事例紹介 ダイセル
「We Save Lives」を次世代へ。生成AIで生産性2倍を目指すダイセルの挑戦
ダイセルのセイフティSBUは「We Save Lives」というミッションを次世代へ永続的につなぐため、アクセンチュアと共に技術開発領域の生成AI活用を起点とした業務変革に取り組んでいます。すでに生産性1.3倍を実現し、2030年には2倍を目指します。
5分(読了目安時間)
事例紹介 ダイセル
ダイセルのセイフティSBUは「We Save Lives」というミッションを次世代へ永続的につなぐため、アクセンチュアと共に技術開発領域の生成AI活用を起点とした業務変革に取り組んでいます。すでに生産性1.3倍を実現し、2030年には2倍を目指します。
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ダイセルのセイフティSBUは、エアバッグ用インフレータなどの自動車安全部品を手がける事業部門であり、その事業は人の命を守るという極めて根源的な価値の上に成り立っています。エアバッグは、事故が起きなければ使われない製品であり、出荷される製品の大半は実際には作動しません。しかし、いざという瞬間に確実に機能しなければ、その価値は成立しません。だからこそセイフティSBUは「We Save Lives」というミッションを掲げ、品質や信頼性を支える技術開発を事業の中心に据えてきました。その品質を支えているのは個別の製品ではなく、設計・検証・品質改善活動に至るまでの一連の技術の積み重ねです。この技術基盤を磨き続けることこそが、ミッションを実現し続ける唯一の道だと考えています。
しかし、変化の激しい市場環境下で、そのミッションを継続的に体現するための開発体制強化がセイフティSBUにとっては急務となっていました。第一に、設計や品質課題への対応に関する知見は長年にわたり蓄積されてきましたが、個人や特定拠点に依存する部分が多く、国内に蓄積された知見をグローバルで十分に活用できていませんでした。第二に、近年OEMでは従来と比べ大幅に短い開発期間で量産化を進めています。こうした市場環境の変化に対応できるようになれなければ、既存ビジネスの受注機会を失いかねないという危機感もまた、変革を後押ししていました。
人材育成の面でも構造的な課題を抱えていました。これまではOJTを中心に、実務を通じて技術を習得していく前提でしたが、業務の高度化・複雑化が進む中で、限られた経験だけで十分な成長を遂げることが難しくなってきていました。熟練者の暗黙知に依存する状況では、若手が短期間で成長することも難しく、OJTだけでは技術力を継承しきれないという限界も見え始めていました。こうした内的な限界に加え、研究開発人材不足が社会的に深刻化する中で、多くの技術者が既存事業を支える設計・品質関連業務に多くの時間を費やしており、本来取り組むべき価値創出や事業創造に十分なリソースを割けない状況が続いていました。
そのため、生産性向上と開発体制の強化、そして事業創造。これらを同時に実現していかなければ、ミッションを将来世代までつなぐことはできない。その危機感こそが、変革の出発点となりました。
構造的課題を解決するために、部分最適ではなく、設計思想そのものを変革する必要がありました。個別の業務や一部の拠点から改善を行っても、全体の構造は変わりません。「どのように設計し、どのように品質を担保するか」という共通基盤そのものを変えることを狙い、グローバルの製品・プロセス開発を司る技術開発センターを起点に、現場から自発的に変革の動きが始まり、セイフティSBU全体へと広がっています。
AIを人の代替ではなく知見・判断の基盤として活用することで生産性を高め、技術者のリソースを価値創出・次世代製品・新規事業へシフトさせ、開発体制の強化と事業創造につなげていきます。
従来は、過去の設計や技術情報は、必要な情報を人が探し出し、解釈し、判断に活かすというプロセスでした。設計開発領域に生成AIを導入することで、非構造化データの整理・文脈を踏まえた類似事例の抽出・設計判断の補助といった一連の流れを支援する環境の実現を目指し、取り組みを進めています。これにより、技術者が「情報を探す仕事」から解放され、より本質的な判断と価値創出に集中できる体制を継続的にブラッシュアップしています。
国内外に分散していた設計事例・品質改善ノウハウを横断的に活用できる情報基盤の構築を目指し、グローバルで同じ品質思想・安全思想のもと開発できる環境の整備を進めています。各グローバル拠点が自律的に改善を進められる体制の実現に向け、展開を開始しています。
AIを導入するだけでは、変革は定着しません。AI・DX推進組織の立ち上げとデジタル人材育成を並行して推進し、現場主導で業務改善・高度化が回り続ける自律的な変革基盤を構築しています。現在ではAIは「単なるツール」ではなく、自分たちの業務を進化させるために使いこなすパートナーへと認識が変化してきました。「AIを使う側」と「作る側」が分断されない、現場自身が業務を進化させていく体制を目指しています。
「私たちが守り続けたいのは、『We Save Lives』という使命です。そのためには、これまで培ってきた技術や品質の強みを継承するだけでなく、時代に合わせて進化させていかなければなりません。技術開発センターから始まったこの取り組みは、単なる業務改善ではなく、セイフティSBUの未来をつくる挑戦です。AIと人の力を融合しながら、これからも社会の安全/安心を支える価値を創出していきます。」
株式会社ダイセル 執行役員 セイフティSBU担当 同SBU事業推進室長 両保 栄一 氏
「私たちが目指しているのは、単なる業務改善ではありません。人材不足という社会課題に向き合いながら、生産性向上によって生まれた力を新たな価値創出へ振り向け、持続的に成長できる事業へと進化していくことです。AIをはじめとするデジタル技術は、その変革を支える重要な基盤です。より多くの社員が事業創造に挑戦できる組織を実現し、社会に新たな価値を提供し続けていきます。」
株式会社ダイセル セイフティSBU長 津熊 宏昌 氏
設計開発の生産性がすでに約1.3倍に向上しています。これは単なる業務効率化にとどまらず、技術者が本質的な判断と価値創出に集中できる時間を生み出し、その時間を事業創造へと戦略的に振り向けるための第一歩となります。AI活用によって創出されたリソースを事業創造へと戦略的に再配分する動きが進み、2023年度時点の19%から、現在は社員の約30%が事業創造に関与しています。また、生産性向上で得られた知見や基盤を活かし、近年開発スピードを急速に高めているOEMへの追従を見据えた開発期間短縮にも取り組み始めており、既存ビジネスの競争力強化につなげています。
エージェント型AIを含む次世代業務モデル(エージェント間コラボレーション基盤)の導入により生産性を飛躍的に向上させ、人材不足という制約のなかでも2030年には社員の50%が事業創造に関わる体制を実現します。あわせて開発期間の短縮を推進することで、ビジネスの持続的な拡大と売上成長につなげていきます。
人とAIが共に学び進化するAIネイティブな組織へと変革することで、「万が一」に備え続ける尊いモノづくりを、将来世代にわたり持続可能なものとしていきます。
1.3倍
設計開発の生産性をすでに1.3倍に向上。技術者が本質的な判断と価値創出に集中できる環境が整い始めています。
2倍
2030年までに生産性2倍を目指します。
50%
事業創造関与社員比率を2023年度の19%から現在は30%に。2030年には50%を目指します。
後列左より 山下谷 卓、大谷 浩史、西川 嘉晃、土屋 大樹、奥山 丘詞、森安 洋平、中塚 優弥、藤﨑 陽次(グローバル推進部長)
前列左より 小林 睦治(商品開発部長)、波戸元 専(技術開発センター所長)、福本 健二、小森 翔悟、重田 将彦(プロセス開発部長)
※氏名・役職は撮影当時のものです