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知見

多くの企業はAIのコストばかりに注目し、実際の成果を正しく理解していない

AI活用を先導する企業は、コストだけでなく、事業成長、顧客・従業員体験の向上、資本効率といった成果指標を継続的に測定しています。

7分(読了目安時間)

2026/07/29

概略

  • AI活用に伴うコストは急速に増加しています。では、なぜ今、経営層の間で「AIトークノミクス」が重要なテーマとして注目されているのでしょうか。

  • 次世代AIの競争力を左右するのは、モデルの規模拡大ではなく、AIをいかに効率的かつ戦略的に活用するかという経済性です。

  • 早い段階からガバナンスを整備し、適切なモデルや処理経路を選択しながら投資対効果を継続的に測定している企業は、利用コストを最適化し、AIが生み出す価値を最大化しています。

現在、インフラや推論処理、ライセンスなどのAI関連費用は、他のITコストと同様に損益計算書上の費用として計上され、厳しく管理されています。一方で、AIを活用したコンタクトセンターによる顧客維持率の向上や、AIにより一部業務から解放された担当者が対応できる運用資産の拡大、さらには需要予測の精度向上によって生み出される運転資金の改善効果などは、十分に可視化・評価されていないのが実情です。これらの支出は、単なるコストではありません。事業成長の加速、顧客・従業員体験の向上、資本効率の改善といった価値の創出につながっています。しかし、多くの企業では、そうした成果を十分に把握できておらず、継続的に測定する仕組みも整っていません。

AIが現在生み出している価値と、将来的に実現できる可能性との間には、大きなギャップがあります。これは、現在のエンタープライズAIをめぐるもっとも重要な課題です。このギャップを埋めるには、AI投資と成果を継続的に結び付けて評価・管理するための体系的な仕組みが欠かせません。しかし、多くの組織では、こうした仕組みがまだ十分に整備されていないのが現状です。本来問うべきなのは、AIにどれだけのコストをかけているかではありません。重要なのは、その投資に見合うリターンを得られているかどうかです。この問いを軸にAIを捉え直す企業には、これまでとは全く異なる答えが見え始めています。

それが「AIトークノミクス」です。AIトークノミクスとは、AIの利用によって発生するコストと、それによって生み出されるビジネス価値を結び付けて管理するための考え方です。トークンは、AIモデルが処理する情報量の単位です。プロンプトの入力や応答の生成、情報検索、AIエージェントによる処理など、あらゆるAIの活動でトークンが消費されます。これまでトークンは単なるコスト要因として捉えられてきました。しかし現在では、トークンは今や単なる課金単位ではありません。AI時代の「生産要素」、すなわち価値創出に不可欠な投入資源となっています。そのため、トークンの利用状況を可視化し、測定・管理することが求められています。AIトークノミクスの目的は、AI投資の効率を高め、その投資から最大限のビジネス価値を引き出すことにあります。

アクセンチュアでは、AIトークノミクスを大規模に実践しています。例えば、当社の社内プラットフォームの一つでは、自社インフラ上で毎週約8.7兆トークンを処理しながら、各タスクの内容に応じて最適なAIモデルを選択しています。その結果、最先端モデルを一律に利用する場合と比べて、約6分の1のコストで運用しています。しかし、こうした最適化はシステム設計だけで実現できるものではありません。ある環境では、新規セッションの標準設定として中位クラスのモデルが指定されているにもかかわらず、多くの従業員が最も高性能なモデルを選択していました。一つひとつは小さな判断でも、組織全体で積み重なることで、AI利用コストは大幅に増加します。

私たちの経験上、AI活用の拡大が必ずしもコスト増加につながるわけではありません。コスト管理は課題の一側面に過ぎず、より重要なのはそれぞれの業務やユースケースに対して、期待する成果に見合った「知能レベル」、すなわちAIモデルを選択することです。AIトークノミクスの本質は、利用量を抑えることではなく、必要な成果に対して適切なレベルのAIを活用し、投資対効果を最大化することにあります。

今、この仕組みの確立が急務となっています。

8,000億ドル

ゴールドマン・サックスのレポートによると1、AI関連支出は2026年までに8,000億ドルを超える見通しです。

わずか23%

調査対象の経営幹部のうち、組織全体でAIから広範かつ持続的なビジネス価値を創出できていると回答した割合は、わずか23%にとどまっています2。

一部の企業では、年間のAI予算をわずか1四半期で使い切っています。また、多くの企業はクラウド利用料と同様に、請求書を受け取った後に初めてトークン消費の実態を把握しています。その一方で、先進企業が成果を上げている理由は、より高性能なモデルやより多くの計算資源にあるのではありません。資本配分と同等の厳格さでトークン利用を管理し、コストと価値のバランスを継続的に最適化していることにあります。

