調査レポート
AIエージェント時代に変わる、ブランド価値のルール
生活者は、商品やサービスの比較から購入まで、さまざまな判断をAIエージェントに任せ始めています。これからのブランドには、生活者の心を動かすだけでなく、AIエージェントが確認、評価できる確かな価値を示すことが求められます。選ばれ続けるためには、生活者とAIエージェントの双方から信頼を得なければなりません。
5分(読了目安時間)
2026/06/03
調査レポート
生活者は、商品やサービスの比較から購入まで、さまざまな判断をAIエージェントに任せ始めています。これからのブランドには、生活者の心を動かすだけでなく、AIエージェントが確認、評価できる確かな価値を示すことが求められます。選ばれ続けるためには、生活者とAIエージェントの双方から信頼を得なければなりません。
5分(読了目安時間)
2026/06/03
あまりに多い選択肢、限られた時間、そして複雑な条件や注意事項。生活者は、こうした負担に直面しています。そこで今、生活者はAIエージェントを活用し始めており、その動きは多くのブランドリーダーの予想を超えて進んでいます。アクセンチュアが16カ国、25,590人を対象に実施した調査では、約4人に3人(74%)が、自分に代わって商品を購入する場合、親友よりも自分専用のAIエージェントを信頼すると回答しています。
74%
AIエージェントが指示に厳密に従うことを条件に、価格交渉や苦情対応などの日常的なタスクを任せたいと回答した生活者の割合。(日本:60%)
32%
支払いは自分で行うことを条件に、何を購入するかの判断をAIエージェントに任せてもよいと回答した生活者の割合。(日本:23%)
9%
購入の判断から決済まで、AIエージェントに完全に自律して行わせることに前向きな生活者の割合。(日本:5%)
しかし、生活者がすべての主導権を手放そうとしているわけではありません。負担に感じる作業はAIエージェントに任せる一方、自分にとって意味のある選択には、引き続き自ら関与しようとしています。半数を超える生活者(56%)が、検討対象とするブランドをAIエージェントに指定すると回答しています。その一方で、特定のブランドを継続的に利用している生活者の37%は、より自分に合った商品やサービスが見つかれば、AIエージェントが別のブランドに切り替えることを認めると回答しています。また、生成AIを毎週利用する生活者にとって、生成AIはすでに実店舗を上回り、商品やブランドを発見する主要なチャネルとなっています。これは、あらゆるブランドに重要な問いを投げかけています。これから、価値はどこで生み出され、どこでその真価が明らかになるのでしょうか。
しかし、AIエージェントに任せる範囲が、徐々に広がっていくとは限りません。生活者は、判断する内容に応じて、どこまでAIエージェントに任せるかを変えます。例えば、食料品の補充はAIエージェントに任せても、旅行の予約は自分で行いたいと考える場合があります。選択の難しさだけで、どこまで任せるかを変えるわけではありません。その選択が、生活者にとってどのような意味を持つかが重要です。自分らしさ、人とのつながり、自己表現に関わる選択ほど、生活者は自ら関わろうとします。現時点で、AIエージェントにより多くの判断を任せるうえで、最大の障壁となっているのは決済です。AIエージェントに購入の最終判断を任せることに前向きな生活者は、12%にとどまっています。
一方、十分な安全対策や生活者を保護する仕組みが整えば、80%が、少なくとも1つ以上の日常的な活動をAIエージェントに任せることを検討すると回答しています。そして、生活者がひとたびAIエージェントを信頼すると、その信頼は、AIエージェントが選ぶブランドにも及びます。反対に、AIエージェントから選ばれないブランドは、生活者との接点そのものを失う可能性があります。
生活者がより多くの判断をAIエージェントに任せるようになるにつれ、ブランドが価値を生み出すためのルールも変わり始めています。AIを、単なる新しい販売・情報発信チャネルとして捉えてはなりません。AIエージェントは、従来のチャネルの延長ではないからです。AIエージェントが生活者とブランドの間に入ることで、何が、いつ、どのような基準で購入されるのかが変わります。それに伴い、ブランド価値がどのように生まれ、評価されるかも変わっていきます。
