調査レポート
CIOのためのAIトークノミクスガイド
AIトークン支出を可視化・管理し、事業成果につなげるには。
10分(読了目安時間)
2026/09/10
調査レポート
AIトークン支出を可視化・管理し、事業成果につなげるには。
10分(読了目安時間)
2026/09/10
これまで企業は、AI投資の必要性を説明してきました。今問われているのは、その経済合理性です。トークンコストは、新たな主要支出として急速に増えています。その伸びに、投資対効果の検証が追いついていません。プロンプトや推論、AIエージェントとのやり取りにかかるコストが増すなか、トークノミクス(AIトークンを経営資源として捉え、コストと価値を管理する考え方)は経営課題となっています。
アクセンチュアは、世界17か国の経営層750名を対象に調査を実施し、Fortune 500企業のテクノロジー・財務部門のリーダー15名にインタビューを行いました。トークン支出のうち、売上への貢献、コスト回避、財務部門が活用できる数値に換算した生産性向上など、定量的な財務成果に紐付けられるのは2割未満です。
背景には二つの課題があります。企業は、四半期ごとのトークン消費量と支出を正確に予測できず、支出後の成果も説明できていません。これが二重の課題を生んでいます。コストを予測できなければ、財務部門はAI予算の拡大に慎重になります。価値が見えなければ、取締役会はCEOに説明を求め、CEOはCFOに統制を求め、CFOはCIOに対応を求めます。CIOには、AI支出を予測可能にし、適切に管理しながら、その価値を実証することが求められています。
経営層の5人に4人は、AIが測定可能な成果を生み出していると回答しています。一方、トークン支出と価値を結び付けられているのは5人に1人未満です。多くの企業は、CFOが判断し、CEOが数値で示し、取締役会が評価できる財務的な形でAI支出を説明できていません。
Tokenomics Foundationは、AIトークノミクスを「エネルギーや資本をAIの能力へと変換し、その知能を組織全体で効率的に活用することで、測定可能な事業価値を生み出すための取り組み」と定義しています。トークンは、AIモデルが処理するデータの単位です。プロンプト、応答、情報検索、AIエージェントとのやり取りのたびに消費されます。本レポートでは、トークンのコストと価値に焦点を当てます。
「問うべきは、トークンをいくつ消費したかではありません。そのトークンが、どのような成果を生み出したかです」
Field CTO for AI, Cybersecurity and Data, Global Technology Infrastructure Company
78%
今後24か月で見込まれるトークン消費量の増加率
3社に1社
年末を待たずに年間のトークン予算を使い切る企業
わずか35%
最大規模のAIユースケースでさえ、事業成果1件あたりのコストを算出できる企業
この二重の課題は、数字にも表れています。調査対象企業が昨年AIトークンに費やした金額は、合計約25億米ドルでした。トークン支出は、インフラ、ソフトウェアの開発・保守に次ぐ、3番目に大きなAIコスト要因となっています。
より深刻なのは今後の増加です。企業は、今後24か月でトークン消費量が78%増加すると見込んでいます。価格が19%下落するとの予測を加味しても、最適化を行わなければ、トークン支出総額は同期間に約36億米ドルへ達する見通しです。企業ごとの差も大きく、年間2,000万米ドル以上を支出するグローバルテクノロジー企業、AI推論に1億5,000万~2億米ドルを投じる欧州の保険会社、AI支出上限を2億5,000万米ドルに設定する政府系請負企業もあります。
現時点で、トークン支出は取締役会の主要議題になっていないかもしれません。しかし、このまま増え続ければ、CIOと財務部門が気付いたときには、運用コストが重大な財務リスクになっているおそれがあります。
インタビューでは、米国の大手金融機関のテクノロジー責任者が、トークン支出が6か月で5~10倍に増えたと語っています。欧州の大手銀行では、年間トークン支出が12か月でほぼゼロから500万ユーロに達し、一つのワークロードだけで週20万ユーロを消費しています。
「これは現実の問題です。コストは刻々と増えています。複数の組織やチームに利用が分散している場合、トークン支出の把握はとりわけ困難です」
Chief Technology Officer, Global Financial Data and Media Company
