調査レポート
人間とAIが実現するエンジニアリングの再創造
5分(読了目安時間)
2026/05/20
調査レポート
5分(読了目安時間)
2026/05/20
2030年に向けて、企業の競争力を左右する重要な要素は、適応力とスピードになるでしょう。先進企業は、部分的なプロセス改善や既存システムへのツール追加だけでは、長年にわたり蓄積された構造的な課題を解決できないことを認識しています。そのため、バリューチェーン全体にわたるプロセス、データ、ツール、そして業務の進め方そのものを再構築し、開発サイクルの短縮、市場投入の成功確度向上、ソフトウェアや製品のアップデート高速化といった大幅な改善を実現しています。
アクセンチュアが100名のエンジニアと36名のエンジニアリングリーダーに実施したインタビューからは、多くのレガシーシステムが限界に達しつつある実態が明らかになりました。開発サイクルが短縮される一方で、製品の複雑性は増し続けています。しかし、エンジニアは本来の設計・開発業務よりも、ドキュメント作成やレポート作成、情報検索、会議といった業務に1日の約半分を費やしていると報告しています。このような状況において、従来型の部分的な改善だけで対応できる余地は限られています。安全性、品質、コンプライアンス、コスト管理を維持しながら、ソフトウェア開発並みのスピードでイノベーションを実現するためには、プロセスやツールだけでなく、組織の役割分担、意思決定の仕組み、さらには部門横断の連携方法まで含めてエンジニアリングのあり方そのものを再構築する必要があります。
エンジニアリング部門をコストセンターから成長の原動力へと転換するには、クラウドベースのデジタルコアと、信頼できる単一のデータ基盤の構築が不可欠です。この基盤によって、データ、ガバナンス、システム連携を標準化できます。その結果、「デジタルスレッド」と呼ばれる一貫性と追跡性を備えた情報の流れを構築し、製品ライフサイクル全体にわたって、要件定義から設計、変更管理、テスト、承認、品質管理、さらには現場からのフィードバックまでをシームレスにつなぐことができるようになるのです。これは既存システムを置き換えるものではありません。むしろ、データ基盤がそれらを連携させる役割を担います。統合されたガバナンスのもとでデータを結び付けることで、重要な情報の一貫性、最新性、そしてトレーサビリティを維持できます。
こうした基盤が整うことで、エンジニアリング変革を実現する取り組みが現実のものとなります。例えば、必要なエビデンスを継続的に蓄積しながら、モデルによる要件管理の整合性を維持し、業務プロセスの中でコンプライアンスを確保できるようになります。また、社内外の関係者が共通の統制基準のもとで効率的に協働することも可能になります。さらに、再構築されたエンジニアリング環境では、AIを活用することでガバナンスと業務実行を高度に自動化・継続化できます。その結果、現代のエンジニアリングに求められるスピードと規模に対応しながら、より高い生産性と品質を実現します。
各工程において求められる成果水準を明確に定義します。これには、必要なインプットとアウトプット、責任者、意思決定のゲート、そして最小限のフリーズポイントが含まれます。まずは1つの製品ラインとV字モデル上の重要なプロセスを対象に、実用最小限のデジタルスレッドを構築します。目指すのは完璧に網羅することではなく、実務で活用できるレベルの確実な可視化と連携です。
実現される変化:
モデルと要件・アーキテクチャを直接結び付け、検証済みの成果物を再利用することで、モデルベースの開発はより高い精度と効果を発揮します。開発チームはゼロから作り直すのではなく、実証済みの知見や資産を活用しながら効率的に開発を進めることができます。
実現される変化:
検証やコンプライアンスを最終段階の作業としてではなく、継続的な仕組みとして運用することで、開発終盤の手戻りや突発的な対応を大幅に削減できます。チームは開発の最後に文書をまとめるのではなく、関連する規格やポリシー、管理要件への準拠を示す最新のエビデンスを継続的に蓄積・維持する必要があります。
実現される変化:
AI活用型エンジニアリングの真の価値は、人間を中心に据えた「人とAIの協働体制」を構築することにあります。AIによって定型業務や反復作業が削減されることで、エンジニアは判断、創造性、問題解決といった、より価値の高い業務に集中できるようになります。
実現される変化:
明確な基準、適切なアクセス権限管理、そして成果物に関する共通ルールを整備することで、知的財産に関する懸念やバージョン管理の混乱を最小限に抑えることができます。こうしたガバナンスは、パートナーが信頼できる共通のデータ基盤と連携した管理されたデジタル環境で協業することで、初めて効果的に機能します。
実現される変化:
これら5つのアプローチは、エンジニアリング部門内のプロセスを大幅に加速させます。しかし、業務がバリューチェーン全体にまたがり、承認や回答、部品の調達、設計変更などを待つ段階に入ると、サイクルタイムはいまだに停滞しがちです。そのため、エンジニアリング部門は自部門の業務効率化にとどまらず、バリューチェーン全体における意思決定やエビデンス管理の仕組みを統合・最適化していく必要があります。
2030年に向けて、高い競争力を持つエンジニアリング組織は、スピードと収益性の両面で優位性を確立していくでしょう。その鍵となるのは、安全性、品質、コスト管理、コンプライアンスを維持しながら、新製品を迅速かつ効率的に市場へ投入し、継続的な改善を実現できるかどうかです。その第一歩として、CEOとエンジニアリング部門のリーダーは、遅延による影響が大きく、かつ短期間で成果を示しやすい製品ラインを1つ選定する必要があります。その上で、クラウドベースのデジタルコアを構築し、AIを活用して重要なデータを特定するとともに、データ基盤を標準化。さらに、開発プロセス全体のトレーサビリティを可視化し、後工程で問題が顕在化する前に、データやプロセスの分断箇所を特定します。また、意思決定ゲートの明確化、責任者の設定、そして開発サイクルや市場投入までのリードタイム、製品ライフサイクル全体のパフォーマンスを測定する指標を整備することで、これらのアプローチを組織に定着させることができます。
こうした取り組みは、エンジニアリング部門の効率化にとどまりません。エンジニアリングを企業成長の中核的な推進力へと変革し、持続的な競争優位性の実現につなげることができるのです。