生活者の71%は、今後12カ月間に行う支出判断の少なくとも半分に、生成AIが影響を与えると考えています。また、43%は、AIエージェントへの指示の最優先事項として、予算とコストパフォーマンスを挙げています。AIエージェントは、常に生活者の立場で商品やサービスを調べます。ブランドを比較できる要素に分け、そのブランドが発信している内容と実際の商品・サービスを照らし合わせ、より良い結果につながる選択肢へと生活者を導きます。他社との違いが明確でないこと、価格が価値に見合っていないこと、生活者のニーズに合っていないことは、すぐに明らかになります。ブランドが実態を隠すことは、難しくなるでしょう。しかし、これはすべての商品やサービスが同じように扱われ、価格だけで選ばれるようになるという意味ではありません。約63%の生活者は、自分が思い描く「理想の自分」に合った商品を、AIエージェントに選んでもらいたいと考えています。ブランドが確かな価値を提示していれば、AIエージェントはその価値を見つけ、より多くの人に伝えます。一方、実際の価値が伴っていなければ、ブランドが発信する内容と実態との違いを明らかにします。
生活者の61%は、複数の食料品店を比較しながら買い物をするAIエージェントを求めています。また、71%は、航空会社、ホテル、現地でのアクティビティを組み合わせ、旅行全体を計画するAIエージェントを利用したいと考えています。AIエージェントが購入候補を絞り込むようになると、生活者が個々のブランドのウェブサイトや店舗を訪れる前に、購入候補が決まるようになります。つまり、ブランドが選ばれるタイミングが、これまでよりも前に移るということです。何が選ばれるかを左右するのは、AIエージェントが参照する基準、データ、情報を確認する仕組みです。生活者と直接接点を持つ前の段階で、ブランドが候補に入るかどうかが決まります。ブランドにとっての選択肢は、次の2つです。生活者から選ばれるAIエージェントを自ら提供するのか。それとも、外部のAIエージェントから選ばれるブランドになるのか。自社独自のAIエージェントを構築しようとするブランドや小売企業にとって、生活者の反応は注目に値します。生成AIを毎週利用する生活者は、AIを専門とするプラットフォームよりも、小売企業やブランドが提供する特定カテゴリーに強いAIエージェントを利用したいと考える傾向が2倍以上高くなっています。ブランドがどこで価値を発揮するのかを決める機会は、今まさに開かれています。しかし、現在形成されつつある生活者の習慣は、一度定着すると変えることが難しくなるでしょう。
生活者は今、ブランドに対しても、日常的に利用するAIと同じように、自分に合った、役に立つパーソナルな体験を期待しています。生成AIを毎週利用する生活者の5人に3人は、1年前と比べて、AIとのつながりをより強く感じるようになったと回答しています。また、64%は、AIから「自分のことを見てもらえている」「話を聞いてもらえている」「理解してもらえている」という感覚を得ています。こうした変化によって、生活者が自らブランドを選ぶ場面でも、自分に寄り添ってくれること、自分との関係性を感じられること、より良い体験を得られることへの期待が高まっています。しかし、ブランドへのロイヤリティは無条件ではありません。これまで特定のブランドを継続的に選んできた生活者の37%が、より自分に合う選択肢が見つかれば、AIエージェントが別のブランドに切り替えることを認めると回答しています。また、AIエージェントは、生活者とは異なる基準でブランドへの信頼を築きます。AIエージェントが評価するのは、根拠が確認できる商品やサービスの説明、正確に整備された商品データ、透明性の高い価格、信頼できる在庫情報、そして約束どおりに商品やサービスが提供されたという実績です。ブランドは、2つの異なる相手から価値を認められなければなりません。一つは、生活者の心。もう一つは、AIエージェントのアルゴリズムです。
AIエージェントは、確認できる確かな価値を推薦します。生活者は、自分にとって意味のあるものを記憶します。
