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ブログ

フロンティアAI時代のセキュリティ戦略―何を見直し、何を守るべきか

8 分(読了目安時間)

2026/07/27

サイバー攻撃の手法を大きく変えつつあるClaude Mythos(以降、Mythos)の登場以降、情勢は日々刻々と動いています。

しかし、本稿が問いたいのはMythos単体の話ではありません。同等の能力を持つフロンティアAIが遠からず広く利用可能になるという、構造変化そのものです。過去のモデル動向を見ると、トップモデルに対して他社モデルがおよそ半年遅れで同等の性能に追いつく傾向があります¹。「Mythosだけ警戒していれば良い」という状況は、長くは続かないでしょう。

日々お客様とお話しする中で、「人員不足の中、今優先すべきことは何か」というご相談を多くいただきます。結論を先に申し上げると、本質的な対策の方向性はこれまでと変わりません。ただし、緊急性・重要性が飛躍的に高まったアクションが存在します。以下に、アクセンチュアとしての見解をお伝えします。

前提:フロンティアAIによる攻撃の仕組みを理解する

フロンティアAIが攻撃に使われると、何が起きるのでしょうか。まずその仕組みを整理しておきます。

従来のセキュリティスキャンツールはパターンマッチを中心としており、既知の脆弱性を中心に検出してきました。フロンティアAIはまったく異なります。「強力な推論能力」と「トライ&エラーの反復」で、対象の全体像やコードの文脈などを理解しながらシステム全体を探索します。

フロンティアAIモデルによる脆弱性発見の仕組み:Claude Mythosなどのフロンティアモデルは、大量の推論とトライ&エラーの並列実行により、人手では到達できない探索空間を網羅的に解析する
フロンティアAIモデルによる脆弱性発見の仕組み:Claude Mythosなどのフロンティアモデルは、大量の推論とトライ&エラーの並列実行により、人手では到達できない探索空間を網羅的に解析する

英国AI研究所(AISI)の独立評価²では、こうした一連のプロセスをMythosが32段階にわたって自律実行し、エキスパートレベルのハッキング競技で73%の成功率を記録しました(熟練した人間の専門家は約50%程度)。7,000本のソフトウェアから595件の脆弱性を発見し、攻撃コストを1/100以下に低減できる可能性も示されています。

重要なのは、この能力が「特別な技術者だけが使える」ものではなくなりつつある点です。

フロンティアAIが「変えたこと」と「変えないこと」

変わったこと:「量」と「速度」、そして「攻守の構造」

  1. 「量」と「速度」

    従来の生成AIモデルは、既知の脆弱性パターンを「思い出す」だけでした。最新のフロンティアAIモデルは違います。何千・何万単位の仮説を並列で検証しながら、対象の意味を理解して試し続けます。人手では到達できなかった探索空間に届き、脆弱性を発見します。2026年4月以降の脆弱性報告件数の増加傾向にも、この変化が現れています。

    加えて、フロンティアAIモデルを活用することでエクスプロイトコードの生成やターゲットの検索などが容易となり、脆弱性の発見から悪用するまでの「速度」が圧倒的に早くなっています。

  2. 「攻守の構造」

    攻撃側がAIで大量・高速に仕掛けてくる一方、防御側もAIを活用することで対策を強化することができます。――AI 対 AIの時代です。攻撃側はどこか一点を突破すれば成功、防御側はすべて守り切らないといけないという点では有利ですが、限られた情報しか持たない攻撃側に比べ、防御側は、自社システムの構成・コード・ログといった情報を詳細に保有し、こういった情報をAIによる防御のための推論に活用できる点が有利です。この攻撃側・防御側双方のもつ「非対称性」は念頭に置くべきでしょう。

    攻撃者にいかに情報を与えず、推論の精度を下げさせ、自社は持っている情報を基にAIを活用して防御のための推論を行い、それをいかに早く実装するか、がAI 対 AIの構図では大きなポイントになると考えます。

変わっていないこと:長期的・構造的な改革の必要性

昨年より、ランサムウェア対策として進められてきたものも多いと思いますが、資産管理の徹底、技術的負債の解消、開発工程へのセキュリティの組み込み、事業継続計画の整備といった対策は、引き続き中長期の柱です。むしろAIの脅威拡大によって、その重要性はさらに高まっています。

