Accenture Life Trends 2023
人々と企業の進化するパワーダイナミクスを読み解く5つのトレンド
人々と企業の進化するパワーダイナミクスを読み解く5つのトレンド
テクノロジーは人々に物事をコントロールする力を与え、ビジネスと個人にかつてない成果をもたらしています。
AI(人工知能)は人々が生まれ持った創造性を後押しし、Web3は好きなブランドの未来の姿を共創する機会を提供しています。トークン技術は近い将来、人々が自身の個人情報の扱われ方を完全にコントロールすることを可能にするかもしれません。
一見すると小さな変化の数々が、全体の力関係(パワーダイナミクス)を根本的に変えていきます。そんな中、企業は自らに「顧客はどの程度の個人情報を進んで提供してくれるか」「成長を実現するには、どのように信頼を構築し新しいテクノロジーを使うべきか」と問う必要があります。
15年間にわたり続いてきたFjord Trendsの系譜を継ぎつつ、今年より「Accenture Life Trends 2023」としてインスピレーションに富んだ内容をお届けします。本レポートではライフ起点の考えに基づき、人々が新しいテクノロジーを駆使しながらいかに変わり続ける自身のニーズを満たしつつ生活を適応させているかを見ていきます。
今後12か月間とそれ以降に、ブランドと人々の間の力関係に変化をもたらすであろう5つのトレンドをご紹介します。
新しいテクノロジーが、顧客とブランドをつなぐコミュニティにプロダクトが追随するという「コミュニティ・ファースト」のモデルを可能にしています。ロイヤリティプログラムが顧客と価値ある関係を構築するものに進化するかもしれません。
オフィス勤務への復帰に成功した企業はまだ少なく、リーダーは明確な目的を持ち有効な解決策を再構築しなければなりません。その取り組みに従業員に参加してもらうためにも、ライフ起点のアプローチが重要です。
反復的なタスクを処理するものだったAIは、人々の創造性を後押しする副操縦士のような存在になりました。企業は自らのイノベーションの速度と独創性を高めるために新しいツールで何ができるのかを想像する必要があります。
次から次へと新たな危機が訪れているというのが世界の現状です。パンデミック、紛争、極端な政治的分断、物価の高騰…そして気候危機はより目に見える形で人々を直撃し、あらゆる方向から危機が押し寄せています。
とはいえ、人間は常にこうした危機に対して最終的には「適応」を果たすものです。適応へのアプローチは、Fight(闘争)、Flight(逃避)、Focus(集中)、Freeze(凍結)を行き来すると我々は考えています。
そして適応の仕方は、人々が何を買うか、ブランドや勤め先をどう捉えるかに影響を与えます。例えば、家計の負担を軽減するために生活に必須ではない娯楽としてのサブスクリプションサービスを解約する「Great Cancellation(大量解約)」と呼ばれる現象が起きています。
他にも、人々はスポーツジムの契約を解約したり、年金への拠出を一時的に停止したり、健康保険や生命保険への加入を諦めたりしています。また、生活コストが圧迫されるとまず交際費を節約しようとするため、それによって孤独が深刻化するおそれがあります。
不安定な状況を当たり前と捉えるようになる中で、人々は適応しながら新しい自分へと進化していくでしょう。従って、そうした人々の適応あり方をいかに捉え、反映できるかが、その時代において愛されるプロダクトとそうではないものを分けていくのです。
Fight(闘争):不正に対して声を上げて闘う
Flight(逃走):第三の選択肢を模索する
Focus(集中):自身がコントロールできる世界に集中する
Freeze(凍結):完全に距離を取る
不安定な世界では、人々は自分の居場所を探し求めます。そんな中、次世代のブランドはロイヤリティや参加のあり方を変えながらコミュニティ・ファーストで構築されるでしょう。
コミュニティ・ファーストのモデルは、(1)共通の興味を介し居場所となるコミュニティ、(2)コンテンツやアクセスの限定性を提供するトークンゲート、(3)デジタルコレクティブル(NFT:非代替性トークンに支えられたデジタルアイテム)の三つの流れが混ざり合うことで可能になります。
しかし顧客が最も興味を持つのはテクノロジーそのものではないため、企業は顧客にとってどんな価値を提供できるかに注力することが重要です。
Starbucksのトークンを基盤としたロイヤリティプログラム「Starbucks Odyssey」はすでにこれを実践し、テクノロジーよりもリワードとブランドとのエンゲージメントに重点を置きつつマスマーケットの顧客に対してWeb3技術への敷居を下げている好例です。実際、同社CMOのBrady Brewer氏は「結果としてブロックチェーンとWeb3の技術を基にサービスが構築されているものの、正直なところ顧客は自分がそうした技術を使っているとは認知していないかもしれません」とコメントしています。
Web3技術の発展により、今後ブランドが直接コミュニティと接点を作りながら影響を与えていくことはほぼ間違いありません。しかし「コミュニティ参加者を顧客として扱うのか、それともブランドの一員として扱うのか」といった力関係については、各ブランドによって定義されることが重要です。
