ブログ
進化するCFOの役割:日本企業の全社変革をリードする
不確実性が増大する現代において、全社変革に取り組む企業は増加しています。特にグローバル企業では、CFOがこれらの変革を主導することがますます期待されています。一方、多くの日本企業のCFOは、変革を進める中で、他部門を「巻き込めていない」 「巻き込もうとしても苦労している」という状況に置かれており、真に全社変革ができていないことが調査から明らかになりました。
3分(読了目安時間)
2024/08/21
【お知らせ】
8日29 (木)に「製造・流通業界ウェビナー 第6回 CFO Forward ~前線指揮するCFO~」を開催します。詳細はこちら
アクセンチュアの「Pulse of Change Index」によると、事業に影響を与える変化の度合いは、過去4年間で急上昇しており、その上昇度合いは183%に達します。この状況に対応すべく、多くの企業が大胆な行動に乗り出しており、最新の調査結果 では、83%の企業が成功のために再創造を戦略として加速していると回答しています。
実際、アクセンチュアの「CFO Forward Study」によると、企業が現在取り組む全社変革プロジェクトは1社当たり3.1テーマに対し、今後1年以内に更に1社当たり+2.1テーマの追加を予定していると回答しています。
CFOが全社変革プロジェクトにどのように関わるかをみてみると、2つ以上の全社変革プロジェクトを推進するCFOの割合は、過去2年間では11%であったのに対し、今後1年間で34%と、+23ポイント増加する見込みです。
過去のCFO関連調査 では、エキスパートサービスを提供する金庫番型CFOからFP&Aによる全社パフォーマンス掌握型CFOへの進化を提言していましたが、上述の通り、現在は“全社変革プロジェクトのオーナー”となることがCFOへの新たな期待であることが分かります。
CFOが担う役割の変化:”全社変革プロジェクト”のオーナーへ
全社変革プロジェクトから成果を産み出すCFOとそうでないCFOを比較すると、明確な違いがあります。
成果を産み出すCFOは主導する変革プロジェクトで数多くの部門に影響を与えようとしており、管理・間接部門だけでなく、事業現場部門や顧客対応部門、販売部門など事業の中にまで踏み込み、実際に“全社”を変革しようとしていることが分かりました。(下記図参照)
成果を生み出す全社変革プロジェクトのオーナーCFO
成果を生み出すCFOは、事業にまで踏み込んだ変革を行い、実際に全社を変革している
全社変革プロジェクトで成果を創出するには部門に閉じた取り組みではなく、事業部門を含む数多くの部門を横断した取り組みとすることが重要であり、そのような変革プロジェクトを横断・掌握して推進できる人材としてCFOが適任であることを示唆していると考えます。
積極的に全社変革プロジェクトの推進に取り組む先進的な企業を見てみると、CFOがSKUポートフォリオ最適化などの事業に関わる全社変革プロジェクトを主導するとともに、自身が主導していないプロジェクトに対しても期待効果が創出されるための仕掛けを導入していることが分かりました。
どちらの場合においても、CFO配下に全社変革プロジェクトによる財務効果の創出確度やその進捗を検証するResult Deliveryチームを派遣し、期待効果に対し必要十分な取り組みとなっているか・期待通りの財務効果が出ているかを可視化することで、効果に基づくプロジェクトマネジメントを可能としていました。
事業価値や業績向上を支援するFP&Aチームに加え、Result DeliveryチームをCFO配下に持ち、全社変革プロジェクトに派遣することを通じて、価値創出マネジメントを行う先進的な事例があります。
Result Deliveryチームは、プロジェクトの期待効果の算出式を定義しオペレーションKPIと紐づけることで、期待効果に対し十分な取り組みとなっているかの検証や、取り組みの結果が財務効果創出に繋がっているかの検証を行います。
これを支えるために、財務データのみならず全社オペレーションデータを統合したデータベースと分析チームまでを配下に置いています。(下記図参照)
事例:全社変革推進に向けたCFOチーム
価値創出を主導するために、期待した通りに財務効果が出るかを検証するチームを組成
CFOが主導するプロジェクトにおいては、プロジェクト体制の中にResult Deliveryチームを配置し、そのチームから共有される効果の進捗や分析結果を基に、CFO自らが追加対応の必要性などを判断します。