Mythos後の脅威に対し、4つの時間軸で打つべき施策

上記を踏まえた上で、すべきことは何か、時間軸に分けてご紹介します。ここではご相談の多い即時~短期対策を中心にしておりますが、中長期的な目線で、脅威追従・能力構築・構造改革へと段階的に進めることが重要です。

【即時実行|0〜1ヶ月】土俵に乗る

各レイヤーで資産および脆弱性管理責任を明確化し、領域横断で「守れる体制」を構築します。

  1. 資産の全棚卸し:「資産管理ができていなければスタートラインにも立てない」――これが大前提です。OS、ミドルウェア、OSSライブラリ、SaaSまで、何が動いていて誰が管理責任を持ちどこに公開されているかを可視化することが、すべての起点になります。

  2. 横断PMOの設置:パッチ対応・インシデント対応・脆弱性評価の各チームを束ねる横断PMOを立ち上げ、セキュリティガバナンスを整備します。セキュリティ部門だけで抱え込まず、対策の初期フェーズではその活動の中心となるIT部門やリスク管理部門、調達・法務部門も含めた体制づくりが重要です。

  3. 責任分界点の確認(SaaS・保守等):例えばアプリケーションやインフラの運用を外部委託している場合、脆弱性の検知・対応・パッチ適用の責任分担が曖昧なケースが少なくありません。委託契約におけるSLA・責任分界点の確認・明文化をあわせて行っておくことが必要です。

【短期対策|1〜6ヶ月】追従する

施策は多岐にわたりますが、ここでは代表的な3点をご紹介します。網羅的な施策については、下部の図表をご参照ください。

  1. パッチ優先順位の見直し:すべての脆弱性を同列に扱う従来のアプローチは、AI時代においては現実的ではありません。外部公開システム、外部接続システムや企業のビジネス・業務によって非常に重要なシステムなどを特定し、それに対する月次や四半期、半年ごとなどの長期のパッチサイクルから脱却し、即時適用またはより短期での適用を検討する必要があります。もちろん、脅威の度合いも考慮し、EPSS(悪用可能性スコア)とKEV(既知の悪用済み脆弱性リスト)を組み合わせたリスクベースの優先順位付けを導入します。

  2. アタックサーフェスの縮小:AIによる攻撃にかかわらず、侵入はまず、攻撃可能な入口をスキャンすることから始まります。不要なサービスやポートの閉鎖、外部公開APIの棚卸し、レガシーシステムへのアクセス制限など、攻撃者に与える情報を極力小さくしながら、攻撃者が入り込める面を物理的に減らすことが有効です。

  3. ゼロデイを前提としたBCP策定:「パッチが当たるまで待つ」という発想を捨てる必要があります。攻撃を受けた場合のみならず、攻撃を受ける可能性が高くなったことを早期に判断でき、そういった場合でも安全を確保しながらビジネスを継続できるBCP改訂を早期に着手することが最重要項目の一つです。また、安全を確保できないのであれば、安全のために一時的にシステムを停止するという発想も必要ですが、それをBCPに組み込み、手順、役割分担、訓練などを実施することも必要になります。

【中長期|6ヶ月〜2年】能力を高度化する

防御側がAIを活用する体制への移行と、サプライチェーンを含むリスク管理の高度化を進める段階です。

主な施策:脆弱性管理の刷新(継続的パッチ適用体制の構築)/自律的セキュリティ対応能力の構築/AI Red Teamingシステムの構築/SDLCの統合/検知能力の強化/リスクモデルの刷新/サプライチェーンセキュリティリスク管理

MythosクラスのフロンティアAIは現時点では広く入手できませんが、AI市場の競争動向を踏まえると数ヶ月〜1年で国内でも利用可能になる蓋然性は高い状況です。ただ、使えないからと言って待つのではなく、今あるモデルでも十分なスキャンが実行できるため、検証を開始したり、また、モデルを後日スイッチ可能な構成にしたりして、まずは使い始めることも重要です。自社のシステムやソースコードでどういった脆弱性が実際に出るのかを目のあたりにすることは今後の対策を検討するためにも非常に有効です。また、セキュリティリスクの全体を把握するために、セキュリティ製品やサービス、IT情報などを統合して分析するオーケストレーションAI(司令塔)を早い段階で整備しておくことも効果的です。