居場所となるコミュニティ:共通の興味を介してつながれるプラットフォーム
トークンゲート:トークンの保有者に提供される限定コンテンツやアクセス権
デジタルコレクティブル:アート作品、サイン、トレーディングカードなど
偶然の会話や対面での交流、若手の成長など、オフィスにおける「目に見えない価値」が失われたことを皆が感じており、その結果としての様々な問題がより浮き彫りになっています。特に影響を受けているのは、メンターシップやイノベーション、文化、インクルージョンです。
企業は既にあるものを最適化するのではなく、「目に見える価値」と「目に見えない価値」の両者を意識しながら従業員の通勤時間に報いる新たな働き方をゼロから想像し直さなければなりません。その際、仕事における楽しさや円滑なコミュニケーション、チームのコラボレーションやアウトカム(成果)を優先事項としながら、目的を明確にして推進していく必要があります。
自律的に働けるリモートワークを好む人と、物理的な環境を共にして働くことで得られるメリットを切望している人との間に緊張関係があります。そこで企業は、雇用者と従業員の間で金銭やアウトカム(成果)を超えて交換できる新たな価値を再構築しなければなりません。
この変革は単に方針を掲げるだけではうまくいきません。従業員と企業の双方にとって合理的で有益な形を一から作り上げていくために、リーダーには100%のコミットメントとライフ起点のアプローチが求められています。
目的と方針を明確にする
コミュニティから得られる機会を約束し、通勤時間に報いる
「目に見えない価値」に注力して、働き方、ツール、空間を見直す
AIはこれまで、業務を自動化したり人々に提供するサービスのために主に企業によって活用されてきました。しかし、ニューラルネットワークが誰もが言語や画像、音楽を創り出すツールとして広く利用できるようになり、創造的な営みを助ける副操縦士として一般の人々の手に渡るにつれて、状況は変わってきています。
AIの発展は驚異的なスピードで市場に影響を与えているため、企業は今すぐに対応する必要があります。影響を与える範囲も大きく、AIがメタバース空間を創り出す日も遠くはなさそうです。
また、これまでのほとんどの新興テクノロジーと同様に、法的および倫理的な影響に関する未解決の問題が残っています。例えばあるクリエイターの作品がAIが生成した画像の一部になった時、その著作権はどうなるでしょうか。
アウトプットの質を高めるために、クリエイターはAIツールの使用方法を新たに学びスキルアップすると同時に、優れたもの生み出すクラフト(技巧)も進化させていく必要があります。また企業は、AI生成コンテンツが溢れる環境の中でも見つけてもらえるだけの方策を編み出さなければなりません。イノベーションの速度と独創性を高めるために、新しいAIツールで何ができるのかを想像してみましょう。
言語:ブログやメール、記事のための文章(但し、人間による編集が必要)
音:様々なジャンルやスタイルの曲
画像:テキストのプロンプトさらには他の画像から生成する画像
個人情報の扱われ方(さらには悪用)が是正されることはこれまで長く待ち望まれてきましたが、IDや決済情報、会員カード等を表すトークンをまとめるデジタルウォレットによって人々が自らの個人情報のコントロールを取り戻す日は近いかもしれません。どのデータをどれだけの期間にわたって企業と共有するかを、人々が決められるようになるのです。
非営利の技術コンソーシアムThe Linux Foundationは、「相互運用可能なウォレットを構築するために誰でも使用できる安全で多目的なオープンソースエンジンを開発する」ことを使命とし、Open Wallet Foundation(OWF)を立ち上げました。
デジタルウォレットは企業にも機会をもたらします。Cookieが徐々に廃止される中、その代わりに人々が自ら共有するデータはより価値があると言えるでしょう。それらのデータは正確で、自主的に提供されたものであるがゆえに、コンバージョン率の向上も見込めます。
顧客がデジタルウォレットを自信を持って安心して使えるようにするのは難しい課題ですが、真正面から取り組む価値があります。テクノロジーはすでに存在し、ニーズを満たすよう機能しつつあるからです。デジタルウォレットはまだ黎明期にありますが、その導入と普及を加速させるためにできることがいくつかあります。
データプライバシーに対するコントロールは、時間的投資に見合う価値があると人々に示す
日常的な取引の中でトークンを簡単に取得し使用できるようにする
単なる支払いの仕組みという枠を超えて「ウォレットとは何か」を人々が理解できるようにする
人々がウォレットを通じて企業にアクセスを許可するレイヤーやレベル、または領域を理解する
今年のトレンドのストーリーはAIの力を使ってお伝えしています。我々アクセンチュアのデザイナー(人間)がまずレポート本文からキーワードとなる単語やフレーズを選び出し、それを最初のプロンプトとしたAIと共鳴しながらビジュアルを創り上げていきました。その限りない可能性と共に、生成AIは人々の創造性と暮らしに寄り添う副操縦士として、ビジネスに驚くべき機会とクリエイティブな手法を提示しています。