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PMIフェーズでのエージェント型AI活用とM&Aディールの創出価値最大化
5分(読了目安時間)
2025/09/02
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2025/09/02
直近では、弊社を含むM&Aに関わるプロフェッショナルファームやM&A巧者と言われる企業のM&Aチームは、ディールプロセスの広範なフェーズにおいて、生成AIを含む次世代テクノロジーの積極的な活用を検討しています。
アクセンチュアのリサーチに基づくと、M&Aに携わる関係者の82%から、「プレディールフェーズにおいて、AIや先進的テクノロジーを活用している」と回答を得ています。プレディールフェーズでのテクノロジーの活用事例としては、ターゲット企業の抽出・特定・評価の効率化、企業価値算定の精緻化、バリュークリエーションプラン策定の高度化が挙げられます。一方で、PMIフェーズにおいてはAIや先進的テクノロジーの活用が未だ十分ではないことをリサーチは示しています。
プレディールフェーズのみならず、ディールプロセス全体にAIや先進的テクノロジーを活用しているM&A案件は、買収後も継続して価値創出を実現できる可能性が4倍にも及ぶことがリサーチから読み取れます。業界最大手の通信メディア企業の事例では、PMIフェーズにおいて、生成AIを活用することでデータ統合プロセスの合理化、業務生産性の向上、顧客データ精度の改善を実現しています。
エージェント型AIの導入により、M&Aを契機とした革新的なオペレーティングモデル*構築の実現が可能であるものの、現状での活用は限定的であるのが実態です。(*オペレーティングモデル:企業が企業価値向上に向けた競争優位性のあるビジネスモデルを展開するための、実務上の具体的な仕組み・プロセス)
特に大規模なM&A案件のようなPMI(Post Merger Integration)で1年半~2年程度要する場合、統合完了を目的として注力する事例は少なくありません。統合を目的とするディールでは、M&Aの本質的な目的である「将来のあるべき姿」に向けた取り組みに注力できず、変革実現につながらないことが往々にして起きています。
多くの経営者層が見落としている点として、PMIフェーズは変革実現に向けた絶好の機会であるということです。なぜPMIが変革実現の最適タイミングであるのか?それはPMIで実行すべきアクションプランそのものが変革実現に紐づいており、革新的なオペレーティングモデルの構築による業績改善・業務清流化や、イノベーション実現への起点となるからです。
エージェント型AIの導入により、複雑な業務プロセスの効率化が可能であり、疲れを知らないAIエージェントは絶え間なく変革を推進します。
NVIDIAのEnterprise Software部門のVPであるJustin Boitano氏は、「エージェント型AIを活用することで、複雑な対応・処理が必要な課題に対してもインテリジェントエージェント(AIを活用することで、特定のタスクに対して自律的に動作・判断・行動を行うソフトウェアプログラムやシステム)が生産性向上に寄与している」と述べています。
AIや先進的テクノロジーを活用することは、PMIフェーズで既存プロセスの局所的な改善にとどまらず、企業が本質的に目指すべき革新的なオペレーティングモデルの構築、そして結果としてM&Aでの潜在的価値を最大限創出することにつながると捉えています。
アクセンチュアのリサーチに基づくと、AI活用を前提とした業務プロセスを構築している企業は2023年の9%から2024年には16%へとほぼ倍増しました。エージェント型AIは、社内業務の効率化と市場・顧客向けのケイパビリティの双方の強化に寄与します。具体的には、P2P(Procure‐to‐Pay:購買から支払いまでの一連の業務)のようなE2Eプロセスの最適化により、PMIフェーズでの迅速な事業統合やコスト削減を実現します。市場・顧客向けのケイパビリティとしては、プライシングの最適化をはじめとして売上拡大にも貢献することが可能です。
PMIフェーズでのエージェントAI導入の適用範囲は広く、①事業・業務プロセス統合の効率化、②シナジー拡充によるキャッシュフローの増加、➂イノベーションの実現、が挙げられます。実際にインテリジェントオペレーション(高度なデータ解析・機械学習・自動化を行うAIを実装し、業務プロセスの効率化・最適化を体現した業務プロセス・実行体制)を導入している企業は、同業他社比で売上成長が2.5倍、生産性が2.4倍、生成AIの全社導入の成功確率が3.4倍にものぼるという成果を示しています。
PMIフェーズのプランニング・計画策定段階においては、エージェント型AIがP2Pプロセスを横断的に分析し、重複・非効率なプロセスの最適化余地を特定、両社のベストプラクティスを適用した最適なP2Pプロセスの設計・構築・移行計画を立案します。
オペレーション・運用段階では、エージェント型AIが自律的に業務タスクを各担当者に割り振り、異常の検知や非効率リスクの提示を行いながら、発注書作成から支払い処理までのP2Pプロセスを自動化します。さらに取引先との契約内容を継続的にモニタリングし、改善点を提示することで、サプライヤー管理も強化します。業務プロセスの統合に要するリードタイム短縮のみならず、キャッシュフロー増加とオペレーション改善(業務効率・業務品質の向上)を実現します。
エージェント型AI導入時に直面する課題として、①分散かつ不完全な大量データの整理(データベース化)、②導入するテクノロジーやパートナーの選定、③統合する両社間に差異のあるテクノロジー水準や企業文化の融合、の3点が挙げられます。さらに先進的テクノロジーを、自社で構築するか、外部から購入するか、パートナーと連携するか、“Build-Buy-Partner”の意思決定も重要です。
M&A巧者の企業は共通して、上記の課題に対して一時的な対応策を取るのではなく、組織的な仕組みとして課題解決に取り組んでいます。具体的には、以下のような取り組みを組織的に実施しています。
・人材育成への注力:エージェント型AIのツールを実務で使用するための教育・トレーニングの実施と進行中のディールでの使用機会の模索
・主要業務への導入:ターゲットスクリーニング、デューデリジェンス、バリュークリエーションプラン策定といったディールの主要業務にエージェント型AIを導入し、M&A関連のデータの一元化による価値導出の模索
・実証の実施:進行中のディールで新しいテクノロジーの効果や改善点の検証・議論を行った上で、広範なディールプロセスへの本格的な実装の検討
このような取り組みを通じて、変革志向かつ継続的に学習する文化を社内に醸成することで企業は様々な課題・リスクを打開し、M&Aの潜在的な価値創出の最大化が可能になります。またエージェント型AIの設計・構築が比較的迅速かつ低コストで導入可能なプランニング・計画策定段階に対する適用から始めることも一案です。
PMIは想定外の事象が生じやすく、困難の多いフェーズではあるものの、エージェント型AIを活用しながら変革を実現することで、コスト削減のみならず、M&Aの潜在的価値を最大限創出することが可能です。事業・業務プロセス統合の効率化だけで満足せず、統合を通じて革新的なオペレーティングモデルの構築を目指すべきであり、不確実な事業環境に対する事業・組織のレジリエンスを強化することが、統合後の新会社の長期的成長に向けた基盤構築につながることがその大きな理由です。
初期(プランニング・計画策定)段階から導入することで、AI導入効果の最大化の実現
M&Aを両社の事業統合のみにとどめず、企業変革実現に向けた起点に転換
関係者全員が新しいテクノロジーを十分に活用できないとしても、エージェント型AI導入により中長期的には価値が創出されることは明白です。
弊社は、エージェント型AIを活用することで、PMIフェーズでの革新的なオペレーティングモデル構築の実現とM&Aでの潜在的価値を最大限創出することが可能となると考えています。
J.NeelyとAustin Corbettによる共同執筆。
<日本語監修>