AI予算が想定以上に膨らむ理由

この問題の背景には、AIを単なるITコストとしてではなく、一つの経済活動として管理できていないことがあります。AIは従来のソフトウェアとは大きく異なります。ソフトウェアのコストは、ライセンス数や利用ユーザー数、契約更新などによって決まり、比較的予測しやすい構造になっています。

一方、AIのコストは予測が容易ではありません。利用者数の増加だけでなく、従業員がどのような問いを投げかけるか、どれだけ高度な処理を要求するか、AIを通じてどれだけの業務が実行されるかによっても大きく変動します。さらに近年では、利用者が人間だけとは限りません。24時間稼働するAIエージェントや自動化されたワークフローの活用が広がり、従来のように利用者数やライセンス数だけを基準に管理する手法では対応が難しくなっています。

アクセンチュアを含め、私たちが分析した多くの環境では、利用者やワークフローのうち10%未満が、AI利用コストの大半を占めています。その結果、一部の組織では、利用上限の引き上げ申請が毎日数百件に上るケースも見られます。

AI活用が企業全体に広がるにつれて、新たなワークフローやAIエージェント、利用形態の拡大に伴い、トークン消費量は増加しています。チャットボットはAIエージェントへと進化し、さらに複数のエージェントが連携して業務を遂行するようになっています。また、AIの活用領域もテキスト生成にとどまらず、画像、動画、音声を含むマルチモーダル領域へと広がっています。さらに現場では、自律型ロボットが同じAI推論基盤を活用しています。そこでは、あらゆる意思決定や例外対応にトークンが消費されるため、企業が当初想定していなかったコストが発生するケースも少なくありません。このようにユースケースが増えるほど、トークン消費量は指数関数的に増大していきます。ゴールドマン・サックスの予測によれば、トークン消費量は2030年までに月間約12京トークンに達し、現在の約24倍に増加する見通しです。現在の利用状況を前提にAI投資を計画している企業は、将来の需要拡大を十分に織り込めていない可能性があります。

セキュリティ対策もまた、見落とされがちなコストの一つです。しかし、これはどの企業も無視することができません。企業が導入するAIモデルやエージェント、活用するデータ、接続するシステムが増えるほど、セキュリティ対策の重要性は高まります。継続的な監視、厳格なアクセス制御、脅威検知、インシデント対応といった対策は不可欠ですが、それらに伴うコストは初期の予算計画には十分に織り込まれていないことが少なくありません。そのため、新たなエージェントやシステム連携が増えるたびに、運用コストやセキュリティ関連費用も拡大していきます。

これは、AIの世界における「ジェボンズのパラドックス」とも言える現象です。より効率的な蒸気機関の登場によって石炭消費量が減るどころか増加したように、AIトークンの価格が低下しても、企業のAI利用量は減りません。むしろ活用範囲が広がり、総消費量はさらに増加する傾向があります。なぜなら、これまでコスト面で採算が合わなかった業務やユースケースが、AIによって現実的な選択肢になるからです。

アクセンチュアのシミュレーション[3]によると、仮にトークン価格が25%低下した場合でも、その削減効果をそのままコスト削減につなげる企業はわずか15%にとどまります。残りの企業は、新たなユースケースの創出やワークロードの拡大、より高性能なモデルの活用などに、その余力を再投資すると考えられます。従業員にAI利用の抑制を求めることは、生産性向上の機会を失うだけであり、根本的な解決策にはなりません。重要なのは、新たに生まれる需要に対して、その業務を十分な品質で遂行できる中で最も低コストなAIモデルへ振り向けることです。そうすることで、同じ予算の範囲内でも、より多くの業務を効率的に処理し、より高い投資対効果を実現できます。

2つ目の重要な要素は、「パレートフロンティア」、すなわちコストと価値の最適なバランスです。多くの企業では、期待される成果に見合わない過剰な支出や、不適切なモデル選択によって、本来得られるはずの価値を十分に引き出せていません。一方、先進企業はこうしたギャップを埋めるため、各業務を最適なモデルに割り当てるとともに、プロンプトの最適化やキャッシュ活用、モデル蒸留などを通じて、コストと性能のバランスそのものを継続的に改善しています。

例えば、四半期末のサマリー資料の作成に以前は3人の財務アナリストが15時間を費やしていたとします。現在では、AIを活用することで1人が2時間程度で作業を終えられるケースもあります。その際に発生するトークンコストは数百ドル程度ですが、削減できた工数は数千ドル相当の価値を生み出します。重要なのは、単にトークン費用を削減することではありません。AIによって創出された時間や処理能力を、より付加価値の高い業務へ振り向けられることにあります。企業が重視する成長、生産性向上、顧客体験の改善といった成果指標で見れば、その再投資こそがAI投資のリターンを生み出す源泉です。