CFOが主導しないプロジェクトでは、CFOチームからResult Deliveryチームを派遣し、CFOに対しても進捗を報告させるダブルレポートラインを構築しています。これによりCFOは自身が主導しないプロジェクトの効果創出状況を把握でき、プロジェクト横断での投資優先度などの判断、価値創出マネジメントが可能です。(下記図参照)
事例:CFOの全社変革への関わり方
主要プロジェクトの効果創出状況を横断的に把握できる立場となっている
このような事例からも分かるように、CFOは全社パフォーマンスを掌握・管理することから、全社変革プロジェクトのオーナーとなることに留まらず、全社変革プロジェクトを横断して企業価値創出をマネジメントすることで、未来の企業価値創出活動を前線指揮する立場にまで発展しつつあるようです。
全社変革プロジェクト“横断”での価値創出マネジメントの登場
CFOが未来の価値創出の前線に立ち指揮する事例もでてきている
日本企業の状況を見てみると、グローバルと同様に、企業が取り組む全社変革プロジェクトの数は増加見込であり、CFOは全社変革プロジェクトを担う役割となっています。
しかし、その取り組み内容をみてみると、グローバルとは大きな隔たりがあることが判明しました。
グローバルの先進企業と比べて日本企業のCFOは、特に事業フロントにインパクトを与えられておらず“全社変革を謳うも、実態は部門に閉じた変革”に留まってしまっているのが現状です。
日本企業のCFOが抱える問題
限定的な範囲でのみ変革を行っており、真に全社の改革には取り組めていない
他部門、特に事業部門を巻き込んだ変革を推進するためには、事業責任者と事前に目指す価値、つまりは定量的な財務効果の共有を行い、課題や取り組みの必要性を説得することが重要です。これには、財務データだけではなくオペレーションデータも含めた高品質・高鮮度のデータの活用が求められます。しかし、グローバル企業に比して日本企業のCFOはデータの質への感度が低く、定量的な価値を試算するために必要十分な財務データ・オペレーションデータを持てていません。
全社の改革”に向けた課題
定量的な財務効果を掲げられていないがために、他部門の協力を獲得できていない
グローバルの先進企業に比べ、日本の企業は部門毎の独立性が高く、横断的な取り組みの推進が弱いケースが多く見受けられます。このような状況下で、部門を横断し“真に全社を変革”するためには、客観的で誰もが納得できるデータや定量効果を御旗にすることが、グローバル以上に日本の企業では重要だと考えます。定量化することで、他部門を巻き込みやすくなるのに加え、取締役会のサポートもより得やすくなります。全社の財務数値を既に掌握しているCFOこそが、全社“横断”での取り組みを推進できる人材であると言えるでしょう。
そのためには、報告させない仕組みの構築、期待通りの財務効果を検証するチームのプロジェクト体制への組み込み、“経理・財務”の枠に捉われない人材育成の仕組みの構築、が重要です。
日本企業のCFOはこれまでFP&Aの強化に取り組んできましたが、事業を巻き込むための価値の定量化ができていないことを踏まえると、まだその強化は途上であるものと考えられます。FP&Aの更なる強化に重要なのは、財務データだけではなく事業やオペレーションのデータを活用することです。そのためには、エクセルでの手作業によるバケツリレーではなく、自動的にデータを集約できる“報告させない仕組み”を構築することが不可欠です。この仕組みにより、事業部門に依頼することなく最前線・高鮮度のデータに自らアクセスできるようになります。
CFOの配下に、期待した通りに財務効果が出るかを検証するResult Deliveryチームを組成した上で、全社変革プロジェクトに派遣することで、期待効果創出の確度の担保できるようにすることが重要です。この取り組みを推し進めることで、全社変革プロジェクトのパフォーマンスを管理できるようになり、単なる投資承認者ではなく、投資の優先度判断やリターンのコントロールが可能となります。
加えて、データを武器にするためには事業やオペレーションへの理解が必要です。従来の経理・財務に閉じた人材育成の仕組みを変え、これまで以上に経理・財務の外での経験を積ませる人材育成の仕組みにしていくことが重要です。
これらの取り組みを通じて、日本企業のCFOは、事業にまで踏み込んだ全社変革を推進し、企業価値を大きく向上させることを目指すべきと考えます。
共同執筆者:ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ 古川 和憲