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CAPABILITY


GOVE TECH

デジタル時代の自治体イノベーション
【月刊ガバナンス 2017年5月号 P96-97より転載】

今年3月29日に行われた政府の第14回規制改革推進会議で、安倍総理大臣が行政コスト削減のための3つの原則を示した(* 1)。1つめは行政手続きを電子手続きのみで完結できるようにすること、2つめに同じ情報は一度だけ提出すれば済むようにすること、そして3つめは書式・様式は統一されたものを使うことだ。これらを徹底させることで、特に営業の許認可など事業者負担の重い分野について、2020年までに行政コストを20%以上削減させる目標を発表した。今回はこういった行政手続きの電子化、別の言い方をすると、テクノロジーを活用した行政の進化について、ポイントとなるであろう3つの観点を取り上げたい。

「個」客体験をもたらす公共サービスへ

個人のニーズや生活スタイルがかつてないほど多様化し、デジタル技術の進展によって、これらニーズをより細かな粒度で捕捉可能となった現在において、市民の行政に対する期待にもまた変化がみられる。アクセンチュアが米国の市民に対して行った調査(* 2)によると、行政のデジタルサービスについて、民間企業と同等かそれ以上を求める市民が85%にもなることが明らかになった。これは、2年前(2014年)の同じ調査時よりも12%高い結果となっており、市民生活のデジタルシフト、また行政への高い期待を示したものであると考えられる。

一方で、現状に対する満足度の項目では、満足と回答した市民は58%(2年前の約2倍)となっ
ており、まだまだ改善の余地があるものの、着実な前進を遂げていることを示した結果であると考えられる。また、スマートフォンでのアクセス、ソーシャルメディアと連携したサービスを望む市民が顕著に増えていることも報告されている。

こういった高い期待、デジタルを含めた多様な生活スタイルに対応するために有効な考え方が、昨今頻繁に目にするようになった、「サービスデザイン」や「UX(ユーザーエクスペリエンス)」といったキーワードに代表される新しい手法である。これらの考え方は、従来のサービスを提供する組織視点での「効率化」を中心とするのではなく、サービスの「利用者」(ここでいう「利用者」には、サービスを提供する行政側の職員なども含む)の視点に立った「最適化」を中心としている。貸し出し図書などの利用情報を基に、利用者個人に合った図書を推薦してくれるサービスを行う公立図書館などがその一例だ(*3)。

この変化は、一見、当たり前の、これまでと比べての連続的な進化のように感じてしまうかもしれないが、考え方や実際の進め方は180度異なると言っても過言ではない。公共サービスとは従来、広く公に対して平等なサービスが求められ、その価値自体は一定だった。決まったサービスを如何に効率的に(低コストで)提供するか、というこ
とに課題があったわけだが、この新しい考え方では、提供するサービスの価値そのものを考えるところからスタートする必要がある。利用者の属性や嗜好によってそれぞれ異なる価値を「個」客に合わせて提供する姿勢が求められる。

公共サービスに進出する民間との協働

行政が民間と協働して公共サービスの質を向上させていくことについて前回概説したが、今後の行政のあるべき姿としてとても重要な要素である。デジタル化がもたらすビジネスへのインパクトとして影響が大きいポイントの1つに、市場・競争環境の変化が挙げられる。

デジタル化が進むことで、市場や競争のルールが変わり、これまで存在した参入障壁そのものの変化を引き起こしており、新しいサービスが次々に立ち上がり、これまでの業界業種を超えた競争が起きている。こういった民間市場を中心に起きている環境の変化は、もはや公共サービス領域も対岸の火事ではない。例えば、教育、医療、雇用、社会保障といった、「規制」の要素が大きいとされていた領域についても、一部その垣根が壊されていくことになる。

資源制約を抱える行政が、多様化する市民のニーズに応えることが難しくなっている中、むしろこういった流れをポジティブに捉え、民間企業、NPOなどさまざまな主体者とともに新しい協働モデルを作っていくことが成功の鍵となると考える。福島県会津若松市が実証実験として取り組んでいる「会津若松IoTヘルスケアプラットフォーム事業」はその一例と言える。市民の運動、睡眠、検診、服薬などのデータを収集して統合プラットフォームに蓄積し、集めたデータを元に、個人情報保護の観点に十分配慮しながら、市民への新しいサービスを提供するものである。これらの取り組みを、会津若松市に加え、会津大学、アクセンチュア株式会社、GEヘルスケア・ジャパン株式会社、株式会社ブリスコラ、株式会社電通、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険株式会社、日本電気株式会社、株式会社おいしい健康、インテル株式会社など大学や多様な業種の民間企業が、それぞれの強みを活かして連携しながら進めている。

大量退職時代を見据えた人材のデジタル化

日本では「団塊の世代」が退職期を迎え、さらに今後50年で15~64歳の生産年齢人口は4割減少すると見込まれている(* 4)。行政機関を含む、さまざまな業界での人手不足が社会問題となっているが、なにもこの傾向は日本に限られた話ではない。主要国の行政機関職員の40%は50歳以上ともいわれており、今後、退職ラッシュが訪れることが見込まれている(* 5)。

アクセンチュアの最新調査によると、職員の高年齢化にしたがって、行政機関内の知識・知見が失われる危機にさらされており、労働の量と質の両面から現在の業務の継続は困難な状況となっている(* 6)。その危機を乗り越えるため、徹底的な業務の自動化によるコスト削減と「ひと」と機械・人工知能が協業するIntelligent Automation による生産性向上の加速が予測される。例えば、フランス北部のリール市では、毎年9月の蚤の市に合わせて住民の約10倍にも上る旅行者が訪問する。急激な人の増加に対応するため、地元警察はイベントサイトの動画に解析技術を活用することで人の流れを最適化しているほか、インシデントに発展する前に異常を発見することで、効率的に市民
の安全を守るという実証実験が行われた(* 7)。

ただし、ここで取り組むべきは、最新のデジタル技術に精通した人材の確保である。先進技術の専門家など、必要なスキルを持つ人材の確保と能力開発は、今やあらゆる国や業界に共通する最重要課題の1つと言える。前述のアクセンチュアの調査では行政機関の技術責任者の60%近くが「先進技術を活用したプロジェクトを実行するには、既存の職員の再教育に多額の投資が必要」と答えている(* 6)。中でも、データ・サイエンティストやソフトウェア・エンジニア、デジタル開発者/設計者のニーズが高くなっており、世界中で人材獲得競争が激化しているのが現状である。ましてや、先進的な技術スキルと公共機関/市民ニーズに関する知識をあわせ持つ職員の確保は、さらに厳しい課題である。


* 1  内閣府̶第14 回規制改革推進会議 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20170329/agenda.html
* 2  Accenture-Digital Government:Great Expectation, untapped potentialhttps://www.accenture.com/t20170224T003014__w__/us-en/_acnmedia/PDF-35/Accenture-Digital-Citizen-Experience-Pulse-Survey-Highlight-Final.pdf * 3 成田市立図書館 https://www.library.city.narita.lg.jp/webservice/recommend.html
* 4  国立社会保障・人口問題研究所-日本の将来推計人口 http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp
* 5 Accenture Research, OECD - Government at a Glance, Osborne/Frey 2013
* 6 Accenture - Emerging Technologies in Public Service https://www.accenture.com/us-en/insight-ps-emerging-technologies * 7 https://www.accenture.com/us-en/success-french-public-service-agency-using-analytics-insights-drive