トークン価格が下がっても、問題は解決しません。経営層の10人に9人は、価格低下分をコスト削減に充てるのではなく、AI活用の拡大に振り向けると回答しています。価格がさらに25%下落した場合でも、節約分を積み立てると答えたのは20人に1人だけでした。
多くの企業は、ワークロード単位でトークン消費量を把握できていません。支出がワークロードに紐付いていなければ予測できず、価値も証明できません。つまり、企業は「予測できないAI支出」と「証明できない価値」を抱えています。その背景には、気付かないうちにAI予算を圧迫する六つの盲点があります。
根本的な解決には、ワークロード単位で利用状況と責任主体を可視化し、財務的な説明責任を明確にする必要があります。先進企業とそれ以外を分けるのは、次の五つの取り組みです。なかでも可視化は、残る四つの前提となります。また、他のどの施策よりも効果が高い施策がありますが、導入している企業は、10%未満にとどまります。
すべてのAI利用について、ワークロード名、担当チーム、使用モデル、トークンコスト、出力を記録できるAIゲートウェイまたはオブザーバビリティレイヤーを導入します。可視化がなければ、他の施策も実効性を持ちません。
データ
53%
特定のユーザーまたはチームまで追跡できるトークン使用量
トークンを使用したチームに、そのコストを配分します。まずはエンジニアリング部門と、消費量の多い3~4部門から始めます。
ショーバックは使用量を可視化できますが、費用負担は伴いません。行動変容につなげるには、他のインセンティブとの連動が必要です。一方、チャージバック(社内課金)は、使用量に応じてコストを各チームに配分する仕組みです。本調査では、コスト最適化とAIが生み出す価値の可視化に最も強く関連する施策でしたが、導入企業はごくわずかです。効果を引き出すには、周辺のガバナンス体制も整える必要があります。
各チームが自らの使用分を負担することで、管理者は支出の妥当性を確認し、開発者はコストを踏まえてモデルを選ぶようになります。
データ
わずか7%
AIコストの管理にチャージバック(社内課金)を導入している企業
フロンティアモデルが必要なワークロードは、複雑な推論、複数情報源の統合、重要度の高い生成を伴う約10%に限られます。それ以外は、中位モデルやオープンウェイトモデルに振り分けます。モデルの振り分けは開発者個人の判断に委ねず、ゲートウェイで制御します。
データ
90%
9,000件を超えるタスクのうち、フロンティアモデルを必要とせず、中位モデルで対応できるタスク
新たなAIワークロードに投資する前に、三つの項目を明確にします。現在のプロセスにかかるコストまたは時間、AIによって改善する具体的な財務成果、その成果を金額で測定する方法です。これらが明確になるまで、本番稼働へ進めません。複雑な仕組みは必要ありません。ただし、支出後に投資を正当化するのではなく、支出前に定義することが重要です。価値の指標は部門によって異なります。カスタマー業務なら自己解決率、ソフトウェア開発ならサイクルタイム、バックオフィスなら1件あたりの処理時間などです。指標は異なっても、事前に定義するという原則は変わりません。
データ
20%未満
定量的な財務成果に紐付けられるトークン支出
モデルの振り分けを誤る主因は、判断力ではなく、明確な選定基準がないことです。開発者や従業員はモデルごとのコスト差を把握できず、低コストモデルで十分かどうかを判断する基準もないため、最も高性能なモデルを選びがちです。必要な人がコストを確認できるようにし、適切なモデルが自然に選ばれる初期設定にします。人による判断は、本当に必要なケースに絞ります。
データ
54%
タスクに必要な水準を上回る、高性能・高コストのモデルに振り分けられているAIリクエスト
AI活用の成否を分けるのは、管理の仕組みです。先進企業は、トークンが説明困難なコストになる前に管理し、事前に定義した事業価値と結び付けています。
これはCIOだけの役割ではありません。CFOは測定可能な価値をAI投資の条件とし、CHROは従業員にコスト意識を根付かせる必要があります。事業部門のリーダーには、すべてのワークロードに立ち上げ時から責任者を置くことが求められます。
AI投資をめぐる問いは、すでに取締役会からCEOへ、CEOからCFOへ、そしてCIOへと及んでいます。今のうちにワークロードの可視化、財務的な説明責任、モデル振り分けのルールを整えるCIOは、こうした問いに答えを持ち、期待ではなく根拠に基づいて、確信を持ってAI活用を拡大できます。
本調査は、年間売上高10億米ドルを超える企業の経営層750名を対象に、世界17か国で実施しました。あわせて、2026年6月から7月にかけて、Fortune 500企業のテクノロジー・財務部門のリーダー15名に詳細インタビューを行いました。