性

なぜ重要なのか

AIは、従来の運用モデルのままでは十分に活用を拡大できません。運用の仕組みを見直さなければ、高性能なスポーツカーを渋滞した道路で走らせるようなもので、その能力を十分に発揮できないからです。

スペインに本社を持つ銀行グループ・BBVAでは、データ統合や業務プロセスの見直し、ガバナンス強化、役割の再設計を進めた結果、ローン審査にかかる時間を数日から数時間へと短縮しました。さらに、パーソナライズされた顧客体験の向上やデジタルチャネルを通じた新規顧客獲得にもつなげています。こうした成果は、単に優れたアルゴリズムによるものではなく、AIを全社的に活用できる運用モデルを構築したことで実現しました。

取るべきアクション

企業は、AIの活用スピードに合わせて、ガバナンスや意思決定の仕組み、アーキテクチャ、投資のあり方を見直す必要があります。

  • AI時代に適した運用モデルを構築する
    AIを部門単位の実験にとどめるのではなく、全社共通の基盤として活用できる体制を整えることが重要です。そのためには、経営層、業務部門、IT部門が連携しながら、組織横断でAI活用を推進する必要があります。

  • パートナーとの連携を強化する
    AI活用に必要なアーキテクチャの高度化を加速するには、テクノロジーパートナーや専門企業との協業が欠かせません。外部の知見や専門ツールを活用しながら、人材育成や共同イノベーションを進めることで、変化に迅速に対応できる体制を構築できます。

価値創出までの3つの段階

実験から企業全体での価値創出に至るまでの道のりは、次の3つの段階で展開されます。実証と課題診断のための「局所的AI」、規模拡大のための「構造的AI」、そしてインテリジェンスを企業の中核に組み込むための「体系的AI」です。

  1. 局所的AI: 生産性の向上は限定的な領域で現れますが(多くの場合は支援機能)、データの断片化、その場しのぎのガバナンス、不十分なエンドツーエンドの連携によって進展が妨げられています。このフェーズでは、優先度の高いデータドメインを最新化し、ビジネス部門とテクノロジー部門の連携を強化し、テクノロジーガバナンスを確立するとともに、人材の変革を進めることで、迅速に信頼を獲得し、課題を明確化できます。

  2. 構造的AI: 企業が大規模なエンタープライズアーキテクチャと運用モデルを構築するにつれて、実験的な段階から企業全体の能力へと移行していきます。価値創出を担うリーダー、人材、デジタルコア、責任あるAI、継続的な改善などの重要なイネーブラーに横断的に取り組んでいる組織は、価値の高いユースケースを拡大できる可能性がはるかに高くなります。

  3. 体系的AI: この段階にある企業は、高度な技術を活用するために、人材戦略、役割設計、リーダーシップのあり方を根本から変革しています。インテリジェンスは企業の中核に組み込まれています。そのような企業では、変革を一度限りの取り組みとしてではなく、継続的な能力として捉えています。

累積するAIの価値

初期の成果によって自信は高まるものの、企業価値向上のスピードや持続性、そして価値創出の拡大を左右するのは、構造的AIと体系的AIです。データ、ワークフロー、プラットフォーム、ガバナンス、人材を統合しながら高度化している組織は、散発的な実証実験の段階から脱却し、AIを組織全体へ展開するための再現性の高い運用モデルへと移行しています。一方で、十分な基盤が整わないまま高度なモデルの導入を進める組織では、期待した成果が財務的な価値として表れることはほとんどありません。

基盤整備の優先順位を明確にし、いち早く取り組みを進めている企業が、今後10年間のAI活用における競争優位を築いていくでしょう。

筆者

Manish Sharma

Chief Strategy and Services Officer

Senthil Ramani

Chief Offerings and Products Officer

佐々木 三泰

AIセンター マネジング・ディレクター

鈴木 博和

AIセンター チーフフェロー