こうした要素が組み合わさることで、トークノミクスは経営上の重要なテーマとなります。企業が、より少ないコストでより大きな成果を生み出せるよう最適化を進めるほど、活用できるAIの可能性は広がります。その結果、品質は向上し、コストは低下し、新たなユースケースが生まれ、AI利用もさらに拡大していきます。重要なのは、AIがどこで価値を生み出しているのかを可視化し、そこで生まれた効果をどのように再投資してさらなる価値創出につなげるかを見極めることです。

モデル選択の原則

最初の原則は、業務の価値やリスクに応じて、適切なAIモデルを選択することです。業界全体で見ると、企業の業務のうち、最先端クラスの高性能AIが必要になるほど複雑なものは全体の10~20%程度にとどまると考えられています。

判断の目安として、業務を明確な手順に分解できる場合は、より小規模で低コストなモデルでも十分に対応できる可能性があります。一方で、業務が極めて複雑で分解が難しい場合や、分割によって文脈やインサイトが失われる場合、複数のAIエージェントによる処理のなかで誤りが連鎖する恐れがある場合、あるいは法務・財務・規制対応など高度な判断が求められる場合には、最先端のAIモデルを活用する価値があります。

こうした条件に該当する代表的なケースとして、複雑な推論業務が挙げられます。例えば、最高戦略責任者(CSO)が競争環境やマクロ経済動向、買収候補企業の財務状況を分析し、戦略的なリスクを評価するような場面では、相反する情報を総合的に判断する能力が求められます。また、エラーの影響が大きいAIエージェントのワークフローも同様です。一連の処理のどこかで誤りが発生すると、最終的な成果物全体に影響を及ぼす可能性があります。さらに、長大な文書を横断的に理解する必要があるケースも含まれます。例えば、200ページを超えるデューデリジェンス資料を分析する場合には、文書全体を通じた一貫性と精度を維持することが不可欠です。

業務内容に応じて適切なAIモデルを割り当てることは、単なる技術的な判断ではなく、経営上の重要な意思決定です。そのため企業には、業務の複雑性やリスクに基づいてタスクを分類し、最適なモデルへ振り分けたうえで、利用状況やコストを継続的に監視・最適化する運営体制が求められます。

しかし実際には、多くの企業が日常業務と高度な判断を伴う重要業務を十分に区別できていません。その結果、本来必要のない場面で高価なモデルを利用したり、逆に競争優位性を左右する重要な業務で、不十分な能力のモデルを利用したりするなど、モデル選択のミスマッチが発生しています。私たちの経験上、AI活用の成否を決めるのはモデル性能だけではありません。重要なのは、それぞれの業務に対して最適なモデルを選択し、利用を適切に管理するための運営の仕組みです。

実際に、こうした考え方を導入したある通信事業者では、年間のAI関連支出を68%削減しました。いずれの場合も、ワークフローレベルで消費量を確認し、無駄が通常の運用コストになってしまう前に、作業のルーティング、調整、再設計を行うことで、画期的な成果がもたらされています。

経営陣に求められる役割

多くの企業では、AI関連のコストはIT部門やテクノロジー部門の予算として管理されています。一方で、その成果は顧客サービス、エンジニアリング、マーケティングなど、実際にAIを活用している各事業部門で創出されています。そのため、CFOはコストを、CIOは利用状況を、事業部門の責任者は成果をそれぞれ把握していても、これらを企業全体の視点で結び付けて評価できているケースは多くありません。

企業がAI支出とビジネス価値を結び付けられない主な要因:

57%

ビジネス部門とテクノロジー部門の連携が十分に取れていない2

51%

データや分析基盤が十分に整備されていない2

50%

AIによる成果を他の要因と切り分けて評価できていない2

先進企業は、AIの利用を事業成長、エクスペリエンス向上、資本効率の改善といった成果に結び付けるため、共通の指標やガバナンス体制、明確な意思決定プロセスを整備しています。部門ごとに分断された取り組みから脱却し、全社的な能力としてAIを活用することで、その価値を組織全体へと広げ、測定可能な成果につなげています。さらに先進的な企業は、AIコストを単に管理すべき費用としてではなく、事業活動を通じて回収すべきコストとして捉えています。業務ごとのコスト管理や価格設定にトークン消費量を組み込むことで、AI関連支出をテクノロジー部門の共通費として扱うのではなく、創出されたビジネス価値と結び付けて管理できるようになります。その結果、AI投資の費用対効果をより明確に把握し、継続的な価値創出につなげることが可能になります。

リーダーが今取り組むべきこと

AI活用の拡大を成果につなげるための4つの運営原則:

01

AIエコノミクスを可視化する

CFOとCIOは、AIのコスト、利用状況、投資対効果(ROI)を全社横断で把握できる仕組みを構築する必要があります。アクセンチュアでは、すべてのAIプロバイダーへの支出を集約し、その削減策や最適化の取り組みとあわせて、定期的に経営陣へ報告しています。AIの成果は、業務範囲が明確なケースでは比較的容易に測定できます。例えば、定型業務のエージェント型自動化では、自動化前後の作業量や工数を比較できるため、効果を定量的に把握できます。一方で、従業員の業務を支援する対話型AIのような用途では、創出された価値を定量化することが容易ではありません。そのため、こうした領域における価値測定の手法を確立することが、現在の重要な課題となっています。重要なのは支出額そのものではありません。その支出がどこで、どのような価値や成果を生み出しているのかを把握することです。

02

AI活用が定着する前にガバナンスを整備する

誰が、どのAIモデルを、どの業務に、どのような管理ルールのもとで利用できるのか。こうした統制の仕組みを、導入初期の段階から組み込むことが重要です。その第一歩となるのが、「何のためにAIを導入するのか」という目的を明確にすることです。この問いは、多くの企業で見落とされがちです。目的や責任の所在が曖昧なまま導入されたツールは、成果につながらないままコストだけが発生するリスクがあります。アクセンチュアを含む多くの先行企業では、まず利用を認め、その後、想定以上のコストが発生してから統制を強化するという経験をしてきました。その教訓は明確です。ガバナンスは後付けではなく、最初から組み込むべきものです。

03

業務ごとに最適なAIモデルを選択する

すべての業務に最先端モデルが必要なわけではありません。高度な推論能力が求められる業務と、より軽量で低コストなモデルで十分対応できる業務を切り分けることが重要です。アクセンチュアでは、新規利用時の標準設定として軽量なモデルを割り当て、より高性能なモデルは職務や業務要件に応じて利用できる仕組みを採用しています。こうしたルールは単一のAI基盤を通じて一元的に適用されているため、支出が実際の業務ニーズに連動する仕組みになっています。実際には、頻繁にAIを活用する開発者と、時折利用する一般ユーザーとでは、利用コストに大きな差が生じることも珍しくありません。

04

トークノミクスを継続的に運用・改善する

AIエージェントの利用が拡大し、より多くの業務を担うようになるにつれて、トークン消費量や成果指標、モデル選択の妥当性を継続的に見直す必要があります。トークン価格や利用可能なモデルは絶えず変化しています。そのため、利用状況を可視化し、コストが集中している領域を特定したうえで、モデル選択や業務プロセスを改善し、定期的に評価する仕組みが欠かせません。アクセンチュアでは、この改善サイクルを継続的に運用しています。新たなモデルや機能が登場するたびに活用方法を見直し、意思決定や業務遂行の高度化につなげています。

優位性を獲得する方法

AIトークノミクスは、自然に機能するものではありません。価値創出を意識した継続的な管理と改善が不可欠です。今後10年間で、企業は大きく二つのタイプに分かれていくでしょう。AIを単なるITコストとして管理する企業と、AIを測定可能なビジネス価値の源泉として管理する企業です。前者は、拡大し続けるAI利用コストへの対応に追われることになります。一方で後者は、AIが生み出す価値をコスト以上のスピードで拡大し、その規模を持続的な競争優位へと転換していくでしょう。AIトークノミクスの本質は、コストを削減することではありません。AI投資を継続的な価値創出につなげることにあります。

 

 

[1]  ゴールドマン・サックス レポート:「The AI Spending Boom Just Got Bigger: Goldman Sees $800 Billion Flowing In This Year」

[2]  アクセンチュア調査:「Pulse of Change」

[3] アクセンチュアは、AI活用が業務プロセスに組み込まれるなかで、トークン消費量の増加が組織へ与える影響をシミュレーションしました。本調査は、南北アメリカ、EMEA、アジア太平洋地域において、年間売上高10億米ドル以上の企業に所属する6,000人の上級管理職を対象としたAIベースの行動モデリングに基づいています。このシミュレーションにはAaruを使用しました。Aaruは、公開データ、個人データ、独自データを活用して、対象となる経営層の人口統計学的特性、心理特性、行動特性を反映した仮想ペルソナを構築するプラットフォームです。

Accenture Tokenomicsについてさらに詳しく

筆者

Manish Sharma

Chief Strategy and Reinvention Services Officer

Lan Guan

Chief AI and Data Officer; AI and Data Reinvention Engine Lead

Surya Mukherjee

Principal Director – Accenture Research

佐々木 三泰

AIセンター マネジング・ディレクター