【抜本的変革|2年〜】構造的に体質を変える

ITアーキテクチャの刷新からAI運用モデルへの転換まで、構造的に体質を変える段階です。

主な施策:IT・セキュリティアーキテクチャ・運用モデルの刷新・クラウド戦略の見直し/DevSecOps(アプリ基盤)の導入/AIによるセキュリティ運用モデルの導入

アクセンチュアの試算によると、今後パッチ適用コストは、オンプレミスでパッチ自動化に未投資の場合は大きく膨らむ可能性が高く、予算の圧迫要因となる可能性が高いと考えています。もともとこここ1、2年で脆弱性の数は急増しており、フロンティアAIモデルの登場によりそれがさらに急加速するという状況です。緊急レベルの脆弱性も増加している現状を踏まえると、現在のパッチ適用サイクルは破綻する可能性が高く(または既に破綻している)、抜本的な改革が必要です。さらなるクラウド移行によるアーキテクチャ変革またはオンプレ環境のパッチマネジメント改革への投資は、経営として今から検討を始めるべき意思決定です。

Mythos後の脅威に対し、4つの時間軸で打つべき施策:即時は土俵に乗るための大前提。短期は脅威追従、中長期は能力構築、抜本的変革は構造改革。経営アジェンダとして時間軸を分けて推進する。
Mythos後の脅威に対し、4つの時間軸で打つべき施策:即時は土俵に乗るための大前提。短期は脅威追従、中長期は能力構築、抜本的変革は構造改革。経営アジェンダとして時間軸を分けて推進する。

さいごに

フロンティアAIモデルの進化がもたらしたサイバー脅威に対して、「特効薬」は存在しません。人手中心の運用が限界を迎える中、ツールやAIを活用しながら負債の解消に取り組み、中長期的な体質転換を進めていきましょう。

アクセンチュアでは、AI駆動によるセキュリティ運用の高度化をはじめ、各フェーズを通じたご支援を提供しています。最新情報や具体的な対策についてご興味・ご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

¹AIIQ.org「The AI Intelligence Leaderboard

²AIセーフティ・インスティテュート(AISI)「Our evaluation of Claude Mythos Preview’s cyber capabilities」、同「How fast is autonomous AI cyber capability advancing?

FAQ

よくいただく3つのご質問にお答えします。

A. 経営層には「前提が変わった」ことを伝えることが最重要です。以下の3点を押さえましょう。

  • 完全防御は不可能という前提のもと、能動的停止の可能性(売上・他部門への影響)を理解してもらう

  • 大きな変革が必要なため、IT・セキュリティ部門だけでなく、経営レベルでの意思決定が必要であることを認識してもらう

  • 過去から積み上がった負債解消には費用が必要であることを共有する

説明の際は、自社リスクを定量的に伝えることが効果的です。対策を怠るとITコストが上昇していくことも、データで示すことが重要です。

A. 元々脆弱性が残存しやすいOT環境においては、OTの外側の環境への接続箇所に関連した脆弱性への対応が特に課題となります。最新の脅威情報の継続的な収集・設計への反映、IT-OT間の分離、インターネットとの出入口制御が重要です。また、フロンティアAIによる攻撃を視野に入れたBCPの整備や、工場・プラント等での能動的停止の検討も必要になります。業界団体のガイドラインや専門家講演も有益な情報源となりますので、積極的に活用されることをお勧めします。

A. 以下の内容をあらかじめ明確に定義しておくことが必要です。

  • 重要システムの特定と構成の詳細把握
  • 停止判断の条件(どの脆弱性・どの攻撃パターンで停止するか)
  • 判断の主体(誰が意思決定するか)
  • 停止範囲および手順
  • 停止後の安全確認手順
  • 再開・復旧の判断基準

これらについて事前にプロセスを整備し、定期的な訓練を実施することが重要です。

筆者

藤井 大翼

執行役員 Lead – Cybersecurity, Japan