生活者がブランドに期待すること、ブランドを選ぶ方法、そしてブランドを選び続ける理由は変わりつつあります。ブランドがこれからも選ばれ続けるためには、次の3つの取り組みが重要です。
AIエージェントを利用する生活者は、ブランドが掲げる約束と、実際に提供される商品やサービスとの違いを、これまで以上に厳しく見るようになります。競争力の出発点となるのは、生活者がそのとき何を求めているのかを理解することです。生活者は何を実現したいのか。どのような条件や制約があるのか。価格、品質、時間、利便性などのうち、何を優先し、何をもって「自分にとって最適」と判断するのか。そこまで理解する必要があります。企業は、生活者が入力するプロンプトの傾向、商品やサービスを比較するときの基準、AIエージェントが自社を候補に加えた理由、あるいは自社が候補から外された理由、さらには注文・配送・サービス提供などで問題が起きた箇所など、AIエージェントを介して得られるこれらのような情報を捉えることが重要です。こうした情報を、自社が保有する顧客データ、カスタマーサービスのデータ、小売企業から得られるデータと結び付け、商品、サービス、ブランドメッセージ、顧客体験の改善に生かす必要があります。求められるのは、魅力的なブランドストーリーだけではありません。
AIエージェントが根拠、価格に見合う価値、実際の提供能力を比較したときにも、確かなものとして評価される商品、情報、体験を提供することが重要です。
企業は、SEO、生成AIエンジン最適化(GEO)、コマースへの対応に加えて、AIエージェントから発見され、評価され、選ばれるための「エージェンティックエンジン最適化(AEO)」にも取り組む必要があります。商品情報、ブランドが発信する内容、価格、そしてそれらを裏付ける根拠を、AIが読み取ることができ、確認しやすい形に整備することが重要です。また、自社の商品やサービスがAIエージェントの推薦結果に表示されているか、比較・検討の最終候補に残っているか、生活者が迷うことなく選択・購入できる状態になっているかを、継続的に確認する必要があります。小売業者やプラットフォーム事業者などのパートナーとの対話も変えていく必要があります。商品や広告を「どこに掲載するか」という議論だけでなく、AIエージェントを含むさまざまな接点で、「どうすれば一緒に見つけられやすくできるか」という議論へと転換することが求められます。
生活者がブランドと直接関わる場合でも、AIエージェントを通じて関わる場合でも、受け取るブランドの約束は一つです。商品やサービスのデータが正しくない、発信している内容と実態が一致していない、問題が起きたときの対応が遅い。こうした事態は、ブランドに対する評価を直接損ないます。企業は、生活者に関するデータや理解を、商品・サービス開発、営業、コマース、カスタマーサービス、サプライチェーンを横断する事業計画の中核に据える必要があります。さらに、社内でもAIエージェントを活用し、ブランドが掲げる約束と、実際の商品・サービス提供との間にある隔たりを解消することが求められます。生活者がブランドを瞬時に切り替えられる環境では、正確で安定した業務運営と、確実な商品・サービス提供そのものが、ブランド価値になります。
これまで暗黙のうちに認められてきたブランド価値だけでは、もはや選ばれ続けることはできません。AIエージェントは、商品やサービスの品質、価格の透明性、配送の確実性、体験の一貫性など、事実として確認できる要素をもとにブランドを評価します。一方で、AIエージェントが比較、交渉、手続きといった煩わしい作業を引き受けることで、ブランドには、人々の生活を本当に豊かにする商品、サービス、体験を生み出す余地が広がります。AIエージェントに判断を任せる生活者は、求める水準を下げているのではありません。むしろ、その水準を引き上げ、自分の期待をより確実に実現するための手段を手にしているのです。生活者に提供する価値を明確に定め、日々の事業活動を通じてその価値を着実に届け、一人ひとりの生活者に寄り添いながら信頼を築く。そのすべてを実現するブランドこそが、これからも生活者から選ばれ続けるでしょう。