ブログ
2026年に注目すべきM&Aにおける3つの視点
5分(読了目安時間)
2025/12/01
ブログ
5分(読了目安時間)
2025/12/01
M&Aマーケットは回復への期待が高まる一方で、依然として本格的な回復には至らない不安定な局面が続いていました。しかし、2026年にはグローバル規模でM&Aマーケットが真の転換点を迎えることが期待されます。
過去数年にわたりM&Aへの取り組みを慎重に検討してきた関係者にとって、現在のM&Aマーケットはこれまでとは異なるものです。マクロ経済や規制、テクノロジーを取り巻く環境が抜本的に変化する中で、こうした環境の変化を好機と捉えて意思決定を行う企業こそが、今後の企業変革の新たな潮流を牽引していく存在になると私たちは考えています。
クライアントへの支援やM&A関係者との多くの対話を通じて明らかになった、2026年のM&A市場の原動力となる3つの視点について解説をします。
地政学的な不確実性が依然として残るものの、世界的にはインフレ率の低下が見込まれており、景気後退への懸念も徐々に和らいでいくことが想定されます。
資金調達環境にも改善の兆しが見られます。金利上昇はピークを迎え、債券市場は再び活性化しつつあり、資本コストの見通しも立てやすくなっています。こうした資本市場の安定化と先行きの回復を受けて、大型M&Aディールに慎重だった企業のマインドも徐々に解消されつつあります。
一方で、地政学的な変化や貿易政策の動向に関するリスクには、引き続き注意を払う必要があります。グローバルサプライチェーンの一部では分断が生じ、各国の貿易政策も国益を重視する局面が増えています。
しかしながら、グローバルに事業を展開する企業にとって、クロスボーダーM&Aは依然として戦略的に不可欠な選択肢です。企業には、将来の成長を実現するため、慎重ながらも戦略的な意思決定が求められています。
米国および欧州の当局による規制は依然として厳しい面はあるものの、2020年代初頭と比べてイデオロギー的な色彩は薄れつつあり、規制環境にも現実主義が反映され始めています。
各当局は、独占禁止法の判断において、企業の競争力強化やイノベーションの実現をより重視する姿勢を強めています。
つまり、ターゲット企業が所在する国・地域に対して経済的価値や消費者への便益を明確に示すことで、大型ディールの実現可能性が高まると捉えることができます。
しかしながら、クロスボーダーM&Aにおいては、ナショナリズムが依然として最大のリスク要因であることに変わりはありません。各国政府は、半導体からリチウムやコバルトといった重要鉱物に至るまで、「戦略産業」としての位置づけを積極的に打ち出しており、クロスボーダーM&Aの実行はますます複雑化しています。
このような状況下において、グローバルに事業を展開する企業は、変化する各国の貿易関係や地域の閉鎖性に対応すべく、グローバルサプライチェーンの再構築を進めることが求められています。結果として、クロスボーダーM&Aの難易度は高まっているものの、その戦略的価値はむしろ一層高まっています。
すなわち、さまざまなリスクに適応できる事業基盤の構築や成長市場への多角的なアクセスを確保するために、M&Aはこれまで以上に重要な成長戦略の一つになっているのです。
これまで述べてきたリスクは避けられないものの、M&A関係者の間では、慎重さを保ちつつも積極的に取り組むべきだという姿勢が広がりつつあります。金利は安定し、企業は豊富な投資資金を有しています。PEファンドのドライパウダー(未投資保有資金)は、世界全体で2.5兆ドルを超える水準となっています。
もちろん、これは2020年以前のような規模拡大を目的としたM&Aへの回帰を意味するものではありません。むしろ、企業は緻密な戦略に基づくクロスボーダーM&Aが各国当局の支持を得られるという確信を新たにしており、今後は戦略ドリブンの企業変革を実現するためのM&Aが増加していくことが期待されます。
複数の事業を展開する企業は、あらためて自社のあるべき事業ポートフォリオの見直しを進めています。競争力強化のために事業の選択と集中が求められる中、事業のスピンオフやカーブアウト、子会社の売却といった動きが今後さらに増加していく見込みです。
ポートフォリオ再編の動きが急増していることは、市場データにもはっきりと表れています。S&P Capital IQのデータによれば、2025年の第1四半期(1~3月)から第3四半期(7~9月)にかけての事業・子会社売却に関する案件数は、前年同期比で31%増加しています。
グローバルに事業を展開するラージキャップ企業による事業ポートフォリオを最適化する動きは、より顕著になっています。最適事業ポートフォリオ構築に向けて中核となるアプローチは、戦略的アイデンティティの確立、ベストオーナーの明確化、そして事業構造の合理化・適正化にあります。具体的には、ノンコア事業を売却して成長領域への再投資を進める動きや成長事業と堅固な収益事業の意思決定構造を分離する動きが見られます。
直近で見られる事業ポートフォリオ最適化の取り組みは、かつての収益悪化時や危機対応としての事業売却とは異なり、戦略に基づき実施されている点が特徴です。経営陣は今、「成長戦略を実現するためのベストオーナー事業・中核事業は何か?」という問いに、ポートフォリオ最適化の観点から改めて向き合うことが求められています。
