ブログ
アクセンチュアが考えるWeb3とメタバース~その可能性と課題から活用方法を考える
5分(読了目安時間)
2024/01/31
ブログ
5分(読了目安時間)
2024/01/31
Web1.0時代では、企業が製品やサービスを販売するビジネスモデルが主流でした。Web2.0時代では、個人に向けた広告や定期課金サービスによるパーソナライズされた購買活動促進が台頭しました。そして、Web3.0時代(Web3)では、新たなビジネスモデルとして企業と消費者の共創関係が重要視されます。企業と消費者が事業のオーナーシップを共有し、価値向上を図りつつ収益を得るモデルで、分散型自律組織(DAO)やトークン経済などの新しい仕組みを利用しながら「共創感」「帰属意識」を醸成することが重要です。
先般アクセンチュアでは『ウェブ ニューフロンティア』というムックを監修しました。今、国内外問わず多くの企業や個人が、新たなテクノロジーを用いてフロンティア(新世界)を切り開こうとしています。様々なテクノロジーの進化がそれを後押ししています。
新しい世界の捉え方は様々ありますが、我々は「コミュニティ」「トークン経済」「空間」という3つの切り口とそれぞれを支える主要なテクノロジーの形で整理をしています。「コミュニティ」領域で注目すべきはDAOで、DAOによって報酬やオーナーシップは分散した形態をとりながらも志を共有する集団が形成されています。「トークン経済」においてはブロックチェーン技術が今後更に発展することで、トークンなどで参加者へ報酬が支払われる仕組みの更なる展開が考えられるでしょう。そして「空間」については、高度な描画技術、没入感によって作られたバーチャル空間、すなわち “空間としてのメタバース”が今後どのように社会に広がっていくかが注目されます。アクセンチュアではこれら3つの要素すべてを内包した新たな領域を“高次のメタバース”と定義しています。
「コミュニティ」「トークン経済」「空間」の3つについて、現状と今後の可能性を解説していきます。
「DAO」というコミュニティの形態や特徴は、「株式会社」や「クラウドファンディング」という形態と比較するとわかりやすいでしょう。
「株式会社」は中央集権的な意思決定を行い、利益を上げる経済合理性が高いビジネスに適しています。株主やその意向を受けた取締役会を中心に重要事項の意思決定を行い、それが業務として現場に落ちてきます。組織で生み出された成果は、株主に還元されると共に、経営陣や従業員には報酬・賃金として支払われます。
「クラウドファンディング」は単発のプロジェクトに使われ、新規プロダクトやサービスの検証に活用される傾向があります。起案者が行った特定の案件に対して、賛同した人が出資を行います。結果としての成果は、サービスやモノという形で出資者に還元されることが多く、出資者にとっては購買活動に近いともいえます。
一方で、「DAO」では参加者自身がオーナー、意思決定者、実行者となり、利益や成果が不確実なプロジェクトでも熱意さえあれば成立します。貢献への見返りは、DAO参加者で設計したインセンティブルールに則ってトークンホルダーや貢献者に還元することが可能です。企業が活用する場合においては、たとえば製品開発の際に部分的にDAOの仕組みを導入することで消費者を共謀者として巻き込み、市場での訴求力向上を狙うこともできると考えています。現状では、DAOのコア部分の運営を担う企業が存在し、トークンホルダーに意思決定範囲や権限など一定のルールを定めているケースが多く、これはスムーズな運営をする上で現実的な手法ともいえます。また、コミュニティ・マネージャーやコア・コントリビューターの存在も重要であり、活動停滞や離脱を防ぐ役割を果たす必要があります。特に課題解決型のDAOでは参加者を巻き込む仕掛けづくりや目標設定が重要です。DAO構築ではコアな概念や目的設定から始めて参加者集めやインセンティブ設計なども考慮しなければなりませんが、予定調和的ではなく参加者間の協力と育成も重要です。
トークン経済は、DAOと共に、Web3やメタバースの進化によってさまざまな可能性を引き出せると考えられています。こちらも、「通常の通貨」と比較することでその特徴を見ていきましょう。日本では日本銀行券が通貨として使用されており、その安定性は日本銀行の金融政策によって保たれています。一方、トークンは特定のエリアやコミュニティ内で流通し、限られた価値(モノ・コト)と引き換えられます。トークンの価値や信用は発行母体によって管理されますが、通貨同様に過剰発行すればインフレが発生し、価値低下やコミュニティの魅力低下につながります。
トークンの信用を確保するためには発行量の管理やブランディングが重要です。参加者から信用されるトークンを作り出し、それを受け入れるコミュニティを形成することがポイントです。 海外ではビジネスや投資目的で様々なトークンが発行されていますが、日本ではソーシャルイノベーション領域での活用が進んでいます。地域内外から参加者を募り、課題解決モデルを構築し、インセンティブをトークンで付与することで、コミュニティとトークン経済を並行して運営しています。将来的には地元銀行も「ステーブルコイン」(法定通貨に連動した暗号資産)としてトークンを発行する仕組みを作ることで地域内の資金循環も可能になるかもしれません。2022年の資金決済法改正により日本でもステーブルコインの発行が可能になり、実際に取り組んでいる地元銀行も出てきました。
XR、CG、VFXなどの技術を駆使して作られるバーチャル空間「メタバース」は、我々を物理的な制約から解放してくれます。空間内では、非現実的な世界やデジタルツインが現実世界と同じように描かれ、地理的距離を感じさせずにコミュニティや経済活動を参加することが可能です。
注目すべきは、アバターコミュニケーションです。外見を自由自在に変えられる空間では、人間性が浮き彫りになってくるため、アバターを介することで視覚的匿名性が確保され安心感が生まれます。それにより、自分の内面をさらけ出しやすくなったという調査結果や対面よりも対人的距離を近く感じられたというアンケート結果も出ています。
このような特性を利用して、アクセンチュアでも就労支援プログラムを展開しています。“フラット”な関係の中で企業の採用担当者と若者が本音で話し合えるようにしました。また、メンタリングやカスタマーサポートセンターでもアバターを活用することで良好な人間関係や精神状態の維持に役立ちます。
ここまで述べてきたようにこれらの新しい要素やテクノロジーには様々な活用可能性がある一方、セキュリティなどの面で懸念点が存在するのも現実で、一定の法整備が必要です。セキュリティ面ではウォレットの乗っ取りやアバターなりすまし、データ改ざんなどのリスクがあり、総合的なセキュリティ対策が求められます。また、アバターによる匿名性は無法状態を引き起こす可能性があるため、適切な個人情報管理や法的・倫理的問題への対応も重要です。さらにトークン経済においては投資制限や会計基準の欠如、DAOの法的位置づけの曖昧さなど多くの懸念点も存在します。このような課題に対し、内閣やデジタル庁を含む各省庁が連携して法整備に取り組んでいます。したがって、法整備状況や倫理的懸念等のリスクを考慮しながら、Web3やメタバースの利活用を考えていく必要があります。