課題―求める変化

新聞ビジネスの転換点

創刊から145年、日本経済新聞社(以下、日経)はいつの時代にあっても多くの人へ正しい情報をいち早く届けるクオリティ・ペーパーとして、また最新技術を貪欲に取り入れ続けるテクノロジー・メディアとして、最適かつ新鮮な情報の発信を継続してきました。

日本で初めて紙面制作のコンピューター化を成し遂げるなど、革新性と先進性を持つ同社のDNAは、今日もデジタルジャーナリズムを掲げて新たな読者層の開拓へと邁進している日経電子版に強く息づいています。

こうした先見性やチャレンジ精神あふれる事業展開を続ける日経ですが、その内部では創造的破壊とも呼べる大変革が動き出しています。

「いま私たちは強い危機感を持ってビジネスの転換に取り組んでいます」と語り始めたのは日本経済新聞社 HR本部長補佐 首藤 純 氏。「紙の新聞を作って売る。1世紀以上に渡って成功体験の源泉となってきた私たちのビジネスモデルが土台から崩れ始めています。近年のメディアの多様化による競争の激化や若年層における新聞離れは深刻で、新聞業界全体を見ても部数の減少に歯止めがかかりません。紙の新聞づくりに極度に最適化してきた私たちですが、現在は経済コンテンツの多角的な活用で様々なビジネスへと繋げる戦略への転換に取り組んでいます。創刊11年を迎えた日経電子版は、まさにその象徴です」(首藤氏)

首藤 純 氏  日本経済新聞社 HR本部長補佐

社長直下の部門横断で進行中、日経のDX

ビジネスの方向性は変わっても、なかなか変わらないのが社員のマインドです。何を作り、どう売れば良いのか。そこに正解はありません。商品や業務オペレーションの刷新だけでなく、全社員の意識改革や会社の仕組みそのものの変革を伴う取り組みが必要であると、日経のマネジメント層では強い危機意識を持っていました。こうした背景から日経では全社業務DX委員会を発足し、次世代の日経の在り方を模索する取り組みを進めています。

日本経済新聞社 情報技術本部 本部長補佐 加藤 祥晃 氏は次のように委員会発足の経緯を振り返ります。

「社長の号令一下、経営企画室とHR本部、そして社内ITを司る私たち情報技術本部による横断的組織でHRインフラDX化の取り組みが始まりました。大量採用世代の定年退職に伴い、日経は今後10年で社員数が大きく減少するとシミュレーションしています。しかし事業収益をさらに高め、持続的に会社を成長させ続けるにはどうすべきか。小手先の取り組みではなく、本腰を入れたDXのために制度改革も必須であると判断し、管理職へのジョブ型人事制度導入を決断しました」(加藤氏)

加藤 祥晃 氏 日本経済新聞社 情報技術本部 本部長補佐

加藤氏と首藤氏は、日経のマネジメント層がDXにどれほど強く期待しているかを、その投資規模の大きさとスピード感から感じると言います。

「新聞社のビジネスがこの先も存続するには、既存社員の"頭の中"を変え、若手も含めた有能な人材をどんどん登用して活躍の場を提供しなければなりません。これまでの苦い経験から、目先の制度改革だけではすぐに以前の運用へと戻ってしまい元の木阿弥になりかねないと考えています。新しい戦い方を実践するには、不退転の覚悟でインフラとマインドの両方を変えて前進するしかないと考えています。経営層からは、そのような決意を感じます」(首藤氏)

従来の日本の人事システムは個人を管理し、給与計算等を正確に行うためのツールでした。人材情報にも人事部のみがアクセスでき、個々の社員をいかに管理するかに主眼が置かれているものが主流であったといえます。しかし企業においては組織のミッション達成こそが本質的な最優先事項であり、そのためには社員が能力を最大限に発揮してパフォーマンスを向上できる環境の整備が不可欠です。

主観や印象に基づいたり、過去の成果に立脚した人材登用ではなく、そのタレント(人材)が現在の自社のビジネスにどのように貢献できるのかで判断するには、客観的なデータやエビデンスに基づく分析が重要です。そうした狙いを実現するための取り組みとして、日経のDXでは管理職のジョブ型人事制度導入をはじめとした人事マネジメントのあり方の抜本改革と、その運用基盤となるITインフラの構築の両輪による推進が必須であると位置付けられました。

取り組み―技術と人間の創意工夫

データを中心とした人事マネジメント改革のインフラとして、Workday HCMを採用

HR本部が全社規模DXの一環として取り組んだのは、組織のミッションの再定義や管理職の位置付けの見直し、組織の指揮系統のシンプル化、そして管理職へのジョブ型人事制度導入をはじめとした人事マネジメント改革でした(ジョブ型人事制度は管理職に導入後、段階的に適用対象を拡大する予定)。

「そうした組織体系を運用していくうえで最適なソリューションは何であるかを検討していった結果、Workday ヒューマン キャピタル マネジメント(以下、Workday HCM)に行きつきました」と首藤氏は説明します。

「あれこれカスタマイズできるツールでは私たちユーザーの改革への意思を弱らせ、結局は現状の姿に近づけてしまうのではないかという懸念がありました。また、自由度の高いソリューションはカスタム開発の安請け合いにつながり、システム間の整合性を取るために現場が混乱に陥るリスクもありました。人事マネジメントを大きく変えるというパラダイムシフトを目指す私たちにとって、設計思想やソリューションの哲学が確立されているWorkdayならば設計や運用で迷うこともないと期待しました。つまり、Workdayの思想に『便乗』することがベストプラクティスであると考えたのです」(首藤氏)

