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Web3時代の到来 ~新たな技術がもたらすビジネスにおける可能性とは

所要時間:約5分

2023/10/31

思想としてのWeb3 ~自律分散それ自体は目的ではない?

Web3をより正しく理解するためには「思想面」と「技術面」の双方から考えていく必要があります。

まず、「思想としてのWeb3」は、個人への主権回帰、プライバシー保護、透明性・公平性の確保などを重要視する人間中心主義を体現するものだといえます。よくWeb3=自律分散といわれますが、自律分散そのものが目的なのではなく、集中と分散のバランスを取りながら人間にとって心地よいハイブリッドな世界を構築する必要があります。

現在の資本主義社会は格差が生まれる傾向にあり、テクノロジーがそれを加速させていることが多方面で指摘されています。過度な集中や過度な分散にはリスクがあり、バランスを取りながら個人に富や権利を再分配し社会のリバランスを図らない限り安定は生まれません。

インターネットやGenerative AI(生成AI)によって情報や生産性に対するコストが低下し、Web3によってデジタル資産の個人所有が可能になったことで個人への還元が実現できるようになりました。今後は企業もこの新しい技術を活用して個人への還元を見据えたビジネスを行うことで、集中と分散のバランスを取りながら社会的役割を果たすこと求められています。

個人への還元を見据えた新時代のビジネスモデルとは?

企業が個人への還元を行う際には、顧客に加えて従業員やエコシステムパートナー、地域社会などあらゆるステークホルダーに一定の「主権」があることを認めた体験設計やビジネスモデルが必要となります。ユーザの主体的な参加に対して公平性や透明性を持った対価(デジタル資産)を払うなど、商品の製造過程に消費者を巻き込むことが考えられます。エンタメ界では、BTSやNiziUの事例が有名で、ファンがアーティストのギネス記録樹立のため、NYタイムズスクエアにメンバーの誕生日広告を出すなど、ファンが主体となった活動が既に繰り広げられています。

また、従業員に対しても同様です。公平な承認・報酬体系を設計し透明性高く開示することで自身が関わった組織・プロジェクトへの高いエンゲージメントやオーナーシップを持つようになり得るため、企業内部でもWeb3の活用は有用です。社会的課題解決も可能となる「インセンティブ革命」についても期待されます。

技術としてのWeb3 ~ブロックチェーン技術の可能性としての価値移転、公共財レイヤー、オープン性・包摂性の強化

次に「技術としてのWeb3」について考えてみましょう。Web3の根幹であるブロックチェーン技術には、「価値の移転方法にもたらす変化」「公共財レイヤーとしての利用」「オープン性・包摂性の強化」という3つの可能性があります。

「価値の移転方法にもたらす変化」について、ブロックチェーンは既存の通貨や貴金属、不動産などに代わって(あるいはそれに加えて)、価値を効率的に交換する基盤になりうることを意味しています。パブリック・ブロックチェーンを利用することで、参加者同士が直接的に中間業者を必要とせずに資産やトークンを交換することができ、取引効率や透明性が向上することが期待できるのです。既存の交換媒介と異なり、トークンには利用の際の条件やルールをあらかじめ設定できる点も魅力的で、たとえば生活補助目的に支払ったトークンは生活必需品の購入にしか使えないといったことが可能です。

「公共財レイヤーとしての利用」とは、ブロックチェーン上で取引するデータの正当性が担保されることで、従来行っていた取引先同士の与信調査や信頼性確認コストが不要になったり、あるいは大きく低減できることを意味しています。Don’t trust, Verify(信頼するな、検証せよ)という考え方です。相手を信頼できなくてもデータの正当性が検証できれば問題なく取引できる、というこの新たな考えは、これまでの企業と顧客、企業と従業員、あるいは企業同士の関係に大きなパラダイムシフトを起こしうると我々は考えています。企業には、より柔軟に、その都度必要な人材・技術・組織などを連携させ、活用させていくコーディネーション力が求められるでしょう。

3つ目のポイントである「オープン性・包摂性の強化」は、パブリック・ブロックチェーンやスマートコントラクトのコードがオープンソースに近く、公開されている既存のコードを誰でもコピー&ペーストで利用することができるという点に由来しています。参加者は機能をそれぞれ再発明する必要はなく、既存プログラムを再活用する形で新たな価値をそこに付加していくことが可能です。その積み重ねが、イノベーションを指数関数的に発展させ、世界中で次々と新しいサービスや追加技術が生まれる可能性があります。

パラダイムシフトの先にあるもの ~Web3がもたらすコンテンツとコミュニケーション

Web3の特徴や可能性について、思想と技術の両面から説明してきました。現在の状況では、まだWeb3の概念が10年も経っておらず、金融以外の領域でキラーユースケースが出現していません。しかし、これは逆に多くの可能性が存在していることを示し、日本企業にはまだまだチャレンジする余地があります。

また、Web3は従来のインフラやデータモデル、経済原理、価値観を変えるものであり、Generative AIやメタバースなど他のテクノロジーと組み合わせることでコンテンツやコミュニケーションにパラダイムシフトをもたらすことができると考えています。

一時みられたWeb3熱狂時代は過ぎ去り、今まさに我々はWeb3の現実的かつ着実な普及と社会実装フェーズに入りつつあります。Web3のビジネス活用には多くの可能性が存在しています。アクセンチュアでも様々な業界で、新たなユースケースの創出に向けてお客様をご支援していきます。

筆者

廣瀬 隆治

執行役員 ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ日本統括