多角化した事業ポートフォリオを、戦略的に整合性のある事業単位(SBU:Strategic Business Unit)へと再構築することで、合理的な組織構造の構築と経営資源の最適配分が可能になります。その結果、市場評価(マルチプル)が向上するケースも少なくありません。
さらに、規制環境も事業ポートフォリオ最適化の動きを後押ししています。一般的に、事業や子会社の売却は独占禁止法上のリスクが少なく、実行までのプロセスも円滑に進められるためです。
グローバルサプライチェーンの混乱や先進的テクノロジーの発展、さらにアクティビスト株主からの圧力といった要因が背景にあるものの、抜本的な事業ポートフォリオの再構築は、企業の弱体化の表れではなく、経営変革に向けた前向きな動きであるといえます。
直近のM&Aマーケットのトレンドとしては、外部環境のさまざまな変化に適応するため、今後10年を見据えた事業ポートフォリオの構築に向けて抜本的な変革を目指すディールが増加している点が特徴的です。
マクロ環境に対する生成AIの影響
マクロ環境の観点では、生成AIはすでに生産性や人的資本、投下資本など、さまざまな領域で大きな影響を及ぼしています。弊社の調査によれば、企業が生成AIを本格的に活用することで、2038年までに10.3兆ドルの経済的付加価値が創出されると見込まれています。一方で、M&A関係者にとって、生成AIがもたらす変化は追い風にも向かい風にもなり得る点に留意が必要です。
マクロ的な投下資本はAIインフラ関連分野へと急速に流入しており、AI関連のインフラやケイパビリティを獲得するためのM&Aディールの増加につながっています。PitchBookのデータによれば、2025年の第1四半期(1~3月)から第3四半期(7~9月)にかけて、米国におけるベンチャー関連ディールの64%をAI関連が占めており、AIインフラおよびケイパビリティ主導のM&Aが急増しています。また、この動きはグローバルでの大型ディール増加においても重要な推進力となっています。
2026年においても、AIに関連するケイパビリティやデータ、専門人材の獲得を目指したM&Aが、この潮流をさらに加速させると見込まれます。
さらに、AIの影響はM&Aディールの戦略的な重要性にとどまらないことにも注意が必要です。AIは業務効率の向上や消費者行動の変化だけでなく、企業の中長期的な成長軌道そのものにも変化をもたらします。
したがって、M&A戦略においては、AIによる成長機会だけでなく、AIが事業モデルや産業構造に与えるインパクトも十分に考慮することが求められます。
M&Aディールに対する生成AIの影響
AIはマクロ環境への影響にとどまらず、M&Aディールの進め方にも大きな影響を及ぼします。自律的な判断を可能とするエージェント型AIの導入により、M&Aディールの効率化と高度化が実現できるようになります。
強調すべき点は、AIが業務の効率化だけでなく、インサイトの精度向上といった高度化にも大きく寄与することです。エージェント型AIは、市場成長シナリオの分析や、成長戦略に合致する買収候補の選定、リアルタイムデータに基づく統合プロセスの検討などを可能にします。
こうした進化は、M&Aディールの進め方そのものを根本的に変えつつあり、デューデリジェンスの精度向上やシナジーの適切な見極め、M&Aディールにおける潜在的な企業価値の創出をこれまで以上に実現することが期待されています。
デューデリジェンスのフェーズにおいて、AIはすでに不可欠なツールとなっています。従来は人手で数週間を要していた数千件に及ぶ文書や情報・データの精査もAI活用により、わずか数時間で完了し、重大なリスクや重要な論点の検出が可能となっています。
さらにエージェント型AIの進化により、適用範囲はエグゼキューションフェーズにも拡大しています。具体的には、ITシステムの可視化や最終契約書の精査、PMIフェーズの支援にまで及び、M&Aディールの進め方そのものを変革しつつあります。
これらの変化・進化は、M&Aディールにおいて、AIを個別作業のツールとして活用するフェーズから、ディール全体に適用することでプロセス全般のオーケストレーションを担わせるフェーズに転換しつつあることを意味します。ディールサイクルの短縮、リスクの低減、そしてPMIでのバリュークリエーションの向上につながります。
今後1〜2年のうちに、こうしたケイパビリティは検証段階として段階的な導入ではなく、M&Aディールで本格的に導入され、ディール実行における前提条件となると見ています。
2026年のM&Aマーケットは案件数の増加が見込まれる一方で、過去とは異なるディール特性が見られることが特徴です。企業には、より迅速かつ抜本的な変革の実現を目指すこと、そして戦略ドリブンのM&A戦略や事業ポートフォリオの最適化を推進することが求められています。
M&Aによる企業価値向上を実現する企業の特性:
M&Aマーケットは、過去数年間で最もディールに恵まれる時期を迎えつつあります。この好機を捉えて企業価値向上を実現する企業はすでに動き始めています。
2026年はグローバルM&Aマーケットにおいて大きな転換点として記憶される年になるかもしれません。
<日本語監修>