日経が目指しているのは、データを経営の意思決定に活用できる体制となること。人的資源に関するデータの一元管理によって客観的な人事戦略の実現に貢献でき、視覚的にわかりやすいインターフェースを持つWorkday HCMは日経にとって魅力的なソリューションでした。2015年から日経の傘下となっているフィナンシャル・タイムズでもWorkdayが導入されていることが強い後押しとなりました。

人材データを効率よく集め、多面的に活用するためにはシステム間のスムーズなデータ連携が不可欠です。日本経済新聞社 情報技術本部 部次長の印藤氏は「データが適切に流れていき、各システムで効果的に情報を利用できるインフラ整備がIT部門の役割です。各部門のやりたいことを負荷なく実現できる環境を、最小限のメンテナンスで効率よく運用したいと考えています」と述べます。

印藤 祐介 氏 日本経済新聞社 情報技術本部 部次長

世界数百社におよぶ実績を評価してアクセンチュアをパートナーに

導入パートナーの選定において日経では、世界で数百社のお客様企業への導入実績を持ち、ジョブ型人事制度を含む、人材・組織マネジメント領域のコンサルティングの知見を有しているアクセンチュアを選定しました。

印藤氏はプロジェクト進行においても、アクセンチュアの知見提供によって、時間の有効活用ができていると話します。

「限られた期間の中での導入プロジェクトであることから、SIベンダーとして豊富な事績があることはもちろん、日本企業の労働法制への理解から開発現場のサポートなどまで、一貫した支援をいただける企業としてアクセンチュアに期待しました。アクセンチュアには日本国内でWorkday HCM導入を手掛けているエキスパートが所属しており、当社においてベストと考えられる使い方を的確に提案いただけました。私たちは提案に対し、イエスかノーかに絞って検討できるなど、クイックなプロジェクト進行ができたと感謝しています」(印藤氏)

HR本部 人事部で社内研修制度を担当する田邊 友子 氏は、Workdayと研修の仕組みとの連携について「人事からの一方通行でのアナウンスではなく、社員同士がコツやノウハウを共有できる基盤として整備しています」と説明します。

「社員同士のコミュニケーションの活性化にも寄与しており、なによりWorkday HCMを各社員が触れる機会にもなっています。人事部の研修チームとしても、レコメンド状況などをデータから捉え、不足している研修メニューの拡充の方針を立てるなどに活用予定です」(田邊氏)

田邊 友子 氏 日本経済新聞社 HR本部 人事部

成果―創出された価値

ユーザーを巻き込み、全社への浸透を進める

日経では管理職向けのジョブ型人事制度が実施されると共にWorkday HCMの運用がスタートしています(2021年7月現在)。今後は段階的に機能を拡充して人材データの質・量も増やし、新しい価値を生み出すフェーズへと進んでいく見込みです。

HR本部 人事部 飯坂 理彦 氏は運用面での取り組みについて次のように説明します。

「記者が所属する編集局と意見交換しながら、スキル情報やプロジェクトへの参加などこれまで手作業で管理していた情報・活動をシステムで管理しデータとして残すための仕組み作りを進めています。一般社員にもWorkday HCMをどんどん触ってもらいながら、ユーザーを巻き込んでいく工夫が重要だと考えています。そのためにも制度設計とシステム開発を同時並行で推進し、ユーザー目線で使いやすいシステムを構築したいと考えています」(飯坂氏)

飯坂 理彦 氏 日本経済新聞社 HR本部 人事部

Workday HCMとの具体的なデータ連携の一例として田邊氏は研修プラットフォームとの組み合わせを紹介します。

「従来はデータに基づいて分析する観点が不十分でしたが、Workday HCMによってその社員に必要なスキルにあった研修の提供が容易になりました。よく見られているジャンルやトピックなど、ユーザーの関心ごとを可視化できていますし、職種ごとに推奨する講座を作成するなど、社員1人ひとりにパーソナライズされたメニューの提供を進めていきたいと考えています」(田邊氏)

もしも、新聞の部数がある日突然に半減したら、あらゆる新聞社の経営者はただちにビジネスモデルの変革に取り組むに違いありません。しかし昨今では販売部数の逓減が日常化してしまっているがゆえに、茹でガエルの法則による「変えるに変えられない状態」が続いていると首藤氏は述べます。

「今は、日経がさらなる発展を継続できるかどうかの分水嶺であり、変革を実現できるかどうかの最初で最後のチャンスだと考えています。ジョブ型人事制度をはじめとした人事マネジメント改革はその具体的な打ち手です。報道機関としての使命を果たし続けるための日経の大きな変革を、人材という側面で支えていきたいと思います。」(首藤氏)

この取り組みは、まさに次世代の日経の基盤をつくる取り組みに他なりません。アクセンチュアは引き続き、日本経済新聞社様のDXおよびWorkdayの活用をご支援してまいります。

右より:アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 マネジング・ディレクター 内田 典子、日本経済新聞社 情報技術本部 本部長補佐 加藤 祥晃氏、同 部次長 印藤 祐介氏、同 HR本部 人事部 田邊 友子氏、同 飯坂 理彦 氏、同 HR 本部長補佐 首藤 純氏、アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 久保 由里

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